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明笛について(7)

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斗酒庵 明笛を調べる の巻明笛・清笛-清楽の基本音階についての研究-(7)

STEP4 日本化した明笛

  その後も明笛の調査は進んでおります。
  買い入れた笛は27号までまいりました。本職の笛吹きさんごめんなさい。
  笛はタダでやるから,吹くの手伝え。


  先ごろ,昭和21年に出された『標準 明笛独習』(東京 全音楽譜出版社)という本を入手いたしました。
  戦後ですよね。スゲえ。

  戦前までには,ほとんどの清楽器が途絶しておりました。そのなかでこれですから,やっぱりいちばん息の長い清楽器だったわけですね。
  この教本の絵にある笛は,それ以前からの明笛教本に載ってるそれと変わりませんが,写真にあるものは管尻や頭の飾りから見て,大正時代以降のデザインだと思われます。


  明笛は元来中国の笛で,清楽の流行とともにおもとして都市部で作られ,販売されましたが,それが国内に広まるなかで,各地方の音楽や祭礼の中にとりこまれ,独自化したものがあります。
  東京近郊の福生や唐津の浜崎などには,この,響き孔に紙を貼って共鳴させるタイプの笛が残っております。

  笛屋さんのなかには,それらは清楽の明笛とは関係なく,それ以前に入ってきた古代の中国笛を伝承したものだ。と言うかたもおりますが,竹紙を貼るタイプの笛の歴史は,中国でもそんなに古代まではさかのぼれませんし,それぞれの祭礼に関する日本がわの文献・記録から考えても,よくって江戸時代----まあ幕末から明治,清楽の大流行時に「流行りの笛」をとりいれた,と考えたほうが,多少ロマンはありませんが,現実的ではないかと考えます。


  現在も残るそうした祭礼の明笛には,紫水さんなど今も明笛を製造しているメーカーさんの既製品や,笛の製作家などに依頼して作ってもらった古い笛の復元品などを使用しているところも多いのですが,九州などでは,祭礼の参加者が自分で作ることになっているところが複数箇所あるようです。
  たとえば上にも書いた,佐賀県は唐津の,浜崎祇園山笠で使われる「竹紙笛」などもそれですね。

  今回入手した27号の出品元は熊本県。
  唐津浜崎のものが流れてきたのか,あるいはこのあたりにも,似たような笛を作る伝統があったのか,寡聞にして定かではありませんが,天然のままの竹の節のところを利用して,うまく本家明笛の管頭,管尻の飾りに擬しているところ,管尻表の「露切り孔(と一部ではいう)」が一つだけなところなど,特徴は共通していますね。


  すでに紹介したことのある22号もまた,日本の祭礼で使われた独自の明笛の一つだと思われます。
  記事で書いたとおり,響き孔と露切り,飾り紐の孔が余分にあるだけで,姿はほとんど篠笛です。
  管頭の処理の仕方も管尻の丸め方も,明笛ではなく篠笛のやり方ですね。

  国産の明笛,とくに明治末以降に作られたものにも同じ傾向がありますが,古いタイプのもの,また現在中国の笛子などと比較すると,こうした祭礼笛には,加工上にも篠笛との融合が顕著に見られます。


  まず歌口が広いこと。明笛の歌口は,この手の笛の中ではかなり小さめです。
  指孔の大きさと形もこれに準じています。
  明笛の指孔は,篠笛のものよりやや小さく,細長い楕円状なのですが,これらの笛ではほぼまン丸くあけられていますね。
  あと,皮付き竹が用いられていることもあげられます。
  中国の笛子もそうですが,明笛はだいたい皮をむいて軽く塗装していることが多いのです。
  皮付き竹が好まれる傾向に関しては,篠笛からの影響なのか,日本人の嗜好が関与しているのか,それともなにか加工・保存の上で,この国では利便があるのか,あるいはただ単にメンドウくさかったからなのか,いまひとつ決めかねておりますが,少なくとも音色の上では,皮ナシのほうが音がやわらかく,皮付きの方がやや甲音がキツく響く傾向が出るようですね。


  27号は現在調査中。

  というか,音階などのデータ録りもこれからですが。
  もともとあまり吹かれたものではないらしく,内側の塗りはガサガサしてたし,管内塗装後の歌口の調整もちゃんと済んではいない様子----使われないで放棄された失敗作だったか?とも思いましたが,管内をShinexに油つけて磨き,歌口のへりを少し均したところ,少しづつ音が出るようになってきました。

  当初,響き孔の周囲が,少し茶色っぽくなっているのは,竹紙を貼ったニカワの痕かな?と考えてましたがさにあらず,これ,竹紙を貼ったり剥がしたりしやすいように,響き孔の周りを透きウルシ的塗料で塗装しているんですね。以前,ネオクに出た古い明笛で,同じ目的でここに象牙や角材をうめこんでる笛がありましたが,あれよりも簡単で実用的ですな。

(つづく)

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