« 29号山形屋雄蔵(2) | トップページ | 月琴の起源について その2 »

月琴の起源について その1

kigen_01.txt
まとめましょう の巻月琴の起源について その1

阮咸編(1)
*イラストはクリックで別窓拡大します*

  さてさてと,かけ声はかけたものの,若干資金難につき29号の修理作業も滞っております。
  この機会にこの数年調べてきたこと,考えてきたことをまとめてみたいと存ずる。
  とはいえ,Webにガチの大論文載せるのも野暮なので----

  はんぶんマンガにするとしましょう。

  いや,フザけてんじゃないですよお。マンガのチカラなめんな。
  絵はそれだけで注になります。さらにそこに注釈書き込めば,イチイチ脚注とか巻末の解説で,細かい文字に数字の羅列追わなくて済むもんね。
  絵と文が共存する日本のマンガというメディアは,2Dアナログにおける,情報の多重化,圧縮化のキワミみたいなもンでもあるんでっせー。

  まずは「月琴」にかかわる,また「月琴」と呼ばれる様々な楽器のことを述べ,外堀を埋めながら「月琴の起源」という本題へと迫っていきましょう。

  音楽の解説書や,楽器辞典の解説・説明では「月琴」の名前で軽くひとまとめにされちゃってることが多いんですが,その中には,実際にはいくつもの異種の楽器が含まれています。

  唐の時代に由来する古楽器の「阮咸」(別名が「月琴」),中国で伝統的に弾かれてきた「中国月琴」,それをモトに近年になって開発された「中国現代月琴」
  ほとんど絶滅しちゃってる韓国の「ウォルグム」(もしくは「ノルグム」)。これも絶滅楽器ですが日本の「清楽月琴」にも国産のものと,「古渡り」と呼ばれる中国製のものがあり,それもまた,現在も作られている一般的な「中国月琴」とは微妙に差があります。さらに,清楽で「阮咸」と呼ばれた長棹八角胴の楽器は明楽では「月琴」と呼ばれてました。
  長い棹の「月琴」としてはほかにも,ベトナムの「ダン・ングィエット」や,台湾の「南月琴」(「乞丐琴」「歌仔月琴」とも)などがあります。

  庵主は「清楽月琴」の弾き手ですので,前フリなしで「月琴」って言ったときは,通常,中国から日本に伝わってきて江戸~明治のころ大流行した,古い,この絶滅楽器を指しますが。
  今回の「起源」は「短い棹で丸い胴体」の,現在「月琴」と一般に呼ばれている楽器全般の「起源」だと考えていただいて差支えございません。

  第一回はまず,一般に「月琴(短い棹の)のご先祖様」と信じられている,この古い古い楽器。
  「阮咸」と「月琴」の関係について,再考してみましょう。

  この楽器はそもそも----

  ちなみにこの爺さん(勝手な想像)のちゃんとした名は「元行沖」さん。

  史書である『唐書』の記述の中には,「阮咸=月琴」というハナシは出てきません。
  「"月琴"は阮咸の異名である」という説は,次の王朝,宋の時代になって書かれた陳晹の『楽書』において,はじめて登場してきます。

  といったとこで本題に入りましょうか!
  現在,一般的な説では「(短い棹の)月琴」は,この唐の時代からあった「阮咸」が,清の時代に短くなってできたもの,とされていますが----


  とまあ,まずは基本構造が異なります。
  「阮咸」の作りを簡易化した,とか考えることも出来なくはありませんが,伝統的な楽器というものは,そう簡単にこういう基本構造まで変わっちゃうことはありません。
  「ムダだ」「もっといい方法がある」と分かっていても,まったく変わらなかったり,もとの構造の名残が,盲腸のように尾骨のように,そのどこかに残っていたりするものですが,バラしてみると阮咸と月琴には,「どッちも胴体が丸い」というほかには,まったくといっていいほど共通点はありません。

  もちろん,阮咸には「響き線」も入ってませんしね。


  「阮咸」は宋の時代に弦が一本増えて「五弦」という名前の楽器になりました。
  この「五弦」は日本の雅楽にも取り入れられ,かつて演奏されたこともあったようですが,いつからか途絶え,今日ではその楽器も見られません。

  さらに「複弦化」する目的が音色的な深みや,技巧的なものである場合は,同音のユニゾンだけではなく12弦ギターのようにオクターブの複弦ということもありますね。

  で,けつろんです。(笑)

  「派生した」つまり,楽器間に関係がある,というなら。その奏法や音階において,もちろん共通項がなければいけません。阮咸の高音域をカバーするためとか,より早くて軽快なパッセージを入れるために特化したとか。変化の理由も必要です。
  しかし,そもそも楽器同士を同じ曲で合わせることすら難しいこの状況----

  これに関する妥当な説明や解説は,どの楽器辞典,解説書にも載っておりません。

  つまりは----
  「阮咸」と「(短い棹の)月琴」の間には,古書・古記録における名前の一致と「胴が丸い」といった外見的な共通項のほかに,楽器としての系統的な関係はナイ

  「(短い棹の)月琴は,阮咸から派生した楽器だ!」という説は,むかしのどこぞの誰やらが,古書から同じ名前の事物を拾って,むりやりくっつけた,という程度のものでしかナイ

  ニセモノだ。(CV:神谷浩○)

  ということです。

  しかしながら……「月琴」の名を持つ最古の楽器・「阮咸」とその由来には,短い棹の月琴族の,ほンとの歴史と系譜に関するヒントが隠されてます----
  そのあたりは,またいづれ。

(つづく)


« 29号山形屋雄蔵(2) | トップページ | 月琴の起源について その2 »