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29号山形屋雄蔵

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山形屋 ふたたび の巻月琴29号 山形屋雄蔵(1)

STEP1 山形屋雄蔵について
29号到着!
  さて暑い夏もようやく終わり,内地に帰ってきて半月ばかりが過ぎました。
  2ヶ月も留守にしていますと,生活の再起動もいろいろとタイヘンですが。
  そろそろまたゾロ,はじめるといたしましょう。

  夏前に買い込んだ資料楽器のうち,26号菊芳の3面目はお嫁にゆき,27号石田不識こと佳菜ちゃんはギリギリ間に合って,さっそく2ヶ月間,ライブにイベントにと酷使されておりました。
  未修理の楽器はまだ3面----虎縞の25号,やたらと重量級の28号,そしてこの29号です。
  百年近く待ったのですから,修理の順番が一年や二年違っても構いますまい。
  順不同でまいります。(笑)


 【月琴29号:採寸】

修理前全景
  全長:648(含蓮頭)
  棹長:290(除蓮頭)胴体・縦:345,横:344,厚:35(うち表裏板厚:4.5)
  推定される有効弦長:418


ラベル
  この楽器の作者は,薬研堀の「山形屋雄蔵」。

  昨年,同じ作者の楽器を一面修理いたしました。
  20号ですね。(こちらを御覧ください  )
  これと同様,細っそりとした姿の良い楽器で,音も素晴らしくきれいでした。
  材質から見て中級の楽器なのですが工作は緻密。
  前修理者がいろいろとやらかしてはいましたが,原作者のその丁寧な仕事が,楽器の生命を守ってくれていたようなもので。庵主の仕事は基本的に「原作どおり組み立てる」というだけで済みました。

  明治20年2月発行の『商人独案内』という本に,まず 「石村勇蔵」 という三絃商が出てきます。その翌月に出された『東京府工芸品共進会出品目録』には 「石村勇造」 という名が見えます。
  琴を6面,二弦琴と須磨琴を2面づつ,三味線を5本,月琴を4面出品してますね。

『商人独案内』 『東京府工芸品共進会出品目録』
  この「石村勇蔵」もしくは「石村勇造」と,「山形屋雄蔵」同じ人物なんじゃないかという考えはずいぶん前から持っていました。
  「山形屋雄蔵」の名前が見られるのは,既知の資料中では明治27年9月に出された『掌裡の友』が最初ですが,そこでは屋号が「○に石」となっております----つまりここから,彼は三味線の名流「石村」の系列の製作者であると推測されるわけですね----ついで明治31年の『日本商工営業録』では「山形屋 石村雄蔵」と……字は違いますが,名前の読みは同じだし,同時期に薬研堀にはほかにも何人か楽器職が住んでいましたがそれほど多くはなく,しかも清楽器に係わったと分かっているのは,こいつらくらいです。

『掌裡の友』 『日本商工営業録』
『東京諸営業員録』(M.27)   日本国民が均しく「姓名」を名乗れるようになったのは明治になってからのことです。
  それまでは特に苗字帯刀を許されたようなもの以外は,時代劇で良く聞くように「讃岐の又兵衛」とか「神楽坂の松五郎」,と出身地や住所をつけた通称とか,職人なら「下駄屋の為五郎(通称・下駄為)」とか「秋田屋の金造」といったように,職業や店の名前をくっつけて通称で呼ぶのがまあ一般的で,ちゃんと苗字を持ってるものでも,公的な書類などでもなければ使うことは少なかったようです。

  「石村」の宗家は八丁堀の「石村近江」ですが,そのほかにも芝の「石村山城」,麻布材木町の「石村巳之助(鑠斎)」など,この名を名乗る,または店の名前とする暖簾分けや傍流の楽器製作者は,江戸にも大坂にもたくさんおりました。

  13号の作者,西久保の「石村」は楽器に「藤原義治」「石村近江掾」と署名をしています。こうした名前はどれも,宗家や京都のお公家さんとかから許可をもらった(まあだいたいは買った)「名乗り」「官位」で,現在言うところの一般的な「名前」や先祖伝来の「苗字」とは,ちょっと違うものなのですね。

  大坂の心斎橋の「石村儀兵衛」さんは店の名前が「笹屋」,浅草区田原町にも「山形屋」という店の名で「石村茂吉」さんが住んでいました。神田鍛冶町の「海保吉三郎」は屋号をつけて「菊屋吉三郎」と名乗ることもありました。「菊屋」というお店は多いので,お店は地名をつけて「鍛冶町海保」とも「鍛冶町菊屋」とも書かれることがあります。

  時代が時代ですから,字は違っていても「山形屋雄蔵」が「石村勇蔵」と同一人物だったとしても,大したことではありません----まあ,いまのところまだ,完全にそうだ,とは言えませんが。
  「山形屋雄蔵」のほうの住所は「薬研堀四七」,これは楽器のラベルにも書いてあります。「石村勇蔵」のほうは「薬研堀四一」,わずかに違ってますが,この当時はちょくちょく住所が改定されているので,同じ区画であってもおかしくはありません。もしくはちょっとだけ近所に引っ越して店を新たにした際に,名前もちょっとだけ変えたのかもせんですね。



  ちなみに,この夏,月琴でやらかした演奏の一つ。
  ラジオカロス「えっちゃんの幸せの種を蒔こう!」より,
  ヨミガタリストのまっつさんとやった「やまたのおろち」の一幕をどうぞ。


(つづく)


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