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月琴の起源について その1 »
29号山形屋雄蔵(2)
G029_02.txt
2012.10~ 月琴29号 山形屋雄蔵(2)
STEP2 見た!触った!山形屋ッ!
では各部チェック,入ります。
山形屋雄蔵の楽器は,庵主思いまするに「月琴らしい月琴」のお手本みたいな好い楽器の一つですので,ふだんよりか,ちょっと細かく書いてゆきましょう。
■蓮頭:
58×82,厚みは約1cm。中央でややふくらむ浅い曲面状の板。おそらく棹・胴側部と同材。意匠は中級以下の楽器でよく見る「宝珠」の一種だが,彫りがやや多い。
■棹:
全長 460(蓮頭・棹茎をふくむ。胴外への露出部は蓮頭をのぞいて 290 ),最大幅 29,最大深度 62。茎部分をのぞき,全体がスオウで染められている。材はカツラかサクラ。
1)糸倉:
損傷ナシ。長 144(基部(「ふくら」のところ)より),幅 29。 左右厚 8mm。弦池 110×13,天に間木をはさむ。 アールをやや深くとった,コンパクトなデザイン。前から見ると細身だが,横から見るとふつう。第2軸の孔の少し上あたりで最大にふくらみ,先端でわずかにすぼまる。 軸孔は開口部で大きいほうが φ11,小さいほうが 10 。一見太めだが,小さいほうの軸孔は通常の楽器のものとは逆に,弦池がわ(内側)に向かってすぼまっている。つまりこちらがわでは,軸のテーバーとは逆に
孔は軸先端側のほうに広がっている
わけである。月琴では珍しいが,これは三味線でよく見られる加工。弦池がわでの軸孔の最小径はだいたい 8mm。
2)軸:
1本のみ残る。工房到着時は三味線の糸巻きを短く切ったものがもう1本挿してあった。 残存の1本はおそらくオリジナルで,材質はおそらくスオウで染めたホオ。握りは六角一溝,長 114 太さは最大で 25,先端で φ7。加工は丁寧,弦による擦痕,圧迫痕等,使用の形跡はあまり見られない。
3)山口/フレット:
山口は欠損,接着痕のみ残る。寸法はだいたい幅 27,厚 10。接着痕から見ると左右からだいたい 1mm,弦池の端から 0.3 から 0.5mm ほど離した位置に接着されていたようだ。 棹上のフレットは最下端の第4をのぞき全損,象牙か鹿角か判別できないが加工も接着も悪くはない。目印のケガキ線はごく薄いが,欠損した第1~3フレットも,接着痕がかなり鮮明であるため,原位置の計測は容易である。
4)指板/棹背:
指板ナシ。指板相当部分は長 146,幅は胴との接合部のところで 28,太さ 29。弦池の下端で幅 29。ふくらはやや長くくびれは浅い。くびれのところで最小幅 25,最小太 24。 棹背はほぼ直線だが,ほんのわずかアールがかかり,接合部がわにむかってゆるくたちあがっている。 棹背の断面は底がわずかに四角ばった船形。うなじは短めである。
5)棹茎:
全長 159,基部は 29×20×h.15。20号と同様ここの加工にも手抜きはない。延長材は杉,厚みは最大で 9,最小で 7mm。先端で幅 15。細く,薄く,やや長め。先端は四面をわずかに削ぎ落とす。全体かなり丁寧に表面処理がされており,接合も完璧である。延長材の表面板がわに花押。基部の中心線とともに,色は薄いが,光源に当てても反射がないためおそらく墨書きと思われる。
■胴体:
裏面板にヒビ割,虫孔数箇所。外部からは比較的良い保存状態に見える。
1)表面板:
それほど目が詰んではいないがほぼ柾目。
絃停痕に虫食いによる溝3箇所,板右下および右下接合部付近の木口に虫孔。
加工がよく,矧ぎ目は判然と読めないが,おそらく7枚程度の小板を接いだものと思われる。
2)左右目摂/扇飾り/中央飾り:
目摂の意匠はザクロ,やや小さめで中央に寄る。扇飾りは工房到着時には剥落していた。典型的な万帯唐草。中央飾りもよく見る獣頭唐草(仮名)の類。いづれも彫りはやや稚拙。
3)フレット:
胴体上のフレットは4本ともそろっているが,いちばん上の第5フレットのみ,再接着痕があり,ほかの3本とくらべてやや厚めなことから,
後補部品である可能性
がある。
4)絃停/半月:
絃停は剥落欠損。接着痕 は 78×110。左に1本,右に2本ばかり
虫の食害による溝
が見える。左のものはかなり大きいが,広がりは不明。 20号は飾彫りのついた曲面タイプだったが,この楽器の半月は下縁を落とした単純な板状。材質はおそらくホオでスオウによる黒染め。40×100×h.10。糸孔は小さめで,外弦間:31,内弦間:24。内外の弦間は左右でわずかに変えてあり,低音がわが 4mm,高音がわは 3.5mm。長年の使用によって生じたと思われるような,糸擦れや褪色などは,ほぼまったく見られない。
5)側板:
単純な直線木口合せの4枚組み。棹と同じくカツラかサクラだと思われるが判然としない。かなり良い保存状態で,原作者の染色がほぼそのまま残っている。
上左右の接合部にわずかにスキマ
があるほか,故障・損傷らしいものは見られない。天の側板にある棹孔は 15×20,胴材表面板側の間隔はきわめて薄く3ミリていどしかない。棹孔から計測できる最大の厚みは8ミリである。
6)裏面板:
やや板目のある小板を継いだもの。表面板同様,矧ぎは7枚程度と思われるが,それよりやや多いかもしれない。 右端から二枚目の小板上部,
斜めに加工痕か圧迫痕
と思われる筋目が少々。 中央,
ラベルのすぐ右横にヒビ割レ。
上下にほぼ貫通し,上で最大 1mm ていどやや開く。この
ヒビ割レを中心に左右面板ハガレ,
左接合部付近にも胴体との接着面にわずかなスキマが見られる。 左中央上端に
虫孔,
そのほか棹孔の右下,右接合部やや上,左下接合部付近のいづれも
木口にやや大きな虫食い穴
が見える。被害程度は現状不明。
7)ラベル:
本器のラベルは比較的保存がよいが,已然として剥落箇所のためいまだ前半部分に不明な箇所が残る。20号のものと合わせた解読は以下----
「本………楽器総附/属(品)…是東京日本/橋区両国薬研堀丁/四十七番地/山形屋雄蔵」
■そのほか
山口の下端を起点とした場合,各フレット下辺までの距離は以下の通り。
1
2
3
4
5
6
7
8
51
82
113
138
172
210
230
268
内部構造等はフィールドノートを御覧ください。(クリックで拡大)
桁は2枚,上桁は棹孔から 120,下桁は 288mm のところに位置しています。
上桁には音孔はなく,茎のウケ孔から見える限り下桁にも孔はあいていない
ようです。材質はおそらくスギ,厚さは 5~7mm ていどと思われます。ちょっと変わっているのは,通常表面板がわにある
桁左右の削ぎ落とし
が,少なくとも上桁では
裏板がわ
になっていることでしょうか。
20号と違って内桁がただの板なので,棹孔からの観察だけではほとんど何も分かりませんが,振ってみた感じや音などから,響き線などはほぼ20号と同じ構造になっているものと思われます。胴体右の中央付近に基部があり,やや深めの弧のついた鋼線でしょう。
さすがは山形屋雄蔵,20号のデータとつき合わせて見ますと全体,サイズ的にほとんど差がありません。
誤差は1~2ミリといった程度でしょうか。
全体の材質・加工などから見て,おそらくは,20号とくらべ1ランクほど下のより普及品的の楽器だと思われますが,品質的にはあまり差のない感じです。軸孔に三味線っぽい加工がされていること(8号生葉などにも見られました)や,内桁の加工などから考えると,
20号よりやや前,いくぶん早い時期の手になるもの
かとも思われ,本体における加工や組み合わせの精度は同じくらいですが,半月や目摂などに,やや稚拙さが感じられます。
27号に続いて原作者の加工が分かる,きわめて保存状態の良い楽器です。
とくに棹や胴側部のスオウによる染色が,こんなに良い状態で残っているのはハジメテ見ました
----実にきれいな赤です。
全体としては損傷や欠損部品も少なく,
あとは虫食いがどのくらいの程度なのかがやや心配。
19号などと違って,内部から木粉が出てきたりはしませんでしたので,だいたいは表面的なものだとは思いますが,こればかりはさて……
再製作の必要がある部品は,軸が3本と山口,棹上のフレットが3枚のみ。面板の浮いているところを再接着して,ヒビを一本埋めれば本体は完成です。
ホント,これで虫食いさえヒドくなければ,あまり苦のない修理で済みましょう。
(つづく)
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