月琴の起源について その11
![]() ナゾの構造---響き線 *イラストはクリックで別窓拡大* ![]() 今回はめずらしく,ほとんどマンガ(?)ですんで,ト書きまでちゃんと読むこと。 ![]() ![]() 清楽月琴の内部構造・「響き線」にどんなものがあるかについては,当ブログ内「月琴の内部構造について」ほか,各楽器の修理記事など,合わせてご覧ください。 いやあ,この部品に関しては,どの楽器でも,いっつもだいたい熱く語ってますよお(笑)。 なにせ上の絵にも書いたとおり,この楽器の音色の「イノチ」,みたいな構造だというのに,外部からはアクセスもコントロールもできないわ,抜けるは落ちるわひっかかるわ,一つとして同じ構造がないわ----フシギの数をあげたら,キリがないくらいなのです。 ![]() 中国の月琴についての解説書とか見ると,「内部に線が入っていて」とか,サラっと書かれてるだけなので,最初は「ああ,珍しくないんだな,こういうの。」とか思ってたんですが,イザ調べてみると,ほとんど「月琴」だけなんですよね。この構造。 「この楽器にだけの構造」なら,とても珍しいので,何か一言二言,とくにその由来や起源に触れててもいいハズなのに……ナゼか何も出てきません。もちろんそうした本で「月琴」の起源とされている「阮咸」には,こんなの入ってませんし,実際の親戚筋だろうベトナムや台湾の長棹月琴,そして少数民族の月琴にも,入ってるとゆーモノがありませんね。 短い棹で丸い胴体の月琴。 それも棹茎が胴体を貫通していないタイプの月琴にしか入ってないんですよ。 さて---- ![]() ![]() またこのお店です。(笑) ![]() 楽器のカタチ自体が,イキナリ今の中国月琴に進化しちゃってますが----これこそ中国四千年のワザです。 古い伝統的なタイプの中国月琴に,いろんなタイプのものがあるということは,このシリーズの「その5」とかでも触れましたが,大分するとそれは,棹茎が内桁のところでとまり,響き線の入っているものと,棹茎が胴体を貫通していて,響き線の入っていない2つのタイプになります。 「響き線がどこからきたのか?」という疑問と同時に,「ナゼ入っているものと入っていないものがあるのか?」という疑問もあります。それぞれの地域での音楽の好みに合わせたのでしょうか?あるいはそれこそ「メンドくさくなって(笑)」ヤめたのでしょうか? ![]() 西南少数民族,とくに涼山あたりのイ族の月琴は,糸倉の先がドラゴンヘッドになっており,その鼻先に,ごらんのような飾りが付けられることがあります。 写真のはかなりゴッツい感じですが,このヒゲはハリガネかバネで出来ており,先端にはポンポンや造花,途中には紙で作ったチョウチョなどが貼り付けられ,楽器の演奏につれてミョンミョンと,上下に揺れ動くようになっています。 彼らの「月琴」は,基本的にダンスの伴奏楽器ですからね,場を盛り上げるための,視覚的な効果を狙った装飾なわけです。 これらは本来,楽器の音色に関係する部品ではありませんが,材質がハリガネで,演奏動作によって揺れている以上,「勝手に効果」はつくわけですね----響き線と同様の。 前回にも述べたように庵主は清楽月琴の直接の起源は,これら西南少数民族の楽器にある,と考えています。 彼らの「弦子」や「四弦」が,漢民族によって「月琴」という室内楽器として洗練されてゆく過程で,演奏のジャマにもなりかねない,この「龍のヒゲ飾り」が,金属線による「音色効果」だけを残すべく,内部構造としてとりこまれた,のが「響き線」なのではないでしょうか。 つまり少数民族の楽器と同じく棹茎が胴を貫通している中国月琴のほうが,彼らの楽器ほぼそのままの,より古い原初的な構造を残しているもの(サウンドホールを彫ってヒゲをつければ同じになる)で,響き線を内部に有するタイプの月琴は,そこからさらに少し,楽器として「進化」した,やや新しい楽器だということになりましょう。 唐の阮咸を祖先として考えた場合には,この「響き線」という構造がどこからきて,どうしてとりこまれるようになったのか,そのどちらにも理由や答えが,ほぼまったくと言っていいほどありません。この少数民族の月琴の「龍のヒゲ」起源説にしたところで,いまだかなりの力ワザに過ぎない,とは思うのですが…月琴という楽器を,内がわからも外がわからも,隈なく見てきた兼業修理者として---- 古渡り月琴の修理で見た,センシティヴな線の動きとそのカタチは,イ族の舞踏で揺れる龍のヒゲのそれに,とても良く似てましたよ----とだけは,言っておきましょう。 ![]() (つづく)
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