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月琴の起源について その6

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まとめましょう の巻月琴の起源について その6

少数民族の月琴について *イラストはクリックで別窓拡大*

  月琴の起源について 「まとめる」,とか言いながら,かえって散らばしてる気もしますが。(笑)
  いましばらく基本知識の四方山におつきあいください。

  中国のも日本の楽器解説書も,多くは彼らの楽器をカンタンに「月琴」と言ってひとまとめにしてしまっていますね。
  少数民族の「月琴」には,4弦のものもあれば,2弦,3弦で弾かれるものもあります。
  チューニングも4弦2コース,3弦2コースなどさまざま。
  共通しているのは,漢民族の「月琴」と同じく,短い棹で丸もしくは八角形の胴体をしていることくらいでしょうか。


イ族の月琴/『中国少数民族楽器大観』より   イ族という人たちは,雲南の少数民族中,最強最勇の民族。まあ,かんたんに言っちゃうと,雲南のサ○ヤ人ですね。
  武勇に優れ,中央勢力とも何度となく闘っておりますし,近隣の諸族からも恐れられてました。

  ここにある「烏蒙」と「寧」の出てくる月琴起源説話は『中国少数民族楽器大観』(呉言韙/陳川 編 四川人民出版 1990)から,この本にはほかに,イ族がもといた土地から金沙江を渡って移るさい(大行進をしたそうな),楽団の奏でる月琴の音色に,王様がおもわず涙ぐんだというような話も載っております。

  イ族の月琴では,八角形のものも円形のものも,伝統的には4つのサウンドホールがあけられます。
  ギターの,というよりリュートとかに近いかな?ただの穴じゃなくて,精緻な透かし彫りがされてます。
  サウンドホールだけでなく,面板全面にこれでもかとばかり彫刻をして,ほとんどスケスケになってるのまでありますねえ。

  現地,少数民族の言語ではこれを「babu」「banpi」と呼んでいます。
  「babu」「banpi」は「弦-弾く」といった意味で「撥弦楽器」程度の意味です。

  苗族の「弾琴」と同じ類の呼び方ですね。
  この楽器もまた「月琴」とも呼ばれてますが,こちらはちょっと棹の長い楽器です。

苗族の弾琴/『中国少数民族楽器大観』より
  面白いとこでは「俄吧月琴」というのがありますね。「heba」は「蛙」のこと,漢語で「蛙琴」とも呼んでますが,『民間文学』(1985 1-180)にある「月琴的伝説(李柱 採集)」によればこの語は,イ族の少年が人間に智慧を与えてくれたカエルの皮を,木の椀(「智慧の水」が入っていた)に張って,「お月様のようなカタチの」二絃琴を作ったという伝説から来ているそうな。

  そのほか「噹噹」と楽器の音から来た語で呼んだり,やや楕円形の胴体の楽器を「庫竹」と呼ぶ地区もありますが,こちらは由来や意味が不明。漢語ではそのほか,上のコマにあるよう「四弦」とか「弦子」といった,「弦楽器」を表すかんたんな言葉で呼んでいます。


  こちらはプイ族の月琴。
  以下のおハナシは既述『中国少数民族楽器大観』のほか『中国民間風俗伝説』(雲南人民出版 1985)など,けっこうあちこちで見られますね。

  リア充バク○ツしろ。

  どこの泉だかは不問。
  ちなみに「九節狸」はジャコウネコのことみたいですね。狸さん,情報ありがとう!

  女の子のほうの名前が「妹緑(めいるぅ)」になってる例もあります。
  何度読んでも,なんだか「いきなり感」が拭えない説話で。
  なんか伝承の過程で,いろいろとすッとばされてるんだとは思いますが。
  「勒木(るーむー)」と「妹糸(めいすう)」ってのは,もしかすると牽牛・織女の劣化した存在ではないでしょうか。
  マンガでは「月の宮殿おすまいの女神様」にしちゃいましたが,本では「天上王母娘娘」になってますね。原語でどうなってたのかは不明ですが,たいがいこの語は,月にの水晶宮に住んでる「西王母」を指します。牽牛・織女の仲を引き裂いた張本人ですね。
  これももともとそういった七夕とかの伝説を,月琴の創生説話にすげかえたように思われますわ。

  彼らの「月琴」は,おもに祭礼や儀式の際のダンスの伴奏楽器として使われ,基本的に楽器は自分たちで作っていますが,現在は既製品の現代月琴にペイントしたり改造したようなものも使われているようです。
  わたしの知っている範囲では,漢民族の月琴を流用したもの以外では「響き線」は入っていません。

  その形態や,奏法からして,これら「少数民族の月琴」とわたしたちの「丸い胴体で短い棹の月琴」の間に関係があることは明らかなのですが,どちらが先でどちらが後か,とか。それがどっからどうやって,どんなふうに広まって,最後は日本まで来たのかとか,ちゃんと秩序立てて考えたり,調べたりされたことは,あまりないようですね。

  さて。

(つづく)


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