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月琴の起源について その9

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まとめましょう の巻月琴の起源について その9

古渡りの月琴(2)  *イラストはクリックで別窓拡大*

  直接そう書かれたものがあるわけではないので,あくまでも推論ですが。
  まずはなぜに,日本に輸入されてきた「古渡り」の月琴には,お飾り,装飾類のついてるのかの説明です。

  前々回引いた,馬琴『耽奇漫録』,前回引いた『芸海余波』の絵にあった楽器もそうですが,このとおり,清楽流行の初期,江戸時代に作られた国産の月琴や輸入された楽器には,少しあとの楽器でふつうに見られるような半立体的な装飾のついている例があまりありません。

  舞台はべつに中国本土でなく,長崎や船の上でもいいのですが,おそらくはこういうやりとりがあったのではないかと----

  ジミさん再登場。

  異国の地でアルバイト中のもよう。

  あ,店主はこいつか。
  どんだけ長生きてるのやら。

  ちなみに絵にあるようなお目出度アイテム,お飾りとしての月琴は,南のほうの街で今も見かけますね。だいたいは「夫婦円満」とか「円満如意」といった,楽器の形や意匠から連想される,お目出度い文句を二行ばかり面板上に書し,チャイニーズ・ノットのついた紐飾りなどをぶらさげたくらいのものですが,この絵のように玉や木,色紙で作ったさまざまなお目出たレリーフを,楽器本体が見えないくらい貼り付けたものもあるわけですね。
  むかし雲南で,楽器屋さんではなく雑貨屋さんや,仏具屋さんというか葬式道具屋さんの店先でも,こうした満艦飾のお目出度月琴が売られてるのを見た記憶があります。


  「飾りがついてたほうが高級にみえる」というのは,なんか子ども相手みたいですが,確かですわな。
  ましてや相手が,その対象物の本質や価値基準を理解してない知識が薄い,とするならば,商売上そうした単純な手法はなおのこと,非常に有効でかつたやすいものとなります。

  現在国内に残っている「古渡り」とされる中国製楽器の中にはときどき,一見高級そうではありますが,あまりにも装飾過多の---たとえば,柱間の飾りが盛りあがりすぎてて,糸がおさえられない---とかいうようなものがあります。また,もともと楽器としては使用不可能なもの,たとえば部材の質や棹の傾き組み立てなどの工作上に問題があって,製品としてはとしてはおそらく間違いなく 「不良品」「欠陥品」「失敗作」 であったろうものを,いちおう楽器として体裁だけ整えてあるだけ,というものもありました。(「清音斎の月琴」「23号茜丸」の記事などお読みください)
  庵主だけじゃなく,前の所有者か販売者が,そうした楽器を自分で修理・改造し,何とか音の出る状態にまで調整しようとしたような痕跡も,時には見かけますね。


  そもそも「楽器」として考えると,音を出す上でもっとも大切な共鳴版の上に,こういう装飾がへっついているということは,音にとって害はあれども得はまったくないわけで。

  はじめのころに入ってきた楽器にこうした装飾がなかったのは,それらがたとえば船員が暇つぶしに楽しむような,私物として持ち込まれた「実用品」が多かったからではないでしょうか。音を楽しむための,実用本位の楽器ですから,装飾はあくまで邪魔にならない程度,現在の中国月琴と同じように,たとえば絵とか書が施される程度,それもごく私的なレベルで,です。


  月琴とその音楽を日本にもたらした人々,馬琴や筠庭がいうところの「清商」すなわち中国商人は,楽器を直接製造して販売する業者ではなく,さまざまな物をやりとりして利ざやを獲る貿易商人です。それが「売れる」と分かったとき,とうぜん彼らは「より安く買って,より高く売る」手段を考えます。

  マンガのように「お飾り」として作られた安物楽器,がそのままで「高級品」として売られたこともあったでしょう。ただ,お飾り楽器は見かけ豪華なだけ,中身はド安物であったとしても,飾り立てるのに,それなりに手間とコストがかかります。
  あるていど「こういうものが売れる」という傾向さえつかんだならら,つぎはその路線に沿って,製造者にその手間を簡略化させ,元卸の段階からより安価に仕入れられるようにすれば,よりもうかる---商売人たるもの,そうじゃなくっちゃいけませんよね。

  とはいえこの,後世の国産月琴にも引き継がれてゆく装飾のパターンは,たんに満艦飾のお飾りを利ざやの要求から減らしただけきたもので,そうなったこと,そうであることに何ら意味はないのか,と言いますと。

  ----じつはそうも言い切れない。

  そして実はそこに,この共通する「お飾り」のパターンのなかに,この短い棹で丸い胴体の「月琴」という楽器の「起源」へとさかのぼる,大事なヒントの一つが隠されているのでは……

  というあたりは,次回。

(つづく)


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