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31号唐木屋3(1)

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斗酒庵 唐木屋の本気に出会う の巻2012.11~ 月琴31号 唐木屋3(1)

STEP1 唐木屋カラいかショっぱいか?


  夏の帰省後から年末にかけての清楽月琴の落札&修理ラッシュ。
  最後にきたのはこの楽器でした。

  これにて29号から3面の楽器をほぼ同時に修理することに!
  ひさしぶりですね…17~19号の時以来か。


  31号の作者は日本橋の「唐木屋」。
  出品者の写真からは判別できなかったんですが,届いてみると裏面にラベルが,かなり良好な状態で残っていました。
  明治の頃,東京にあった中では,老舗でかつ最大手のメーカーの一つです。
  唐木屋の楽器は過去にも,9号と18号として修理の経験がありますね。そちらもご参照ください。

  四角いラベルの上にもう一枚,丸いのが貼ってあります。
  これは---18号にはついてませんでした。おそらくは博覧会の賞牌だと思いますが,今のところ唐木屋さんが賞をとったのは第五回の内国勧業博覧会(M.36)しか確認できてません。そこからすると,この楽器はそれ以後の作,ということになりますね。


  糸倉てっぺんの間木がなくなっちゃってますね。
  古物で出てくる月琴では,けっこう多い状態の一つです。
  「糸倉」ってとこは弦楽器にとってはいちばん大事な部分の一つなので,こんなんなっちゃってると楽器として「もうダメ」みたいに見えます。月琴という楽器は構造が単純で,ちょっとやそっとの損傷では修理不能となることは少ないんですが,それでもいちばん力のかかるここは最大の弱点で,ここが割れてたりするとかなりの重症なわけですが----さて,こたびの楽器はどんなもんでしょう?

  一本だけ残ってる軸は,やや長めの3本溝。
  これも唐木屋の楽器の特徴の一つです。


  とりあえず,ここがこの状態のままですと,修理前にいぢくってる間に,あやまって壊しちゃったりする可能性もあり危険ですので,本格的な調査計測に入る前に,先行して,ここだけは補修しておこうと思います。
  29号の軸に使ったホオ角材のはしきれを刻んで,間木を作り,はさみこんで接着!

  ----ふう,これでようやく思う存分いぢくり倒せるってもんです,カクゴしな。

  さて,ではここからは,いつものように採寸から。


 【月琴31号:採寸】

  全長:640
  棹長:278 胴体・縦:361,横:360,厚:39(うち表裏板厚:4)
  推定される有効弦長:416


 【月琴31号:各部所見】

■棹:  全長 468(棹茎を含む),最大幅 31,最大深度 68。材質はおそらくホオ。指板以外をカテキューで黄褐色に染める。全体に汚れ,蓮頭と糸倉の間木がなくなっているが,ほかに大きな損傷はない。


  1)糸倉:  間木はなくなっているが,ほかに割れや損傷はない。長 149(基部より)。幅 31,左右厚 8。関西の松音斎,松琴斎に似た,さほど特徴のないデザインだが,縦方向に詰まってややコンパクト。

  2)軸:  1本のみ残る。長 120,最大直径 28。六角三溝だが尻には真ん中の一本のみを刻む。先端に朱で「上」と書かれていることから,一番上か二番目にささっていたものと思われる。



  3)山口/フレット:  全損。加工痕・接着痕のみ。第1フレットの接着痕がやや広い。再接着の痕跡か?

  4)指板/棹背:  指板は厚さ 0.8mm ほどの檀木,おそらく紫檀と思われる。指板部分は長 146,幅は胴との接合部のところで 31,ふくらの手前,くびれのところで 27。弦池の下端で幅 30.5。くびれは浅く,うなじは短め。棹背はほぼ直線で,胴体との接合部付近はやや四角ばっている。


  5)棹茎: 全長 190,基部は 48×26×14。先端は幅 22。延長材はほぼ柾目の杉。ここがあまりすぼまっておらず,太めなのも唐木屋の楽器の特徴の一つ。加工は丁寧。基部表裏面にエンピツで「2」と記す。

■胴体: 全体にくすみ。表面板上下と裏板の上周縁部に,手汚れと思われる,やや黒ずんだ部分があるが,いづれも程度は軽く,全体に保存状態はかなり良い。表裏面板ともにほぼ柾目のかなり良質な桐板が用いられており,矧ぎ目は判別しにくいが,おそらく8~10枚程度の小板を継いだものだろう。


  1)表面板:  絃停左横にヘビ皮の収縮が原因と思われるヒビ,断続的に10センチていど。半月の真下,地の側板周縁に一部小ウキ。同箇所,面板の一部剥離もあり。左右目摂および,上部中央フレット間に接着痕。中央,装飾の接着痕に小虫食い数条。絃停右端の下部周辺に再接着の痕跡と思われる小シミ。

  2)左右目摂/扇飾り/中央飾り: いづれも剥落欠損。接着痕のみ。


  痕跡から見る限り,中央のお飾り群は,よく見るような定型のデザインではなかったようですね。
  通常,扇飾りが付けられるところにも,何か別のかたちの装飾が入っていたようですし,中央飾りも円形ではなく,おそらく雲形っぽいものだったと思われます。棹上の痕跡は薄いのですが,根元のあたり,第3フレットと第4フレットの間にも接着痕がうっすら見えますので,上から下までお飾りで埋まったほぼ満艦飾,唐物月琴なみに装飾の多い楽器だったと思われます。
  左右の目摂はよくある菊ではなく,おそらくハナミズキかツユクサの類と思われる例の花びらのとんがった花か,あるいはブシュカン,ザクロの意匠だったと考えられます。


  現在庵主の手元にある参考資料の中には,唐木屋の楽器で同じように満艦飾な類例がそうないので確実ではありませんが,おそらく扇飾りのところについていた飾りは---この楽器についてる痕跡の形状ともほぼ一致する---上左画像のようなものだったと思われます。
  中央飾りのほうはまったく例がないのですが,痕跡の形状から察するに,おそらくは右画像のような「雲竜」の類だったと思いますね。
  どちらも凍石(書道のハンコ(落款)などを彫るのに使うのと同じ材)だったと思います。

  3)フレット: 5本存。材質はおそらく象牙だが,表裏の傾斜がややきつく,細い。左右端は斜めに削ぎ落とされているが,角度はごく浅い。第4フレットの頭に,使用による減りがやや見受けられるが,いづれもほぼ健全。


  4)絃停/半月: 絃停はヘビ皮,110×70。周縁はほとんど剥離しており,中央の一部でのみついている状態。全体が収縮によって波打っているが,皮自体にはヤブレや虫食いなどの損傷は見られない。 半月は半円板状。102×48×h.10。糸孔に擦れどめの象牙板が埋め込まれており,装飾はないが丁寧な作りである。外弦間:30.5,内弦間:24,内外の弦間は左右ともにおよそ3ミリほど。損傷はなく糸擦れなどの使用痕もさほどには見られない。


  5)側板: おそらく凸凹継ぎの四枚組。表面に玉杢のツキ板を貼りまわす。

  さて,今回の楽器の場合,ここがちょっと問題----いえ,べつに損傷はないんですが。
  工作が今ひとつはっきりとしませんねえ。
  2号や22号,あとまだ修理してませんがすでに紹介だけした25号のように,高級な月琴では側板の外がわに,唐木などの薄いツキ板を貼りまわしたものがあります。
  解説書などでは,この加工をされた楽器を見て,月琴の側面は,曲げわっぱのように撓めた薄板で作られている,となっているのがあるんですが,この修理報告で何度も指摘しているように,ちゃんと複数,いろんな楽器を調べてないことからくる誤解ですね。
  もちろん音色のためなどではなく,多分に高級感を出すための装飾的な目的でされる加工なのですが,下地になっている板の接合や材自体の乾燥が不十分だったり,貼りまわしの工作が悪いと,ツキ板が剥離して浮いてきちゃったりしますし,胴体を構成する側面の本体に外からアクセス不可能になっちゃうんで,修理するがわからしてみますと,どちらかといえば厄介なだけの工作です。


  通常このツキ板は胴円周の長さの一枚板を,棹穴のあたりで始終させてあることが多いんですが(右画像参照)。御覧ください,31号の棹孔付近----継ぎ目はありませんね。(下左画像参照)


  楽器向かって左の接合部2箇所は比較的分かりやすかったんですが,右の二箇所は継ぎ目がほとんど見えなかったため,当初は円周3/4の板と,1/4の板を組み合わせてるんじゃないかと書いたんですが,その後,側板を清掃して確認したところ,右の接合部2箇所の継ぎ目もなんとか見つけました。いやあ左の2箇所よりさらにスキマが薄く,木目のつながりにも不自然なところがなさげだったため,気がつきませんでした。(汗)
  ツキ板の接合にスキマがほとんどないことから考えても,まず先に芯になっている胴材を円形に組み立ててから,それぞれの表面に接合部のところでピッタリ噛合うように貼りまわしていったものと考えますが,かなりのワザですね。

  この玉杢もっくもくのツキ板の材質は今のところ不明ですが,この手の材料は通常,レアで高価ですから,一枚ぐるりと貼りまわすには単純に予算か寸法が足りなかったのかもしれません。しかし技術的に考えると,このほうが工作の難易度は高くほかに比べるとごく安価な月琴という楽器の場合には,かえって間尺に合わないような気もします。

  どちらにせい,ちょと見ない不思議な工作ですね。

  上にも書いたように,このツキ板貼り回しは材料や加工の状態によっては厄介な障害を引き起こすことも多いのですが,今回の楽器場合は,下部左にわずか胴体からハミ出している箇所のあるほかは,ツキ板の浮いているような部分はほとんどなく,かなり精密に,きっちりと貼り回してあるようです。

  さすがは唐木屋----江戸から続く大手老舗の本気,といったところでしょうか。

(つづく)


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