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29号山形屋雄蔵(3)

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山形屋 ふたたび の巻2012.10~ 月琴29号 山形屋雄蔵(3)

STEP3 この楽器は弾かれたことが少ない

  さて,29号山形屋雄蔵,銘は「星奈」ちゃんと申します。
  2(に)・9(く)だもんね。


  まずなにはともあれ,これですね。
  糸巻きを削ります。

  オリジナルの一本はおそらく材料がカツラ,スオウで染め鉄媒染で黒くしてあります。
  今回はカツラの持ち合わせがなかったもので,このクラスの楽器ではこれも定番,ホオの角材を削りました。
  カツラと比べるとホオのほうが若干カリカリと固いですね。
  まあ加工のしやすさは同じくらい。



  庵主は3センチの角材の四方を斜め削ぎにして,先端1センチ角の四角錐から六角形の軸の素体を削り出します。
  オリジナルの加工はおそらくこれと違い,簡単な旋盤で作った円錐の側面を六面削って作ってるようですね。
  よく糸巻きの先端に,旋盤に固定した針の痕がついてることがあります。
  三味線などでは糸巻きは分業で,糸巻きだけ作っている職人さんから,太さや加工の合うものをまとめて注文してたりしますが,月琴ではどうだったんでしょう?

  だいたいのところまで削り込んだら,あとは楽器にあてながら,きっちりハマるように先端を調整。
  原作と同じくスオウ染め鉄媒染。
  はじめにかけるスオウ液は,砥粉を混ぜてガラス鍋で温めたものを使い(砥粉の成分に反応して,スオウ液は赤紫色に変色します),乾いたらオハグロの上澄みを塗って媒染,磨きこむと,一度の作業で染色から目止めまでいっちゃえます。


  表面板上のお飾り類をはがします。
  お飾りやフレットの周りをお湯で湿らせ,脱脂綿をかけ,さらに湯を含ませ,乾燥防止にラップやビニールを上からかけて,およそ10分。


  だいたいキレイにとれました。
  オリジナルの接着剤はソクイのようです。
  画像は左目摂の接着痕に少し残ってしまったソクイをふやかしているところ。




  表面板右下の虫食い,穴は大きめだったものの広がりはなく,ほじってこのくらいでした。
  中央飾りの裏に新たな虫食い痕が見つかりましたが,いづれも浅く,内部にまでは達しておりません。


  この絃停部分のを含めて,幸いなことにどこの虫食いも浅く,深刻ではないようなので,今回はこれで埋めてしまいましょう。
  このところ定番のパテですね。木粉粘土と砥粉を7:3で混ぜ,ヤシャブシ液で練りこみます。
  少量の時は板か何かの上でこねても構いませんが,ある程度の量が要るとか,作業が長時間にわたるような場合は,このようにビニール袋に入れてこねると,粉も散らず早いし便利です。使わない間はこうやって袋を結んでおけば,二三日は保ちますよ。




  お次は裏板のヒビ割れの処置。
  まずは割れ目を埋める前に,板が胴体から剥離してしまっているヒビの左右,楽器上下の周縁を再接着しておきます。

  最大で1.5ミリほども開いてしまってますね。
  いや,これぐらい開いてた方が,むしろ直しやすい。
  ヒビが細いと,埋め木を削るのが,正直,タイヘンなんすよ。

  カンナや紙やすりで削った埋め木に,ニカワを塗っておしこみます。
  ヒビの両岸が多少アバれて反っているようなのでこれも少し矯正してきましょう。

  ----というあたりで,次回。

(つづく)


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