« 29号山形屋雄蔵(4) | トップページ | 29号山形屋雄蔵(6) »

29号山形屋雄蔵(5)

G029_05.txt
山形屋 ふたたび の巻2012.10~ 月琴29号 山形屋雄蔵(5)

STEP5 すんなりとウマくゆくことは少ない


  最初のほうの回でも言ったように,この楽器は全体として保存状態が良い上に,欠損部品も少なく。

  ハッキリ言って,糸巻きさえ削ってしまえば,「修理」はもうオシマイ---ってとこ,だったんですが。


  より使いやすい楽器にするための棹の調整も終わり,おつぎは軽く小物の手入れ。


  山口は本ツゲ,この夏に琵琶屋さんからもらった国産ツゲの端材を刻みました。
  いやあ,やっぱり美しいなあ。

  棹上のフレット3本は象牙の端材で再製作。
  色の褪せてた左右の目摂と中央飾りはスオウで染め直しました。



  お飾りも戻し,組み立てて,いざ試奏!


  ----あれ?
  なんじゃこの響き線の音は?


  やたらとがしゃがしゃ鳴り響きます。
  単に線の揺れが敏感とかいう感じでもありませんね----どっかにひっかかってるみたいですね。



  そういえば同じ作者の20号でも,響き線の先端が上桁につきささって,響き線が効かなくなってましたっけ。(右画像20号修理中)

  どうやらこいつも,同じ状態になっているようです。

  まずは棹孔から棒などつっこんで,なんとかしようとしてみたのですが。
  所見のところでも書いたように,この楽器の内桁は真ん中に棹茎の受けの穴があるだけ,あとはただの板なので,作業範囲がせまくてどうにもなりません。



  響き線はこの楽器の音色を左右する,イノチともいえる部品です。
  いくら外がわがキレイに直っても,タマシイが腐っていたのではどうにもなりませんので,ここはちょっと覚悟を決めて,裏穴に二箇所小さな孔をあけ,そこからピンセットをつっこんで,響き線の基部を調整しようとしたのですが,なんと!

  …………モゲました。



  せっかくここまできたのにィ!(弩泣)

  とりあえず,作業範囲を広げるため,裏板を一部ハガして響き線の基部を露呈させます。
  取り出した響き線は,丁寧に錆を落とし,表面にラックニスを軽く刷いてサビ止めとします。
  反応はいいんですが,かなり細くてモロい材質だったみたいですね。
  もっともっと注意して,慎重にやるんだったなあ。



  基部から一度上にギュっと上がって,急角度に下りてきて弧を描くのが山形屋の響き線のカタチです。
  最初の急上昇の部分が,この楽器のは3センチもありましたので,この端っこをすこし曲げ,新しい差込み部としましょう。
  ついでに今度はどこにもひっかからないよう,線のカーブとかも調整します。



  さて,これを付け直すわけですが。
  裏板をぜんぶハガしでもしない限り,響き線基部のもともと線がささっていた面に,直接アクセスすることは不可能。
  では,どうするか----

  こうしましょう。

  まずは響き線基部の横に,ピンバイスで穴をあけます。
  ちょうど元の響き線のお尻が埋まってるあたりまで,一列になるよう3つほど穴をあけたら,ナイフでほじくって細い溝にします。
  ここにエポキを流し込み,線を押し込んで,溝を埋め木でふさぐ。

  ----正面からムリなら横からイけばいい。なんか兵法みたいなハナシですなあ。



  ともかくも,これでなんとかうまく(?)ゆきました。

  一日たって,エポキの固化と響き線の固定具合を確かめ,また少しだけ(こんどこそ慎重に)調整して,基部を整形。
  裏板を貼りなおします。

  まさかこんなに最後のほうでこんな目に逢うとは---油断大敵,ですね。

(つづく)


« 29号山形屋雄蔵(4) | トップページ | 29号山形屋雄蔵(6) »