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31号唐木屋3(2)
G031_02.txt
2012.11~ 月琴31号 唐木屋3(2)
STEP2 のぞきみる世界
もう少しだけ所見におつきあいください。(w)
6)裏面板:
損傷ナシ。
通常,表面板に比べると裏板には,いくぶん質の劣る板が使われてるものなんですが,この楽器のは材質的にも表面板とほとんど変わりのないほぼ柾目の良質な桐板です。楽器に向かって上部中央,棹の左手あたりに手汚れが若干,そのほか地の側板との接着に一部剥離がありますが,どちらも軽微。
■そのほか
山口の下端を起点とした場合,各フレット(およびその痕跡)下辺までの距離は以下のようになります----
1
2
3
4
5
6
7
8
48
80
106
139
163
210
229
259
所見の結果をまとめたフィールドノートはこちら(クリックで拡大)。
内部構造は例によって,棹孔からのぞいたり棒をつっこんだりして調べたものですが,同時作業の2面と違ってこの楽器の内桁には二枚とも大きな音孔が開いているので,不明な箇所は響き線の基部のところくらいですかね。
唐木屋の響き線
というと,基部のところから一度ほぼ直角に下がってから弧を描く,西洋の草刈鎌とかルールブレイカー(宝具)みたいなカタチの独特なものですが(右画像は9号内部),これもそうなってるのかどうか……どうも少し弧の浅い
よくある曲線響き線
のカタチになっているような気もします。上桁は棹孔の上辺から131ミリ,下桁は246ミリのところに位置しています,18号のデータなどと比べると,上下桁の位置はかなり上になっていて,響き線の入っている真ん中の空間もいくぶん狭くなっているので,弧の深いカマ型の響き線だとうまく入らないのかもしれません。
ラベルの違いなどから18号のほうが若干前に製作された楽器だと思われますから,その間に,いろいろと仕様も変更されてきたんでしょうねえ。
唐木屋の楽器のもう一つの特徴は「軽い」こと。
18号など銘を
「モナカちゃん」
とつけたぐらいで,面板も側板も下手すると「猫パンチ」で壊せるんじゃないかと思うくらい,胴が超薄手に作られていました。
側板が玉杢もっくもくのツキ板で覆われているため,いかにも重たそうな感じはするのですが,この楽器もやはり見た目よりはすっと軽いですね。18号などと違って,面板のほうはこの楽器の平均的な厚さになっていますが,側板のほうは棹孔のところで測って,7ミリ程度しか厚みがありません。(ふつうは1センチほど)
その7ミリのうち0.8ミリ……約1ミリは表面に貼ったツキ板ですから,芯になっている部分は最大でも6ミリくらい,接合部ではおそらく3ミリあるかないかだと思いますね。ツキ板の下の材質は不明ですが,おそらくホオでしょう。
材料をより有効に使う経済的な理由からの工作かもしれませんが,技術的にはかなりの緻密さと精密さが要求されます。
このへんもさすがに老舗,といったとこでしょうか。
さて,だいたいの調査計測も終わりましたので,修理に入りましょう。
今回の3面は損傷の程度からすると,どれもまあ大したことのない----楽器として再生するための故障が少なく,修理者としては比較的お気楽でしたね。
いちばん危険だった糸倉間木の欠損は,調査計測の前にすでに補修してありますし,糸倉にも幸いなことに何の損傷も見られませんでした。全体に多少くすんだようにヨゴレてますが,これも程度はさほど深刻ではありません。とにかくはキレイに掃除して,欠損部品のうち必要なものを再製作してあげれば,十分に演奏可能な楽器として復活しましょう。
清掃の前に,まずは面板のハガレかけているところを再接着しておきます。
こういうところをそのままにして全体を濡らすと,そこから湿気が入って,面板の剥離が進行しちゃうおそれがありますからね。
つぎにフレットと絃停を除去します。
お飾りはぜんぶなくなってしまっていますが,接着痕にニカワの残りがついてたりしてますので,そこらもついでに濡らした脱脂綿をあてて,ふやかしておきましょう。
しまってあった場所のせいでしょうか?
31号,納屋のニオイ,と言いますか。若干ネコのションションっぽい
「閉鎖空間的香り」
がいたします。
濡らしたらさらにニオってきました。(汗)
まあ,むかし悪サすると閉じ込められた蔵とか物置とかのニオイですわな。
絃停をハガしたところ,半月側の中央付近に2本ばかり,虫に食われた溝が出てきました。中央飾りの痕にある虫食い痕と同様に,いづれも浅いものなので,すこしホジって,詰まった木のカスなどを除去してから木粉粘土のパテで充填しておきます。
一晩ほど乾かしてから,清掃に入ります。
ご存知のように重曹液にはニオイとりの効果もありますからね。たぶんこの,ネコのションション的納屋臭も,キレイさっぱりなくなってくれるハズ(w)。
ヨゴレ自体はきわめて薄く,29号と同様,表裏の面板は,ほぼ一度の清掃でキレイになりました。
棹および側面も重曹液をつけてしぼったウェスで拭ったら,だいたいのヨゴレは落ちました。こちらは乾燥させてから割れ防止のため,すぐ軽く油拭きしておきましょう。
汚れを落とし,油で磨いた側板です----
さすがに,美しいですね。
糸巻きを削ります。
29号に引き続き,材はホオの角材,ハンズで一本¥200くらいで買えますね。
長さは12センチ。唐木屋の糸巻きはほかと比べると,やや長めです。形が出来たら,先端をきちんと糸倉が噛むよう調整して,握りに三本溝を刻みます。
あ,しまった---この軸,お尻のところだけ一本溝だったっけ---ということを思い出したのは,三本目の3面目の溝に取りかかってた時のことでした。お尻のとこにまで3本,ミゾを刻んでしまいました----まあいいか,この三本が補作の糸巻きだと分かるようにしておくのも,後世のためかもせん(w)。
このあとさらに,カテキュー染めでも若干失敗してしまいましたが,まあなんとか,茶色っぽくて目立たない糸巻きが3本できあがりました。
山口は29号と同じく琵琶屋さんからもらった国産本ツゲの端材を削ったもの。
やっぱりキレイだわ~この自然な黄色!
フレットをこさえます。
オリジナルが5本も残っててくれてるんで,棹上のフレットをあと3枚削るだけで良いわけですね。
まず一度,そのまま流れで立ててみたんですが,絃高がやや高めなのと,新しく作った第3フレットとオリジナルの第4フレットの間にかなりの
「落差」
が出来てしまいました。
例の
「理想と現実の乖離」
ってやつですね---量産楽器ではしばしば起こります。材料が木材であることもありますが,部品を定寸で作ってると,製作者の理想としての雛形と合わなくなってくるのです。
この楽器の棹はちゃんと背側に,山口のところで2ミリほど傾いていますので,そのへん,工作上は問題ないんですが,やはりこのままだと若干弾きにくい楽器になってしまうので,半月にゲタを噛ませ,山口を1.5ミリほど削って,第4フレットのところで絃高がちょうどよくなるようにしてみました。
絃高と弦の角度が変わったので,再製作したフレットも頭を平均1ミリ以上削ることとなりましたが,これによって3・4フレット間にあった「落差」も解消。
最初にフレッティングして,糸を張って弾いてみたときには,正直,なんだか中途半端に感じる音しか出なかったんですけど,2度目の調整でこの楽器,「化け」ましたね----
さて,これで音に関係する部品はそろったわけで。
あとは庵主お待ちかねの「小物の王国」です。
(つづく)
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