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30号とりあえず?(1)

G030_01.txt
まずはナゾの一本 の巻2012.10~ 月琴30号 (?)

STEP1 その名はまだ言えない


  年末一掃,というわけではありませんが。
  庵主,じつはこの二ヶ月ばかりの間に,29号も合わせて,3面の月琴を入手しております。
  修理はほぼ同時にはじめ,完成したのもほとんど同時でありました。


  いつだかの17~19号以来ひさしぶりの3面同時調査と修理作業で,ニクタイ的にも経済的にもけっこうシんどかったんですが,モノがある時にはやれることをやっとかないと,古物だけに次があるかどうか分からないですからね。
  29号に続いて工房に到着したのはこの楽器----

  蓮頭など主なお飾りはなくなってしまっていますが,軸は4本そろっているし,本体部分にも大きな損傷もなさそうです。
  裏面上部にラベルの痕跡がうっすらとありますが,さてわずかな光沢の違いぐらいなので,写真には写るかどうか。
  ほかに書き込みもナシ,作者に関する具体的な手がかりはありませんが…

  庵主は分かっちゃいました。
  だって,つい最近なんだもン,これとほとんど同じだったんだもン。

   (べつだん,カワイくはない)

  ではまず,全体の採寸から----



 【月琴30号:採寸】
  全長:631
  棹長:281 胴体・縦:350,横:355,厚:38(うち表裏板厚各:4)
  推定される有効弦長:407


  大きさはふつうですね。やや胴体に厚みがあります。
  さて,ひっぱれるほど底の深いナゾでもないのでゲロっちゃいますと。
  大坂・伊杉堂松琴斎---ですね,この楽器の作者は。
  油まみれだった24号と同じ作者さんです。

  上にも書いたとおり,ラベルや墨書など直接作者を示す証拠はありません。
  まあ職人的に言うところの「手が同じ」ってやつしかないんですが,箇条で並べますと---

  1)推定されるラベルのサイズや位置が同じ。
  2)全体の材質および加工の類似。
  3)棹および糸倉の加工の類似。
  2)半月の意匠および彫り。
  4)内部構造がほぼ一致。


  このあたり,おりこみながら,各部の所見に入りましょう。


■蓮頭:欠損。
■棹:全長 472(棹茎含む)。胴外露出部分は最大幅 32,最小幅 27,棹本体の最大厚 31,最小厚 26。糸倉の最大深度は 70。材質はおそらくホオ,指板部分を除き全体をカテキューで黄褐色に染める。全体にヨゴレ小,蓮頭はなくなっているが,ほかに損傷はない。

  1)糸倉:損傷ナシ。長 159(基部(「ふくら」のところ)より),幅は根元で 31,先端で 32,左右厚 7.5,弦池 115×15-16.5,天に間木をはさみ,先端へわずかに広がる。さほど特徴のないデザイン。
  2)軸: 4本完存。六角一溝,材質はカツラかホオ。スオウによる黒染めと思われる。損傷見られず。ただし先端に擦痕などかなり使用された痕跡がある。加工は仕上げやや粗く,側面を六角に落とした際の南京カンナの痕が軽く残っている。
  3)山口/フレット: 全損。接着のための加工痕が残る。
  4)指板/棹背: 指板は厚さ 0.8mm ほどの檀木おそらく紫檀と思われるが染めたカリンの可能性もあり。指板部分は長 140,幅は胴との接合部のところで 28,ふくらの手前,くびれのところで 27。弦池の下端で幅 31。くびれは浅い。


  5)棹茎: 全長 191,基部は 45×26×13。先端は幅 14。延長材はやや長い。加工は比較的丁寧で,姿は良い。先端表板がわにエンピツで指示線。


  さて,24号はすでにお嫁にいっちゃってるんで,本体は手元にありませんが,棹は糸倉に損傷があって作り直したので,オリジナルの棹が残っています。
  ほれ,ならべてくらべてみましょ----




  糸倉のデザインや,とくに庵主が「うなじ」と呼んでいる,棹背と糸倉をつなぐくびれの部分は,製作者の個性がいちばんよく表われる箇所です。
  どです?ではお次,胴体ですね。


■胴体: 表面板に数箇所虫食いと小ヒビ。裏板に二箇所ヒビ割レ。汚れの程度は中くらい。

  1)表面板: やや荒めではあるがほぼ柾目の板,矧ぎ数不明。

  向かって右肩木口にやや大きめの虫損,左下に虫食い孔,絃停のヘビ皮にも虫孔2つ。半月の真下,地の板周縁に小ハガレ。

  左右目摂および扇飾りは,かなり以前,おそらく楽器として使用されている際,すでに剥落もしくは取り外されたものらしく,瀬着痕および日焼け痕はかなり不鮮明である。意匠は扇飾りについては不明だが,目摂はおそらく鳳凰(鸞)であったと思われる。
  面板中央,絃停の上付近にかなり多くのバチ痕が見受けられる。


  2)フレット: 胴体上のフレットは5本存。うち4本はオリジナルと思われるが,第4フレットのみ左右端が斜めに加工されており,後補ではないかと疑われる。材質はおそらく牛骨。

  第5および第7フレットの片面に,髄の部分と思われるエグレが見える。また第6フレットの向かって右端に黒く小さな孔。虫食いか?不明。


  フレットも比べてみましょう。



  24号のほうがやや太めですが,どちらのフレットも両端が直角に切り落とされています。
  どちらかというと月琴のフレットでは,ここは浅く斜めに落す作家さんのほうが多いですね。
  ちょうどいいことにどちらも第6フレットが残っていました。
  国産の清楽月琴では,第6フレットをいちばん長くするスタイルが一般的なのですが,その長さや,ほかのフレットとの差にも作家さんによりそれぞれ個性があります。石田義雄などはかなり長めにするほうですが,ほとんど長さに差をつけない作家さんもいますね。
  さてこちらは----よく似てますよね,長さも,上のフレットとの差も。

  3)絃停/半月:
  絃停はヘビ皮,110×80。左下をテープでとめてあるほかは全体にあまり剥離はなく,比較的きちんと接着されている。

  左下端に食害痕。虫かネズミか不明。中央下端あたりに二箇所,大きな虫食い穴があるが,保存状態としては良いほうである。

  半月は透かし彫りのある曲面,110×40,最大高 10。糸孔は外弦間:32,内弦間:24。
  上端に使用による糸擦れや圧縛痕はあるが,損傷はない。

  ここもほぼ同じですねー。比較写真をどぞ。



  4)側板:単純な直線木口合せの4枚組み。材質はクリ。損傷らしいものはないが,楽器に向かって左肩および右下の接合部にわずかなスキマ。

  これはまあ,同じ木で作ると同じような感じになりますがまあ比べてみてください。




  5)裏面板: さまざまな質の小板を矧いだもの,表面板と違って矧ぎ目はわかりやすく,11枚矧ぎ。

  向かって中央付近,左から小板5・6枚目の間と6・7枚目の間に小ヒビ,いづれも矧ぎ目に沿ったもので幅は狭い。

  中央上部にラベルの日焼け痕,きわめて薄く残る。推定されるラベルの寸法は40×30。横長の四角形。


  このラベルの写真は,過去にネオクに出てた楽器からとったものですが,24号のもの,またこの楽器の日焼け痕,いづれもカタチやサイズはほぼ一致しますね。


  半月のカタチや胴体の作りなどだけだったら,ほかにも似ているものに,松琴斎のお師匠系と思われる同じ関西の「松音斎」や,関東の「唐木屋」の楽器などがあるんですが,松音斎の楽器はもっと作りが丁寧・緻密ですし,唐木屋の場合,軸や茎に独特の特徴があります。

  とりあえずフィールドノートをどうぞ。(クリックで拡大)




  30号の内部構造については,棹孔からのみの観察・測定のみですが,せまい棹孔からのぞけたぶんだけでも,収穫はありました。ノートにも書きましたが,2枚桁で上桁は棹茎のウケのほか,左右にツボ錐で開けたと思われる直径5ミリほどの穴がふたつあるだけ----このあたりも,24号(右画像)とほぼ同じなんですね。

(つづく)


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