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29号山形屋雄蔵(6)

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山形屋 ふたたび の巻2012.10~ 月琴29号 山形屋雄蔵(6)

STEP6 完成された世界,未完成の未来


  さて,棹が前に傾いていたのと,響き線モいじゃったのは,ちょいと想定外の事態ではありましたが,いづれのヤマもなんとか克服。

  まあ正直なところ,響き線がモゲちゃった瞬間は,かるく心臓止まりかけましたけど。(^_^;)


  響き線取付のため切り開いた裏板を貼りなおします。
  いちばんはじっこにはオリジナルの板を多少整形して使い,間に1センチほどの幅の新しい板をはさめて接着します。
  一晩置いて,接着の確認をしたら,まずは余分を切取り,つづいて出っ張っている木端口を均します。



  前回,27号の修理でも同じようなことしましたっけ。
  端材に板の厚さのぶんの紙ヤスリを両面テープで貼り付け,これで出っ張りを落とし胴体と面一にしてゆきます。

  出っ張りがなくなったとこで,新しく埋め込んだ板と木端口を染め直します。
  まあ完全に,はムリですので目立たないていどに。


  作業ですこし側板にもキズがつきましたので,こちらも補彩しておきましょう。

  用意するのは砥粉と炭粉と木灰。



  これをスオウ液で溶いたものを塗りつけ,乾いたところで極少量の亜麻仁油を染ませた布で拭って磨きます。

  それにしても側板のこの色,よく残ったものです。
  とても百年以上前に作られた楽器だとは思えませんね。


  最後にちょっとモタつきましたが----
  2012年12月9日,日本橋区薬研堀・山形屋雄蔵作,月琴29号。
  修理完了いたしました。




  さっそく試奏----

 1) 開放弦
 2) 音階
 3) 各弦音階
 4) 九連環
 5) 茉莉花

  まあ,ケガの功名というか何というか。(汗)
  根元がわずかに短くなったおかげですね,修理前の響き線は,楽器をどんな姿勢に構えても,ただガシャガシャ鳴ってただけですが,修理後は演奏姿勢に構えたときはそれほど鳴らず,あえて揺らすと 「カローン,カリーン」 と清げに鳴り,楽器に耳をあてて面板を軽く叩くと,線が震えてる 「わあああん」 という響きが長く続く----響き線としてかなり理想的に機能してくれるようになりました。


  ガラスの風鈴のようなシャリシャリとした音はまさしく「江戸ッ子月琴」。
  音量もそこそこあるし,楽器としてのポテンシャルはかなり高そうです。
  フレットはふつうの高さですが,棹を傾け調整したので,フレット頭と弦の間隔はせまくなっており,運指への反応は申し分ありません。胴体はやや小ぶりですが,棹がそのぶんやや長いことと,器体がきわめて軽いため,座奏でのバランスにはやや問題があるかもしれません。どちらかといえば立奏に向いている楽器かもしれませんね。


  ただ,この楽器,前の所有者がほとんど使用していないようで,弾かれこまれていない楽器特有の気まぐれさというか,音の軽さがまだやや耳につきます----「初々しい音」と言い換えることもできなくはありませんが。(w)前にも12号の時とかに言いましたが,まだ「楽器がどこに向かって鳴ればいいのか分かってない」感じがありますね。

  まあそのぶん,どんなふうに育つかはたいへん楽しみではありますが。

  庵主にとって,清楽の楽器は本と同じくらい,ある面ではそれ以上の資料です。
  今回の修理でも,木部のスオウ染めの工法など,いくつも新たな発見やいままで気がつかなかったことを教えてもらえました。


  山形屋雄蔵の楽器は,名器かどうかはともかく,丁寧に作られた「筋の通った良い楽器」です。
  高級品だろうが普及品だろうが手を抜かない,その緻密な仕事ぶりは,修理していても気持ちが良い。
  ---ほとんどゆがみのない胴体,まだ活きてるニカワ。キッチリと密着してカミソリも入らない接合部。
  そうした「丁寧な仕事」がけっきょく,楽器自体を守り,現在まで,そして庵主のところまでとどけてくれたのです。

  願わくば,この楽器の未来が,幸せなものでありますように。

(おわり)


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