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工尺譜の読み方(5)

koseki_05.txt
工尺譜を読んでみよう の巻工尺譜を読んでみよう! その5

STEP3 マボロシのひきょくをもとめて(3)

  さて,今回の1曲は「平板調」の表裏合奏譜。
  「平板調」は清楽曲のなかではメジャーな曲。
  ほとんどの楽譜集に入ってますので,これに裏曲があるのは知ってたんですが「茉莉花」とか「厦門流水」の裏と違って,その音長の分かる例がまったく見つからず,ずーっと,合わせようにも合わせられないでおりました。

  [*クリックで拡大]

  譜は『音楽雑誌』55号より。今回の救いの主はまたまた登場,庵主と同じ北海道人の清楽家・渡辺岱山さん。
  ありがたやありがたや。
  「平板調」の裏曲「寒松吟」,初復元です。

  最初の1小節が符字2つ,2拍ではじまっていますので,これは4/4で裏拍子から入る曲だということ。
  短い8分音符で弾くところと,小節をまたいで発音する長音のスラーが同じ記号で表されちゃってるところなんかは,まだちょっと過渡期っぽい感じがしますね。

  では数字譜に変換可能な近世譜に直しましょう。
  は「平板調(ぴんぱんでゃお)」,が「寒松吟(はんそんぎん)」です。

■■合-|合-合四|C-合四|C--○|
H ■■合凡|合四 CD|E E D-|EG ED |
P 尺-六-|工-工-|尺-工六|尺工上-|
H C D C|DD 合尺|尺上工合|四-合四|
四--○|上-四合|C四 合工|尺上四C|
合四C四|合- CD| C 合-|D G E E|
合--○|尺工尺-|尺工合-|四C合四|
E D E-|D E C-|C D 合-|C-四合|
C--○|上-尺-|工-六-|工六工尺|
四上尺-|C C D-|E E D E|G E G E|
上--○|上-上四|合--○|C- 合四|
DC 合四|C-合四|C四 合四|上上尺工上|
C--○|上四上-|上尺工六|尺上四C|
四尺上-|CC 合四|C- E G|E D E E|
合--○|四C 四合|工-合-|四C C四|
G- A A|G A E G|D E G-|○上 AG|
合--○|工-上-|尺--○|尺-工上|
上 AG-|E E G-|E G D C|D- GE|
四上上-|工尺尺-|--■■
D E C C|DEC D-|--■■

[*リンクをクリックでMIDIが流れます*]

* 「平板調」:単独再現。
* 「寒松吟」:単独再現。
* 「平板調/寒松吟」:合奏。

  赤文字になってる「」は,原譜でニンベンのついた「四」になっている箇所。
  工尺譜で通常「五」の1オクターブ上の音は「伍」で表されることが多いのですが,この譜にはニンベンの「五」ニンベンの「四」が混在しております。
  ほンの気まぐれだとか,活字が足らなかったんだろう,というような世見知り顔のスルーも出来ますが,こういう場合,いちおう意味を考えなきゃなりませんね。
  ちなみに,唐琵琶の譜の場合,ニンベンの「合」低音第1弦の開放弦の音を表すみたいです。このように工尺譜では,特定の符字を各個の楽器の演奏上の記号としても活用することがありますが,この譜では特にどういう楽器を使うというような指示もありませんので…さて困った。

  月琴は「五」の下の「四」は出せませんので,譜に「四」とあろうが「五」とあろうが実際には「五」の音で弾くしかない。そういうとこから考えても,この記号は月琴に対する指示とは考えにくいですね。一方,明笛は呂音(ふつうの息づかいで出る音)で「四」,甲音(強く吹く)で「五」を出すことができますが,「五」よりさらに1オクターブ上の音となりますと……かなり難しいですね。それに文字の順番からいくと,単純に「五」の上の音を指示するなら「伍」のが分かりやすいとも思います。
  そこをあえて「四」にニンベンを付けてるわけですから----

  こうしましょう。(^_^;)
  月琴は「五」の1オクターブ上,高音弦7フレット目を押さえ「伍」の音を出します。
  明笛は甲音の「五」ではなく呂音,すなわち低音の「四」で吹きましょう。

  「上=4C」としたとき,「四」は3A,「五」は4A,「伍」は5Aになります。
  つまりはこれによって,いつもは楽器間1オクターブのユニゾンが,2オクターブ間の演奏になるわけですね。
  もともと「寒松吟」2小節目の「C」から6小節目の「DD」までの高音部分は,呂音の「四」と「合」にはさまれていますから,笛はここをすべて呂音で吹くほうが,ラクで音もキレイに出ます。次の「A」のところも,状況はほぼ同じですね。すなわち「合-CD|AC合-|DGEE|」を,月琴は「六-CD|AC六-|DGEE|」,明笛は「合-上尺|四上合-|尺六工工|」で吹く,というわけです。
  うむ…これはもう実演奏上の経験からくる推測読みで,例によってそんなことを書いてある文献資料はありませんが,これだと「四」にニンベンが付く理由がある程度通りますね。

  失われた音と演奏を求める手探りの旅は,まだまだ続きます。
(つづく)


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