工尺譜の読み方(6)
工尺譜を読んでみよう! その6 STEP3 マボロシのひきょくをもとめて(4) こんな研究してますが。 じつは庵主は,音楽的には民謡とか伝統音楽とか民族音楽といったたぐいが大キライなほうなので,ふだんまずまず,こうした類の楽曲を「音楽として鑑賞する」といった行為はいたしませんし,演奏の上手下手は分かっても,そのどこがいいのか悪いのかについてはまったく感性として理解ができません。しかしながら,そんなクソ…(いや失礼),他愛もない清楽曲のなかにも,いちおうは好みだったり好みじゃなかったりというような曲の区別は,漠然とながら存在しております。 にぎやかなほうがいいなあ。 どちらかというと。 本日の一曲は『音楽雑誌』44号より,「花八板」。 [*クリックで拡大] 譜を起こしてくれたのは,大阪の大井清風さん。 いつもの渡辺さんのとはちょと違いますが,シンプルな形式の近世譜で組まれています。小節の区切りは「、」で2/4拍子。無印が4分,単傍線が8分,二重傍線が16分。「-」が1拍のばし,「・」が半拍のばし。||: から:|| までが繰り返しとなっています。 題の下にちいさく( )して「清楽」って書いてありますね~。 末尾に「右曲は清国江蘇省蘇州府人揚静文氏より直伝。」とありますから,これはまあ,伝統的な,というよりは,ほんとの意味での「清国の音楽」の「清楽」なわけです。 庵主好みの「にぎやかな」一曲です。 連山派や渓庵派の「清楽」曲の多くも,中国人から教えてもらった曲であるところは同じなのですが,インテリぶりたい連中が,古雅だ風雅だ風流だと,よってたかってこねくりまわしているうちに,やたらと間のびした音楽になってしまったキライがあります。(だからキライ!w) 「清楽」曲は,もともと船乗りたちの伝えたチャイニーズ・ポップス。 「茉莉花」にしても「九連環」にしても,もっとアップテンポで,にぎやかな曲だったはずなのです。 「十二紅」や「月花集(紅綉鞋)」なんかは,清朝において発禁になったりするぐらい,エッチな内容の歌曲だったりもします。楽譜だけでなく,歌詞も漢字・カンブンで書いてあるからイマイチ分かりにくいんですが,実際,清楽の本には「歌詞淫猥につき之れを略す」なんて書いてあったりもしますからね。 いま伝わってる古い曲も,よくイベントでやってるみたいに,わざわざ着物やら中国服着込んで,なんにゃらおごそかに演奏するよりは,街角や茶館の片隅で,もっともっとお気楽に,にぎやかに,明るく弾いてぜんぜん構わないと,庵主は思ってますよ。 そしたら,もう少しはスキになれると,思うんだけどなぁ…(^_^;) さて,ちょいと脱線しましたか。 「八板」という曲は沖野竹亭の『清楽曲譜』(OKINO_A013)や柚木友月の『明清楽譜』(YNK069)にも収録されています。
小節を数えてみてください。 「E-E-|」からはじまって,全符の長音までちょうど8小節。 リズム楽器の「板」が8回鳴らされる間,これを1フレーズとして,少しづつ変化させながら続けてゆく楽曲の形式,これが「八板」なわけですね。日本のお神楽や祭囃子なんかにも,同じような形式の曲がありますよね。 上の譜例と比べると,「花八板」はちょっと応用篇で複雑ですが,同様のフレーズが繰り返されることによって生じるグルーヴ感みたいなのがあるとこはいっしょです。 さて,近世譜ですが。 今回は2/4しかも16分音符もバンバンあるんで,HTMLでは表現しにくく,画像になちゃいました。 [*クリックで拡大] * 『音楽雑誌』44号「花八板」:再現MIDI。 さっきちょっと触れた日本の清楽の「間のび感」ですが。 この「花八板」と,上の沖野竹亭の曲,MIDIで聞き比べてみると,けっこう分かりやすいかもですよ。 と,いったところで,本日はここまで! (つづく)
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