工尺譜の読み方(4)
工尺譜を読んでみよう! その4 STEP3 マボロシのひきょくをもとめて(2) このあいだまで庵主,早稲田のアーカイブで見つけた『西秦楽意』(穎川連・撰/宇田川榕庵・写)という本の曲を,なんとか復元しようと,うんうん唸りながら作業をしておりました。この楽譜集,もしも撰者の名前が本当なら,関東の最大流派だった渓派の祖,鏑木渓庵さんの直接のお師匠さんのやっていた音楽を記録したものとなりますから,同じ関東で「月琴ネオお江戸派」を称する庵主のSOS団にとっても,そのあたり歴史的意義がずいぶんとあるわけなんですが。 まあまあコレがなかなかに,手ゴワい。(汗) 現在残っている本に収録された53曲の譜のうち,なんとか読み解けたのは30曲とちょっと,ほかのメロディはいまだ歴史の闇のなか。なかなか解けないそのなかに,「昭君怨」という曲がありました。 昭君といえば「王昭君」,匈奴の王に送られちゃった悲劇の美女のお話しですね。 面白そうな曲なのでなんとかしたかったのですが,なにせご覧のとおり書き込みは区切り点だけで,メロディの再現の役に立ちそうな情報がまったくありません。ほかに音長の分かる譜例もなかったので,なかば諦めていたのですが,別件で明治の雑誌をめくっているうち,ふと見つけたのがこの曲譜----「四愛景」 『音楽雑誌』21号より。譜を起こしてくれたのは渓派の重鎮,鏑木渓庵の一番弟子・渓蓮斎富田寛。 うむ,ここまでの経緯,けっこう因縁ですね。 念のため両方の歌詞や符字の並びを比較してみたんですが,これもまた見事にほぼ一致しました。 渓蓮斎の譜の形式は,うちにある『清風雅譜』の明治17年版(初回で紹介した本)の書き込みとほぼ同じ形式。左右に雨垂れ拍子,連続する短い音は「-」でつなぎ,休符は「○」,くりかえしは[ ]。 近世譜を見慣れているとクラッシックな譜点法ではありますが,これでもじゅうぶん音長は分かります。 ではいつものように,斗酒庵式近世譜に変換しましょう----
「上=4C」,「六」以上の高音はCDEF....という大文字アルファベットに代えてあります。 二胡などお弾きになる方は,これをコピペして工尺譜の "合四乙上尺工凡五六" をメモ帳などで数字の "567123456" に変換してみてください----こんなふうに。 ふだんお使いの数字譜とほとんど同でげしょ? あとは月琴なら5・6の低音は無視,笛は低音の5・6に,6以上の高音(もとの譜だとCDE...)が隣り合わせてる場合,上の点を無視して1オクターブ下げで吹けばいいだけ。この譜の場合だと,どうしても6以上の高音で吹かなきゃならないような部分はないので,笛のパートでは上の点ガン無視でイイと思いますね。 このように近世譜までに組んでしまってあれば,工尺譜なんて難しいものでもコワいものでもないんですよ。(w) さて,渓蓮斎の譜をもとに読み解いた『西秦楽意』の「昭君怨」はこんな感じです。
5行目までの繰り返しがある(らしい)のと,最後のほうがやたらと伸びる(らしい)ほかはほとんど同じですね。 まだ類証が足りないので,自信はさしてありませんが,だいたいどんな感じの曲調か分かっただけでもかなりのみっけもんです。 (つづく)
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