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工尺譜の読み方(11)

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工尺譜を読んでみよう の巻工尺譜を読んでみよう! その11

STEP7 茉莉子さんの壁


  さて,ではイッキにハードルをあげてイキましょうかァ!

  ---いやいや,だいじょうぶ!…だいじょうぶだからァ!
  ま,読むだけ…せめて読むだけ読んでくださいぃっ!!

  一部の本などでは,清楽の演奏は「単純なユニゾン」,つまりどの楽器も同じ曲を同じ音で弾き合わせる,そんな音楽だ----というように書かれているのですが,明治のころの資料をちゃんと見ますと,いくつかの曲は 「ウラ」 と呼ばれる伴奏のメロディを持っており,二曲を同時に演奏してアンサンブルったことになっております。
  西洋音楽と違うのは,それぞれの「ウラ」が単に「本曲」の一部としてではなく,基本的には本曲から派生・独立した別個の曲として扱われている,というとこでしょうか。

  「ウラ/オモテ」の演奏ですから,月琴にしろ二胡にしろ,一台で同時に弾く,ってのはまあムリなわけですが。
  サイワイにもわがDBでは,それぞれのオモテの曲もウラの曲も,MIDIで再現したものがあります。
  ですので,おひとりさま独習派の方々も,いつかなれる音楽リア充への予行演習として,それらMIDIの演奏に合わせて練習してみてください。
  それでもサミシイその時は,大川端のSOS団までいらっしゃい。(w うちは別に未○人や宇○人や○能力者でなくていいです,いやできれば,もッとフツーの…ああっ!窓が!窓に!



  ではまず1曲目は「厦門流水(かもんりうすい)」と「如意串(るぅいーかん)」。
  それぞれ独立した曲としても弾かれますがこの二曲,同時に弾くと見事なウラ/オモテをなします。


  厦門流水 MIDI如意串 MIDI  弾き合わせ MIDI

  これに関してはとくに注意事項なし。
  拍さえはずさなければ,比較的合わせるのはカンタンです。
  ただ,伴奏曲(ウラ)はみんなそうなんですが,この組み合わせでも「如意串」のほうが手数が多いので,弾くのが若干むずかしいですね。うちのSOS団では,ジャンケンで負けたほうが「如意串」係になったりもします。(w)

  とはいえこの2曲,どちらも清楽曲としては基礎的な曲。
  「ハジメテの合せ弾き」には最適の組み合わせですんで,どちらの係になっても,ふつうに弾きこなせるよう,修練しておくべし。



  さて2曲目は「茉莉花(もりぃふはぁ)」と「秋風香(しうふうこう)」。


  茉莉花 MIDI(弾き合せ時に一部変更アリ)秋風香 MIDI 弾き合せ MIDI

  曲譜はいつもの『清風雅譜』ではなく沖野勝芳の『清楽曲譜』(明治26年)を使います。
  ( 『清楽曲譜』 復元曲一覧 は こちら )

  『清楽曲譜』は国会図書館のデジタル資料で一般公開されています。
  全体をご覧になりたい方はそちらからDLしてください。

  『清楽曲譜』の編者・沖野勝芳は石川県の人。邦楽革新の活動家の一人として『音楽雑誌』などにも良く名前が出てきます。
  清楽演奏家としての流派は,おそらく梅園派---大阪の連山派の分派で,東京に拠を構えた長原梅園平井連山の妹)を中心とするグループで,関東においても渓派と匹敵するくらい大きな勢力があり,ときにはこちらが連山の「大坂派」に対する意味で「東京派」と呼ばれてもいました。梅園の息子の長原春田が「音楽取調掛」というお上の機関で,それこそ西洋音楽に対する「日本音楽の改造」に関わっていたこともあり,ほかの流派にくらべると,近世譜や数字譜の使用といった新しいこころみにも比較的寛容であったようです。

  この『清楽曲譜』もご覧のとおり近世譜で組まれており,縦書きになってるところをのぞけば,庵主なんかはほぼそのままで,ふつうの楽譜と同じように読めちゃいます----というか庵主のバヤイ,五線譜だとかえって読めんなあ。
  演奏上の注意点は,以下の通り---

  1)『清楽曲譜』の「茉莉花」は,前に弾いた渓派の「茉莉花」とは,若干メロディが異なります。

  2)原譜のままだと「茉莉花」のほうが1小節多いので,途中から合わなくなります。

  それぞれを単独の曲として弾く場合には問題ありませんが,弾き合わせのときだけ,原譜に書き込んである指示に従ってください。ちなみに,楽譜画像の2枚目にある近世譜と数字譜では,どちらもその「弾き合せる場合」の譜面として,すでに修整済みで組んであります。

  ----むかし,これの弾き合せがはじめて成功したときは,ほんとすンごく嬉しかったですねえ。

  オモテの「茉莉花」は普段からよく弾いてる曲ですが,ウラの「秋風香」,これがまた,単独で弾いてもキレイな曲なんですよ。
  渓派の譜本にも「茉莉花裏」と題した曲があり,梅園派で主にウラとして使われていた「秋籬香」という類似の曲例もあるのですが,どちらもただ手数が多いっていう感じの曲で,これらと比較すると,この『清楽曲譜』の「秋風香」は,伴奏曲としても単独の曲としても,より音楽的に洗練されている感じがします。


  といったところで今回はおしまい。
  なんせ2つで,つごう4曲覚えることになるわけですからね。
  まあ,ゆっくりやつてくんな。

(つづく)


工尺譜の読み方(10)

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工尺譜を読んでみよう の巻工尺譜を読んでみよう! その10

STEP6 夢の実践効果


  さあ,ではみなさん弾いてみましょう!(アハン)
  本日はこの曲から。ちょっと長くなりますが,がんばって弾き切ってくださ~い。途中で分からなくなっても,音はとめないでネ,そのままテキトウ弾くんですよ~。
   "Show must go on" でございますよ~。
  では,サン,はいっ!----

   ・・・・・・・・・

  おおおっ!
   見事に出来てるじゃ,
     あーりませんかあああぁぁ…


   はっ!……夢か。


  ----と,いうわけで,本日の楽譜はちょっとだけ長いのを3曲。

  芝居ネタの曲はともかくとして,清楽の曲ってのはたいてい,長くても1曲ABCDの4パートくらいの構成で,あとは一部のフレーズをちょっとづつ変化させながら,ってパターンのものが多いです。
  だからこういう長い曲だと,合奏のとき途中で分かんなくなっても,あわてずに基本的なフレーズを弾いてれば,たいていは耳障ることなく誤魔化せますので,ある意味単発ものの曲より,合奏のときは楽ですね。

  「ちゃんと弾ける」,に越したことは,
          言うまでもなく,ありませんが。




  んじゃ1曲め,「魚心調(ゆぅしんでゃお)」。

  「…どふでございますかな,お代官様。」
  「うむ,魚心あれば水心というヤツじやな---越後屋,おぬしも…」
  「へっへっへ,お互いさまで。」

  ----というような内容の曲ではもちろん,ございません。

  別名を 「報花名(はうふはぁみん)」 もしくは 「猜花名(さいふはぁみん)」 と言います。
  「高いお山にささった矢羽よ,この花なあに?---花の名前は玉簪花…」 と花の名前を問答する謎かけ歌ですね。ちなみにこの「高いお山に(高高山上)…」という出だしは,今も中国のわらべ唄では謎かけ唄の出だしとして定番となっております。くわしくは こちら などどうぞご覧あれ。


    魚心調 MIDI

  1段の歌詞は20文字ぐらいなんですが,歌詞と楽譜が対照になっている中井新六の『明清楽譜』の版と,庵主が『清風雅譜』の朱書入れから組んだ近世譜の版を比較してみますと,出だしの 「高々(カウカウ)」たった二文字のとこだけで,ひのふの…6小節も使っっちゃうことになります。もしこの『清風雅譜』の朱書入れそのままの小節切りで歌うとなったら,かなりテンポをあげないと,いくらなんでも間が持ちません。

  じっさい『清楽曲譜』の近世譜を見ると,各音をこれの半分の音長にして譜を組んでますね----弾いてみた感じでも,そちらのほうがより自然。二枚目のほうに『清楽曲譜』の版をもとにした数字譜もつけてありますので,曲調はそれを参考にして(アレンジが少し違っています),この『清風雅譜』の版を,Tempo=100~120くらいで弾いてみてください。

  「○○調」と付くような曲は,多くの場合芝居や講談のBGMなんかに使われるもので,特定の歌詞はなく,そのメロディにのせてその場面が流れる,もしくはそこで主人公が歌う,というような使われ方をします。このシリーズで以前紹介した「孟浩然」というながーい曲なんかは,この「魚心調」のフレーズをもとに組まれてますね。
 民楽のほうでよく弾かれる「茉莉花」なんかも,京劇の伴奏なんかよーく聞いてると,細切れにされたフレーズがしょっちゅう出てくるほうですよ。



  さてお次はこれにしましょう「漫板流水(まんぱんりうしゅい)」。


    漫板流水 MIDI


  お江戸に長崎渡りの月琴音楽をもたらした最初のひと,今で言えば中国文学の大家だった遠山荷塘さんは,その死の二日前,病床にあり,もう目も見えなくなっているのに,枕もとの月琴を探りよせ,この曲を弾いたそうです。

  臥弾 「漫板流水」 一回,音節調和,無異平常。
  (臥して「漫板流水」弾くこと一回,音節調和して平常に異なるなし 朝川善庵「荷塘道人圭公伝碑」)

  いつもと同じ調子で,まるで何事もなかったかのように,いつもの曲を奏で,そして彼は 「好 好 」 (はおはお---「よっしゃ」 ってとこでしょうか?) と一言つぶやいて,微笑みながら,息をひきとります。

  ----庵主は好きですね,このエピソードとこの曲。

  「漫板」というのは 「ゆっくり拍子」 を表すことば (逆に早いほうは「快板(くゎいぱん)」という)ですので,この題はつまり「流水調」という類の曲の,ゆっくりなヤツ,くらいの意味ですが,あんまりのろのろ弾いてると返ってキモチ悪いので,早くなくてもいいですから軽やかに弾いてください。

  長いには長い曲ですが,基本,同じようなフレーズの繰返しです。

  まあそのぶん楽譜がないと 「えっと…次はどんなだっけ?」 みたいに迷っちゃいますが,そのあたりそれこそ「ゆっくり」 練習していただければよろしいかと。



  ほんじつ最後(トリ)はこの曲,「渓庵流水」。


    渓庵流水 MIDI


  遠山荷塘さんが関東に月琴を広めてくれた最初のひとだとすると,その音楽を普及させて,のちに「東京派」とまで呼ばれる一大勢力までのしあげたのが「鏑木渓庵」さん----その流祖がみづから作ったいわば彼の入場テーマ曲で,「清楽」の曲ではありますが,中国渡りの曲ではもちろんありません。

  清楽として伝えられた音楽は,中国南方,福建あたりの曲が多いので,基本5音階(ペンタ),こんなふうに 「凡」「乙」 の2音があっちゃこちゃに出てくることは,あんまりないんですよ---てなことをまあ,百年以上前の人に講釈たれてもムダなわけですが……
  その「めッたに出てこない」2音がはさまってることもあって,月琴で弾くと ヽ(*`Д´)ノ 「ワザとやろっ!ワザとムズかしくしとるやろっ!」ヽ(*`Д´)ノ というくらい。指があっちゃこっちゃ飛ぶは,緩急の差もあるわで弾きにくい曲ですが,落ち着いて,運指をよーく考えながら練習してみてください。

  現代音楽に慣れてる耳には 「何じゃコリャ…どこがいいのン?」 ていうメロディですが,楽譜によっては「秘曲」に分類されてる曲で,「これができたら免許切紙!」 みたいな1曲,まあ,チャレンジとも思ってがんばってみてください。

  原譜のほうに,運指とかに参考になりそうなポイントを書き込んでおきました。
  近世譜と数字譜は,わたしがじっさいに弾いてるふうにちょいアレンジしてあります。
  最初の2小節は,前奏のつもりでゆっくり (Tempo=60くらい?)。
  一呼吸おいて,そこから先は Tempo=100~120 くらいで軽快に演ってください。

  難曲ではありますが,なんせ江戸っ子の作った曲ですからね----熱い湯に入っても涼しい顔,風ばっか食らって屁も出ない----そんな感じで(ちょいとくらい間違っても)平然と弾いてみせましょう!

  正直,8割がた弾き切れれば文句は言わねえ。
  免許皆伝でも仮面ラ○ダーカードでもくれてやらあ!


(つづく)


工尺譜の読み方(9)

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工尺譜を読んでみよう の巻工尺譜を読んでみよう! その9

STEP5 清楽畑の春を愛す

  では基本曲をあといくつか紹介していきましょう。

  まずは「四季曲(すぅきぃきょ)」。

  同じメロディで「四季」「四季歌」「四節曲」などと題しているものもあります。各書各流派ともにちょっと混乱しているようなのですが,ある本ではこの「四季曲」と「四節曲」が並んでまして,歌詞は「四節曲」のほうについております。
  もともとは「四節曲」の前弾(前奏曲)を「四季曲」と言っていたのでしょう。「四節曲」と題される曲のほうが,同じようなメロディながら長かったり,1オクターブ高いフレーズで構成されているところから見ても,歌詞があるのが「四節曲」で,ないのが「四季曲」なのだと思いますよ。
  歌に入るところで前奏よりピッチを上げるのは,どこの国の音楽でも常套手段ですからね。

  近世譜/数字譜・2行2小節めの最後あたりに,音が伸びて小節をまたぐところがあり,そこから拍子がズレてゆく----そこらのタイミングを計るのがちょいと難しいのですが,MIDIを再生しながら,気長に合わせてやってください。
  メロディ自体は単純で,可愛らしい感じのする曲なんですが,歌詞を見ますと---
  まあこれも,帰ってこないオトコを待つ歌ですね。(泣)
  「春は花咲き,蝶ですら,夫婦でひらひら飛ぶものを…」 と,四季のめぐりにかこつけて,男の浮気をなじるのですねえ。

  時の流れに不安をつのらせながらも,表面上はあくまで,四季の景色を楽しんでるふうに(ちょっとツンデレ風味?)弾いてください。

  [*クリックで拡大。]
四季曲 MIDI

  つぎに「月花集(ゆふわぁじぃ)」。

  「月下集」とも書きます。月に花,キレイな名前。曲もゆっくりめでおキレイそうな感じですよね---

  しかしながらこの歌,別名を 「紅綉鞋(ほんしゅうあい)」 とも言いまして,清朝時代には 発禁ソング,というか上演禁止歌になったこともあります。日本人が歌詞を見る限りにおきましては,「あや靴一双,梅が咲く…」 ではじまる数え歌みたいな感じなんですが,まあいろいろありまして…あんまりくわしくは書けない。

  とりあえずまあそのへんは,あちゃらの方々のご都合。
  まずはおキレイに,ゆ~ったりと弾いてください。
  慣れてきたら音の長さを考えながら,少しテンポを早めて----もとは数え歌ですからね。

月花集 MIDI

  つぎは「久聞歌(きうえんこぉ)」。

  「このごろ良く聞くあの娘のウワサ,キレイになったと言うじゃないか…」 という感じの曲です。
  ある資料では「古い曲」だということになってますが,あくまでも日本人がその曲調から類推した感想のようで,中国側の資料には今のところ,それを裏付けられるような記述や曲目は見えないようです。

  メロディは単純なんですが,西洋の楽曲に慣れてると,ちょっとフシギ,というかナットクのいかないところがあるかもしれません----うん,でもこれが「清楽」なんだな---とまあ,そのへんは無理矢理ナトクしてください。(笑)

久聞歌 MIDI

  いづれもリズムを大切に,はじめはゆっくりで。
  人差し指の一本指奏法でも良いですから,とにかくリズムをはずさないように。
  一拍はちゃんと一拍ぶん,伸ばすところはちゃんと伸ばす。
  慣れてきたら,指をかえてみましょう。

  月琴の演奏は,中指 が基本です。


  うちの流儀では,右手でピックを動かすのは,手首でも人差し指でもなくて 中指 です。
  ピックはつままず,握らず,中指の腹の上にピックの先端部分を「のせ」て,中指を動かして弦を弾きます。
  残りの指は,ピックが飛ばないように,軽くささえている,というか添えてるだけです。


  そして左手の中指
  中指を最初におろせば,上がるときには人差し指が,下がるときには薬指,それで届かなきゃ小指が使えますよね。
  中指を動きの中心に考えると,理想的な運指(弦をおさえる指づかい)が,比較的ラクに分かってきます。

  もとが「中」国の楽器なだけに「中」が大事なんですね~。(…笑えよ……オイ,笑えってば!(泣))

  以上,お師匠さまの安い 「秘伝」(ガンモドキ…いやチクワブくらいかな?)のコーナーでした。
  弾いてみるときのヒントにでもなればサイワイ。

(つづく)


工尺譜の読み方(8)

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工尺譜を読んでみよう の巻工尺譜を読んでみよう! その8

STEP4 ふりだしにもどる

  「工尺譜なんて,読むのは難しくないよ~。(笑)」

  とゆーのがこの連載の趣旨だったのですが,なんか途中から「難曲」方向にシフトしてしまいましたねえ。
  「はやぶさ」なみに軌道を修正いたしましょう。(一年くらい帰ってこない)

  とはいえ庵主もさすがに,「"ドレミ"って何だ?」 というようなレベルの方々までは救ってさしあげられませんから,せめてそのへんまでは自力でなんとかしていただきたい。(笑)

  より読み解きやすいよう,いろんな形式の楽譜を並べてみましょう。
  ではかんたんに,それぞれの楽譜の説明から(何度目だ?)---

   工尺譜:は 「合 四 上 尺 工 凡 六 五 乙」 という文字の並びで音階を表したもの。「上」を「ド」とした場合,「ソ ラ ド レ ミ ファ ソ ラ シ」 に対応します。
   「乙」 より先の高音は文字の横に「イ」をつけて表します。「仩」 が高い「ド」,「伬」 が高い「レ」ですね。
   中国の工尺譜では 「四」「上」 の間に低音の「シ」にあたる 「一」 という符字があるのですが,日本の工尺譜にはなぜかそれがありません。ですので明笛では 「乙」 の音が甲音(高音)なのか呂音(低音)なのかは,前後の関係から判断します。

  近世譜:は 工尺譜を小節ごとに切って音の長さをつけ,分かりやすくしたもので,庵主の近世譜では入力の便から,高いほうの「乙」より先の高音は「C」とか「D」といった全角のアルファベット表記になっています。「C D E F G A B」 が高いほうの 「ド レ ミ ファ ソ ラ シ」 になってます。

  この二つを対照させるとこまでは,これまでの連載でもやってきたところですが,今回からはここに 「数字譜」 とゆーものを加えます。

  一般の方々は「数字譜」といってもなんにゃら分からんかもしれませんので,これもかんたんに説明しますと,要は 「ド レ ミ ファ ソ ラ シ」 を 「1 2 3 4 5 6 7」 という数字に置き換えた楽譜です。
  もちろん「1」が「ド」で,「7」が「シ」ですよ。(笑)
  「1」より下の低い音は数字の下に,「7」より高い音には数字の上に「・」がつきます。

  ・ 近世譜・数字譜ともに基本1文字が1拍(4分音符)となります。
  ・ 音が伸びる場合は文字のあとに「・(半拍)」「ー(1拍)」をつけて表します。
  ・ 逆に短いほうは,8分音符を文字の下に1下線,16分音符は2重下線をつけて表します。
  ・ 休符(1拍やすみ)は「○」,くりかえすフレーズは [  ] で囲んで表します。

  工尺譜の漢字の楽譜に「うげっ!」となるような方々でも,まあ数字ならさほど拒否反応もござりますまい。
  数字でもまだ読み解く自信のない方は,もーいっそ,123…の上か下にドレミ…とか書き込めばよろしい。

  ここで紹介する数字譜は,工尺譜の音階符字を,テキストエディタで単純に全角数字に変換しただけのシロモノなので,現在,二胡や中国琵琶のお教室で使われている中国の数字譜とはちょっと形式が異なるかもしれませんが,余計な指示が一切ないだけで,それほど違っているわけでもないですから,たぶんそのままで読めましょう。

  あと注意点はふたつだけ。
  この二つはオリジナルの工尺譜でのお約束事をそのまま引きずってます。

  1) 月琴・二胡は工尺譜の「合・四・乙」にあたる低音の「5・6・7」の数字の下の「・」は無視,いずれもふつうの「5・6・7」で弾く(つか月琴の場合,低音の「5・6・7」の音はもともと出せません)
  2) 明笛・笛子・阮咸は,低音「5・6・7」は基本そのまま。「5・6・7」の低音にはさまれたフレーズにある高音は逆に,数字の上についた「・」を無視して演奏。


  それでは第1曲目は「九連環(きうれんくゎん)」,清楽でいちばん有名な曲。
  邦楽の「法界節」とか「カンカンノウ」といった曲のもとになってる,とされています。

  「九連環」は知恵の輪の一種ですねー。
  さいきん寄ってこない旦那を待つお姐さんの愚痴り唄です。
  ----いッそほどけぬものならば,切ってしまおかこの縁(えにし),って感じ。
  タイハイ的に愚痴っぽく,のんびりと弾きましょう。

  楽譜はいづれもクリックで別窓が開いて拡大します。
  JPEG形式で640×480,1枚は50~80KB。
  楽譜ですが,百年以上前のものですのでJASR○Cに文句つけられる筋合いはありません。(笑)
  DL自由ですので,USBに落としてコンビニのコピー機などでA4サイズに拡大,プリントアウトして使ってください。

九連環 MIDI

  さて「九連環」が弾けるようになりましたら,こちらも基本曲ですのでおぼえておいてください。

  「算命曲(すゎんみんきょ)」といいます。

  街を流して歩く盲目の占い師のおっちゃんに,若い娘さんからお声がかかります。
  「なにかわたしにお目出度いこと起きないかしら?」とのお尋ね。
  「しめしめこれでもうかるぞ」とはりきったおっちゃん,
  「お嬢様には近々良い縁談(お目出度)が舞い込みまする!」と思いっきりヨイショしたところ。
  「お嬢様」と思ってたのは実は「奥様」で,「赤ちゃんはいつできる(お目出度)?」とのお尋ねだったわけで----占いおじさん,「このインチキ!」と家からたたき出されてしまいます。というコミックソング。

  短くて明るいメロディですね。
  慣れてきたら少し早いテンポで演奏してみましょう。

算命曲MIDI

  3曲目は「茉莉花(もぉりぃふぁ)」,ジャスミンの花,という曲。

  長生きな曲で,17世紀から現代もなお,中国各地でちょっとづつカタチを変えながら歌い継がれています。
  中国の人ならだれでも知っている曲。出だしの部分がおんなじなので,これ弾いてると中国人に 「え?」 って顔されます。

  繰り返しの部分が2箇所あるのと,拍子のとりにくい箇所が何箇所かありますので,メトロノームとか足で1・2・3・4...と拍子をとりながら練習してみてください。

茉莉花 MIDI


  数字譜で弾くのに慣れてきたらこんどは近世譜を見ながら。
  近世譜に慣れたらつぎは工尺譜の原譜を…と言いたいところですが,まあ良いです。(w)
  なんにゃるとにかくこれを見て,清楽の曲を弾けるようになってくれればサイワイ。

  では本日はここまで!
  いづれも基本中の基本の曲ゆえ,各人ちゃんと弾けるように奮励ドリキせよ!

  お酒も飲んだので,お師匠さまはちょいとおねむです,むにゃむにゃ…

(つづく)


月琴25号しまうー(6)

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斗酒庵 変な楽器に出会う の巻月琴25号 しまうー(6)

STEP6 ぼくはしましましま

  さて,前回は半月の塗装に終始してしまいましたが……いや,実はけっこう多いんですよ。
  「カシュー,塗装」 とかのキーワードで,ここ見に来てる人。

  ちなみにカシュー塗料の製造販売元,「カシュー株式会社」さん(いつもお世話になっております)のHPでは,塗装法をまとめた小冊子のPDFが公開されてますからね。ぜひとも そちら をご参照ください。

  さあ,これで部品はそろいました。
  ではいよいよ組み立てとまいりますか?


  その前にちょいと棹基部の調整を。
  ヒドくはないのですが,前後左右にガタつきがありますので,あっちゃこっちゃにツキ板のスペーサーを貼って調整します。


  つぎは山口さん---月琴ではトップナットのことをこう言います(読みはサンコウだけどね)。
  紫檀製のオリジナルも無事なのですが,軸や側板と同じ虎杢のトチで新しく作りました。今回の修理では,庵主が遊べるとこ少ないですからね,まあこんくらいはさせてください。
  出来上がった山口は,ヤシャ液に炭粉を溶いたものにドブ漬け。乾いたとこでラックニスを染ませて磨いてあります。
  場所が場所ですので,クランプ噛ませて圧着固定するわけにはいきませんが,力のかかる大切な箇所なので,接着の時にはこうやってテープを渡し,しっかりと密着させます。


  ついでに蓮頭もつけちゃいましょう。
  染めたあとラックニスを染ませて,色止めを兼ね,軽く表面を固めてあります。
  あとはひたすら布でごしごしごし…そのとき木灰を少しふりかけてこすると,こんなふうにいい感じの古色がつきますよ。

  力のかかる部品ではないので,まあこんなもんでしょうか。
  糸倉のアールがきつく,多少不恰好な感じがあるのですが,これがつくとそれなりに見えますね。


  棹が安定し,山口も付きました。

  これでようやく糸のコースが定まります。

  さて,今回の修理最大の目玉,竹製半月の接着です。

  まずは糸倉から糸を引いて左右の位置を決めます。
  上下の位置は,オリジナルの指示線が面板の上にかなりしっかり残っているので,これに従いましょう。

  半月の上端,弦にあたる部分に板を渡し,圧着で位置がずれないようにしたら,半月の裏と面板の両面に,お湯をよーくふくませておきましょう----竹は接着があまり良くないですし,面板も桐ではありますが,かなり硬めの杢板なので,ニカワのしみこみがあまりよろしくありません。とはいえ,あまり水でビシャビシャにするわけにもいきませんので,接着箇所に筆でお湯を刷いては,指の腹でこすってなじませ,ニカワも薄めに溶いたのを同じようにしてすりこみます。


  上面が平らなぶん,固定の作業は完全な曲面の半月よりはラクだったんですが,その平らな部分が小さいので,うちのクランプだと,とどくギリギリでしたね。

  もっくもくの面板は,ふつうの桐板に比べるとかなりカタめなのでいいんですが,中身の強度がどのくらいなのか分からないため,あまりギチギチに圧力をかけられません----その代わり,二日ぐらいかけてじっくり養生させましょう。



  うむ,へっついた。
  ではさっそく,弦を張ってみましょう--ギリギリギリ

  あああ…だいじょうぶだったあ。(汗)

  正直な話,竹製半月初体験---もしかすると弦をギチッと張ったとたん,砕けやしないかと心配だったんですが。
  ええ,お父さん,心配性なもので。(笑)

  まあ虫に食われて崩壊したとはいえ,オリジナルも竹だったわけですから,当たり前と言えば当たり前なのかもしれませんが。
  いや,意外と丈夫なものですね。


  フレットは竹製。

  このくらい凝った楽器ですと,驕った唐木だの象牙だのを使いそうなもんですが,残っていたオリジナル(と思われる)フレットも煤竹だったようですから構いますまい。

  上=4Cとした場合の,オリジナル位置での音階は以下のようになりました----

4C  4D+194E-224F+294G+294A+135C#-115Eb+235G
4G  4A+144B-415C+275D+185E+65G#-275Bb-16D-29


  計測も終わったんで,これを西洋音階でたてなおすわけなんですが----ここで一つ問題発生!
  チューナーで探った結果,第4フレットのベストの位置が,胴体と棹の接合部の,ちょうど真ん中になってしまいました。

  この部分,ふつうはほぼ面一になっているので,両方に渡るよう,ど真ん中にフレットへっつけるくらいなんともないんですが,25号は初期の国産月琴。まだ作り手が月琴というもののすべてを吸収しきっていないころの楽器でして……その胴体と棹の間に,段差があります。(約0.5ミリ,笑)

  第4フレットは,低音開放弦のちょうど5度上の音階を出す場所。
  高音弦と同じ音,糸合わせのときに使うフレットですので,極力正確な音を出せなきゃなりません。


  しょうがない,こうしましょ----

  新たに作り直したフレットは,幅を棹上のフレットと同じに切り詰め,裏を段差に合わせて……えいえいっ!ガリガリガリ……

  うむ,なんとかぴたーり。

  最後に来てこんなことも起きるなんて,やっぱり修理は面白いもんですね。


  調整の終わったフレットは,表裏を磨いて,山口と同じく,ヤシャ液に炭粉をまぜた汁で20分ほど煮〆,一晩放置。
  翌日,引き揚げたのを清水で表面をキレイに洗って乾燥。
  こんどは半日ほどラックニスに漬け込みます。
  表面に塗膜が出来ないよう,引き揚げたらすぐよく拭って,またまた1日乾燥。今回はいつもより若干,黄色味をおさえて古竹風の仕上げにしました。

  ----ふう…竹フレットてのはいつものことながら,材料は安いんですが,手間がかかりますねえ。(ここまでやるのアンタだけじゃ,というハナシもある)


  フレットが出来たら,あとはお飾りを戻し,絃停を貼って。
  2013年4月15日,清楽月琴25号,修理完了!


  なにせ材質がこういう複雑な玉杢の一枚板ですから----下手に全面濡らしたりしたら,そのあと板の収縮でどんな事態になるか想像できません。そのため今回,面板はほとんどそのままで,いつものような清掃はしませんでした。
  軽く表面を拭って,こびりついていた胡粉をのぞいたり木目に入り込んだぶんをほじくりだしたほかは,ヒビ割れなどの補修箇所に古色づけをしたていど----もとの状態がそれほど悪くはなかったので,これはこれでよろしいかと。

  なくなっていた蓮頭,朽ち果てていた半月を再製作したほかは,糸倉や棹や胴体,楽器としての本体部分にあまり損傷がなかったので,修理としてはさほど大変なものではありませんでした。


  竹の半月が,思いのほかうまく出来ましたね。
  栗やトチの実みたいないい感じの色に染まりましたし,塗膜の下の繊維がキラキラと虹彩を放ってじつに面白い。

  国産の倣製唐物月琴。
  つまりはまだ輸入品の楽器を摸倣していた時代に作られた,古く,資料的に価値のある楽器だとは思いますが,演奏上の使用痕もあまりありませんし,材質的にも工作的にも,かなり 「お飾り楽器」 的な要素の強い一本だと考えられます。

  思っていたより,音は悪くないですよ。


  やっぱり構造のせいでしょうか----庵主,弾いてみて 「うむ,こりゃやっぱり,ウサ琴の親玉だな(笑) 的な印象をもちました。

  庵主の作った実験楽器のウサ琴(玉兎琴)シリーズの胴体は,コスト削減と工作の簡略化のため,針葉樹の板を丸めたエコウッドという素材で出来ています。ウサ琴は塗っちゃってますし,この楽器は外がわにツキ板を巻いてますので一見分かりませんが,25号の胴体も言っちゃえば同じ曲げワッパ構造。材質もヒノキかサワラで,ウサ琴のスプルースとほとんど変わりがありません。
  一般的な月琴の胴体と比べますと,一枚板で継ぎ目がないぶん振動の伝導ロスは少ないわけですが,材質が柔らかいので,通常はあまり重たい音や深い響きは出せないんですね。

  この楽器の場合,その代わりに表裏の面板がふつうの桐板よりかなり硬いうえ一枚板なので,音ヌケは好く,軽いながらそこそこに音量も出,太目の響き線は温かみのある余韻を返してきます。


  正直,見かけほど 「ゴージャスな音」 とは言えませんが,この構造でこれだけの音が出せるなら楽器としてはじゅうぶんではないかと。

  器体がやや軽いので,座奏時の安定に若干問題がありますが,バランスはそれほど悪くなく,フレットも低めにまとまってますので運指に対する反応もかなり良いほうです。あと,多少軸がユルみやすいようですが,穴のほうにも噛合せにもさほど問題はないので,軸の先端に松脂でもつければ大丈夫でしょう。


  この楽器の製作者,また,裏板に刻字を残した「玩音堂」については,今のところ何も分かってません。

  そのほかオリジナルの工作にしろ,なんのため胡粉まみれだったかにしろ,まだ多少ナゾは残っておりますが。
  全身もっくもくのこの楽器。
  さてこのあと,どこでどんな渡世を過ごすことになるのやら。


(とりあえず,おわり)


月琴25号しまうー(5)

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斗酒庵 変な楽器に出会う の巻月琴25号 しまうー(5)

STEP5 しましまクリステル


  このところ庵主,カシューは塗膜のない拭き漆風仕上げに執していたのですが,今回ははじめての竹製半月,材料も合板だしということで,素体の保護のためもあって,ひさしぶりに塗膜のある 「呂色仕上げ」 とまいります。
  前回までで染め上げた半月に,カシューの透(生漆風味)を塗布。
  はじめに,ゆるめに溶いた塗料を たっぷり滲みこませ,じっくり乾かします。
  この塗料は,最初の下地段階でいらちすると,後々かえって時間を食うということを,庵主,これまでのケーケンから身に滲みておりますからねえ。(^_^;)


  下地が固まったら,表面を軽く磨いて中塗り。
  このとき下地がしっかりしていれば,ここからは塗料もやたらと滲みこまず,あとは塗膜を重ねるだけになります。
  「目止め剤(フィーラー)」 を使う,とゆー手もあるんですが,下地が見えない顔料系の塗装ではないので,完成時の色の深みのためにも下地が出来るまでじいッとガマンの子。

  中塗りは気楽にやりましょう。
  2日おきぐらいの間隔で中塗りを2~3回やったところで……



  ホイ,そういえば糸孔をあけるのを忘れてましたワイ。(笑)

  ちょうど中塗り中間の磨きに入ったとこですので,ここであけときましょう。
  オリジナルの半月の糸孔は,かなり大きめですが,こちらは材料がナニですので少し小さくしますね。
  また,オリジナルの糸孔は上から下へ,ほぼまっすぐあけられていますが,これだと 糸を通す時に不便 ですので,ちょっと斜めにあけておきます。


  中塗りが終わったら,いちどまたじっくりと乾かして,いったん 下地ギリギリ のところまで磨きこんじゃいます。
  これで表面の細かな凸凹を,塗料で埋めてしまうわけですね。
  そして上塗りを2回ほど---

  【注意!】 カシューという塗料は,ラッカーやニスに比べると,乾くのが遅いんで,塗った後そのまま放っておくと,表面に部屋のホコリがくっついてハエトリ紙(…古いなあ)みたいになってしまいます。
  中塗りまではまあ多少ホコリやゴミがへっついても,磨きの段階でなんとかなるんでいいんですが,仕上げ塗りの段階となると,そうもいきません。
  上塗りまできたら,塗ったらすぐ箱か何かをかぶせて,なるべくホコリやゴミがつかないようにしましょう。


  上塗り完了!

  一週間ほど乾かしたら,#2000くらいの耐水ペーパーと石鹸水で磨く…というか,石鹸水をつけてナデナデするような感じで塗膜表面にペーパーをすべらせます----けして「擦って」はイケません。

  「水磨き」が終わったら,よーく乾燥させてから仕上げの磨き。亜麻仁油とごく少量の#3000の研磨剤(チタンの粉)をきれいな布につけ,またまた撫でるように軽く拭うように,さわさわさわ。
  10分ぐらい磨いて油をぬぐったら,最後の最後にてのひらでもって直接ナデナデしましょう。


  これでとぅるっとっるの半月,完成です!

  さっそく接着に向けて,染めやら塗装やらで汚れた裏面をキレイにしておきましょうね。

(つづく)


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