工尺譜の読み方(10)
![]() STEP6 夢の実践効果 ![]() さあ,ではみなさん弾いてみましょう!(アハン) 本日はこの曲から。ちょっと長くなりますが,がんばって弾き切ってくださ~い。途中で分からなくなっても,音はとめないでネ,そのままテキトウ弾くんですよ~。 "Show must go on" でございますよ~。 では,サン,はいっ!---- ・・・・・・・・・ おおおっ! 見事に出来てるじゃ, あーりませんかあああぁぁ… はっ!……夢か。 ----と,いうわけで,本日の楽譜はちょっとだけ長いのを3曲。 芝居ネタの曲はともかくとして,清楽の曲ってのはたいてい,長くても1曲ABCDの4パートくらいの構成で,あとは一部のフレーズをちょっとづつ変化させながら,ってパターンのものが多いです。 だからこういう長い曲だと,合奏のとき途中で分かんなくなっても,あわてずに基本的なフレーズを弾いてれば,たいていは耳障ることなく誤魔化せますので,ある意味単発ものの曲より,合奏のときは楽ですね。 「ちゃんと弾ける」,に越したことは, 言うまでもなく,ありませんが。 んじゃ1曲め,「魚心調(ゆぅしんでゃお)」。 「…どふでございますかな,お代官様。」 「うむ,魚心あれば水心というヤツじやな---越後屋,おぬしも…」 「へっへっへ,お互いさまで。」 ----というような内容の曲ではもちろん,ございません。 別名を 「報花名(はうふはぁみん)」 もしくは 「猜花名(さいふはぁみん)」 と言います。 「高いお山にささった矢羽よ,この花なあに?---花の名前は玉簪花…」 と花の名前を問答する謎かけ歌ですね。ちなみにこの「高いお山に(高高山上)…」という出だしは,今も中国のわらべ唄では謎かけ唄の出だしとして定番となっております。くわしくは こちら などどうぞご覧あれ。 ![]() ![]() 魚心調 MIDI 1段の歌詞は20文字ぐらいなんですが,歌詞と楽譜が対照になっている中井新六の『明清楽譜』の版と,庵主が『清風雅譜』の朱書入れから組んだ近世譜の版を比較してみますと,出だしの 「高々(カウカウ)」たった二文字のとこだけで,ひのふの…6小節も使っっちゃうことになります。もしこの『清風雅譜』の朱書入れそのままの小節切りで歌うとなったら,かなりテンポをあげないと,いくらなんでも間が持ちません。 じっさい『清楽曲譜』の近世譜を見ると,各音をこれの半分の音長にして譜を組んでますね----弾いてみた感じでも,そちらのほうがより自然。二枚目のほうに『清楽曲譜』の版をもとにした数字譜もつけてありますので,曲調はそれを参考にして(アレンジが少し違っています),この『清風雅譜』の版を,Tempo=100~120くらいで弾いてみてください。 「○○調」と付くような曲は,多くの場合芝居や講談のBGMなんかに使われるもので,特定の歌詞はなく,そのメロディにのせてその場面が流れる,もしくはそこで主人公が歌う,というような使われ方をします。このシリーズで以前紹介した「孟浩然」というながーい曲なんかは,この「魚心調」のフレーズをもとに組まれてますね。 民楽のほうでよく弾かれる「茉莉花」なんかも,京劇の伴奏なんかよーく聞いてると,細切れにされたフレーズがしょっちゅう出てくるほうですよ。 さてお次はこれにしましょう「漫板流水(まんぱんりうしゅい)」。 ![]() ![]() 漫板流水 MIDI ![]() お江戸に長崎渡りの月琴音楽をもたらした最初のひと,今で言えば中国文学の大家だった遠山荷塘さんは,その死の二日前,病床にあり,もう目も見えなくなっているのに,枕もとの月琴を探りよせ,この曲を弾いたそうです。 臥弾 「漫板流水」 一回,音節調和,無異平常。 (臥して「漫板流水」弾くこと一回,音節調和して平常に異なるなし 朝川善庵「荷塘道人圭公伝碑」) いつもと同じ調子で,まるで何事もなかったかのように,いつもの曲を奏で,そして彼は 「好 好 」 (はおはお---「よっしゃ」 ってとこでしょうか?) と一言つぶやいて,微笑みながら,息をひきとります。 ----庵主は好きですね,このエピソードとこの曲。 「漫板」というのは 「ゆっくり拍子」 を表すことば (逆に早いほうは「快板(くゎいぱん)」という)ですので,この題はつまり「流水調」という類の曲の,ゆっくりなヤツ,くらいの意味ですが,あんまりのろのろ弾いてると返ってキモチ悪いので,早くなくてもいいですから軽やかに弾いてください。 長いには長い曲ですが,基本,同じようなフレーズの繰返しです。 まあそのぶん楽譜がないと 「えっと…次はどんなだっけ?」 みたいに迷っちゃいますが,そのあたりそれこそ「ゆっくり」 練習していただければよろしいかと。 ほんじつ最後(トリ)はこの曲,「渓庵流水」。 ![]() ![]() 渓庵流水 MIDI ![]() 遠山荷塘さんが関東に月琴を広めてくれた最初のひとだとすると,その音楽を普及させて,のちに「東京派」とまで呼ばれる一大勢力までのしあげたのが「鏑木渓庵」さん----その流祖がみづから作ったいわば彼の入場テーマ曲で,「清楽」の曲ではありますが,中国渡りの曲ではもちろんありません。 清楽として伝えられた音楽は,中国南方,福建あたりの曲が多いので,基本5音階(ペンタ),こんなふうに 「凡」 と 「乙」 の2音があっちゃこちゃに出てくることは,あんまりないんですよ---てなことをまあ,百年以上前の人に講釈たれてもムダなわけですが…… その「めッたに出てこない」2音がはさまってることもあって,月琴で弾くと ヽ(*`Д´)ノ 「ワザとやろっ!ワザとムズかしくしとるやろっ!」ヽ(*`Д´)ノ というくらい。指があっちゃこっちゃ飛ぶは,緩急の差もあるわで弾きにくい曲ですが,落ち着いて,運指をよーく考えながら練習してみてください。 現代音楽に慣れてる耳には 「何じゃコリャ…どこがいいのン?」 ていうメロディですが,楽譜によっては「秘曲」に分類されてる曲で,「これができたら免許切紙!」 みたいな1曲,まあ,チャレンジとも思ってがんばってみてください。
原譜のほうに,運指とかに参考になりそうなポイントを書き込んでおきました。 近世譜と数字譜は,わたしがじっさいに弾いてるふうにちょいアレンジしてあります。 最初の2小節は,前奏のつもりでゆっくり (Tempo=60くらい?)。 一呼吸おいて,そこから先は Tempo=100~120 くらいで軽快に演ってください。 難曲ではありますが,なんせ江戸っ子の作った曲ですからね----熱い湯に入っても涼しい顔,風ばっか食らって屁も出ない----そんな感じで(ちょいとくらい間違っても)平然と弾いてみせましょう! 正直,8割がた弾き切れれば文句は言わねえ。 免許皆伝でも仮面ラ○ダーカードでもくれてやらあ! (つづく)
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