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月琴25号しまうー(6)

G025_06.txt
斗酒庵 変な楽器に出会う の巻月琴25号 しまうー(6)

STEP6 ぼくはしましましま

  さて,前回は半月の塗装に終始してしまいましたが……いや,実はけっこう多いんですよ。
  「カシュー,塗装」 とかのキーワードで,ここ見に来てる人。

  ちなみにカシュー塗料の製造販売元,「カシュー株式会社」さん(いつもお世話になっております)のHPでは,塗装法をまとめた小冊子のPDFが公開されてますからね。ぜひとも そちら をご参照ください。

  さあ,これで部品はそろいました。
  ではいよいよ組み立てとまいりますか?


  その前にちょいと棹基部の調整を。
  ヒドくはないのですが,前後左右にガタつきがありますので,あっちゃこっちゃにツキ板のスペーサーを貼って調整します。


  つぎは山口さん---月琴ではトップナットのことをこう言います(読みはサンコウだけどね)。
  紫檀製のオリジナルも無事なのですが,軸や側板と同じ虎杢のトチで新しく作りました。今回の修理では,庵主が遊べるとこ少ないですからね,まあこんくらいはさせてください。
  出来上がった山口は,ヤシャ液に炭粉を溶いたものにドブ漬け。乾いたとこでラックニスを染ませて磨いてあります。
  場所が場所ですので,クランプ噛ませて圧着固定するわけにはいきませんが,力のかかる大切な箇所なので,接着の時にはこうやってテープを渡し,しっかりと密着させます。


  ついでに蓮頭もつけちゃいましょう。
  染めたあとラックニスを染ませて,色止めを兼ね,軽く表面を固めてあります。
  あとはひたすら布でごしごしごし…そのとき木灰を少しふりかけてこすると,こんなふうにいい感じの古色がつきますよ。

  力のかかる部品ではないので,まあこんなもんでしょうか。
  糸倉のアールがきつく,多少不恰好な感じがあるのですが,これがつくとそれなりに見えますね。


  棹が安定し,山口も付きました。

  これでようやく糸のコースが定まります。

  さて,今回の修理最大の目玉,竹製半月の接着です。

  まずは糸倉から糸を引いて左右の位置を決めます。
  上下の位置は,オリジナルの指示線が面板の上にかなりしっかり残っているので,これに従いましょう。

  半月の上端,弦にあたる部分に板を渡し,圧着で位置がずれないようにしたら,半月の裏と面板の両面に,お湯をよーくふくませておきましょう----竹は接着があまり良くないですし,面板も桐ではありますが,かなり硬めの杢板なので,ニカワのしみこみがあまりよろしくありません。とはいえ,あまり水でビシャビシャにするわけにもいきませんので,接着箇所に筆でお湯を刷いては,指の腹でこすってなじませ,ニカワも薄めに溶いたのを同じようにしてすりこみます。


  上面が平らなぶん,固定の作業は完全な曲面の半月よりはラクだったんですが,その平らな部分が小さいので,うちのクランプだと,とどくギリギリでしたね。

  もっくもくの面板は,ふつうの桐板に比べるとかなりカタめなのでいいんですが,中身の強度がどのくらいなのか分からないため,あまりギチギチに圧力をかけられません----その代わり,二日ぐらいかけてじっくり養生させましょう。



  うむ,へっついた。
  ではさっそく,弦を張ってみましょう--ギリギリギリ

  あああ…だいじょうぶだったあ。(汗)

  正直な話,竹製半月初体験---もしかすると弦をギチッと張ったとたん,砕けやしないかと心配だったんですが。
  ええ,お父さん,心配性なもので。(笑)

  まあ虫に食われて崩壊したとはいえ,オリジナルも竹だったわけですから,当たり前と言えば当たり前なのかもしれませんが。
  いや,意外と丈夫なものですね。


  フレットは竹製。

  このくらい凝った楽器ですと,驕った唐木だの象牙だのを使いそうなもんですが,残っていたオリジナル(と思われる)フレットも煤竹だったようですから構いますまい。

  上=4Cとした場合の,オリジナル位置での音階は以下のようになりました----

4C  4D+194E-224F+294G+294A+135C#-115Eb+235G
4G  4A+144B-415C+275D+185E+65G#-275Bb-16D-29


  計測も終わったんで,これを西洋音階でたてなおすわけなんですが----ここで一つ問題発生!
  チューナーで探った結果,第4フレットのベストの位置が,胴体と棹の接合部の,ちょうど真ん中になってしまいました。

  この部分,ふつうはほぼ面一になっているので,両方に渡るよう,ど真ん中にフレットへっつけるくらいなんともないんですが,25号は初期の国産月琴。まだ作り手が月琴というもののすべてを吸収しきっていないころの楽器でして……その胴体と棹の間に,段差があります。(約0.5ミリ,笑)

  第4フレットは,低音開放弦のちょうど5度上の音階を出す場所。
  高音弦と同じ音,糸合わせのときに使うフレットですので,極力正確な音を出せなきゃなりません。


  しょうがない,こうしましょ----

  新たに作り直したフレットは,幅を棹上のフレットと同じに切り詰め,裏を段差に合わせて……えいえいっ!ガリガリガリ……

  うむ,なんとかぴたーり。

  最後に来てこんなことも起きるなんて,やっぱり修理は面白いもんですね。


  調整の終わったフレットは,表裏を磨いて,山口と同じく,ヤシャ液に炭粉をまぜた汁で20分ほど煮〆,一晩放置。
  翌日,引き揚げたのを清水で表面をキレイに洗って乾燥。
  こんどは半日ほどラックニスに漬け込みます。
  表面に塗膜が出来ないよう,引き揚げたらすぐよく拭って,またまた1日乾燥。今回はいつもより若干,黄色味をおさえて古竹風の仕上げにしました。

  ----ふう…竹フレットてのはいつものことながら,材料は安いんですが,手間がかかりますねえ。(ここまでやるのアンタだけじゃ,というハナシもある)


  フレットが出来たら,あとはお飾りを戻し,絃停を貼って。
  2013年4月15日,清楽月琴25号,修理完了!


  なにせ材質がこういう複雑な玉杢の一枚板ですから----下手に全面濡らしたりしたら,そのあと板の収縮でどんな事態になるか想像できません。そのため今回,面板はほとんどそのままで,いつものような清掃はしませんでした。
  軽く表面を拭って,こびりついていた胡粉をのぞいたり木目に入り込んだぶんをほじくりだしたほかは,ヒビ割れなどの補修箇所に古色づけをしたていど----もとの状態がそれほど悪くはなかったので,これはこれでよろしいかと。

  なくなっていた蓮頭,朽ち果てていた半月を再製作したほかは,糸倉や棹や胴体,楽器としての本体部分にあまり損傷がなかったので,修理としてはさほど大変なものではありませんでした。


  竹の半月が,思いのほかうまく出来ましたね。
  栗やトチの実みたいないい感じの色に染まりましたし,塗膜の下の繊維がキラキラと虹彩を放ってじつに面白い。

  国産の倣製唐物月琴。
  つまりはまだ輸入品の楽器を摸倣していた時代に作られた,古く,資料的に価値のある楽器だとは思いますが,演奏上の使用痕もあまりありませんし,材質的にも工作的にも,かなり 「お飾り楽器」 的な要素の強い一本だと考えられます。

  思っていたより,音は悪くないですよ。


  やっぱり構造のせいでしょうか----庵主,弾いてみて 「うむ,こりゃやっぱり,ウサ琴の親玉だな(笑) 的な印象をもちました。

  庵主の作った実験楽器のウサ琴(玉兎琴)シリーズの胴体は,コスト削減と工作の簡略化のため,針葉樹の板を丸めたエコウッドという素材で出来ています。ウサ琴は塗っちゃってますし,この楽器は外がわにツキ板を巻いてますので一見分かりませんが,25号の胴体も言っちゃえば同じ曲げワッパ構造。材質もヒノキかサワラで,ウサ琴のスプルースとほとんど変わりがありません。
  一般的な月琴の胴体と比べますと,一枚板で継ぎ目がないぶん振動の伝導ロスは少ないわけですが,材質が柔らかいので,通常はあまり重たい音や深い響きは出せないんですね。

  この楽器の場合,その代わりに表裏の面板がふつうの桐板よりかなり硬いうえ一枚板なので,音ヌケは好く,軽いながらそこそこに音量も出,太目の響き線は温かみのある余韻を返してきます。


  正直,見かけほど 「ゴージャスな音」 とは言えませんが,この構造でこれだけの音が出せるなら楽器としてはじゅうぶんではないかと。

  器体がやや軽いので,座奏時の安定に若干問題がありますが,バランスはそれほど悪くなく,フレットも低めにまとまってますので運指に対する反応もかなり良いほうです。あと,多少軸がユルみやすいようですが,穴のほうにも噛合せにもさほど問題はないので,軸の先端に松脂でもつければ大丈夫でしょう。


  この楽器の製作者,また,裏板に刻字を残した「玩音堂」については,今のところ何も分かってません。

  そのほかオリジナルの工作にしろ,なんのため胡粉まみれだったかにしろ,まだ多少ナゾは残っておりますが。
  全身もっくもくのこの楽器。
  さてこのあと,どこでどんな渡世を過ごすことになるのやら。


(とりあえず,おわり)


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