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工尺譜の読み方(11)

koseki_11.txt
工尺譜を読んでみよう の巻工尺譜を読んでみよう! その11

STEP7 茉莉子さんの壁


  さて,ではイッキにハードルをあげてイキましょうかァ!

  ---いやいや,だいじょうぶ!…だいじょうぶだからァ!
  ま,読むだけ…せめて読むだけ読んでくださいぃっ!!

  一部の本などでは,清楽の演奏は「単純なユニゾン」,つまりどの楽器も同じ曲を同じ音で弾き合わせる,そんな音楽だ----というように書かれているのですが,明治のころの資料をちゃんと見ますと,いくつかの曲は 「ウラ」 と呼ばれる伴奏のメロディを持っており,二曲を同時に演奏してアンサンブルったことになっております。
  西洋音楽と違うのは,それぞれの「ウラ」が単に「本曲」の一部としてではなく,基本的には本曲から派生・独立した別個の曲として扱われている,というとこでしょうか。

  「ウラ/オモテ」の演奏ですから,月琴にしろ二胡にしろ,一台で同時に弾く,ってのはまあムリなわけですが。
  サイワイにもわがDBでは,それぞれのオモテの曲もウラの曲も,MIDIで再現したものがあります。
  ですので,おひとりさま独習派の方々も,いつかなれる音楽リア充への予行演習として,それらMIDIの演奏に合わせて練習してみてください。
  それでもサミシイその時は,大川端のSOS団までいらっしゃい。(w うちは別に未○人や宇○人や○能力者でなくていいです,いやできれば,もッとフツーの…ああっ!窓が!窓に!



  ではまず1曲目は「厦門流水(かもんりうすい)」と「如意串(るぅいーかん)」。
  それぞれ独立した曲としても弾かれますがこの二曲,同時に弾くと見事なウラ/オモテをなします。


  厦門流水 MIDI如意串 MIDI  弾き合わせ MIDI

  これに関してはとくに注意事項なし。
  拍さえはずさなければ,比較的合わせるのはカンタンです。
  ただ,伴奏曲(ウラ)はみんなそうなんですが,この組み合わせでも「如意串」のほうが手数が多いので,弾くのが若干むずかしいですね。うちのSOS団では,ジャンケンで負けたほうが「如意串」係になったりもします。(w)

  とはいえこの2曲,どちらも清楽曲としては基礎的な曲。
  「ハジメテの合せ弾き」には最適の組み合わせですんで,どちらの係になっても,ふつうに弾きこなせるよう,修練しておくべし。



  さて2曲目は「茉莉花(もりぃふはぁ)」と「秋風香(しうふうこう)」。


  茉莉花 MIDI(弾き合せ時に一部変更アリ)秋風香 MIDI 弾き合せ MIDI

  曲譜はいつもの『清風雅譜』ではなく沖野勝芳の『清楽曲譜』(明治26年)を使います。
  ( 『清楽曲譜』 復元曲一覧 は こちら )

  『清楽曲譜』は国会図書館のデジタル資料で一般公開されています。
  全体をご覧になりたい方はそちらからDLしてください。

  『清楽曲譜』の編者・沖野勝芳は石川県の人。邦楽革新の活動家の一人として『音楽雑誌』などにも良く名前が出てきます。
  清楽演奏家としての流派は,おそらく梅園派---大阪の連山派の分派で,東京に拠を構えた長原梅園平井連山の妹)を中心とするグループで,関東においても渓派と匹敵するくらい大きな勢力があり,ときにはこちらが連山の「大坂派」に対する意味で「東京派」と呼ばれてもいました。梅園の息子の長原春田が「音楽取調掛」というお上の機関で,それこそ西洋音楽に対する「日本音楽の改造」に関わっていたこともあり,ほかの流派にくらべると,近世譜や数字譜の使用といった新しいこころみにも比較的寛容であったようです。

  この『清楽曲譜』もご覧のとおり近世譜で組まれており,縦書きになってるところをのぞけば,庵主なんかはほぼそのままで,ふつうの楽譜と同じように読めちゃいます----というか庵主のバヤイ,五線譜だとかえって読めんなあ。
  演奏上の注意点は,以下の通り---

  1)『清楽曲譜』の「茉莉花」は,前に弾いた渓派の「茉莉花」とは,若干メロディが異なります。

  2)原譜のままだと「茉莉花」のほうが1小節多いので,途中から合わなくなります。

  それぞれを単独の曲として弾く場合には問題ありませんが,弾き合わせのときだけ,原譜に書き込んである指示に従ってください。ちなみに,楽譜画像の2枚目にある近世譜と数字譜では,どちらもその「弾き合せる場合」の譜面として,すでに修整済みで組んであります。

  ----むかし,これの弾き合せがはじめて成功したときは,ほんとすンごく嬉しかったですねえ。

  オモテの「茉莉花」は普段からよく弾いてる曲ですが,ウラの「秋風香」,これがまた,単独で弾いてもキレイな曲なんですよ。
  渓派の譜本にも「茉莉花裏」と題した曲があり,梅園派で主にウラとして使われていた「秋籬香」という類似の曲例もあるのですが,どちらもただ手数が多いっていう感じの曲で,これらと比較すると,この『清楽曲譜』の「秋風香」は,伴奏曲としても単独の曲としても,より音楽的に洗練されている感じがします。


  といったところで今回はおしまい。
  なんせ2つで,つごう4曲覚えることになるわけですからね。
  まあ,ゆっくりやつてくんな。

(つづく)


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