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カメ琴2号(5)

KAME07.txt
斗酒庵 ふたたびサイレント月琴を作る の巻2013.4~ カメ琴2号 (5)

STEP5 カメ,あがる


  しとしとぴっちゃん。

  一日雨の降り続く,梅雨の先触れみたいな5月のとある日,カメ2号のカシュー塗り作業ははじまりました----

  ううう,シンナーくさいぃ。(泣)

  みなさん,カシューの溶剤は揮発性なんで,塗装は風通しのいいところでしましょうねえ。

  今回はこってり呂色塗りとまではいきませんが,全体にうっすらと塗膜がある程度の薄塗りでまいります。
  25号の修理の時にも書きましたが,カシュー塗装は下地が勝負です。
  表面の磨きや目止めを念入りにやっておくのは別だんカシューでなくても同じですが,最初の下地塗りのとき,薄めに溶いたカシューをたっぷり吸わせ,少なくとも2日は置いて,しっかり乾燥させとくのがコツです。目止めが甘かったり塗料が薄かったり,乾燥が不十分だと,何回塗っても木地が塗料を吸い込むばかりで,いい感じに塗膜を張ってくれません。


  下地塗りがしっかり乾いたら全体を軽く磨いて,あとは2日おきぐらいに2度ほど重ね,一週間乾燥させます。

  満願日の前日あたりになりますと,ちョしたい(北海道弁「触りたい」)のをガマンするのがタイヘンです。

  とにかく 「一週間」 と決めたら 「一週間」 待つのです----

  前より気温が高かっただの,天気が良かっただの,今日は茶柱が立っただの,脳内の悪魔はいろいろな理由をつけて誘惑してきますが,負けてはイケませんよ!イケません………らめらったらあっ!!


  うむ,この待ち時間は精神衛生に良くないなあ。
  -----なんとか気を紛らさんと。(汗)

  というわけで,ここらで小物作りに入ります。

  今回も蓮頭はコウモリさん。
  月琴の蓮頭は,雲形板のものが多いのですが,カメはまあ新楽器ですからね。
  そのへんは比較的自由にやらせていただきます。



  中のコウモリさんは伝統的な意匠を踏まえたものですが,全体をちょっとハートに近いようなカタチにデザインしてみました。
  棹の端材のカツラ板を,刻んで彫ってスオウ染め……うむぅ,ここまでで半日もたなんだか!
  乾いたところでオハグロ媒染,黒染めにします。
  一晩干してラックニスをかけ,木灰をつけた布で擦って磨き上げ,ツヤとサビを同時に出しますね。

  いっしょに写っているのは山口(トップナット)
  今回の棹は山口の手前で指板が切れるタイプ----ウサ琴シリーズはこのタイプにしたのが多かったかな,あとホンモノの月琴だと名古屋の鶴寿堂さんなんかの月琴がこの工作をしてますね。
  カメ琴は絹弦よりテンションの高い,ナイロンとかテトロンの弦を使うので,山口は棹にガッチリ食い込んでてくれたほうがいいんです。指板も厚いぶん背も高いので,より強固に接着されるよう,底面の中央に溝を切ってあります。
  ふだんはしない工作ですが,これもまあ試し,ってことで。

  そうやってなんにゃら,あとはブログのほかの記事書いたりなんにゃらで数日間過ごし,すんでのところで誘惑の悪魔に打ち勝って。


  さあ,仕上げましょう!

  まだ塗りっぱなしの状態なんで,かなりギラギラしてますねえ。

  糸巻きは少しスオウを混ぜたヤシャ液で染め,亜麻仁油でオイル仕上げしてあります。
  ちょっとさびた感じの黄金色が,なかなかイイでしョ?


  まずは全体の磨き。

  今回の塗膜は薄いのであんまり力いっぱいゴシゴシするわけにはいきません。Shinex の#2000相当のに石鹸水をつけて,全体をまんべんなく,やさしく撫で回し,柔らかな布で水気をよく拭い去ったら,おなじものに今度は亜麻仁油をしませてふたたびナデナデ----ギラついてた表面が,しっとりツヤツヤになりました。

  この状態で1日~2日乾燥させ,表面の塗膜を落ち着かせます----もうここまできましたら1日2日くらい,その前の一週間のガマンにくらべりゃ,たいしたもンじゃないですね。


  蓮頭と山口を接着したら,アコースティック楽器としては完成。もういつでも演奏可能な状態ですが。

  さて……回路を組みましょう。(汗)

  ジマンじゃありませんが庵主,実のところ電工の知識や腕前はからッきしです。
  プラスとかマイナスとかだけでも考えたら頭イタくなるのに,抵抗やダイオードのことなんか構ってられない(笑),ましてやザクの目を光らせるために麦球仕込んだ以上の回路となりますと,ナニがナニやらてんで分かりませぬ。(ああ,年齢が知れるなあ…第一次ガンプラ世代…)


  アキバで買ったアンプの回路(¥700)は,部品挿してハンダづけするだけなんで,まあなんとか。それぞれの部品が,どこのどなたさんでご職業が何なのかは知る必要がないもんね。
  とりゃいずはそれを中心に説明書を読みながら,まず楽器として肝腎な音の入出力関係を,指でたどりたどり,あれこれ悩みながら配線(2度ほど間違いた),つづいて外に露出させた電池からハジマる電源まわりを配線……ここまでですでに三時間以上もかかっております。(泣)
  さてさてさて,これで通電しましたらおなぐさみ,と,電池を取付けて電源スイッチを入れましたところ。


  「クキ---イィィィィン!」

  ---と,いきなりスピーカーが絶叫!
  うわう,ハウハウしよった!

  うむ,何はともあれよく分からんが。いちおう電気は通ってるみたいですなあ,めでたいめでたい。

  最後にエレキだとピックアップにあたる圧電素子を両面テープで表板に貼り付け,内部構造は完成!


  表板をタップするなどして出力検査したところ,スピーカーからは音が出るけど,ジャックのほうから音が出ない----切り替えスイッチの配線,間違っちゃってたんですねえ。真ん中の端子をバイパスしたら音がちゃんと出るようになりましたが……はうあ,原因がなかなか分からず青くなりましたよ。

  こげなもん,電工得意な人にとってはまあ玩具以下の構造なんでしょうが……どッと疲れましたわ,どッとはらい。

  さてラストスパート!
  弦を張って,フレットを削ります!


  フレットははじめ竹で一そろい作ってみたのですが,どうもしっくりこないので,やっぱりローズウッドで黒フレットを再製作。こないだ修理した30号なんかもそうだったんですが,こういう「実用本位」みたいな楽器にはこの黒フレット,似合うんですよねえ。
  ただまあ,竹にくらべると材料の工作がタイヘンなんで,実はあんまりやりたくない(泣)。
  フレットはウサ琴準拠で,古い清楽月琴より2本多い10本,完全2オクターブの音が出せます。

  ----ううむ,渋い感じに仕上がりました。

  2013年5月23日。
   斗酒庵工房としては通算3本目のエレキ月琴,「カメ琴2号」完成です!




  マホガニー色のボディ,黒いフレット…漆器みたいな全体ツルツルには塗り籠まなかったので,表裏の桐板は木目の浮き出たシボ塗り風,そのほかの木部のツヤ加減と対照になっていい味が出ましたねえ。

  うすっぺらな胴体(つか輪っか)ですが,側面の真ん中あたりがストラトみたいにエグれているので,横抱きにしたとき(ウサ/カメ琴は清楽月琴より小さめなので少し横に構えたほうが弾きやすい)にフィット感があります。


  現在,庵主の初代カメ琴では低音に絹弦,高音にナイロン弦を張ってます。2号は14号玉ちゃんに操作感を似せるため,棹の寸法を若干縮めたりしたため,弦長がちょっと足りなくて,絹弦だと弦圧ユルユル,音が安定しなくなってしまいました。
  ので,今回は低音弦をテトロンの14-2に張り替えてみました----こんどはバッチリ安定,ただしふだん絹弦で慣れてると,テトロンとかナイロンは少々グアイが違うので,なんにゃら勘が狂うかもしれませんね。

  あと響き線が多少騒ぎやすいかな?
  あんまりうるさいようなら後で止めることもできますから,その時には言うてください。


  低音弦もテトロンになったので,1号より若干生音が「大きい(?)」かもしれませんが,「サイレント楽器」と言い張るには問題ない範囲の音量だと思います。
  内臓のスピーカーは最大出力が2.4Wですので,ボリュームをMAXにしたところで音量はたかしれですが,それでも生の月琴と同じくらいには響きます。

  まあ,Line-out からアンプにつなげばいくらでも大音量で鳴らせますし,そこにヘッドフォンをつなげば,結構な音量が出力されますから,まさしくサイレントなんちゃらみたいに,深夜の練習にも最適かと。

  では Ryo さん,あとはよしなに。

(おわり)

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