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工尺譜の読み方(13)

koseki_13.txt
工尺譜を読んでみよう の巻工尺譜を読んでみよう! その13

STEP9 ご忍耐と薄情


  さて,今回の記事は……まあ読んでくれればいいです。(w)
  「弾き合わせ」もこの領域になると,もー「趣味」の範囲ですもんねえ。(^_^;)

  前回も紹介した「茉莉花(もぉりぃふはぁ)/秋風香(しうふうこう)」の弾き合わせですが,楽譜の載ってる『清楽曲譜』には,ちょっと気になる解説がついております。

   秋風香ハ茉莉花ト秋籬香ト両曲ヨリ組織シタル曲ナル故ニ,三曲伴奏スル,尤妙ナリ。


  「三曲伴奏スル,尤(モットモ)妙ナリ。」

  ----とはいうものの,三曲を二曲づつ組み合わせて演奏するのが「尤妙」なのか,三曲一度きに合奏するのが「尤妙」なのか,解釈として多少微妙なところではありますが。(笑)

  『清楽曲譜』に「秋籬香」の楽譜は載っていませんが,同じ編者の『洋峨楽譜』(明31)に幸いあることですし,まあ一丁やってみようかァ…と,試してはみたんですが,この楽譜,前の二曲とどうにもうまく合いません。


  「秋籬香」の音長の分かる資料がほかに見あたらなかったこともあり,手がかりもないのでしばらくほおっておいたんですが,最近,『音楽雑誌』の記事のなかに,梅園派の「茉莉花/秋籬香」の合奏対照譜を見つけまして。これで「茉莉花」のどこに,「秋籬香」のどの音が対応するのかのあらましが分かるようになりました。

  この『音楽雑誌』の対照譜を参考に,『清楽曲譜』の「茉莉花/秋風香」に『洋峨楽譜』の「秋籬香」を組み込んでゆくと----


  茉莉花 MIDI秋風香 MIDI秋籬香 MIDI  弾き合わせ MIDI

  こうなります。
  うむ…「三曲伴奏スル,尤妙ナリ」 かどうかは,微妙?
  あ,そうかこの「尤妙」は微妙の妙なわけね。(笑)

  なんせ3曲対照,近世譜と数字譜はご覧のとおり縦向きになりました(クリックで拡大)。
  弾き合わせの再現MIDIですが…なんか楽器の音が多すぎて,わけわからん感じですねえ----これでもかなり Panpot とかいぢってるんですがねえ(汗)。

  まあこれが(もしかすると)明治における「茉莉花」の最終進化形態,なのかもしれません。



  おつぎは「四節調(すぅきいでゃお)」「四節如意(すぅきぃるぅいぃ)」「芳月調(ほうげつちょう)」の3曲弾き合わせ。

  なんで「秋風香」とか「芳月調」は日本式読み,かと言いますと,これらは(たぶん)日本で作られた曲だからなんですねえ。
  「四節調」はまえに紹介した「四季曲」とか,「四季」と呼ばれている曲の一種。ほかにも「四節串」とか「四季相思」「到春来」など,この類の曲はヴァリエーションがとても数多くあります。


  四季如意 MIDI花月調 MIDI  弾き合わせ MIDI

  『音楽雑誌』の43/44号に「四季如意」と「花月調」の弾き合わせ対照譜が載っています。
  「四季如意」と「四節如意」は同じ曲,また「花月調」の別名が「芳月調」---『清楽曲譜』では「芳月調」ですが,同じ曲譜が『洋峨楽譜』では「花月調」として載っているんですね。
  そしてさらなる一曲「四節調」の解説に,これまたこんなことが書かれているのです----

   四節調モ秋風香ト同ジク四季如意・花月・四節ト三曲伴奏妙ナリ。

  また「妙」ですか。
  コレ,「たえ」じゃなくて,「ヘン」の意味の「みょう」なんじゃないでしょうねえ。(笑)

  今回は『音楽雑誌』の対照譜をもとに「四節如意」と「芳月調」の擦り合わせを改めて行い,そのうえで「四節調」を合わせてみました。これも以前にやった復元では「四節如意」と「芳月調」までは合ったものの,「四節調」を合わせると途中で破綻してしまっていたんですね,新資料のおかげです。


  四節如意 MIDI芳月調 MIDI四節調 MIDI  弾き合わせ MIDI

  当初,タイトルの短さから「四節調(黒文字)」を「本曲」と考えたんですが,こうして対照譜を組んで見ると,2段目の「四節如意(青文字)」のほうが譜がずっとシンプル。「四節調」は言っちゃえば「四節如意」の手数を少し増やしただけのバージョンです。
  『音楽雑誌』の記事でも「花月調」のオモテとされているのは「四季如意」----おそらく,この3曲のなかでは,「四節如意」が「本曲」なのでしょうね。


  しかしこういうことも,実際に譜を組んでみないと…それぞれの譜を平面的にながめてるだけだと,まったく分からないものですねえ。

  なお「芳月調(ピンク色)」4行目と10行目にある「合(数字譜だと5)」の連弾は,『音楽雑誌』では「掛撥で」と付言されています。律儀に符の数だけ弾くのではなく,フレーズの長さのぶん,トレモロでルルルラァ……と弾いちゃってください。

(つづく)


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