« 工尺譜の読み方(11) | トップページ | カメ琴2号(1) »

工尺譜の読み方(12)

koseki_12.txt
工尺譜を読んでみよう の巻工尺譜を読んでみよう! その12

STEP8 苦因茉莉号襲撃!


  さて,このへんから突然読まれた方などは,前の記事読んでないから分からないかもしれないので,ここらにうpされてる楽譜の,数字譜のお約束事をもう一度。

1) 月琴・胡琴・二胡の方は,数字譜の 「1」 より低い,数字の下に点のついた 「5・6・7」 は,点のない 「5・6・7」 として弾くこと。

2) 明笛・阮咸・弦子などの方は下に点のついた 「5・6・7」 はそのまま,逆に,下に点のついた 「5・6・7」 にはさまれている,上に点のついた高音は,すべて1オクターブ下げて演奏してください。





  茉莉花 MIDI茉莉花裏 MIDI  弾き合わせ MIDI

  「弾き合わせ(伴奏)」という合奏行為は,連山派・梅園派(大坂派)の記録にはよく出てくるのですが,渓派や長崎派など,ほかの流派でも同じようなことをやっていたかどうかについては,確たる証拠がありません。しかし,すでに紹介したように,渓派(東京派)の基本楽譜『清風雅譜』にある「厦門流水」と「如意串」は,そのまま無加工でオモテ/ウラとして合奏できますし,同じ派に属する山本有所の『清風雅調』(明24 上画像)などに「茉莉花裏」という譜も見えますから,当初はあまりやっていなかったととしても,他流の影響でやるようにはなっていたかもしれませんね。
  渓派に関しては写本や楽譜の書き入れなどから見て,明笛や二胡や唐琵琶,それぞれの楽器に合わせたアレンジがあったようですが,そのアレンジ自体にはあまり統一性はなく,梅園派の「伴奏曲」のように,固定された別個の曲として派生・成立する,ということはあまりなかったようです。

  というわけで,本日も合奏譜をいくつかうpりましょう。
  まずはSOS団内でも人気の高い「紗窓(さぁつぉん)」と「露月(ろげつ)」の合奏。


  紗窓 MIDI露月 MIDI  弾き合わせ MIDI


  「露月」が美しいです。
  これは梅園派の 「弄月(ろうげつ) というのを洗練した曲だと思われますが,単独で弾いても趣きのあるいい曲だと思いますよ。もちろん「紗窓」とうまくからんだ時には,えもいわれぬ快感があります。

  「弾き合わせ」ではたいていの場合,「伴奏曲」のほうが手数が多い分むずかしいのですが,この2曲の場合は「紗窓」の前半部で極端に音数が少ないため,かなり間に気をつけてないと,つい先に進んじゃって,本曲のほうが崩れてしまうことがママあります。

  月琴はそんなにサスティンが効く楽器じゃないので,長音で間を保つのがあんがい大変なのですが(汗),長く伸ばすところは 「イチ・ニ・サン・シ」 と拍を数えながら,ちゃんと間をとって演奏しましょう。



  おつぎは「平板調(ぴんぱんでゃお)」と「平板串(ぴんぱんかん)」。


  平板調 MIDI平板串 MIDI  弾き合わせ MIDI


  『音楽雑誌』に載った梅園派の対照譜では 「寒松吟(かんしょうぎん) という曲が合わされていますが,この『清楽曲譜』では「平板串」がウラとなっています。「寒松吟」と「平板串」は,出だしの部分は似てはいるものの,全体にフレーズがかなり異なるので,同じ曲,もしくはどちらからか派生した曲,というようなわけではないようです。

  「寒松吟」のほうは類例譜が少ないんですが,「平板串」は渓派中興の師・渓蓮斎富田寛の『清風柱礎』にも曲目として見えますので,この弾き合わせは渓派でもやっていたかもしれません。

  「平板調」は軽快に弾くと陽気な感じのする曲なので,庵主,よく弾いてますが,正直言いまして,この弾き合わせあんまりやったことがないですねえ。(w)



  さて,最後です。
  清楽曲中もっとも有名な「九連環(きうれんかん)」,合わせるのは「九子連環(きうしれんかん)」です。


  九連環 MIDI九子連環 MIDI  弾き合わせ MIDI

  ちょっと弾いていただければ分かるとは思うのですが。
  この「九子連環」という曲は,言っちゃえば「九連環」の高音バージョンです。
  「九連環」よりも8小節ばかり長いのですが,この部分を間奏と考えて合奏譜を組むと,本体部分はほとんど「オモテ/ウラ」のように合致します。

  じつはこの2曲には「オモテ/ウラ」である,というような解説や証拠はなく,庵主もはじめは曲名や曲調の類似から,なかば悪戯で組み合わせてみたのですが,ここまで合っちゃうというのは,やはり「九子連環」というのは単なる高音バージョンではなく,「九連環」の伴奏曲として作られたものなのじゃないかと考えます。

  まあ,面白いですのでいちど試してみてください。
  というあたりで,今回はここまで---

(つづく)


« 工尺譜の読み方(11) | トップページ | カメ琴2号(1) »