« 2013年5月 | トップページ | 2013年7月 »

明笛について(8)

MIN_08.txt
斗酒庵 明笛を調べる の巻明笛・清笛-清楽の基本音階についての研究-(8)

STEP3(つづき) 明笛26~30号
(全景図などはすべてクリックで拡大します)

明笛26号


 口 ●●●●●● 合/六 5C+10
 口 ●●●●●○ 四/五 5D+28
 口 ●●●●○○  5E-10
 口 ●●●○●○  5F+39
 口 ●●○○●○  5G+40
 口 ●○○○●○  5A+28
 口 ○●●○●○  5B+23
 (口は歌口,●閉鎖,○開放)


  全閉鎖がCで,全体の寸法や構造,また歌口や指孔が少し大きめなことから,明治末~大正期の明笛と思われます。


  歌口の唇がわ(と言うのか?)の内壁に再塗装の痕,響孔に小カケ,管尻飾りに小鼠害痕。いづれも軽微。

  管頭の飾りは端から5センチのところでネジを切ってハメこまれており,2分割できるようになってます。
  最近知ったんですが,これ,この筒になった中に,響き孔に貼る「竹紙」を入れておくための工夫だったみたいですね---


  右画像は『音楽雑誌』の広告(クリックで拡大)。
  これ見るまでは,この「管頭飾り分割の術」,なんのための工作だかまったく分からなかったですねー。
  しかしながらこの工夫,たぶんほとんど使われなかったでしょう----実際にやってみますと(実験してみました),この大きさだと,竹紙みたいな小さなもの,一度入れたら容易にはひっぱり出せません。そもそも「竹紙」というもの自体,そんなに巨大でも邪魔になるようなものでもありませんから,「携帯の便」つっても,もう貼るだけの大きさに切ったのを,財布にでも入れておいたほうが,交換もラクで素早くできますってば。

  材料は女竹かもしれません,ホウライチクにしては径がやや細く,繊維がこまかいですね。管本体表面はカテキューかヤシャブシで軽く染めたあと,生漆かニス(おそらくニス)で塗装してあります。

  工房到着時,管内がまっくろにヨゴレていたのと,管頭の飾りの接着がとんで管からハズれていたんですが,管内を水と中性洗剤で洗浄,エタノールを流して軽く消毒。管全体は中性洗剤を少量入れた水を布にふくませ,よくしぼったもので洗浄。乾拭きをし,乾燥させたのち亜麻仁油とワックスで磨きました。


  吹きやすい笛でした。
  高音>低音,低音>高音どちらへ運指をかえても滑らかに音が出ます。テストのときは,響孔をマスキングテープで塞いで吹いてるんで,ちょっと低音の篠笛っぽい音が出ますが,響孔がちょっと大きめなので,竹紙だとかなりブブ笛(ブブゼラ的明笛)っぽく,響き音が五月蝿くなっちゃうかもしれません。笛屋さんが言ってたように,竹紙や蘆紙より,新聞紙あたりを貼ったほうが,耳にはちょうどいいかもしれませんね。

  呂音での最高音は 口 ○●●●●● で 6C#-27。5Gから上の音を右手がわ全閉鎖にすると,より西洋音階に近い音でそろいました。


明笛27号


 口 ●●●●●● 合/六 5Eb
 口 ●●●●●○ 四/五 5F-20
 口 ●●●●○○  5F#+39
 口 ●●●○●○  5G#+25
 口 ●●○○●○  5Bb+45~5B-45
 口 ●○○○●○  6C+35~6C#-35
 口 ○●●○●○  6D+45~6D#-45

  さて…この笛を「明笛」の仲間に入れて良いかどうかは判断に迷うとこですね。(w)
  少なくとも庵主の研究している「清楽」の「明笛」ではありません。作られたのもごく最近,この20年以内,といったとこでしょうか?

  いままで入手してきたなかで,もっとも細身の笛です。
  若い竹を使い,節の部分を整形して,ざっと表面を均してはいますが,ほぼ皮付きの丸竹,そのままですね。
  管内はラッカーかペンキと思われる赤い塗料が塗られ,響き孔の周縁には,竹紙を貼るための保護でしょうか,茶色っぽいニスのようなものが塗られていました。


  歌口はやや四角張った楕円形ですが,ほかの孔はすべて丸孔です。
  全体が細身なことと,通常2つあるオモテの飾り孔が一つなところを除けば,フォルムは庵主のよく知っている,いわゆる「明笛」に,よく似ています。

  清楽の明笛は,その音楽の流行とともに全国へ広がり,また月琴などより長い期間,流行楽器として生き延びた甲斐もありまして,幕末から明治にかけて,各地の祭り囃子などに取り込まれていったようです。近場では福生のお囃子なんかでも使われているそうですね。
  この笛は,そうした祭礼で使われる,「倣製明笛」と申しましょうか,「明笛の成れの果て」と申しましょうか……


  九州などで今もお祭りに使われている「竹紙笛」と呼ばれるもののようです。
  例によってネオクで入手したのですが,出品が熊本からである以外,今のところ詳細は不明。
  竹を一節そのまま使い,管頭の部分に節から先を飾りとしてそのまま残すあたりは,浜崎祇園山笠(唐津市)で使われるものによく似ていますが,以前送ってもらった資料からすると,寸法的に若干短く,細めです。

  この管頭の部分のデザインから考えて,元になった明笛は,現在の中国笛子に似た古いタイプの明笛ではなく,管頭に大きな飾りがついた明治以降の一般的な明笛ではなかったかと考えられます。笛屋さんの中には,こういう各地のお祭りに使われる明笛タイプの笛を「古代に大陸から伝わってきた」ものの子孫だと考えている方もいらっしゃるようですが,古い文献や記録とつきあわせてみると,竹紙を貼るタイプの笛が日本で見られるようになるのは,江戸時代も末のほうになってから。それが全国的に知られるようになるのは,やはり明治の清楽流行期を待たなければなりません。
  「伝承」というものは,とかく「古いものだ」と思われがちですが,ロマンはロマンとして,先入観を持たずにちゃんと調べてみれば,意外と底が浅かったり,2世代ほど前から始まったくらいのことだったり,ということのほうが多いものです。


  さて,この笛は作られたあとほとんど吹かれたことがなかったようですね。
  工作もかなり粗いもので,入手当初は歌口も指孔もガサガサしていて,孔の縁などにでっぱりや削り残しなどがそのまま残っていました。歌口の調整もちゃんとしていなかったらしく,最初はほとんど音が出せませんでしたね。
  ガタガタだった歌口の縁を磨き,管内をきちんと均して,なんとか鳴らせるようにはなりましたが,歌口の具合となんせ管が細身なこともあって,安定した音を出すのが難しい----
  全閉鎖でEbというのは,今までの笛の中でいちばん高音。ここからも,この笛は清楽や明清楽に使われたものじゃないことが分かりますね。
  明笛の運指だととくに高音域が安定しません。
  低音3音からの流れでゆくと,5Bbは  ●●○○○○,その次が6Cなら ●○○●●●,6C#なら ●○○○○○,6Dは ○●○●●●,全閉鎖のほぼ倍の最高音6Ebは ○○○●●● のときが音階としてもっとも安定し,呂音で出せる管としての最高音は ○●●●●● の時に観測した6Eb+36でした。
  まあ歌口の調整も完全ではないので,いまだにちゃんと「吹きこなせている」という感じじゃありません----ですので計測結果は,あくまで参考程度のもの,としてご覧ください。(^_^;)

明笛28号


 口 ●●●●●● 合/六 5C-30
 口 ●●●●●○ 四/五 5C#+45
 口 ●●●●○○  5Eb+5
 口 ●●●○●○  5F
 口 ●●○○●○  5G+20
 口 ●○○○●○  5A+40
 口 ○●●○●○  6C-30

  全長51センチは,このタイプの明笛としては長く,管頭の飾りも例の「竹紙ポケット」になっておりませんので,明治10年代か20年代頃に作られた,やや古いタイプの明笛ではないかと考えます。
  管は煤竹っぽい茶色をしていますが,どうも真正の煤竹ではなく,スオウ染めであるようです。


  管頭や管尻の飾り(いずれも象牙ではなく骨製品)なんかは加工がじつに見事。装飾は線が一本入っているだけなんですが,優雅で美しいラッパ型になっています。 ただし26号とは違ってこちらはただの筒----「竹紙ポケット」にはなっておりません,あしからず。


  しかしながら,どっちかといえば楽器として肝心な,歌口や指孔の工作がやや稚拙で,ほんらい滑らかに丸くあるはずの縁が,多少いびつで不揃いです。

  出品者さんの写真で見た感じより,とどいた実物はかなりキチャナかったですねえ。(汗)

  とくに管内の汚れかたがモノスゴくて……棒にスポンジくくりつけ,中性洗剤たらして水通して洗ったんですが(かなりランボー,怒りのアフガン風),真っ黒な汁がこれでもかこれでもか----と。

   あばばばばばばばばば。

  響き孔の回りに竹紙を貼った痕跡が残っていましたので,実際に使われていたのは間違いない---いや,「かなり使い込まれた」楽器だったみたいですよ~。
  管オモテ(指孔のあいてるがわ)のあちこちに,漆によるヒビ割れの補修箇所があります。
  そのほか浅い打痕や小さなキズに至っては,一体いくつあるやら数知れず……途中で数えるのやめましたもんね。(w)


  洗浄清掃後,しばらく乾かしてから補修に入りました。
  第1孔の右上と,第2孔-第3孔の間にヒビがあります。この二つは前修理者の補修後に生じた新しいヒビ割れなようで,補修がされていません。
  まずはこの二箇所に,砥粉をカシューで練ったパテを流し込み,盛りあげておきます。

  つづいて管内は歌口の底,つめものの壁ぎわのところに塗装ハゲ。そのほか各指孔の内壁にも塗装落ちの箇所がありますので,これらをとりあえず補彩しておきましょう----いづれもカシューの透です。


  真っ黒に汚れてはいましたが,管内の塗膜はまあ比較的もっていたほうです。
  ただ,さすがに少し劣化しているようなので,先に補彩した箇所が乾いてから,同じカシューの透を,管内全体に二度ほど塗って補修しておきました。

  修理の甲斐もあってかなりラクに鳴るようになりましたが,もともとの工作がやや粗いせいか,息の吹き込み加減に少しクセがある様子(普通に吹き鳴らすにはさほど支障がない,というほどではありますが)。
  呂音での運指による最高音は ○○●●●● のときに出た6C#-32,庵主が「六(合の1オクターブ高)」として使っている ○●●●●● で6C+35なので,通常運指での「凡」が少し高すぎるかなあ。
  まだ若干の調整の余地が残っていますね。


明笛29号


 口 ●●●●●● 合/六 5C+30
 口 ●●●●●○ 四/五 5D+13
 口 ●●●●○○  5E-43
 口 ●●●○●○  5F+33
 口 ●●○○●○  5G+15
 口 ●○○○●○  5A+13
 口 ○●●○●○  5B+6


  28号よりさらに1センチ長く,全長52センチ。
  管頭と管尻の飾りはラッパ状に広がらずほぼ筒型で短め,管頭から歌口までの間が長い,など,いづれも中国笛子に近い古いタイプの明笛の特徴ではありますが,管は細めで,糸や籐による巻きも施されておりません。


  管全体を黒漆で塗り,管頭がわには線彫りによる風雅な蒔絵と,おそらく「廣東声」という刻字が見えます。
  管内部と各孔の縁にも塗りは施されていますが,いづれも漆を滲みこませた程度の塗りで,管内にも塗膜はありません。ただ歌口の底のあたりには,べつに朱漆で何度か補修塗りが施されていますね。
  管表面の黒塗りと蒔絵は当初からのものではなく,後になって管の補修時に施されたものだと思われます。
  管部分を細かく観察し,触診してみると,歌口の左や指孔の間に細い溝がいくつも走っているのが分かります。比較的最近の故障と思われる第1孔下縁中央からの1本と,管頭の飾りからのヒビ割れを除き,すべてのクラックはいづれも表面的なもので,補修塗りによって埋められていますが,それにしても全体にかなり細かにヒビた様子があります。
  補修塗りは,あくまで工芸的なものではなく楽器としての再生を目した実用的なもので,工房到着時には響き孔に竹紙の残欠もついていましたので,実際にかなり使い込まれた笛だったろうと思われます。


  初見時,管内をのぞいたら一面みごとにホコリ色で…うわ,エラい汚れてはるな~,こりゃ掃除がタイヘンだ…と思ったのですが,棒の先にスポンジをくくりつけたもので,その「ホコリ」を掻き出しましたところ,なにやらイイ匂いが----これ,ホコリじゃなくてお香の灰ですね。
  明清楽の流行期には,演奏前の楽器にお香を焚きこめる,というようなこともヤラかしたようですが(本来は雅楽の人なんかの習慣,チャイニーズ・ポップスである「清楽」には関係ない,一種のカッコつけ),楽器に灰がまぶしてあったというのは初めてのことで,防虫か防湿の効果を狙ったものか,今もって理由は分からないのですが。長いことやってると,いろんなことがあるものです。
  灰に守られてたおかげなのか,管内には故障と思われるような異常は見つかりませんでした。

  前修理者の補修工作自体は,けっこう手慣れており,全体的にはまずます宜しいのですが。
  歌口の右上と響き孔の下に,その補修によるちょっとしたアラがあります。


  響き孔のほうは,ごく浅い,塗りムラによる塗膜のカケで,竹紙を貼るうえでもさしたる問題はないのですが,歌口のものは少しゴロリとしているので,吹き込む息がそこで乱れてしまいます。
  そのほかもう一箇所,響き孔のすぐ右に直径1ミリほどの丸い窪みがあります----もとはかなり深い穴(貫通していたかもしれません。おそらく吹かれていないときについた虫食い穴,響き孔にはニカワを塗るため狙われやすい。)だったらしく,塗料によってある程度は埋まってますが,それでもまだけっこうな窪みになっており,貼った竹紙がこの部分で浮いてしまいます。


  庵主の補修は,まず管頭のお飾りの割レと第1孔のヒビ----前修理者の修理以降にできたこの二箇所の故障の処置からはじめます。
  いづれもエポキを使いました。管頭のほうは少し太めの棒をさしこんで,ヒビをわずかに広げてエポキを流し込み,パイプバンドでしめあげて固定。指孔のほうは,エポキに砥粉を墨汁で練ったものを混ぜ込んだ黒いパテで埋めました。
  その後,同じものを歌口の横と,響き孔の横の凹みに盛って整形。一日置いてしっかり硬化させたあと,アートナイフでこそぎ,番手の細かい水砥ぎペーパーで石鹸水磨き,Shinex と布で油磨き----場所が殊に歌口のすぐ横ですから,神経を遣う細かな作業になりました。

  やはり笛は歌口ですね。
  歌口横の塗装アラのでっぱりを削り,数箇所の凹みを埋めて均したら,とたんに吹きやすい笛となりました。
  計測前は,管の長さや形状の古めかしさから言って,全閉鎖Bの古管だと思ってたんですが,実際に吹いてみましたら全閉鎖C,どちらかというと西洋音階に近い笛でありました。
  ----これが修理の結果なのか,それとも元からそうだったのか,なんにゃらいろいろと修理・修繕の手が重なっているので,容易には判断しかねますが,さて。
  楽器としては,やや音量が出ないものの,だいたい素直に鳴る笛です。

  調査時の呂音における最高音は  口 ○●●●●● で 6C+25,Eが低くEbに近いくらいですが,これは清楽音階ではデフォルト。


明笛30号


 口 ●●●●●● 合/六 5C+10
 口 ●●●●●○ 四/五 5D+10
 口 ●●●●○○  5E-20
 口 ●●●○●○  5F+40
 口 ●●○○●○  5G#-40
 口 ●○○○●○  5A+42
 口 ○●●○●○  6C-20

  最近ネオクで落とした笛。
  石で作った笛子---いわゆる「玉笛」(下画像)のオマケとしてついてきましたが,庵主の欲しかったのは,実はこッちの壊れ笛だったってことは言うまでもありません。(笑)



  明治末から大正期にかけて作られた,携帯用の明笛だと思われます。

  このシリーズの最初のほうで紹介した「明笛4号」とほぼ同じサイズですが,明笛4号の歌口や指孔が清楽の明笛式に楕円形で小さいのに対し,この30号のは大きめでほぼ円形に近くなっています----おそらくは清楽衰退後の篠笛や教育用ドレミ笛などの影響でしょう。


  このタイプの短い明笛は,どこのメーカーのものもだいたい同じようなカタチなんで断言はできませんが,残っている管尻の飾りの意匠や,丁寧な管内の塗りなどの工作の手がよく似通っていることから,4号と同じ作者か同系列の作家の4号より後の作ではないかと考えています。

  4号明笛は調査した笛の中でも歌口や指孔が小さく,慣れないと少し吹きにくいところがありましたが,こちらの笛は,サイズは同じでも歌口や指孔が少し広いため,使い勝手は悪くありません。呂音での最高音は,全開放 ○○○○○○ での6C+20。運指を少し工夫すれば,より西洋音階に近い音階を吹き出すことも可能です。


  ネットの紹介文で,「要らなかったら言ってください」 と添えられてたくらいなもので。表も裏もけっこうヨゴれてたし,頭のお飾りはなくなり,取付け部にはカケまでできてます。

  汚れのほうはまあ,スポンジに中性洗剤つけて流しで洗ったらかなりキレイになりましたから良いとして(……2)。そのほかの損傷は,管頭から歌口・響き孔のほぼ中心を通る細いヒビが1本。真っ黒に汚れてはいたものの,管内の塗りはかなり丁寧で強固なのですが,歌口の底,管頭の詰物の壁のところに割レが入っています。どちらも現状,吹くうえではさほど問題ありません。あとは管頭の飾りが欠損。


  お飾りのほうはまあ得意分野ですので。(w)
  4号のを参考にさっそく補作してみましょう。材は竹です,節のところをうまく使って,表皮を落とし,アルコールで練った胡粉にラックニスを混ぜ込んだもので白く彩色しました。なんか真っ白ですが,この上から2回ほどラックニスを刷くと,遠目には骨っぽく見えるようになりますね。

(つづく)

月琴32号(2)

G032_02.txt
斗酒庵 巧拙の際に惑う の巻2013.6~ 月琴32号 (2)

STEP2 謎の内部構造X


  さて,外からの調査観察は,表面からも裏面からも済ませました。
  おつぎは内部構造を調べたいと思います。

  今回はいつもの棹孔のほか,表裏面板どちらにも比較的大きなヒビが入ってます。 イザとなったらココから ムキっ とめくっちゃえば,さらになンか分かるかも知れません。 さらには 「ああ~しまつたあ~。めくりすぎて,板が,ハガれちやつたぞ~。」----と,いうような,「不幸な事故」 があるやも知れません。


  まあ,なんですか----庵主のバヤイ,楽器修理の目的が収集家や楽器マニアさんたちとはかなり違ってるので,そのへんのアツカイについてはどうかご容赦アレ。



  なにはともあれ。まずは棹孔からのぞいてみましょうかい。
  今回は,表裏のヒビ割れからも,ある程度光を射入れることができますんで,いつもより視界は明るくなりそうです。

  内桁は---音孔のないただの板ですね。
  松か杉の板,だと思われます。
  真ん中に棹茎のウケ孔があるだけ…これじゃあまあ,ほとんど何も分からないなあ,やれやれ。



  切り貫きの指示線が,エンピツや墨じゃなく,刃物でけっこう深く刻まれていていますね。
  左右はかなりオーバーラン,縦方向のはもう溝,ちゅうくらい深い。
  きっちりキレイに彫りぬかれてはいますが,何もここまでせんでも…

  さて……おんや?


  内桁の棹孔から,何かヘンなモノが見えましたねえ。
  黄金色の……真鍮の響き線のようですが,これは……


  えい---ムキっとな!!



  あ……やっぱり。



  みなさん,ここでタイヘンなお知らせがございます。
  32号,作者が,判明いたしました。


  この月琴と同じヒトですね----
  「太清堂」さん。

  修理報告では「赤いヒヨコ月琴」と題されています。 詳しくはこちら----

  なるほど----と言っても,みなさんにはお分かりになれないかもしれませんが,庵主の頭の中ではいま,ここまで観察してきてナットクのいかなかったチグハグなことが,足りなかったパズルのド真ん中のピースがイキナリはまったように,ぜんぶカシャっとひとまとめになりました。

  庵主のケーケンと直感は 「間違いない!」 と言ってはいますが。
  まずは過去の資料を見て,各々の楽器の特徴を比較検討しましょう。


  「太清堂」なんて名乗ってはいますが,赤ヒヨの工作の手は,明らかに日本の職人さんのものです。
  今のところどこの誰さんなのか,詳しいことは分かりませんが (ウチの爺様じゃっ!---という方,読んでましたらご連絡を),木工のウデは良く,その工作ぶりも丁寧で,とくに木地表面の加工はなめらかで美しい。

  やや側面の太い糸倉,アールのきつい棹背といった唐物月琴に近い特徴を持ちながら,「うなじ」はなだらかで,軸は六角形----唐物の倣製月琴と明治の一般的な月琴の中間のようなスタイルをしています。
  上右が32号,左が赤ヒヨです。
  うむ,まず棹のフォルムは良く似てますね。


  もっと細部を比べてみましょうか。

  赤ヒヨ月琴の棹茎には「五」の墨書と,カネに丸の焼印が押されています。
  32号のは「十五」。「十」のほうは比べられませんが,幸にも「五」が同じ---字体,似てますよね(あまり自信はナイ)----右の画像のほうが分かりやすいかもしれません。赤ヒヨ棹口の墨書です。


  おつぎ。上が赤ヒヨの糸巻き,下が32号のものです。
  赤ヒヨは一本糸巻きの先が折れていたので,新しいのを作って交換したんですが----いやあ,とって置いて良かった。

  32号の糸巻きは六角一本溝,赤ヒヨの軸は黒檀製で三本溝ですが,どちらもやや長く(12センチ),各面の曲線的な立ち上がりがほとんどなくて,サイドはほぼまっすぐ,握りの頭があんまりラッパ状に広がっていません。


  そしてすでにちょっと触れた,彫りぬきの指示線。
  墨でもエンピツ書でもなく,刃物で刻んだ線で,上下左右にオーバーラン…

  左が32号内桁,棹孔からの撮影。右が赤ヒヨ,裏板を剥がして響き線がわからの撮影。

  さらに,さっき表面板めくったとき,気がついたんですが。内桁の上面(棹がわ)は木地のまんまで白いのに,反対側(響き線のあるがわ)はなぜか,黒っぽい色で塗装してあります---これも,同じですね。
  同じような加工は,この2面のほか,3号月琴でも見たことがありますが,この塗料が何なのか,また何の意味があるのかについては,今のところよく分かりません。


  「太清堂」のラベルのサイズはだいたい3×7センチです。
  前記事でも書いたように,32号のラベルははがれてしまっており,その痕跡も薄いのでサイズもはっきりしませんが,長さはともかく,幅はだいたい同じなようです。
  さらに左画像のように並べて見ると,左右は若干異なりますが,貼り位置の高さは,ほぼ同じあたりになってますね。


  そしてそして何より,
  この内部構造!


  上2枚は赤ヒヨ,ひっぺがした裏板がわから。 左画像が32号,表板のめくれてるところを 「ムキっ」 てしながら撮ってるので,ちょっとボケててすンません。(^_^;)サスガニマダコワシテナイヨ…

  庵主はのちに,この下のほうの響き線を,カメ琴や自作胡琴「金鈴子」シリーズに仕込んで,かなり面白い結果を得ています----ふつうの響き線とくらべると,なにせ省スペースなんですよね,これ。

  太目の真鍮の直線と,バネと直線を組み合わせたこの特殊な響き線----この二つの響き線を合わせ持った楽器は,今のところ,この「太清堂」の楽器のほかには見たことがありません。

  赤ヒヨにある接合部の補強は,32号では見られませんでしたが,内部構造ではほかに,桁が音孔のない一枚板であるところや,その配置もほぼおなじなようです。

  さてここで今回の調査のフィールド・ノートをどうぞ。
  2枚目にある内部構造は,棹孔と表裏面板の割レ目からの観察結果です。
  数値なんかは一部間違ってるとこもありますので,本文を確認しながらご参照ください。

  (*クリックで拡大*)


  太清堂の月琴につけた 「赤いヒヨコ」 なる呼称は,かの楽器の柱間飾りについていた,この赤い鳥の飾り物からきています。

  木部の工作は良かったのですが,彼の楽器についていたこれら飾り物の類のデザインが,(可愛くはあるものの…)あまりと言ってはあまりのシロモノばかりだっため,庵主は目摂をのぞいてぜんぶ取っ払い,新しいのを彫ったくってへっつけたのでした。


  なるほど,前記事に書いた----

   巧い,でもセンスはあんまりヨロシクない(^_^;)


  ----という,32号作者に対する評価。
  今にして思えばこれもまた,ナゾの作者のその正体を,見事に暗示して,その妙を得ていたのですねえ。

  うむ,決めた。
  32号よ,今日からおまえは
    「ぬるッとコウモリ月琴」 だっ!


(つづく)


月琴32号(1)

G032_01.txt
斗酒庵 巧拙の際に惑う の巻2013.6~ 月琴32号 (1)

STEP1 謎の月琴X


  さて,25号の修理から2タ月あまり,カメ2号の完成から数週間たち,そろそろと手もちブタさんになってきたところに,九州は熊本から楽器が到着いたしました。

  表裏面板が割れ,半月もはずれちゃってますが,軸は4本揃ってますし,フレット以外に欠損部品は少ないようです。
  なにより目立つのが,大きめでナニヤラ ぬるっとした感じ のコウモリさんの目摂----うむ,なンじゃこりゃ?

  研究用自出し月琴32号,名前はまだない----
  さて,今回の楽器はどんなことを教えてくれましょうや?
  まずはいつもどおり採寸から。




1.各部採寸

  ・全長:638mm
  ・胴径:縦横ともに 350mm 厚:37mm(うち表裏面板ともに厚 4mm)
  ・棹 全長:273mm(蓮頭をのぞく) 最大幅:30mm(糸倉先端) 最小幅:23mm 最大厚:32mm 最小厚:10mm
    * 指板:厚 約1mm,山口の手前で切れ 長134mm
  ・糸倉 長:152mm(基部から先端まで) 幅:29mm(うち左右側部厚 8mm/弦池 12×97mm)
    * 指板面からの最大深度: 60mm
  ・推定される有功弦長:415mm



2.各部所見

  ■ 蓮頭: 無傷だが再接着されている模様。

  54×80×最大厚13mm。 真ん中を丸くふくれさせた飾りのない雲状板,細かい柾目のやや軽軟な木を黒染めしてある。材質は不明。取り付け位置がやや後ろで,裏面背がわに元の接着痕とおぼしき痕跡が見える。



 ■ 軸: 4本完備。

  1本だけ軸尻の細いものが混じっている。六角一溝,いづれも長さ 120mm,太さは3本がφ26,1本がφ23。軸尻への立ち上がりが浅く,側面はほとんど直線である。蓮頭と同材ではないかと思われる柾目の軽軟な材で作られており,阿仙で染めたものと思われる。1本だけサイズは異なるが,材質や加工に違和感はなく,いづれもオリジナルとおぼしい。


 ■ 糸倉~棹: 棹背に小汚れ,使用による褪色あるも,ほぼ無傷。


  糸倉は先端中央に同材の間木をはさむ。丈つまり全体にコンパクトだが側面はやや幅が広い。
  弦池はせまく,内壁に軸孔の加工アラが残る。
  (*軸孔の内壁がやたらと白いので,加工は通常よく見られる「焼き広げ」ではないと思われます。)
  うなじはやや長く,ふくらのくびれは浅い。
  棹背には少しきつくアールがつく,幅広の糸倉と合わせ,全体には唐物月琴に近いフォルムとなっている。
  棹本体の素材は,白っぽくやや軽軟な材で,おそらくはクルミ。スオウで赤染め鉄媒染(暗い赤紫色),油仕上げだったと思われる。棹部には手擦れによって当初の染めはほとんど残っていないが,糸倉と指板の一部に赤染めの痕跡が残っているほか,基部に当初色に近いと思われる赤いシミが残っている。

 ■ 指板: ほぼ無傷。

  薄いカリン板をスオウで染めたもの,偽紫檀。
  山口の手前まで。
  フレットの交換か清掃によると思われる水染み褪色により,染めがややマダラとなっているが,浮きや破損などはみられない。


 ■ 棹茎: 損傷といえるほどのものはないが,工作にやや疑問。

  長 168,最大幅 28,棹基部は長 43,茎最小幅(先端削ぎ落とし手前)24。
  厚みは基部から先端までほぼ変わらず 13mm。
  唐物月琴と同様,基部が棹部と同じ幅になっている。

  基部表面に墨書の痕,先端に「十五」カネに「 ヽ」と思われるサイン。

   ナゾの工作,その1。


   延長材は針葉樹ではなくホオですが,もともとヒビの入っているような,かなり質の悪い木を主材に,画像で線を入れてあるとこから別材を継足しして一本としています。
   茎の先端に取付けの調整用のスペーサーとして別材が貼られていた,というような例はけっこう見ますが,ハジメから継足してある素材を茎としてつっこんだ,なんて例は,今のところほかに知りませんねえ。

   胴体との接合面の加工がやや粗いものの,この継足しの加工もふくめ茎全体は,比較的丁寧できれいに工作されています…うむ,よく分からんなあ。



 ■ 山口・フレット

  山口はおそらくカリン。幅 30,厚 9,高 12(指板面から)。
  半月側にやや傾げて取付けられている。
  糸溝が所定の位置に正しく切られていないこと,また取付部よりわずかに幅が広いことなどから,後補の部品である可能性が高い。

  棹上は第1・2フレット存,第3フレットは欠損して目印のケガキ線と接着痕のみ残る。いづれも最大厚 4mm ほど。
  材質はいづれも白竹(晒し竹 ヤシャ染めくらいはされているかもしれない),片面に表皮をそのまま残した簡便なタイプ。
  オリジナルと思われるが,1フレットと2フレットで皮面の向きが逆になっている。再接着時のミスか?

  胴体上には第4・5フレットのみ存,ほかは欠損してケガキ線と接着痕が残る。
  接着痕から,最大の第6フレットで幅 50mm ていど。
  フレット幅の差が小さい,実用的でおとなしめなデザインである。

  山口の下端を起点とした,各フレット(およびその接着痕)下端までの距離は----

   46 78 109 138 154 208 237 265 

  棹上,胴体ともに,柱間の小飾り,および扇飾りの痕跡は見られない。


 ■ 胴体: 表裏面板に割レ,下縁部を中心に虫食い多数。

  ヨゴレなどはそれほどでもない。
  表面的に大きなものは少ないがよく見ると細かな虫食い穴があちこちに開いている。
  置かれていた向きによるものか,裏板と胴体の下縁部にとくに集中して多い。

 表面板: 5枚矧ぎ(?)
  やや板目の板がだいたい景色を合わせて継がれている。矧ぎ目の確認は完全ではないが,たいした枚数は継いではいないようだ。

  ・ 向かって右側に割レ。板の矧ぎ目に沿ったもので上下貫通。楽器下端で最大2ミリほど開く。
  ・ 割レ目上端から左方向にハガレ,1センチほど。下端から左がわのハガレは接合部まで広がり,割レ左の板は少し反ってめくれている。
  ・ 下端左にやや大きなエグレ,虫食いと思われる。下縁部左がわに虫食い多数。

   これもちょいとナゾ。

  通常よりもかなり高い,フレットのあるあたりに,数多くのバチ傷と思われる擦痕が見られます。

  ここからも楽器として実際に使用されていたのは確かなようですが,明清楽の演奏会のように座って弾く場合には,腕振りの関係からも,バチ痕は絃停の上のほうの左右に集中するのがふつうです。
  いっぽう門付けの辻芸人さんなんかのように立って弾いた場合には,肘で楽器をおさえて弾くので,バチ痕はすこし上,楽器の中央付近になります。この楽器は構造上,そのあたりで弾いた場合がもっとも大きな音を出せるようになっているので,街頭で弾くような場合には自然,大きな音を出すために,バチ痕が上のほうになるってこともあるんでしょうねえ----

  それにしても,ちょっと上過ぎるような気がしますが…(^_^;)

  ちなみに----月琴できちんとメロディをなぞりたい時は,バチ位置はやや低い(半月側)ほうが,弦圧の関係で安定した音が出せます。
  SOS団ではこの楽器をトレモロ演奏主体で教えているんですが,そういう高速連続弾きのときは半月のギリ手前でやったりしますね。

  ただし,バチ位置を低くすると弾きやすくはありますが,音量が出ません。

  だから糸の弾き方に慣れてきたら,弾く位置をすこし上げて(山口側),はっきりとした音で弾けるようにしておきましょう。
  賑わしっぽいガチャ弾きや,単音で長く引く大きな音を出したい時は,胴体の中央あたりで弾きます。ただ,半月側より弦圧がユルいぶん,バチがひっかかり気味になりますから,バチをやや浅めに構え,手前のほうにちょっとすくい上げるような感じで弾くとキレイな音で弾けますよ。

  ----と,おししょーさまの突発月琴弾き方講座でしたあ。(w)

 裏面板: 12枚矧ぎ
  表板とはうってかわって,木理もバラバラな小板を多く継いである。節目のあるものや,木理の荒れているものなど多く質はきわめて低い。

  ・ 向かって中央やや右寄りに割レ。表板同様矧ぎ目に沿ったもので上下貫通,上端で最大2ミリほど。
  ・ 割レ上端を中心に左右にハガレ。割レ目付近では両岸ともに板が少々めくれあがる。左がわの剥離は側板接合部付近まで広がる。
  ・ 割レ下端から右側にもハガレ

  ほぼ中央,上から8センチほどのところにラベルの痕跡がある。
  日焼け痕と糊による接着痕だが,かなり薄く上端は判然としない。
  サイズは右端に割レ目を少しまたいで,50×80-100 ほど。

  ・ 表面板よりも虫食い多く,縁周部を中心に虫食い穴ほぼ全面に散見される。
  ・ 左から3枚目の小板下端にやや大きなエグレ,これも虫食いか?


   ナゾの工作,その2。

  裏板の胴体中央上端からだいたい14センチほどのラインに,ほぼまっすぐ,横に並んで3つ,直径7ミリほどの丸い孔があけられています。
  おそらく砥粉を練ったものと思われる白っぽい粘土状の物体をつめこんで,埋めてあったようですが,保存中の虫食いや経年の痩せでスキマができていて,今でははっきり穴だと分かっちゃいますねえ。
  右のものと真ん中の孔は,ツボギリであけられたものですが,左の孔は,もともとそこにあった節目をツボギリで広げたもののようです。
  はじめは,剥離した内桁をクギかなにかでとめた痕かと思ってたんですが,板の割れ目からのぞくと,桁の位置はもうちょっと下のようですね。
  楽器内部とかの調べがまだなので,なにか内部構造に関わるような工作なのかもしれないが,現状ではその意図等は不明。原作当初からの加工なのか,後で誰かがした悪戯なのかも分かりません。




 目摂: 左右ともに存。

  材はおそらくホオ。木理がほとんど見えないことから,かなり砥粉を厚めに塗った上から黒染めしたものか。

  今のところこの楽器には,蓮頭とこの左右の目摂以外に,装飾的な部品のついていた痕跡はみとめられない。

   ナゾの工作,その3。

  この楽器の特色として最初に目に付くのが,やっぱりこのコウモリさんですねえ。
  でぶっちょというかヌルっとしてるというか……個性的なデザインです。
  全体のフォルムや頭とか羽根のデザインなどは,中国の吉祥画にも似たのがあるので完全にオリジナル,というわけではありませんが,このタイプのコウモリが「月琴の目摂」として付いてた例は,ほかに見たことがありません。
  目摂としては,うちのコウモリ月琴さんのなどが,いちばんポピュラーなタイプと思われます。


 絃停・半月: どちらも存,半月は剥落。

  絃停はヘビ皮で,106×80。上下が多少めくれ,左下が少し痛んでいるが,保存状態はそれほど悪くない。

  半月も剥落してしまってはいるが健全。98×40,高さ9ミリ。
  やや薄く,細身で,木の葉を半分に切ったカタチに近い半月。このあたりも唐物月琴に近い。
  よくある板状タイプの半月だが,下縁周のカドを丸く落としてある。
  糸孔は外弦間:28,内弦間:20,かなり狭めに見える。


 側板: 5枚組み

  面板の剥離部や棹孔から見える,染色していない部分の木色からして,材はホオと思われる。
  棹孔の周辺に残っている当初色から見て,棹同様のスオウ染鉄媒染。やや濃い目の暗赤紫色に染められていたようだ。

   ナゾの工作,その4。(*上画像,クリックで拡大*)

  「5枚組み」とは書きましたが,楽器向かって左下に接合部が二箇所あり,本来の接合部より手前に小木片を継足してあるだけで,実質上は一般的な4枚組みの構造と同様です。
  第二の接合線の手前には複数の切り傷のような作業痕が残っており(一部はかなり深い)。これらは刃物の痕跡が面板の木口にまでかかっていることから,面板接着後になされた処置だと思われます。さらに接合部から7センチほど手前には,ヒビ割れと思われる不定形な線も薄く見えますねえ。

  この「胴材の継足し」という工作もはじめて見ますが,観察した結果を総合すると,これは「組んでみたら寸法が足りなかった」とかいうようなおマヌケなハナシではなく,接合部付近の破損による補修処置だと思われます。この修理報告で何度も書いているとおり,月琴の胴体は通常,四角い材料から切り出した1/4円周の板を組み合わせて作られています。蒸気などで撓めた板ならこういうことはないのですが,こういう切り出し板の場合,木取りによっては接合部付近(いちばん薄くなる)が木目の関係でとても弱くなり,組み立て作業中に欠けたり割れたりしてしまう可能性があります。

  接合部周辺の状態から見て,この補修加工は使用者等によるものではなく,楽器製作時のものだと思われます,が----

   ふつうは(いくらなんでも)欠けてない部材と取り替えますねえ---楽器なんだから。(^_^;)

   ほか3箇所の接合は,よくある木口同士の単純接着。接合部には微小のスキマも見られず,原作者の工作精度の高さをうかがわせます。



  さて,この時点では32号,作者につながる手がかりもなく,その正体は杳として不明でありますが。
  ここまでの感想を,とりあえず申しますと----

   なんか巧いんだかヘタなんだか分からないヒトだなあ(^_^;)


  ----てとこでしょうか?この楽器,たとえば横の画像にもあるとおり…

   横にしたら手を離しても,支えナシで床に立っちゃいます。

  これは器物としてのバランスもちゃんと考えて作られてるというわけで,道具や工作物において,質の好いモノの証左の一つであります。
  また各部の加工や接合部の工作など,細かいほうを見てますと,「ん!コイツわ…」 と感心するような緻密さがあり,木工の技術そのものは間違いなくかなり高いのですが。 ちょっと「引いて」,全体のフォルムや部材の構成などを見てみますと,なにかシロウト臭さというか,妙な違和感みたいなものが感じられるのですね。

  目摂のコウモリさんのデザインなんかもそうなんですが,表裏板のあまりと言えばあまりな質の違いと言い,茎や側板の継足しと言い,加工技術そのものは手慣れており,出来上がった結果もべつだん何と言って悪くはないのですが,一般的な月琴作者の作品と比べたとき 「えっ,ソコそうしちゃう!?」----というような,下手(ゲテ)でチグハグな工作が目につきます。

   巧い,でもセンスはあんまりヨロシクない(^_^;)

  ----というのが,感想にいちばん近い評価かなあ。

  さてさて,ひさしぶりにフシギな楽器,拾っちゃったみたいですねえ。
  次回は内部構造を中心に見ていきたいと思います----さあて,なにが出るかな?

(つづく)


« 2013年5月 | トップページ | 2013年7月 »