陳暘『楽書』関係箇所:
(1)「七星管」『廣雅』曰:管象篪長尺囲寸,有六孔無底。『風俗通』『説文』皆曰:管漆竹,長一尺,六孔十二月之音象物。貫地而牙故也。「蔡邕章句」曰:管者形長一尺囲寸有孔無底,其器今亡。以三者推之管象篪而六孔,長尺囲寸而無底十二月音也。唐之七星管,古之長笛也。一定調谷鐘磬之均,各有短長応律呂之度。蓋其伏(マ 状)如篪而長,其数盈尋,而七竅横以吹之旁一竅,幎以竹膜而為助声。唐劉係所作也。用之雅楽,豈亦溺於七音歟。班固曰:黄帝作律以玉為管,長尺六孔為十二月音。其言十二月音,則是。至於論以玉為管是不考黄帝取嶰竹之過也。[割注]顧況有七星管歌有龍吟四澤欲与〓〓引〓〓驚宿鳥之句 -148楽図論俗部八音竹之属
(2)「簫管・尺八管・中管・竪籧」 簫管之制六孔旁一孔加竹膜,焉足黄鐘一均声。或謂之尺八管,或謂之竪籧,或謂中管。尺八其長数也,後世宮県用之竪籧,其植如籧也。中管居長竪籧短竪籧之中也。今民間〓簫管非古之笛与管也。
*本文内では触れなかったが,これは縦笛。指孔6で竹膜を貼る穴が1。最近庵主が入手した正体不明の10本の笛(李朝華竹横笛)のうち4本が,これに近い構造となっていた。朝鮮の『樂學規範』(成俔 1493年序)にもほぼ同じものが見え,「清孔(笛膜孔)」のあいた洞簫は現在も残っている。
成俔『楽学規範』関連箇所:
(1)唐笛:「テグムは唐笛を模した」と書いてあるが同書にある「唐笛」は
七孔で膜孔はない。
(2)洞簫:『楽書』の「簫管・尺八管」と同じく膜孔がある。中国の現行洞簫に膜孔はない。
(3)ちなみにこれが「月琴」,いまはほとんど弾かれないが,復元製作された楽器は博物館などでも見られ,歴史物のドラマなどで奏でるシーンが出てきたりもしている。琵琶と同じく4単弦。近年作られたものでは,ギターと同じように胴にネックが接着されていたりするものも見たことがあるが,伝統的な工法ではネックから胴の背面まで一木の削り出し,胴の円形部分の内側を浅く刳って桐板で蓋をし,共鳴空間としている。この構造は正倉院の阮咸とほぼ同様。
[1] 李純一 『中国上古出土楽器総論』pp.358-
[2] 方建軍 『中国古代音楽文化的物質構成』pp.175-
[3] 方建軍 『中国古代楽器概論』pp.133-
[4] 曽遂今 『中国古代楽器鋻思録』p.15 で筆者と同じく陳暘の『楽書』「七星管」を引いた上で,「少し下って唐代には中国膜笛(現在の笛子)の特徴をそなえた笛がすでに出現していたわけである。笛に膜を貼る,これこそが中国笛子の最も際立った特徴である。唐以前の笛に膜が貼られていたかどうかについては,文献がなく…」とした上で,馬王堆三号墓出土の六孔笛の,
背面にある一孔はもしかすると膜孔かもしれず,そうすると笛膜の起源を漢代まで遡れるかも,としている。

[5] 金家翔 『中国古代楽器百図』p.31 「笛」に「五代宮中図巻中的龍首笛」として次のような笛の図が挿入されているが,
「五代宮中図巻」がどのような資料を指すのかについての説明がない。おそらくは
周文矩(生没年不詳 907-975ごろ)の
「合楽図」(シカゴ美術館 「宮中図巻」ではなく)の右端のほうに見える婦人の吹いている笛だろうと思われるが,庵主が図録で確認した限りでは,この図のような笛膜孔らしきものは見当たらない。しかもこの図は周文矩自筆ではなく
宋代における模写である。もし詳細に観察してそうした表現がなされていたとしても,五代に笛膜のある笛が存在していたという決定的証拠とはなり得ないだろう。ちなみに周文矩は時代区分で言えば唐王朝滅亡後の
「南唐」(937-975)の人であるが,この「南唐」はその以前にあった
唐王朝とは別の国である。
笛膜のある笛の起源を「唐」とする説は,あるいはこの絵図を根拠とする同様の説に由来する
伝統的勘違いかもしれない。
2013.07.30 追記
その後の追跡で,米・クリーブランド美術館の所蔵する周文矩の「宮中図」に,上注にある「合楽図」のものより『中国古代楽器百図』の図に近い龍頭の笛が見つかった。しかし,かなり高精度の画像を入手して見てみたが,笛膜と確実に分かるような表現は,やはり確認できなかった。画像中央の女性の吹いている笛がそれで,左手の二・三指があがっているため指孔が見えており,それが通常あるべき位置よりわずかに歌口がわに見える,とは言えるが,孔間はつまっており,膜孔とは思えない。(ちなみにこの絵も南宋代の模写)
[6] なんかWeb上の笛子を紹介した記事に,笛子の特徴の一つとして
「頭の部分の穴も先端の部分の穴もふさがれている。空気の出口はどこかというと、先端の近くに何個かの空気穴がある。」なんて書いてあるが,どんな笛子見たんだ?漢代の出土笛か?先はあいてるわな。(^_^;)
[7] 玉木繁 『琉球横笛』:「はんしょう」もしくは「はんそう」と呼ばれた楽器,また古代の琉球笛がどのようなものであったのかについて,さらに笛膜の有無についての考察は欠ける。
[8] 『集古十種』5安芸国厳島社蔵玉笛図,竹を模し歌口に象牙の板,膜穴,指孔6。