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月琴32/33号(4)

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斗酒庵 またまた同時進行 の巻2013.10 月琴32/33号 (4)

STEP4/32 はずれもんのブルース

  さて,ぼんぼがまいりましょう!

  32号,面板が両面割れたりあちこちハガれたりてるのをのぞけば,さして深刻な損傷はございませんが,原作者の工作がなにぶんアレなもので,あちこちに月琴としてはイマイチの加工が目立ちます。


  その最たるものが,棹のとりつけでしょう。

  なんども書いているように,月琴という楽器の棹は,胴体の水平面より若干背側に傾いているのが理想的なカタチなんです。
  唐渡りの実物なんかを,ちゃんとじっくり観察することのできたような職人さんなんかは,そういう設定を最初から分かっていたかもしれませんし,実際に何本か作ってみて自然に気がつくような,眼の利いた腕こきの職人はともかく,その大流行期に,猫も杓子で手を出したうぞーむぞーの職人さん(楽器職以外も多くふくむ)によって作られた月琴なんかの場合,このあたりが知識的にも経験的にも腕前的にもキチンとしておらず,そのせいで,やたらと格好はイイけど,やたらと弾きにくい楽器になってるようなことがママあります。


  これなんかまさにその典型ですね。(w)

  32号の指板面は,よくある胴体と面一どころか,やや前に傾いでおります。
  このままだとフレットが高くなって弾きにくいうえに,胴体と棹の間に出来た浅いVの字の底になる第4フレットあたりには,厄介なデッド・ポイント(弦の振動が阻害されて音の響かなくなる箇所)なんかも発生する可能性があります。


  原作者サマにゃなンか悪いンですが,
   このあたり,
    キッチリと改修させていただきまっしょい。


  棹茎の接合部に濡らした脱脂綿を巻き,一晩ほど放置します。
  フレットは,前回胴体のお飾りといっしょにはずしておきました。指板の付け根のところにスオウの当時色が少し残ってますね。この指板はカリンですが,スオウで染めて,紫檀っぽくしていたんでしょう。

  一晩置いて延長材はブジはずれました。あうう…ここもやっぱ妖怪「ニカワべったり」ですねえ。



  水気がちょっと多すぎたのか,棹のほうに少し滲みちゃったせいで,指板の端っこがめくれあがってしまいました。
  もっかい濡らしてからスキマにニカワをたらしこみ,当て木をして矯正してます。
  このめくれちゃったあたりには,木目からくる大きなエグレが縦に走っており,こんなふうに反っちゃったのはたぶん,この材質のせいですね----ううう,マトモな楽器屋さんなら,たぶん使わない。(^_^;)

  数日置いて乾いたところで,接合部を削りなおして延長材の角度を調整,再接着します。


  もともとこの棹の胴体との接合部は,上に書いた理想的な設定---山口(トップナット)のところで背側に2ミリ傾く---になるような角度でちゃんと削られているんですが,延長材の取り付けの工作が雑だったせいで,反対に前に傾いで,棹背側にスキマまで出来ちゃってたんです。

  すなわち,この延長材さえつけ直しとけば,
   あとはほとんど無加工,組み立てなおすだけで,そこそこいー感じに直ると思いますよ。





STEP3/33号 迷探偵あわらる


  はら,またまた対照的な作業になりましたねえ。(w)

  33号は,はずれていた延長材を再接着します。

  最初の回で書いたと思いますが,この故障の原因はおそらく酔っ払って(w推測w)楽器を踏んじゃったあたりかと。まあ2合か3合でしょうか,まだ泥酔じゃなくほろ酔いくらいで。踏みつけてすぐ「やべっ!」と足を戻せるあたり(やたら具体的だなあ…)----体重のかかったのが瞬間なので,棹が折れたり面板が割れたり,という惨事には到らなかったものの,茎の接合部が割れて延長材がはずれてしまった,ってとこでしょか。

  同じような故障は,保存が悪かったせいでニカワが劣化したような場合にも起こりえますが,この楽器の保存状態は良いほうですし,抜け落ちた延長材の先端に残っているニカワはまだ活きてます。たんに原作者の工作不良で,ということもありえますが,松音斎は庵主もみとめる腕のいい職人です。抜けてはいますがこの延長材だって,たださしこむだけで,キッチリと寸分の狂いなくおさまりますもんね。


  んでは何を根拠にそんな酔狂な推理が成り立つかといえば,

  棹接合部の裏側先端にだけ,延長材からハガれた木材の一部がついてるからなんですね。
  こうした故障は,楽器を水平面に置いたとき,オモテがわから,それも棹と胴体の接合部付近に負荷がかかった場合,起きると考えられます。月琴の糸倉の背は,胴体の背面より数センチ深いので,これを床に置くと背面に,胴尻と糸倉の背を支点にした,直角三角形のスキマが生じます。
  この状態で先ほど述べたような負荷がかかった場合,接合部には「糸倉 ↑ ↓ 胴体」という方向に力が伝わります。延長材の先端は「糸倉 < 胴体」というカタチになってますから,ここがこう「糸倉 ↑<↓ 胴体」なると,オモテがわの接着はパックリいきますが,裏側はせまい先端部分に力が集中し,柔らかい針葉樹で出来た延長材のカケラが木目に沿ってもぎとられ,棹側に残ったのだというわけです。



  ----ナニ,分からん?   いやワシも物理的には正しいのか知らんのだが,経験から言って(何やらかした?)まず間違いないと思ふ。

  書いたとおり,もとの加工精度が素晴らしいので。

  修理とは言ってもまあ,32号の場合と違い角度の調整とかも必要ございません。濡らして古いニカワを拭き取り,新しいニカワを塗ってつっこむだけであります。


  ついでに,なくなってた糸倉先端の間木も入れておきます。

  ここがついてないと,せっかく無傷なトラ杢の糸倉が,ちょっとした拍子で割れちゃったりしてしまいかねません。
  ここもまあカツラの端材を刻んで,ニカワを塗ってハメこむだけです。

  まあ今回はこんなところで。

(つづく)


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