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月琴32/33号(3)

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斗酒庵 またまた同時進行 の巻2013.10 月琴32/33号 (3)

STEP3/32 とじられた壷天

  32号の調査計測は夏の帰省前に済ませていたし,33号のほうは一夏の甘い思い出…いえ宿題がわりに,実家のほうでボチボチとやっておりました。あらかた調べることも調べましたので,ハイ,またまた同時修理とまいります!
  メンドいので記事,一本にまとめちゃいますね----楽器の質が違うんで,そのあたりはかえって参考になるかもしれません。

  まずはともあれ,修理のために少々おジャマな,お飾りの類をはずしてしまいます。
  32号から。


  ヒビの片側と,ハガれてる下縁部のあたりの端っこが,少しめくれて反っちゃってますので,ついでに湿らせて柔らかくしておきましょう。この楽器の象徴であるコウモリの目摂---通称 「ぬるっとさん」 もはずしちゃいます。お飾りのデザインはシンプルですが,ニカワはやたらと多めですね。ハガれるまでにけっこうかかりました。


  第4フレットの下に,やや大きな虫食いがありました。こりゃ後で埋めとかんとね。
  撥皮にはかなり厚めの,やたらに丈夫なヘビ皮が使われていました。板が割れた原因の一つは,これの収縮だったかもしれませんね。


  お飾りがはずれたところで。本格的な作業に先がけて,面板の浮いているところを再接着しておきます。
  32号は表裏に入った大きなヒビの両端を起点に,オモテ板は地の側板,ウラ板は天の側板の,それぞれおよそ3/4がハガれてしまっています。
  いささか範囲が大きいので,部分的なクランピングだとおっつきませんから,またこれを使いましょう----ウサ琴の外枠流用の即製大型クランプです。
  作業に入る前に,接着面をあらためて調べてみますと,ハガれている箇所の接着面に,ぐにょぐにょの虫食い溝がいっぱい見つかりました。いづれもごく浅く,板も「スカスカ」というほどにはなっていませんが,このままだとうまくくっつかないので,すべての溝に,柔らかめに練った木粉粘土を塗りこんでからニカワを塗り,充填接着とまいります----ぎゅぎゅーっとシメあげると,中身がにゅっとな。




STEP3/33号 月のヒミツ



  おつぎは33号。
  こちらのニカワは対照的にごく少なめ,必要最小限,って感じです。しっかりついてるのに,濡らすとカンタンにはずれてきました。腕のいいのもありますが松音斎さん,お飾り類はメンテや清掃の時にはハガすものだってことを,きちんと分かってらっしゃるんですね。

  お飾りがなくなったところで,こちらこれまた対照的に,板の一部をひっぺがします!

  事前の調査で気がかりだった,響き線の状態を確かめるためです。オモテ板の,ちょうど響き線の基部のあるあたりから,大きなヒビ割れが縦に貫通してますので,ここからハガしましょ。

  サイワイなことに。線は表面真っ赤にサビてはいたものの,朽ちてはおらず。表面をちょっと磨いたら,ギラギラの銀色になりました。長い曲線で,胴体の深くまで入り込んでるため,ぜんぶひっぱりだして磨くようなわけにはいかなかったんですが,届く範囲まで磨いてから,表面に軽くラックニスを刷いて防錆しておきます。



  さて,これもまた見た事がないタイプの響き線ですね。
  いままで見た中でもかなり長いほうですね。線は胴内をぐるっと回って,先端は楽器向かって左の側板,ギリギリのところまで行っています。

  このように基部が楽器の肩口にあって,線が胴内を回る曲線は,唐物月琴などに多い古いタイプですが,上桁のところでカクッと曲げられているところがとくに珍しい---なるほど,こうするとぜんぶ一定の曲線よりは調整がしやすいかもしれませんね。


  響き線は,その一部が胴体内部のどこかに触れてたり,先っちょがどっかにひっかかったりしてると,まったく効果を発揮しなくなりますから,楽器を演奏姿勢に立てた時に,胴体内部で完全な片持ちフロート状態になるよう,微妙に調整する必要があります。このタイプの長い響き線は,効果はすばらしいのですが,たわんだ曲線であるだけに,通常長くなればなるほどその調整が難しくなるのです。
  この線の場合,基部から上桁のところまではほぼ直線に近いので,この部分の振幅は小さく,揺れやたわみもほぼ気にしなくていいです。カクっと曲がってるとこから大きな弧を描いてるわけですが,その部分の位置や角度の調整は,この曲がってる部分をちょっといぢるだけで済みます。何度も線を揉んで全体のアールを直したり,基部までさかのぼっての微妙な角度調整をしなくてもいいでしょうね。それでいて,線の長さは実質古式の月琴のそれと同じ,一部を直線にしたことによる振幅効果のロスも,そんなにないんじゃないか,とか考えます。

  うむ,そのへんの実際は,今度またウサ琴で実験してみることといたしましょう。

  事前の調査で,棹孔からは見えなかった部分もはっきりと分かりましたので,フィールドノートもようやく公開できます。


  上下桁の両端は,わずかではありますが斜めに落とされています。裏面も同じようになっているのかどうかは分かりませんが,前に書いたようにコレ,面板を胴体に密着させるための加工ですね。ここに溝を作ることによって,柔らかい桐板が自然に沈み込めるだけの「タメ」が生まれるのです。
  これがないと,内桁と側板の高さをかなーりシビアーに合わせ,全接着面を完全面一にでもしなければ,面板は凹んだり凸ったりしてるとこからハガれやすくなる,ということですね。もちろん,相応の技術があれば不可能なことではありませんし,実際にやってみせてた例もあるのですが。比較的廉価で,数打でしか利益の出せない月琴という楽器で,そこまでの精密さへの要求は,基本不利益にしかなりません。これはある意味,加工を容易にして,歩留まりを減らすための工夫の一つであった,とも言えましょう。

  下桁には,真ん中のあたりにふたつ,穴があけられていました----といってもコレ,ツボ錐(彫刻刀の丸刀みたいな先端をしたキリ)でもネズミ錐(先端が三叉になってるキリ)の穴でさえもない,いちばん一般的な三ツ目錐の穴ですねえ。直径3ミリ,といったところでしょうか。「音孔」というには小さすぎますし,「空気穴」というにも,ハテこれで本当にいいのやら?といった,申し訳ていどの加工ですが,さてさて。こういう加工のひとつひとつが,いったいどういうふうに音に結びついてゆくのか,実際に音の出せる日が,楽しみになってまいりました。

(つづく)


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