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月琴32/33号(5)

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斗酒庵 またまた同時進行 の巻2013.10~ 月琴32/33号 (5)

  前回の報告までで,今回の同時修理それぞれの楽器でのイチバン大変なあたりは,なんにゃかだいたい終わってしまいました。
  32号は棹茎を分離しての角度の調整,33号は面板を一部外しての響き線の確認と補修がメインでしたね。
  庵主の修理は「楽器としての再生」のところに本分があり,後のこともぜんぶ自分で背負うつもりでやってますが,まあどちらも,オリジナル状態の改変や破壊にあたりますので,古物屋さんは絶対やっちゃいけませんし,技術に自信のない方は軽々にマネしないよーに。

  さあて,作業はこれより,一気に細かくなりますよ~。




STEP5/32号 ゆれる大交差点

  茎を再接着して,棹の傾きは修整できましたが,調整がまだ少し残っております。


  まずはこれ,棹の指板面と胴体の間に,少し段差が出来ちゃってます。

  棹基部の背側を少し削って,オモテ側にツキ板を一枚。これで段差も解消。もともとの工作が雑なため,前後左右にも少しグラつきますからね,ついでに延長材先端と基部の右側などにも小さなツキ板を貼って,スルピタ,キッチリに調整します。

  次の作業に入る前に,まずは山口(トップナット)に刻まれたヘンチクリンな糸溝を埋めときましょう。
  やれやれ,誰が何のためにやったんだか----位置もなんもありゃせんですね,しかも深い。
  いっそ山口ごと換えちゃうってのも考えたんですが,これ,かなり頑丈に取付られてまして,ハガすのが多少手間そうです。
  茎分離の時に,指板をちょっと濡らしたら反っちゃってその後矯正するのがタイヘンでしたから,このまま使うこととしました。
  もとの糸溝(?)に,唐木の粉をエポキで練って塗りこみ,表面を整形してできあがり。
  新しい溝は,糸が張れるようになってから切りましょう。


  何度か書きましたが,この楽器の作者「太清堂」,木工の腕前はそこそこですが,楽器職としてはほとんどシロウトに近いレベルのヒトだったと考えられます。「木工としては正しい」(もしくは「それもアリ」)だが「楽器の製作」の上ではペケ----というか,専門の楽器職ならふつうは考えもしないような,粗雑もしくは稚拙な加工や工作があちこちに見つかります。

  そのひとつが糸倉の軸孔,すなわち糸巻きを挿し込む孔の加工。
  楽器屋さんの多くはここを,真っ赤に焼いた鉄の棒をつっこんで焼き広げる「焼きぬき」という方法で加工します。糸巻きの孔は力のかかるところですので,孔をあけるのと同時に,周辺の木の繊維を焼き潰して強化し,糸倉を割れにくくするわけですが,33号の軸孔…こりゃ,ツボ錐かなにかであけた孔ですねえ。しかも加工があんまり丁寧でないので,内壁なんかガサガサしてますわい。


  月琴という楽器の弦圧は,三味線や琵琶に比べると格段に低いので,実のところここを「焼きぬき」で「しなければならない」というほどの理由は通常ありません----まあ,すべて唐木などで作られる高級品とかなら別ですが。
  これまで実際に使われてきたわけですし,このまま使ってもまあ問題はさほどないんでしょうが,転ばぬ先の杖をついておきましょう。
  軸孔の内壁に,柿渋を染ませて強化しておきます。
  強度としては,はじめから焼きぬきで加工した場合には敵いませんが,何もしないよりはるかにマシです。
  軸のほうは全体を油拭きし,こちらも先端に柿渋を染ませて補強しておきます。




STEP5/33号 虎はよみがえる


  32号とは逆に,もげていた茎(なかご)を再接着した33号。
  接合部に損傷はなかったので,ニカワを塗って元の場所につっこんだだけですが,うまくいったようです。
  このまま胴体におさまれば,32号同様,山口のところで約2ミリ背面側に傾いた,理想的な角度になりますね。

  新しく入れた間木は,整形して補彩を施しました。
  んで,清掃もかねて棹全体をさッと油拭きしたんですが----すンごィですねえ。

  見てくださいよ,この見事な虎杢。

  朴の木でこんなになってるの,庵主はいままで見たことがありません。
  いったい,どんなとこに生えてた木なんでしょうねえ。


  胴体がこれと同じ材質で出来てるかどうかといったところも,今回の修理でのちょっとした楽しみの一つだったんですが,棹と同時に油拭きをしたものの,糸倉ほど顕著な虎杢は浮かんできませんでした。

  この虎杢はなにやら部分的なものだったらしく,同じ棹でも,うなじから下の部分になると,ほとんど見えなくなっています。胴体の部材にも,「虎杢」と言えるほどではありませんが,通常の場合とは違う特殊な光彩(ギラつき)が見えますので,はっきりとは言えませんが,やはりこの棹と胴体は,同じ材で作られているのだと思われます。

  この見事な虎杢の楽器に敬意を表し,拙いながら,当代から贈り物をしときましょう。

  オリジナルはまったく不明なんで,オーナー予定者さんからのオーダーで,蓮頭を彫りました。
  伝統模様とかではないんですが…今回は欠損部品も少ないんで,庵主が遊べる部分があんまりないんですよねえ。(w)「牡丹にカエル」---ちょっとカッコつけて漢文風に 「瓜々先生尋花王(かかせんせいかおうをたずぬ)」の図とでも銘打っておきましょか。(ww)

  素材はカツラの端材,カメ2号の工作の余り板ですね。
  厚みがもう少し欲しいとこでしたがまあよろしい。砥粉を混ぜたスオウを重ね塗りして,重曹で1次媒染,薄めたオハグロ液を数回塗って2次媒染。やや暗めの紫檀色に染め上げ,ラックニスをかけて木灰で磨き上げました。
  この33号の原作者,「松音斎」さんは,二千本以上の月琴を世に送り出してる,月琴作者界のイチローみたいな人なので,本体工作ではかないませんが,小物の細工では負けませんよ!(…あんまりエバれない)

(つづく)


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