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明笛について(11)

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斗酒庵 明笛を調べる の巻明笛・清笛-清楽の基本音階についての研究-(11)

番外編 「李朝華竹横笛」


  その笛がネオクにあがったのは…そう,今年の五月ごろのことでやんした。
  そういやむかし,古道具屋の小僧やってた時に,親爺さんからよく----

  「買わないで後悔するくらいなら,買って後悔しろ!」

  「一瞬で見切れるようになれ!」

  と言われてましたが……いやいや,庵主,べつだん買ったことは後悔はしてませんよぉ。
  そもそもこのブツ,ほかに入札者いなかったんで,激安の開始額で落ちましたしね。

  今回はまず,どッちかというと,この後者のほうの言のおハナシで。

  たとえば骨董市に行ったとするじゃないですか。
  露天で店を広げてるとこを横切った一瞬で,プロは,その店でいちばん価値のあるもの,中くらいのもの,掘り出し物を見分けるんです。プロにとって,なにやら手にとってしげしげ,まじまじと見てたりするのはあくまで演技,すでに交渉に入ってる場合なんですね。
  ネオクだとまあ,モノのまとってる空気感みたいなのは分かりませんし,手にとって見ることもできないわけですが……まあ,さすがにコレ見て,「李朝」うんぬんを信じて買うような物好きも,そうおりませんわな。(ww)

  いかにも古くさい箱に,10本もの笛が入っておりますなあ。

  この箱は…もと軸物でも入ってたものでしょうかね?
  側面の底のほうに三箇所切り込みが入れてあります。ここに平紐を通して蓋を固定するものです。
  それに手ごろな古板で蓋をこさえたもの。箱本体は桐なのに,蓋は杉で,裏面の両端に入れ子にする木片が,木工ボンドべったりで接着されております---なんか名前まで書いてあるなあ。
  表書きにある「李朝華竹横笛」の文字,これも雑巾で拭いて巧くぼかしてはありますが,後から書き入れたものです。実際に見ると分かりますがこの墨書,「ヨゴレの上から」書かれてるんですね。

  庵主ももちろん,これを 「李朝の骨董品だ,わーい」 と思って買ったわけでは毛頭ありませんが(w)……ネットの世界,ほンにいろんなモノが売ってますなあ。


  全10本中,「横笛」は6本。(右図クリックで拡大)
  いちばん長い一本で長 518,ほかの5本が 410mm 前後です。
  指孔6コに響き孔,明笛の類であることは間違いありませんね。
  骨の飾りなどはついてませんが,歌口と管頭,歌口と響き孔の間に花鳥図が印判で捺されています。加工は粗く,両端の断切りはガサガサしたまま,表面にかかっているのは漆ですらなく……ラックニス?いや,工芸用の安い水性ニスかな?
  内部には塗りは施されておらず,これもまた表面ガサガサ。指孔とか飾り孔の縁にバリが残ったままになってるくらいで,工作加工これまたスコブル粗い。
  日本の篠笛や明笛だと,管頭に紙を丸めたのを押し込んで歌口のところの「壁」をつくるんですが,この笛では,なにか非常に細い草のようなものが詰められていますね。


  一本だけ花鳥の印判がなく,黒縞の入ってるのがあります。
  総巻きの笛を模したものなんでしょうね。もちろん籐も糸も巻かれてはおらず,ただ黒く塗ってあるだけです。節の部分をうまいこと使って,管頭のラッバ型飾りの部分を表現してますね。この笛だけちょっと加工も違うんで,ほかとは違う場所で作られたか買われたかしたものなのかもしれません。

  いちおう吹けるものは吹いて調べてはみたんですが,これがまあ,どれもまた見事にバラバラ。
  全閉鎖で5C-30から5Ebまで,各種非均等に取り揃っております。(w)
  数値の上からしても,たとえばどこかの村で祭りのために作られた,とかいうことはありませんね。
  だってそうでしょう,いくらなんでもこれじゃ合奏できません----まあ,そもそも使用した形跡がありませんから,おそらくはお土産として十把一絡げで買い入れた安物を,それらしい箱に詰めたものでしょうねえ。


  でも,ちょっと興味深いのが,このうち4本ある「縦笛」です。(左画像:クリックで拡大)

  長い3本が340mmくらい,いちばん短いのは230mmしかありません。
  「李朝華竹横笛」と書いたヒトは,これが「縦笛」だってことにも気がつかなかったかもしれませんが。(w)


  「縦笛」なんで,この笛の歌口は管頭のところにあります。

  ちょうどいいくらいの太さの木の枝を,すこし削ってハメこんだだけのもの。到着当初は加工が粗いせいで,ケバだってて口を当てることもできませんでした。歌口のすぐ下にある四角い孔は音窓というやつで,リコーダーとかホイッスルにあるスリットと同じ働きをします。歌口の開口部は下に向かってすぼまっており,ここで圧縮された空気が,音窓の下辺,斜めになってるところに当って音が出る----という仕掛け,らしいですね(笛専家でないんで詳しいことは胃炎)。

  同じような形式の縦笛は,アジアだけでなく世界中にみられます。この型の笛は,ケーナや尺八といった,ただの筒に息を吹き込む型の笛よりは,慣れてなくても音が出やすいのが利点。


  しかしながら----では,この管の表側にある,一見,歌口風なこの孔はなんでしょう?

  このせいで,売るほうも「横笛」って書いちゃったんだと思うんですけどね。 指孔から微妙に離れてますね。もしこれを指で塞いで吹くとしたら,左3・右4か…

  ----いやこれ,たぶん間違いなく「響き孔」ですね。

  少数民族の楽器図鑑とか漁ってみたんですが,少なくとも現在の中国には,こういう形で笛膜を貼付ける型の縦笛,ってのは見つかりませんでした。
  そこでちょっと前の記事(明笛について9,10「笛膜奇譚」)に書いたことを思い出してください。
  宋代に書かれた陳暘の『楽書』には,文献としてはじめて,笛膜を貼付ける形式の横笛として「七星管」という楽器が紹介されており,現在,笛子の歴史について書かれた多くの資料,Web上の記事は,この本のその記述をもって「笛に笛膜がついた起源」としております。
  その陰であまり引かれることがないんですが,実は同じ『楽書』にはこの「七星管」以外に,「笛膜を貼った縦笛」というものも,紹介されているんです。


  ----これがそう。

  「簫管・尺八管・中管・竪籧」 簫管之制六孔旁一孔加竹膜,焉足黄鐘一均声。或謂之尺八管,或謂之竪籧,或謂中管。尺八其長数也,後世宮県用之竪籧,其植如籧也。中管居長竪籧短竪籧之中也。今民間〓簫管非古之笛与管也。

  『楽書』にある「七星管」が現在の中国笛子の直接的な先祖なのかどうか,については前にも書いたとおり軽々には言えないところなんですが,韓国の横笛「テグム」は,その構造に「七星穴(チルソンゴン)」と呼ばれる部位があることなどからしても,宋代のこの古い古い笛の系を間違いなく引いているのだと思われます。同様に,朝鮮の古い楽書『楽学規範』(成俔 1493序)巻7「郷部楽器図説」にはまた,ここに引いた「簫管」と同様の「笛膜を貼った縦笛」が,「洞簫」という名前で紹介されています。(右下画像:クリックで拡大)


  現在ある中国の「洞簫」には響き孔はついておらず,中国ではこの類の縦笛は今のところ見つかりません。
  この4本の縦笛も『楽学規範』の「洞簫」とは明らかに構造が異なりますが,テグムや月琴(ノルグム)同様,古い形式の楽器の残った朝鮮・韓国なら,こうした古い形式を残した笛が吹かれていても確かにおかしくはない。

  作りはいかにも地方の農村とかで作ってる工芸品,って感じですし,時代的にもそんなに古いものとは思われません(竹の状態からしても,塗装がニスだったりすることからしてもw)が,この「李朝華横笛」。時代的に「李朝」の部分はまあブラフとしても,あちらの国のものである,というところは本当なのかもしれませんね。


  さてこの響き孔付き縦笛。 上にも書いたように加工がこれまた粗く,そのままでは吹くどころではなかったので,歌口や口に当たる部分をきちんと整形してから試奏してみました。当初はどの笛もほとんど音が出ないようなエラい状態 (庵主が笛吹くのヘタだから,とかいう以前の!) でした,これをあちこち調整して3本はなんとか音が出るようになりましたが,1本だけどげにしてもダメでしたねえ。
  尺八や洞簫のように直接口に当てるのではなく,唇から少し離して,息を吹き込むようにしたほうが,かなりキレイに音が出せます----そのあたりも庵主の既知の笛とは異なってましたね,うん面白い。

  そりゃいいンですが,この10本もの笛----さて,どうしましょ?(^_^;)

  面白いには面白いんですが。
  現状では正体がよく分からないので,「清楽の明笛」の音階データには加えられませんしね。
  とりあえず,こんなものもあるんだよー,というご報告までに。

(つづく)

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