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KS月琴(4)
KS_04.txt
2013.10~ KS月琴 (4)
STEP4 半分の月がのぼるまで
前回あげたフィールドノートにも記載してありますが。
KS月琴,表面板の撥皮が貼ってあったあたりを中心に,木目に沿ったかたちの
エグレ溝
が何本も走っており,その一部は半月の下まで伸びています。
木目を浮き出させるキメ出しの加工は,たいがい形が出来上がってから,最後の仕上げのときにするものなので,このエグレはやはり,面板にもともとあったものだと思われますね。
(エライ板使わはったなー)
せっかく半月の裏面を平らにしたのに,
板のほうが凸凹では,どにもなりやせん。あとで撥布を貼付けるのにも不都合ですので,エグレてる部分を木粉粘土で埋めてしまいましょう。
乾いたところで,木片に紙ヤスリ貼付けたので擦って均します。
で,表面板の清掃----
あちゃ,
その途中でお尻のとこのヒビ2箇所,埋め忘れてたのを思い出しました!
面板の浮いているところを再接着したら,ちょっと塞がって,ほとんど見えなくなってしまってましたからねえ。
急遽作業を中断,おが屑を埋め込んで充填します。
一日置いて補修箇所を整形,そのまま清掃。
いつものように重曹を溶いたお湯をShinex#400に含ませてシコシコ。そんなに酷く汚れてもいなかったので,ほぼ一発でキレイになりました。
また一日置いて,面板が乾いたところで,さあ半月の再接着です。
庵主,ここでまた,もひとつポカを
…取外す前に半月の原位置をケガいておくんでした…
(^_^;)
ふつうの作家さんの楽器だと,半月の貼付け位置には,目印として使ったケガキ線などが必ず残されてるもので,修理の時はそれを参考にして再接着の作業をするんですが,さすが不識----
「あン? おりゃアそンなモン要らねェよ,目ェだけでじゅうぶんさネ!」
て,とこでしょかね。
くそぉ,なンか悔しい!
----というわけでこの楽器,半月の貼りついていた場所には,マダラになったニカワの痕以外,半月の取付位置を示すような目印が,何もありません。
まあ有効弦長など記録は録ってありますから,縦方向の位置についてはさほどの問題もありませんが。棹を挿して楽器の中心線を出すところから始め,糸倉から糸を垂らして,左右の位置決め……これがまた,かなり
繊細かつびみょー
な工作なので,2時間ほどもかかりましたか。(汗)
そのうえになんか口惜しいのは。
そうやって苦労して割出した位置が,おそらくはぴったり原位置だということですね。
1ミリでもズレてれば
「はン,しょせん目見当なんてそンなもンよ!」
とかって勝ち誇れるのにっ!
(…ココロがせまいニンゲンなもので…)
さすがギリギリ楽器のギリギリ作者ですね。
(誉めてるのか,コレ?)
今度こそはで,ピッタリ決めた左右の位置の目印をエンピツで書き込んでから,半月がズレないよう細い板を渡し,ニカワをつけて接着。
ニカワべたべた
だった原作とは違い,少し薄めのニカワを何度も塗って指の腹で接着面になじませ,少し表面がベタつくようになったところで合わせます----
これが最強。
半月の裏も面板も,かなーり神経質に水平を出したので,そッと置いただけで,
吸い付くようにへっつきました
ね。
(うむ勝った,ここだけわ!)
Lクランプでかるく押えてまた一晩。
用心のためにもう一晩置いて,さて仕上げです。
オリジナルのフレットは象牙か骨,おそらくは山口(ギターで言うところのトップナット)も同じような材質で作られていたことでしょう。フレットは7本も残ってますから,これをそのまま戻すだけなら,
山口とあとフレットを1本
新しく作れば,それだけで良いワケですが。前回書いたように,このオリジナルのフレットには問題があります。左右の高さが一定でない。片側が高く,片側が低くなっており,その落差は
最大で1ミリ
近くにまで及んでいます。
これも前回書いたとおり,半月のほうは高さが一定なので,それでこういうことになるということは,棹のがわのほうに問題があったということになりますねえ。
山口がちゃんと作られてなかったのでしょうか?
とりあえず,ツゲで新しく山口とフレットを作ってみます。山口の寸法やカタチは27号のものを参考にしました。
これを取付けて,糸を張り,フレッティング開始!----
ふうむ,なるほど。
たちまち問題発生。
絃高が高すぎます。
棹の傾きは山口のところで背がわに約3ミリ,理想的な角度ですね。ふつう棹がこれだけ傾いていれば,絃高の低い,弾きやすい楽器になるはずなんですが……
なんでこうなるの? というあたり,あらためて調べてみました。
図に描いちゃいましょう----
(クリックで拡大)
横から見て弦のコースが(1)のようになってるわけですね。
しかしながら,棹の傾きも山口の高さも半月の高さも同じなのに,同型の1号や27号はこんなふうになってません。 なにか原因が,初期の2面と違ってるところがあるはずです。
そこでも一度,細かく調べて見ますと----
ううん,これもまた,びみょーなところなんですがねえ
…2番目の図をどうぞ
ほんのわずかな加工の違い。
実際にはこの図ほど,まっ平らになってるわけではありませんが,初期の頃よりわずかに簡略化され,平面的になった半月内側の彫りこみが,
約1ミリ以前よりも弦をおしあげている
んですね。
目摂の菊の花が正面を向いていたころ
を明治の10年代後半と仮定しますと,この楽器は清楽がいちばん盛んだった,
明治の20年代から30年代のあたり
で作られたものなのじゃないかと推測されます。初期のころは規模も小さく,
一人でイチから最後まで
こつこつやってたんでしょうね。しかし,
月琴の大流行
のなか,さらに
勧業博覧会で連続して賞
をとったりもして,彼の月琴はかなり売れたものと思われます。同じ楽器を作り続けることによる慣れもあったでしょう。また注文をこなすため,量産のために
省けるところは省かなきゃならない
という場面も多々出てきたと思います。
そのひとつが
お飾りなどの外注
であり,もう一つが,こういう
細かい加工や調整
だったんでしょうね。
----なもんでまあ一方的には責められませんが。 この楽器をこれから快適に演奏するためには,なんとかせにゃならんことは確かですわな。
山口を作り直して,も少し背丈の高いものにする。
という手もあるのですが,せっかく作ったものなので正直
もったいないは世界のコトバ
です。 久しぶりで
半月にゲタ
噛ませましょう。 糸の出口に象牙の端材を貼付けました,厚さ約1ミリ。
絃高1.5ミリほど下がりました,成功です!
これでもうなんのシンパイもなく,仕上げにかかれるってもンですね!----といったところで次回。
(つづく)
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