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明笛の吹き方(2)

MINTEKI02.txt
ちゃんと吹けてない奴がなんなのですが の巻明笛の吹き方 その2

STEP2 吹けよ風!倒れよ酸欠!

  響き孔さえふさいでしまえば,明笛なンぞはただの笛,つか筒----つか,筒に孔をあけただけのシロモノですよね。

  「ほら,瓶の口に息を吹き込んでぶーぶー鳴らす,
アレといっしょだよ!カンタン,カンタン!」        

  などと,管楽器リア充どもはのたまいます。(怒)
  (瓶は瓶じゃ----笛とは違うし,こちとら瓶すら上手く鳴らせんものを……バクハツしろ)
  糸物専門ン十年,リコーダーすらマトモに吹けない庵主にとって,「明笛を吹く」なんぞという行為は,ゼロからの出発どころかマイナス地点,日本海溝あるいはルルイエからの脱出にほかなりませんでした。(弩泣)

  およそ一年あまり,筒ッぽの穴めがけて息を吹きかけ続け,酸欠で倒れること数十度。
  はじめて 「ぺひょ~」 と音らしいモノが鳴ったとき,ナミダで青空が見えなくなったことのある庵主では,コトバでうまく説明できませんが----




  だいたいこんな感じでやると,もしかして出るんじゃないかと。(w)
  (画像はクリックで拡大)


  指孔はぜんぶふさいじゃうのより,右手がわの1・2孔くらい開いておいたほうが,最初は音が出しやすいですね。

  まあ庵主みたいに,どれほど不得手なニンゲンでも,一年も息を吹き込み続ければ 「ぷひょ~」 とか 「ぺひゃ~」 みたいな感じには鳴ると思うので,あとは気長に試してくんな。とにかく音が出るようになれば,この楽器,そんなに難しくはありません。(まだ大して吹けもんクセに…)


  音が出るようになったら,つぎは音階ですね。

  明笛は指孔をぜんぶふさいだ音,「全閉鎖」の音が工尺譜でいう「合(ホー)」の音となります。
  古い明笛は,この音がだいたい 「Bb~B」,大正期あたりに作られたものは 「C」 のものが多いようですね。

歌口響孔左手右手工尺譜西洋音階
(C)
西洋音階
(B)
●●●●●●b
●●●●●○
●●●●○○#
●●●○●○b
●●○○●○
●○○○●○
○●○○●○b
○:ひらく孔 / ●:指でふさぐ孔


  くらいの感じです。
  明笛のレポートにも書いたとおり,庵主が明笛はじめたのは,この「音階」を調べるため。まだ調査中ですんで,対応してる西洋音階はまあ大体のところ。笛によってはもっとハズれてたりもしますので,あまり信用しないでね。

  とにかく大事なのは,「明笛」ってのは月琴では出せない工尺譜の「合・四・乙(低い)」の音が出せる楽器だ,ってとこですね。


  笛と合奏する場合,音合せで,月琴はまずこれの 「上」 の音に,低音弦を合わせます。つづいて高音弦----本ではコレ 「○ ■ ●●● ●●●(合)」 の 「甲音(カンオン)」 を使う,ということになってます。
  しかしながらこの 「甲音」,初心者にはなかなかうまく出せません。(^_^;)
  音が出た,ドレミも吹けたとなって次に待ち構えてる難関が,この 「甲音」 ですねえ。

(注)ふつうに吹いて出る音を 「呂音」(リョオン-乙音「オツオン」ともいう),指遣いは同じで「息を強く吹き込んで」出すオクターブ上の高音を 「甲音」 と言います。ホレ,きーきー声を 「甲高い(かんだかい)」 なんて言うでしょうが? あの「カン」ですよん。


  本には 「高音を出す時は息を強く」 とかって書いてあるので,庵主,顔を真っ赤にして,レンガの家を吹き飛ばさんとするオオカミさながら,ぶーぶーやってはぶッ倒れてた時期もありましたが,ちッとも出やしねえ。
  篠笛やってる御仁が 「これこれ,そうじゃない。ちょと唇をすぼめるようにしてみな。」 と教えてくれたんで,今はようやく少し出るようになりましたね。


  単に 「強く吹き込む」 んじゃなくて,息を 「集束して(歌口に)強く当てる」 って言うのが正しい!

  こりゃ笛吹きども,日本語は正しく使え!


  ま,それはともかく。
  音合せにおいて 「○ ■ ●●● ●●●」 の「甲音」だと音が安定しないときは,呂音---ふつうの息遣いのままで

   ○ ■ ○●● ●●●

という運指を試してみてください。多くの笛ではこれで筒音のオクターブ上が出るようになってます。工尺譜でいうと 「六」 の音,月琴の高音弦の音になるはずです。
  あと「尺」まではだいたいふつうに出るけど,「工」「凡」が安定しない時は,これと同様に右手の孔をぜんぶふさいで,

  ○ ■ ●○○ ●●● 工
  ○ ■ ○●○ ●●● 凡

  としたほうがいい場合もあります。
  (注) ただし笛によっては,音が半音ぐらい高くなっちゃうこともあります。

  笛のドレミ(工尺譜だと上尺工ですが)が出せるようになったら,いよいよ曲に挑戦ですよね!



  清楽の合奏における明笛の役割は主に 「低音パートの演奏」です。
  「月琴の弾き方」とか「工尺譜の読み方」の記事のなかで,「月琴では(工尺譜の)合・四は,1オクターブ上の六・五で弾く」 って何度か書きましたよね。
  月琴の最低音は「上」ですから,そこより低い「合・四」の音はナイ,ので代わりに,オクターブ上の「六・五」の音で弾くしかナイわけですね。これに対して明笛の最低音は「合」ですから,とうぜん「合・四」は 工尺譜のとおり低い音 で 「六・五」はその1オクターブ上 の音で吹くことになります,が。

  明笛にも月琴と同じような符号読み替えのキマリがあります。
  まずは工尺譜を,まあ「九連環」ですね。(画像はクリックで拡大)


  2・3行目に,合・四にはさまれて 「仩」(上の1オクターブ高い音)がありますよね。
  この部分を,例えばそのままMIDIで組んでみると,イキナリどえりゃあアがッたりサがッたり,すンごい気持ちの悪いメロディになります。また実際に笛で吹いてみると分かるんですが,呂音の息遣いで合・四の低音を出した直後に 「仩」 とか 「伬」 の音を出す,ってのはなかなか難しいものです。
  逆に「仩」や「伬」が「六・五」に隣り合わせてある場合は,「六・五」がすでに甲音なので,息遣いはそのまま,運指だけ変えればいいので,さほど難しくはありません。

  呂音からいきなり甲音ってのは,練習すればもちろん出ないわけではありませんが,その場合もチューナーで測ってみると,1オクターブきちんと高くはなってないことのほうが多いですね。演奏もきわめて大変で,不自然なものとなりやすいです。
  どッかの国の古代の呪術音楽や,日本の雅楽なんやらならこれでもいいんでしょうが,中国の民間音楽や伝承音楽が,そんなに気持ち悪いシロモノでないことは,十二楽坊あたりのCDでも聞けば容易に気がつくはずですね。

  前にも書いたように「工尺譜」ってのは,きわめて合理的な「総譜(オールスコア)」です。

  複数の異なる楽器の奏者が,同じ一枚の紙,同じ一行の文字列を見ながら,それぞれのパートをふつうに弾けるようになってます。
  なので月琴の奏者が「合・四」を「六・五」に置き換えて弾くのと同じように,明笛の奏者は「合・四」にはさまれた,もしくは隣り合わせた高音を,甲音ではなく呂音----オクターブ低い音で演奏しましょう。

  上の譜で言うと,2行目の 「合合四仩仩合四。」 を,月琴は 六六五仩仩六五。」 で弾きますが,明笛は 「合合四上上合四。」 で吹く,というわけですね。

  月琴の場合と違ってこれは本には書いてないことなんですが,楽器の性能から考えても(カンタンに言うと,そッちのほうが吹くのがラク),またそうしたほうがより「ちゃんとした」アンサンブルとして聞こえること,また同じ曲の楽譜で流派によって「合・四」が「六・五」になっていたりする,その違いの説明にもなります。(注) たぶん,昔のヒトにとっては言わずもがな,なことだったンじゃないのかな----まあ,庵主の間違いだったとしても,そのほうがずッとマシに聞こえますから,とりあえずはそうしといてください。

  吹くのに慣れて,いちど工尺譜の音階どおりに吹いてみれば,イヤでも分かるとも思いますし。
  ではでは。

(つづく)

(注) 「合・四/六・五の書き分け」については,明治時代の『音楽雑誌』などでも「質問コーナー」みたいなところで取り沙汰されてますが,当時の識者の答えは「合・四/六・五の書き分けに,それほどの理由はない」ってとこでした。現在の研究者さんたちも同じように考えている人が多く,「記譜者の個人的な嗜好」みたいなのが定説になってます。これは「明清楽の演奏はすべての楽器がユニゾン」という,音楽辞典などにある誤った決め付けがあることも一因ですが,実際にはまあ,誰もちゃんと考えたことがない,というのが正直なところでしょうか。
  庵主はこれを,基本的には流派や伝系の違いによるアレンジの差だと考えています。たとえば明笛が専門の先生なら「合・四」が多くなるでしょうし,月琴が得意な先生なら「合・四」の代わりに「六・五」で記譜することが多くなるでしょう。また多くさまざまな楽器が扱えた人なら「ここは明笛の低音で」とか「ここは高音そのままで」と,合奏時の効果を考えて書き分けたはず,そういう相違からくるものだと考えています。
  実際この「合・四/六・五」のアレンジの違いによって,譜本の伝系,すなわちは編者の流派が分かるような場合も多くあります。「たんなる嗜好」なんてものじゃなく,清楽の研究においては,けっこう大切な手がかりの一つだと,思うんですがね。


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