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月琴34号太華斎(4)

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斗酒庵 胴にどうする の巻2014.1~ 月琴34号 太華斎(4)

STEP4 わたしゃどうでも首がほしい

  さて「首なし月琴」34号太華斎,調査も終わりましたので,修理へと入りましょう。


  今回の場合,はじめからオリジナルがないので,本当にどんなクビだったかは分かりませんが,この時代の量産唐物月琴のクビ,というのはメーカーに関わらず,形状的にも寸法的にも,さほどの違いがございません,ハイ。

  このへんは同時代の国産月琴のほうが,ヴァリエーション豊かですな----なにせ,棹見れば誰の作品だか分かるくらいに,それぞれ個性的ですもの。


  そこでカタチはまあ,いままで修理した唐物月琴の資料から,平均的なとこをぬきだして,てげてげのものを作れば,まあそれほど間違いはないかと。すなわち----山口(トップナット)を乗せる部分にくびれはなく,指板の部分は上から下まで同じ幅。 指板部分の長さは 133mm。 糸倉は厚く,軸孔もやや大きめ(11>9mmくらい,国産では10>7mmほど)。 棹背はまっすぐか,浅いアールがつき,茎基部付近ではほぼ四角,糸倉との境目ははっきりしていて,「うなじ」の部分は平ら(庵主は「絶壁」って言ってますねw)……てとこでしょうか。

  どちらかと言いますと問題はその素材,ナニで作るか,なんですね。
  本格的な修理なら,当然,胴体と同じ「タガヤサン」で作るべきですが,庵主には,さすがにこの大きさの良材を買う資金もなければ,「鉄の刀の木」と書く,唐木最強の木材の,それだけ大きなカタマリを,棹の形にするだけの工具や気力もありません。

  ウサ琴やいままでの修理再製棹同様にカツラなど,安価で加工も容易な木で作って,これまたいつものように「染め」で誤魔化す,なんてのも考えましたし,誤魔化し通すだけの自信もあります。(w)そもそも何回も書いたように,月琴の音色はおもに胴体構造の出来と材質によって左右され,ネック部分の材質の違いは,音にさほどの影響を与えないということを,庵主はいままでの修理や,ウサ琴の実験製作によって感得してきましたしね。

  ま,言っちゃえば棹の部分は,カタチとしてちゃんと機能するものになっていれば,多少材料がアレでも,少しばかり加工がナニでも構わない,のではあります,が…庵主,今回は,あえて「唐木」でまいります!

  リアルに貧乏人の庵主が,「高価な」はずの唐木で,いかにして棹をデッチあげるのか。斗酒庵流,超安値な唐木再製棹。合言葉は世界の日本語「MOTTINAI!」です----さあ,そはいかなるものなるや!?


  まず材料です。
  基本はいつもの3Pネックなんですが……

  まず左右の部材には,紫檀の薄板を使います。
  銘木屋さんから出た端材で,ウサ琴の指板にでもしようと思ってもらってきたヤツっすね。 表面を均していない粗材状態の板で,厚さは4ミリちょっとほどです。
  月琴の糸倉の左右部分の厚さは8~10ミリくらいですので,これ1枚ではとうぜん薄すぎますね----で,これを2枚へっつけて,1枚の板にして使おうと思います。
  中心材は黒檀,サイズ的にはぴったし15ミリの幅の材ですが,大きく斜めに割レが入ってて,樹脂で充填してある半端モノ。さすがに使えないんで切り落とされた部分ですね。これも銘木屋さんでもらったもの。

  いずれの材料も,材質的また寸法的にいろいろ問題はありますが,そのへんはウデとケーケンと「現代科学」でカバーしましょう。(w)

  まずは紫檀の薄板から,棹の形をしたものを切り出します。
  うむ,板1枚から4枚とるつもりだったんですが,わずかに大きさが足らず。どう木取りしてもフルサイズのものは2枚しかとれません。
  まあヨシ----いちばん外がわになる2枚を抜いて,残りで糸倉から棹のあたりまでの部品を2枚と,指板に使う四角い板を一枚。棹部の足りない部分には,前に指板に使いそこねたタガヤサンの板をはさみこみましょう。

  中心材の黒檀も,そのままで幅はバッチリなんですが,「うなじ」の部分だけ高さが足りませんので,同じ材から切り取ったピースを一部継ぎ合わせて使います。

  部材同士の接着はエポキにします。

  タガヤサンなんかその代表格ですが,黒檀にせよ紫檀にせよ,唐木の類は硬くて水含みも悪く,いつものニカワだと,なかなかその後の加工を安心して出来るほど,頑丈に接着することは難しいんですね。
  ただし,エポキにはニカワのような浸透性がありませんので,接着面は#120ぐらいのペーパーで,わざと少し荒れた状態にして,食いつきをよくしておきましょう。

  接着面への塗布はまんべんなく,そして量はごくごく薄く。接着剤の層がなるべくできないように,ってあたりは,ふだんのニカワによる接着とまったく同じです。

  よく怪しげなアンティーク屋なんかで売ってる,今出来の中国製「骨董」家具でも,同じような寄木細工ででっちあげられた「総黒檀製」や「総紫檀製」の商品を見かけますが,たいていはこうした接着の工程が雑なため,部材の継ぎ目に樹脂系の「接着剤の層」がくっきり見えちゃったりしてますね。

  せめてああはならんように,気をつけることといたしましょう。(笑)


  一度きにやろうとすると,圧をかけたとき,エポキがヌルってどうしても部材同士がズレちゃいますんで,接着作業には数日かけて,部品ごと,段階的にやっていきました。 まずおのおの3枚の板で構成される左右の部分と,中心材になる2つの部材をそれぞれ組み合わせて3コの部品にし,つぎにそれらをさらに組み合わせ,最後に指板を接着----総計10コもの部品を組み合わせ,棹の素体が出来あがりました。


  この四角い物体を,晴天の一日,外に持ち出して,公園のテーブルで削りまくります。
  それやれ削れ!ゴリゴリゴリ!!

  うむ,さすがは現代科学(エポキ)…けっこう荒っぽい作業だったんですが,問題はまったくありません。部材同士は強固にへっついて,あたかもはじめから一個の材料だったみたいです。
  しかしまあ,10枚もの部品を寄せ集めて作ったカタマリなのに,さすがに唐木----やっぱカタいなあ。(汗)

  ほぼ半日のゴリゴリ作業。
  うむ,出来ました。


  出来た棹の表面を磨きます。
  このへんもまたさすがに唐木,ちょいと番手をあげて磨いただけでツヤが出てきました。
  とりあえず#400まで磨いたところで,棹茎を接着。さすがにここは,新品の米栂材です(w)。

  うむ,出来ちゃうもんですねえ。(w)


  (左全景画像,クリックで拡大)
  続いて「誤魔化し」に入ります。(笑)中心材の黒檀の部分をスオウで染め,重曹で赤く発色させてから,仕上げに全体を,日本リノキシンさん謹製,ウサ琴用に作ってもらったダークレッドのニスを,布でこすりこんで表面に含ませます。
  今回は部材の接着がエポキですんで,表面に保護のための塗膜を作る必要はありません。
  このニス塗りは,ほぼ艶出しのためですね。

  本当に,唐木の棹が出来ちゃいました----もらいものの端材や,使うつもりで使えなかった余り材で作ったので,材料費はほとんどかかってません。


  部材同士の擦り合わせもかなり丁寧にやりましたし,エポキも薄くしか使ってないんで,よく見ないと部材の継ぎ目も分からないくらいです。さらに加工中に出来たスキマやカケは,整形の時に出た木粉をエポキで練った特製の木糞パテで埋めたら,これもまたどこがどうなってたやら,ってくらいに塞がっちゃいましたしね。

  中央材が黒檀だし,タガヤサンで継いだ部分も模様になってるので,棹背部分を見ると,さすがに合成棹だと気づいちゃうとは思いますが,正面から見る限りにおいて,これに気づくことの出来る者は,まずおりますまい。(w)
(つづく)


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