« 月琴34号太華斎(1) | トップページ | 月琴34号太華斎(3) »

月琴34号太華斎(2)

G034_02.txt
斗酒庵 胴にどうする の巻2014.1~ 月琴34号 太華斎(2)

STEP2 どうのみぞどうするべきや


  今回この「首なし月琴」34号太華斎(胴体のみ)購入の主目的は,以前あつかった23号「茜丸」との比較,であります。

  前回テーマにしたように,太華斎の楽器には胴体表面の中央にラベルが貼られています。この手のメーカーラベルは,月琴ではふつう背面に貼られるもので,古渡り・国産をとおして,ここにこうしたラベルを貼ってある楽器はそう多くありません。
  23号茜丸の場合,ラベルの痕跡はくっきりと残っていたのですが,文字がまったくなくなっちゃってる状態で。庵主はその作者を,そのラベルの配置と工作から,「太華斎」ではなく茶亭の「老天華」だろう,と推定しました----とはいうものの,その時点では「太華斎」の実物に触れることができていたわけでもないので,ほぼ資料画像による比較,推測のみ,といったとこで不満が残っておりました。

  そこへ今回の次第。そもそも,ラベルは胴体に貼ってあるわけですし,工作の比較には棹が絶対無きゃならないわけでもありません----オマケにこの状態だと,ふつうは修理できるようなヒト以外入札れることもないから,まさに天恵 ( ̄ー ̄)ニヤーリ。

  さて,ではその結果ですが-----

  あ,こりゃ違うわ!
  ラベルの配置はたしかに似てますが,23号と,全然ちゃいます!!
  大っきい…それにお飾りも本体も少し粗いですね,工作が。

  梱包を解いてほぼ数秒でケツロンに達してしまいましたが(w)。
  細かな相違箇所は,それぞれの項目で書いてゆくとして。

  23号の記事とともに比較しながら読まれると面白いかも。
  ではまず採寸から----

月琴34号太華斎

   全長:棹がないので分かりません(w)
   胴径:縦 353,横 355
   胴厚:36 (うち表裏面板・厚4ミリ)

  実際には,23号の胴体(φ353)とほぼ同じですね。わずかに厚みがあるくらいですが,何でしょう----目摂等の配置の差なのか,工作か板の木目の影響なのか,見た感じは大きく見えますね。


  ■表面板

  表面が白っぽい汚れで覆われているため判然としないが,一枚板ではない。3~4枚の板を矧いだものか?
  向かって右側に裂割レ数箇所。最大で2ミリほど開く。貫通しているものはないが,3~4本の裂け目が断続的に天地に走っている。
  もっとも左の裂け目から右は別板で,かなり板目がうねった景色のあるもの。いかにも暴れそうな板で,おそらくこの板の収縮が,裂け割れの原因の一つであろうと推測される。
  裂け割れ部分の中心あたりに虫食い孔,おそらく内桁の接着箇所を狙ったもの。

  中央ラベルの中心に虫食い。食害痕は複雑だが溝は浅く,ごくせまい。
  左裂割レの上端から左,棹孔のあたりまで面板周縁剥離
  左裂割レ下端から左右に剥離,左方向は半月の左端直下あたりまで広く剥離。




【コーナー1:ラベルの比較】

  さて,じっさいに実物を,見てみて触ってみて。
  庵主の経験と記憶は,今回の楽器と,23号の作者の違いを直感しておりますが。それがカンだけでないことを,ナニヤラ立証していかなければなりますまい。
  ほかにあまり例のないラベルの配置,表面中央にあるラベルの存在が「23号」と「太華斎」をつなぐ共通点の一つであるということは,すでに触れたとおり。
  しかし,詳細に見てみると----


  23号のラベル痕は上下が波打ったようになっています。しかし,「太華斎」のラベルは,上端左右を落としているだけでほぼ四角,上下の線は真っ直ぐです。
  もちろん23号のはハガれた際にそうなったもの,と考えられなくもないのですが,上下の線の曲がり方はほぼ左右対称で,その輪郭は意図的に何らかの形状を示していたものと考えられます。


  太華斎のラベルの内側は「巻物」を模したデザインになっていますが,「老天華」のラベルは,このように----
  輪郭が巻物そのままのカタチになっているんですね。
  うむ……しかし改めて比べてみると,これも23号のラベルの輪郭とは合わないですよね。
  あえて言うなら,太華斎のラベルから,巻物の輪郭に沿って外がわの余分を切り取ったらいちばん近いかも………

  あ~けっきょく「ふりだしに戻る」かなあ,また。(^_^;)



【コーナー2:面板について】

  前に「唐物月琴」の特徴として「面板が一枚板である」ということを書きましたが,その後の調査で,中国製の古渡り月琴でも矧ぎ板が使われていることが分かってきました。


  真正に「古渡り」と言えるような古い楽器,または高級品ではやっぱり一枚板が多いんですが,1800年代の後半,二代三代目の天華斎が,海外へも盛んに販路を広げたころの量産楽器では,ふつうに矧ぎ継いだ板が使われていたようですね。
  ただ,国産月琴では面板に柾目の板が多用され,小板の枚数も10枚を越すものがふつうだったのに対して,中国の楽器では,景色のある板目の板や,木理のはっきりとしない柔らかめの板が多く,小板の枚数も少なかった(4~5枚)ようです。
  これも前に書いたと思いますが,中国の月琴で表裏が一枚板のものが多かったのは,日本の楽器店にとっては,大きな桐材があれば,月琴の面板を作るより,お箏を作ったほうが利益率が高かったのに対して,中国の,とくに福州あたりの楽器屋にとっては,輸出用の月琴のほかに,とくに対比されるような利益のある楽器や器具がなかったためだと考えています。


  さらに日本の場合,桐材・桐板の流通は,木材のそれとちょっと違っているので,量産を主とする楽器屋などでは,桐を専門に扱う「桐屋」が作った板を購入して,そのまま使うことが多かったのも一つの理由かもしれません。月琴は利益の薄い楽器だったので,利潤を出そうと思えばたくさん作らなければなりません。当然,材料として購入する桐板も,小板を多数継いだ安価なものへと流れることになります。
  明治の後半,月琴の面板が板目から柾目になっていたのには,「柾目のほうが音の伝導が良い」といった科学的な理由よりもむしろ,柾目のほうが安い矧ぎ板が作りやすい,すなわち材料費をおさえたいという楽器店がわの経済的理由のほうが,強く働いていたのではないかと,庵主は考えています。
  中国の場合も 輸出したら売れたので>量産した>材料が減って>質が悪くなった とまあ似たようなものですが。単純に一枚板が手に入りにくくなってきたので,矧ぎ板になったのだと思いますね。それでも板目の板に固執するあたり,こだわるところの違いがなんとなく「日中文化差」って感じはしますねえ。(笑)





  ■フレット:竹製5本完備。

  晒し竹を染めたもの,煤竹ではない。表皮を弦のがわに向けて作られた中国楽器式のフレット。

  フレット形状の違いについては拙記事 「月琴のフレットの作り方(1)~(3)」 参照。この型は肉厚の竹でないと出来ないので,国産の倣製月琴(唐物を真似て作られた楽器,贋物)を見分ける時の,手がかりポイントの一つになっています。

  ■目摂・扇飾り・柱間飾り

  目摂は鳳凰(正確には鸞)。厚 4.5。おそらく桐板を彫って染めたもの,かなり赤っぽく,染料はスオウではない。損傷ナシ。
  扇飾りは万帯唐草。材質はおそらく目摂と同じ。同じ染料にて染められている。損傷ナシ。
  柱間飾りはいづれも桃または仏手柑と思われる果実。4つともに損傷ナシ。

  木製のお飾りの染めはスオウではありませんね。
  スオウの赤もしくは紫染めとは,色合いがかなり違ってます----何だろう?
  阿仙にしては赤すぎるし…ドラゴンズブラッド(麒麟血)かもしれませんが,今のところ不明。

  柱間飾りがすべてみな同じ意匠になってるのは,19世紀末の量産唐物月琴でよく見る特徴。
  以前修理した「清音斎」なんかもそうでしたね。
  そのころのになると,国産の倣製月琴のほうがやたらと凝った装飾をつけたりしてますね。
  もっとも,やりすぎてかえって失敗している例も多いんですが。(w)



  ベトナムの長棹月琴では棹の柱間に8人の神様が象嵌されます。(そのため柱の位置は勝手に動かせない)
  唐物月琴の飾りも,おそらくもともとは「八仙人」なり「八吉祥」なり,一連になった八つのお目出度いものをあらわす意匠であったと考えられます。石榴,仙桃,仏手柑,花といった意匠のほかに,蝴蝶,蝙蝠,魚,花籃,瓢箪などがついていた例もけっこうあります。
  もともと意味があってつけてたものですから,いくら「立派に見えるから」と言って,そういうところから逸脱したような意味のない装飾をつけてたら,中国製じゃない----ニセモノだってバレバレになっちゃうわけですね。


  ■バチ皮:ニシキヘビの皮,93×63。

  鱗片がかなり大型なので,ほかの楽器に使った端材かと思われる。やや厚め。保存状態は比較的良く,右下端にわずかなカケがあるほかは接着のウキも見えない。

  ■半月:99×38×h.(最大)9.5。

  素材は不明,半分に切った木の葉型,曲面で,表面に蓮華と唐草を浮彫り。
  糸孔周りに骨もしくは象牙の円盤を埋め込んである。外弦間:29,内弦間:22。高音側内弦の円盤にカケ。


  さて今回は,余計なことイロイロと盛り込んじゃったんで,途中ですがここまで!
  観察と計測は,まだちょっと続きます。

(つづく)


« 月琴34号太華斎(1) | トップページ | 月琴34号太華斎(3) »