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月琴34号太華斎(3)

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斗酒庵 胴にどうする の巻2014.1~ 月琴34号 太華斎(3)

STEP3 どうだけどうでどうもない

  観察と所見,続きまーす。


  ■胴側部

  材質はおそらくタガヤサン。棹孔の部分で厚みが5ミリ程度,接合部付近では3ミリ程度しかない。きわめて薄く加工されている。
  黒っぽい染料で表面的に染められているように見えるが,地の側板のみやや色が薄く,タガヤ本来の色が出ていることから,その部分以外は立てた状態での保存時に。染色剤が変色したものである可能性が高い。

  天の側板棹孔 27×16。加工やや粗く,周縁がすこしガタガタ。
  地の側板中央に節目,やや大きいが影響はないようだ。
  楽器表面に向かって右上の接合部に小歪み,左下接合部に小カケがあるものの,接合はおおむね健全。


  ■裏面板

  表面板と違って目立った損傷はない。汚れもほとんど付着しておらず,ほとんど当初色といった良好な保存状態である。
  4~5枚の小板を継いだ矧ぎ板で出来ており,表面板と比べると木目等の合わせもさほど考慮されていない。

  左右下部に節目,中央下に木目に由来すると思われる表面的な小荒レ
  上端中央,棹孔のあたりに小墨書。
  向かって左肩にラベル:「太華斎 琴舗」,58×25。右上角に小カケあるも保存状態良し。ラベル真下に節目あり。
  左下にもう一枚ラベル断片:内容・原寸ともに不明。枠とおもわれるメアンドロス紋が見える。

  向かって右がわ,胴を時計として1時から5時のあたりまで面板完全に剥離。部材の収縮で,右の側板との間に食い違い段差が出来ている。
  向かって左肩接合部に歪み,天の側板の端が少し飛び出ている。




  「裏板のラベルの真下に丸い節目や節穴がある」という事態は,実はこれがはじめてではありません。
  前は,板にたまたまあった節穴をラベルで隠したのだろう,と思っていたんですが----どうやらコレ,何か意味か由来があってワザとやってることのようですね。
  いまのところ,思いつく理由もありませんし,そういう縁起かつぎも知りませんのでなんとも言えませんが,過去にうちで修理した唐物系の楽器のほとんどが同じようなことになってますから,何かあるのは間違いないでしょう。


  もう一枚のラベルはもっとナゾですねえ。(w)
  似たものの貼りついてた例がほかにないので,今のところなんとも言えませんが。ただこれ,オリジナル(製造元)のラベルではないような気がします。印刷や紙質がほかのラベルと違ってますし,その断片の残りかたも「自然にハガれた」というよりは「破ってハガした」というような感じになっています。

  値札,だったんじゃないかなあ。




  中央上端,棹孔のあたりの面板の縁に小さな墨書があります。
  同じような墨書は,玉華斎や清音斎でもありまして,庵主,ずっとこれは製作者の署名か「花押」のようなものだろうと思ってたんですが,FBでちょっと尋ねてみたところ,中国のかたから。

  「 "碼字" じゃないか?」

  とのご指摘をただきました----なるほど 「蘇州号碼」 か!
  最近はあまり使われなくなったとのことで,庵主もすっからかんと忘れてたんですが。(^_^;)
  「碼字」「号碼」 というのは,中国南方で商売上使われる符牒というか符号というか,速記用の数字みたいなものでして。庵主も南のほうの市場なんかで,値札に書いてあるのを見たことがありますね。


  書き方とか詳細は Wikiさんあたりを参照していただくとして,(右画像・クリックで拡大)棒線が2本に 「メ」 が1つ……今回の 「太華斎」(右下)と14号 「玉華斎」(左上)のは同じですね。これは10の位が2,1の位が4の「24」を表わします。清音斎の(左下)は10の位が4,1の位は「8」みたいな記号で「5」かな。

  商売上の記号なもので,さいしょは値段かな,とも思ったんですが。 同じものが,表から見えない棹茎などにも記されているので,おそらくは組み立てのための合わせ番号だと思われます。


  そうすると……23号茜丸(右上)だけ,「上拾二」とふつうの漢字なのがちょと不思議ですね………
  もしかするとアレ,よく出来た倣製楽器だったのかもせん。(汗)

  こんな小さな記号からも,新たに出てくる答えや疑問があるのですねえ。



  ■内部構造

  内部全体,やや汚れひどい。表面同様に白っぽいホコリで覆われている。墨書等はナシ。
  表裏とも内桁と面板の接着がかなりの割合でとんでおり,裏板がわには少し荒く,ちぎれたようになっている箇所もある。

 内桁:1枚。材は桐,厚さ5~7ミリ。中央に棹茎の受け孔 20×7。楽器表板に向かって右端に木の葉型の孔,長6センチほど。
 響き線:曲1本。楽器表板に向かって右肩,棹孔のすぐ横に基部。直挿し。内桁右の孔をくぐって,棹孔の直下あたりまで,胴内をほぼ半周する。太さ0.7~8ミリほど,表面に錆び多少浮くも,ほぼ健全で反応も悪くはない。


  今回は棹孔のほかに,裏板が半分くらい表板もかなりの範囲でハガれてますので,内部構造の観察・測定は比較的ラク。最初から,ほとんどの部分をちゃんと見ることが出来ました。
  側部の簡見でも書いたように,この楽器の側板はきわめて薄くて,最大でも5ミリていどの厚みしかないのですが。木がまあ「唐木最強」 のタガヤサンですので,これでも強度的にはさほど問題はありません。
  ただ,今回面板の剥離が多い原因のひとつは,素材のタガヤサンがもともと接着難しい材であることに加えてこの薄さ,すなわち「ノリシロ」がごくせまい,ということもありましょう。

  再接着の際にはちょと気をつけなきゃですね。

  内桁はなんと,その薄い側板にわずかに溝を彫って組み入れてます。

  上にも書いたとおり,タガヤサンは接着しにくい木ですから,内桁の固定方法としてはこれしかないわけですが,まあかなり,ギリギリな工作ですねえ。(^_^;)



  さてでは,今回のフィールドノートをどうぞ。(クリックで拡大)



  「ネックがない」というのは,たしかに楽器の損傷としては大した事態で,欠損部品の%からしてもかなりなものではありますが----


  最初に書いたように,この月琴という楽器の音色はほとんど「胴体の出来」によって決まるものですし,34号「太華斎」,その胴体は,23号や玉華斎に比べると工作がやや粗いものの,作りや素材は,けして悪くはありません
  表板がひどく汚れていることもあって,一見かなり手ひどく壊れているように見受けられますが,だいたいの要修理箇所は,放置された結果 「壊れるべきところが自然に壊れた」 といった類が多く,これでもまだ,ごく常識的なふつうの修理で,楽器としての再生がじゅうぶんに可能な状態であると思われます。

  ----ま,なにはともあれ,まずは「新しいクビ」作ってやらなきゃなりませんな。

  以前やった清音斎の修理では,もとが「棹と楽器の中心線がズレている」というスサまじい作りだったものの,修理した楽器のその音は想像以上に素晴らしく,唐物月琴の底力を見せつけられた気がしました。
  彼我比べたとき,工作の丁寧さや加工の緻密さでは,明治日本の職人技のほうがいくぶん優っているように思えるのですが,庵主がこないだの「太清堂」ぬるっとさんの修理で思い知ったように,楽器では,そうした高い「技術」が,必ずしもそのまま「音」に反映される,というものでもないようです。
  月琴という楽器の 「ツボ」 みたいなところをしっかりおさえてあれば,どれほど粗雑な加工・工作でも「いい音」が出る----そのあたりはあちらの職人さんのほうが,この楽器とのつきあいが日本人よりいくらか長かったぶん,多く心得ていたのかもしれません。

  清音斎とおなじく福州から来た楽器「太華斎」の音はどんなのか?
  いまから楽しみでありますね。

(つづく)


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