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月琴34号太華斎(5)

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斗酒庵 胴にどうする の巻2014.1~ 月琴34号 太華斎(5)

STEP5 どうにもならないときもある


  胴体の修理は,いつものようにお飾り類の除去から。
  玉華斎あたりでもそうだったんですが,唐物月琴のお飾りは,けっこう良質のニカワで,余計なほど頑丈にへっつけられてることが多いんです。

  心ある筋の通った職人さんは,お飾りの類にニカワべっとりなんて,そんな事はまずいたしません。33号松音斎なんか,最高にお手本的な例だと思いますが,目摂や扇飾りなんかは,ニカワを塗るのも「面」でなく「点」で数箇所。それでも接着自体が巧いので,通常の保存・演奏ではまずはずれませんが,水で濡らすとたちまちポロリ。松音斎みたいに二千本以上も月琴を作った人は,お飾りやフレットが,修理やメンテの時には,はずさなきゃならないものであることを,ちゃんと分かってらっしゃるんですね。
  では,中国の職人は「心ない」人たちだったのか?
  違います----前にも書きましたよね。現代中国の月琴にこうしたお飾りをつける習慣はほとんどないのに,清楽に使われた唐物月琴についていたのはなぜか?それはこれらの月琴が演奏楽器としてではなく「輸出用の装飾品」として作られたものであったからだ,と。
  お目出度い時の贈答用に使われた装飾品楽器が,それと知らない日本人など外国人に受け,高く売れるようになったので,その装飾をいくぶん簡略化して,装飾品と楽器の中間ぐらいのスタンスで量産された----それがこの太華斎のような「唐物月琴」だったわけです。
  楽器の構造から考えた場合,これらのお飾りは音の邪魔にこそなれ,見栄え以外の益は一つもありません。上にも書いたように,演奏を続けていればかならず必要となるメンテや修理のことを考えたなら,せめて「はずれやすく」接着するのが筋というものですが,「装飾品」となれば,話は違ってきます。それもお目出度いお祝いの贈答品ならどうです?飾っているうちにどこぞがポロリ……そりゃ不吉以外の何物でもありませんよね。ではどうするか?

  そりゃこうしますでしょ----ううう,はずれん!

  けっきょく1時間以上かかりました。
  最後まで残った右の目摂などは,けっきょく少々強引にひきはがしましたが,あまり時間をかけすぎると面板への負担が大きくなるのでしょうがありませぬ。目摂,扇飾りともに裏面ほぼ全面に,べっとりとニカワが塗られており,ぬるま湯で洗ってもなかなかとれないほどヌルヌルになってました。



  一晩乾燥させてから,いよいよ本格的な作業に突入----まずは表板からまいりましょう。
  まずは表面板の裂け割れ部分を除去,つづいて右端に残った部分もひっぺがしてしまいます。
調査のところで書いたように,この楽器の胴体側部は,最大でも厚さが5ミリほどしかありませんので,切り開いたところから指を入れて持ち上げたら,いとも簡単にベリベリとハガれてしまいました。

  これで楽器の内部構造,とくに響き線にアクセスできるようになりました。事前の観察で,少しサビが浮いていたものですから心配だったのですが,線本体,基部ともに健全でした。
  表面を軽く磨いてから,柿渋を塗布します。しばらくすると柿渋が鉄と反応して表面真っ黒になりますんで,布で拭き取ると,黒いモロモロといっしょにだいたいのサビが落ちます。ここで再び Shinex に柿渋染ませたので表面を軽く擦り,線の表面に保護膜を形成。乾いたところでラックニスを軽く刷いて完成。


  極薄とはいえ表面に塗膜をつけるんで,反応はわずかばかり鈍くなりますが,何度も書いているように,ここは月琴の音のイノチです。しかもそんな大切な部品でありながら,通常は外からアクセスの出来ない部分でもありますから,楽器の寿命を延ばすためにもこのくらいはしておいたほうが,後々のためというものです。


  響き線の処置が済んだところで,表面板の再接着を。
  このとき大切なのは,周縁部より内側,内桁との接着部です。
  内桁がきちんとついていないと,音も良くならないし,いくら周縁部を接着しても,湿度や温度変化による部材の収縮で,また簡単にどこかが壊れてしまったりもします。
  胴体が箱のままだと,棹孔から筆突っ込んでニカワを垂らすぐらいのことしかできませんが,裂け割れ部分の除去と響き線の手入れのため板の右側を切り開いてありますんで,内桁へのアクセスも今回は楽。この作業スペースから筆を差し込んで,内桁と面板の裏面にたっぷり水分とニカワを含ませておきます。周縁部の剥離箇所にもニカワを行き渡らせ,クランプで周縁部分を,ゴムをかけ当て木を噛ませて内桁を圧着します。



  一日ほど間を置いて,表面板の再接着がうまくいったのを確認したところで,裏面板の処置に入ります。
  裏板は表板と違って裂け割れもなく,汚れも酷くなくて,オリジナルの状態そのまま,良い保存状態なんですが,側板との剥離とその後の部材の収縮によって,向かって右がわの周縁,側板との接着部に段差が出来てしまっています。
  上にも書いたように,この楽器の側板は厚みが最大でも5ミリほどしかありませんので,このまま再接着しても段差ができるうえ「のりしろ」が狭すぎてまた剥離しかねません。そこで,中央に近いあたりの矧ぎ目からいったん切取り,あとでスペーサーを噛ませて再接着しようと思います。

  裏板はもともとキズのない状態だったので些かもったいないんですが(汗),どうせ直すなら直せるだけ直しておきましょう。
  作業部分の切除が終わったところで,こちらも残りの部分の剥離箇所を再接着しておきます。

(つづく)


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