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月琴34号太華斎(6)

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斗酒庵 胴にどうする の巻2014.1~ 月琴34号 太華斎(6)

STEP6 どうがんどんがらがちゃ

  月琴という楽器の胴体は,前後表裏の桐板で側板部分をサンドイッチ状態にすることで出来上がっています。
  側板は四枚の板を円形に並べただけのようなものですし,内桁の役割もどちらかといえば胴が左右にぶッつぶれないためのつっかえ棒のようなもの。
  胴体の形とその強度は,ほぼ表裏の板と側板部分との接着によって成り立っているといってよろしい。
  ゆえに,この楽器の修理の手順として,まず面板と側板の再接着を行うのは,簡単に言うと,修理の途中で楽器がバラバラになっちゃわないようにしてるんですね----何事も土台がしっかりしてないと,その後がイケません。


  表面板の切除部分をもどします。
  裂け割れしていた箇所は破棄して,新しい板をはさみました。
  まあ少し目立っちゃいますが,もともとかなりモロい部分だったようなので,オリジナルを割れ目を継いでもどしても,またすぐに割れてしまうでしょうから。
  元の幅より数ミリ広い板を切り出し,右端のオリジナル部分とともに再接着。
  ほんとのこと言いますと,この右端部分の板はいわゆる 「景色」 のためにつけられたもので,木目が複雑な,暴れやすい板ですので,楽器への負担を考えますとまるっと取替えてしまったほうがよろしいのですが。

  明治の国産月琴の面板は,やがて柾目の板が主流になってゆきますが,唐物月琴や初期の国産月琴では,お箏や琵琶と同様,木目が山や谷,雲海のように見える「景色のある」板目の板が使われています。玉華斎なんかがそうでしたし,国産月琴でも鶴寿堂あたりは,必ずといっていいほど,表板の真ん中のところに大きな山なりの木目を持ってきますし,うちのコウモリ月琴の表板なんかも板目です。
  明治の国産月琴が柾目に流れたのは,一つには西洋楽器の影響,他方では柾目のほうが木目あわせがラクなので,小板を数多く使った,より低コストの板を作れる,といった量産上の経済的理由もあったと考えられます。唐物月琴の場合,もとは板目の一枚板だったわけですが,この太華斎くらいの量産時期になりますと,みんなが同じように作るものだから材料が少なくなり,よほど高級な楽器じゃないとまるッと一枚単板で,というわけにはいかなくなったものと考えられます。

  どちらの場合も,理由としては同じように経済的なものではあるのですが,それでも柾目には流れず,こうした板目の板をなにがなんでもへっつけようというあたりに,日中職人の嗜好の差が見てとれる気がします。


  新作棹の微調整で内桁の棹孔との噛合いを確認しなきゃならなかった関係上,今回,裏板をふさぐのは最後の最後となり,実際の作業では間があいてるんですが,続けて裏板の再接着も紹介しちゃいましょう。
  こちらも右端の側板との段差を解消するため,そのままもどすのではなく,間に幅5ミリほどのスペーサーを噛ませて再接着です。


  いちどはずして再接着した箇所は,いずれも縁のほうが側板から出っ張ってるんで,板の厚みの幅の紙ヤスリを角材に貼ったのでこれを削って,側板と面一に戻します。

  表裏どちらにはさめた板も,場所が中央に近いところだったのと。この楽器の面板は厚みの最大と最小の差が大きい(要するにかなり凸凹)ため,長くてやや厚みのある板でなければならず,どちらもいつもの古材ではなく,新品の板から切り出しました。
  裏板のほうのはもともと幅もせまいのでさほど気になりませんが,表面板にはさみこんだ板が,いくぶん木の質や木目が周りと合わず,「完全に目立たないように」は正直出来ませんでしたが,まあ10年もすれば目立たなくなるとは思います(^_^;)。


  今回は棹の材料が硬い唐木(一応…寄木細工だけど w)ですんで,軸(糸巻き)はひさしぶりにスダジイを削ります。 オリジナルは唐木かツゲでしょうが,硬さでは負けませんからね。長さは12センチ,ふだんの国産月琴より5ミリほど長めです。


  ただ,¥100均屋さんがいつも材料に使っていたスダジイの丸棒の取扱いをやめちゃったんで,3本はうちに残ってた素体で,残りの1本は同じ¥100均屋さんで買ってきた「すりこぎ」を使って作りました。同じ材料で出来てるものだと,麺棒のほうが長さ36センチあって,長さ的には3本ぶん取れてお得だったんですが,すでにあった素体より直径がいくぶん小さかったので,今回はこの選択となりました。
  まあ¥100で糸巻き1本,てのは一般の邦楽器の修理代考えると冗談みたいなものなので,ぜんぜん構わないンですが。(w)
  基本はいつもの六角一溝の軸ですが,溝を深く切り角を丸めて,唐物と古式月琴に多い六角丸軸にします。
  スオウを少し混ぜて赤味をつけたヤシャ液で染めて,油磨き。先端には柿渋もふくませます。


  新しい棹が出来て,糸巻きも削りました。これであとは山口(サンコウ/トップナット)があれば,胴だけだったこの物体が,いよいよ楽器として音が出せる状態になるわけですね。

  棹がなかったわけですから,山口もなかったわけで。(w)オリジナルの寸法や形状についてはよく分かりませんが,同じ作者の他の楽器,また同時代の他の作者の楽器から見るに,おそらくはやや背の高い富士山型だったと思われます。


  新作の棹は唐物月琴ということで,背面への傾きを,いつもよりやや深めにとってあります。以前の修理楽器のデーターにこのへんも考慮して,今回の山口は背の高さを12ミリと決め,材料から切り出しました。

  今回の材料も国産のツゲ。以前,琵琶屋さんからもらった端材です。ひとつ前のKS月琴の修理でも使いましたが,きめが細かいのでちょっと磨いただけでキレイになる,じつに美しい木なんですよね~。


  棹がなかったわけですから,蓮頭もなかったわけで。(w)
  ここくらいは遊ばせてもらいましょうか----今回の蓮頭の意匠はコレです。

  北京とかでむかし,中秋節に飾ったウサギのお人形。
  「兎兒爺(とぅるぃえ)」と言います。
  ながーいお耳を外枠にして,コウモリさんも2匹つけましょう。
  月に関わるウサギ界のスーパースター,ウサ神様ですからね。
  この楽器を永く護り給え,鶴亀兎がぴょんぴょんぴょん。



  この楽器----というか「胴体」。
  清音斎と同じように,中心線の出しかたが至極テキトウだったようで,たぶん棹孔の位置が,中心線から見て右に1ミリちょっとズレちゃってたようなンですね。ヽ(゚Д゚)ノワァ こちらはそんなこと思いもせず,棹は国産月琴レベルで律儀に「真っ直ぐ」作っちゃいましたんで,そのまま挿すと棹が右寄りになって,糸を張ったときのバランスが悪い。(上左画像)

  そんで棹位置および角度の微調整にいささか苦労し,基部と茎がちょいとスペーサーだらけとなってしまいましたが。(;´д`)トホホ…なんとか糸のコースを 「月琴としてはまあ許容範囲」 くらいのところ(上右画像)まで修整することが出来ました。
  いくら事前に観察・計測していても,こんなふうに,実際そこまで出来てみないと気づかないことはあるものですねえ。

  棹がなかったわけですから,棹の上のお飾りもなかったわけで。(w)
  これもまあ,作らなきゃなりませんわな。

  初期のころにはこの柱間のお飾りは,それぞれに意味を持った違う意匠のものが付けられていたようですが,唐物も量産となると上から下までおんなじ意匠で,まあ少しカタチを変えてるくらいのものが多くなります。清音斎でもそうでしたし,この楽器もおそらくはそうだったんでしょうが,この桃だか仏手柑だか石榴だか分からないヤツ,一個彫ったら飽きちゃったんで,残りは違う意匠にしようと思います----というわけで,お魚さんと蝴蝶を凍石で彫りました。


  ほんとはもう一つ,牡丹も彫ったんですが,けっきょくこれは使わず。
  と言いますのも,オリジナルでは胴体の上端,第4フレットの上に一つ飾りが付いていたんですが,新作棹がいくぶん長かったせいで(はははは……玉華斎に合わせ指板長133ミリで棹を作ったんですが,じつは清音斎と同じ126ミリだったもよう。これもこの段になって気がついた),胴体上のフレット位置が7ミリほどズレ,オリジナルのお飾りを一個貼り付けるスペースがなくなってしまいました。
  もともとせまい位置についていたものなので,西洋音階にフレットを立てたときの,第2・3フレット間にぴったりはまったんですね~いや~不幸中のさいわいというか,幸運にもなんとか誤魔化せたというか。(w)


  フレットはオリジナルと同じく竹です。
  唐物月琴ではけっこう高級なものでも,竹のフレットが使われてたりしますね。
  日本の月琴では逆に,けっこうな廉価品にも象牙つけちゃったりしてますが…正直,竹のほうが使い勝手も音も良い気がするんですけどね。

  唐物月琴のフレットは,第1から第3までががめっぽう高く,4フレット以降はガクンと低くなります。


  これはもともとこの楽器では低音部で bebung 奏法,すなわち弦のおしこみによるビブラート効果を多用していたところによるもの,と庵主は考えています。
  庵主はこの楽器の起源を,唐やら宋に流行った「阮咸」なぞでなく,西南少数民族がダンス音楽に使っていた楽器だったと推測しています。今もそうですが,彼らの舞曲では演奏者も踊りながら立奏します。この姿勢だと,現在の月琴のように,指を高速で動かしてメロディーを奏でるよりは,低音部のせまい音階,特定のコードの中で循環フレーズを弾き,チョーキング,ハンマリング,そしてこのbebung 奏法などでアクセントを出すほうが,演奏としてより実用的かつ効果的なんですね。


  やがて国産月琴などではフレット全体の背が低くなってゆきます。
  bebung が使えるくらい背が高いということは,逆に言うと音の安定が悪いということ。
  なんせ指の力を少し入れただけで,音が高くなっちゃいますもんね。
  すでに本来の音楽で使われなくなり,きまった曲を,きまった音階で奏でなきゃならなくなったために,フレットの背を低くして,音の安定を求めたわけです。

  経済じゃありませんが,すべての変化は需要と供給のなかで生じます。だからすべての変化には,それなりの原因と理由が必ずあります。一見たいしたことのなさそうな変化の中にも,潜るとけっこう深いことが出てくる,そんなことはどこにでもあるものなんですよ。

  さてこれで部品はそろいました!
  胴だけだった楽器に,新しい棹がつき,糸巻きがつき,蓮頭が,山口がつき……

  元の状態が状態だったので,オリジナルと同じ音で響くなぞとはとうてい考えもしませんが,いや逆に,それだけに----月琴34号太華斎,いったいどんな音色を奏でるか。

  じつに楽しみです。

(つづく)


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