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明笛について(16)

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斗酒庵 明笛を調べる の巻明笛・清笛-清楽の基本音階についての研究-(16) 明笛36号

STEP1 天から笛が降りましたぞえ


  さて,窮すれば通ずる,という言葉がありますが。
  今回の実験製作が始まってしばらくして,工房に一本の古い明笛がとどきました。
  ネオクで落とした明笛36号。
  頭尾のお飾りはなく,指孔のところバッキバキに割れてますが,管体だけでその長さ58.5センチ----間違いなく古いタイプの明笛ですね。

  このシリーズの第一回目で書いたように,庵主の手元にある,清楽に用いられた古いタイプの明笛の実物は,これまで31号しかありませんでした。
  実験製作を始めたのも,せめて文献から復元した楽器を使って,その比較対象としようと考えたからで,なんにせえ,いくら庵主がノラの研究者だとは言え 「たった一本の笛のデータ」 を基に,一時は全国で流行したような「清楽」という音楽分野の基本音階を語るなんてえことはやりかねます,ハイ。(w)

  実験製作も順調で,ここまでの過程だけでも,面白いことがあれこれと分かってきたと思ってますが。
  そこでこの2本目の古物明笛の到着。これぞまさしく天佑であります,ありがたや。

  かなり手ひどく壊れてますから,元通り音が出るところまで修理してやれるかどうかは分かりませんが,サイズ・寸法の詳細が得られるだけでもエラく助かります。なんせこれで,比較されるべきオリジナル・データが二倍になったわけですからね。
  古いタイプの清楽明笛の貴重な実物資料,ともあれ測定です。

  月琴と違い明笛の場合は形態が単純なので(まあ早い話ただの竹筒w),測定結果は図説にまとめたほうが分かりやすいですね。
  こまごまとは書きませんので,上画像をクリックで拡大してください。詳しい数値はそちらに。
  右画像は比較参照用,前回も載せた『清楽独習之友』の雛形(右)。現在製作中の自作明笛は,この文献上の寸法を基にしています。
  筒音を決める歌口-裏孔間は313ミリ,指孔の間隔はだいたい27ミリ,裏孔から第1孔までの間隔が40ミリ……うむ,窓ふたつ開いて比較してもらえると分かるんですが,36号,平面的な寸法は『清楽独習之友』の雛形にほぼぴったり符合しますな。
  ただかなり管が細いです。管尾のほうの内径がギリギリで約1センチ。
  材質は煤竹のようです。当初は染めたモノかな~と思ってたんですが,指孔のところの割れ目から見える断面の色が,染めた偽煤竹の色じゃなく本物の煤竹っぽい色でした。

  管頭部分は,31号よりさらに長いですね。
  さらにここ,空洞じゃなくって,中に何か詰まっています。
  もともとこの部分には,歌口のすぐ上のところに反射壁とするための和紙や新聞紙を丸めたのが詰め込まれますが,それは大体長さ1~3センチ程度のもので。それがこの36号では,管頭の端かなりギリギリのところまで何かが詰められております。開口部から内部をのぞくと何やら乾いた細かな繊維のカタマリが見えますね。前に買った「李朝花鳥横笛」の詰め物に似てるなあ。ワラや枯れ草の繊維を細かく細かく割いたようなものですね。
  見えてる部分はカサカサで軽そうですが,これはあくまでフタのようでして,謎の固く重たいものは,この奥に詰まっているようです。ハテサテ,ここになにか入れ込もうと考える人間が庵主以外にもいるとは思わなんだ。

  その「詰め物」のおかげで,この笛,やたらと重いのですね。吹く時のカウンターウェイトになってるのだとは思うんですが,ハイ,そのあたり実際のバランスなどは,直して吹いてみないと分かりませんね。

  内部は汚れまくり。ホコリが堆積していて塗りの具合も分かりません。そもそも塗ってあるのかどうか?
  何やらムシさんの巣だったようなカタマリや,繭の脱け殻みたいのまで一つならず見えますねえ。(^_^;)

  31号には 「乾隆乙卯(1780年)」 という年記が入っていましたが,こちらの笛には 「乾隆丙寅(1746年)」 と,またさらに古い年号が入ってます----アホたれ,こンなもん誰が信じるかい!(w) 理由・根拠はまあいくつもありますが,まずその筆頭は,ここに刻まれてる文句そのものです。管頭が 「清明時節雨紛紛…牧童遥指杏花邨」 指孔の左右が 「朝辞白帝彩雲間/千里江陵一日還」----

  ああイイねェ…杜牧 「清明」 に 李白 「早発白帝城」 かァ…なんて思ったそこのアナタは,ある意味,文人演奏家の資格ナシです。(www)
  前々世紀の文人ってヒトたちは,知識のゴンゲ。この手のことに関してはかなーりイヤミ(w)なんです。 こんな子供でも知ってる 「第一水準」 の漢詩 彫ったら,恥ずかしくって吹けやせンです。(w) しかもコレ,上の詩と下の詩に関連がない。単に有名な詩と,同じく有名な詩の一節をただ刻んだだけ----これはイタダケません,ダメ,ゼッタイ。 せめて上下を読んでしばらく考え,「…ああ。」 ( ̄ー ̄) ニヤーリ となるくらいのネタは,フツウに仕込んでくるんですよ,むかしの知識人てのは。

  次にその年記。そのこッ恥ずかしい杜牧「清明」に続けて 「乾隆丙寅年時唐菊月上浣日乃為/聚集唐古人〓 石生斎刻」 とあります。一字だけ読めませんでしたが,まず清朝の人なら 「唐菊月」「唐古人」 という言い方はしませんね。最大の理由は「そこを強調する必要が何もないから」,ですね。
  こりゃまあ,本物であることを強調しようとして,かえって失敗する。ヘタクソな詐欺師の実例ですな。
  江戸の職人さんなら,何か「ニセモノ」を作ろうってんでも,大抵は二ヒネりくらいは「見立て」を仕込んできます。 そりゃ一つには,そうしたほうがバレた時,粋な言い逃れが出来るからッてとこもあるんですが----このセンスのなさ----明治以降,薩摩とか長州属のおエラいさんが,どッか田舎から連れてきた職人さんあたりかなあ?(Dr.ヘンケン ww)

  以上のような理由(プッ)から,庵主はこれを唐物とも,年記どおりの古物ともモチロン考えず。
  明治期に日本で作られた明笛であろうと推測いたします。上にも書いたよう,唐物でなかろうことは上にもイヤミた通りですが,ほかたとえば清楽に手を出していたような江戸時代の知識層なら,清朝の知識層同様,まずこんな漢詩を彫った明笛は用いない,ということ。熊さん八つァんまで月琴に手ェ出してたような清楽の大流行期なら,これで逆に高く売れたでしょうねえ。(w) ただそれが明治半ばまでの早い時期のものなのか,逆に流行の盛りを過ぎてからのものなのかは,まだちょっと悩んでいます。

  さてこの笛を購入した最大の目的である寸法データの計測と収集は,修理前全景の画像にすべて書き込んでありますので,そちらをご覧ください。今までの例と比較して,寸法から推測されるこの笛の筒音は4Bですが,果たしてほんとにそう鳴るかどうかは不明です。またかなり手酷く割れてるので,修理が成功したとしても,完全に元通りの音が出るという保証はありません。まあそもそも,壊れる前の音を聞いているわけではないので,それが「元通りの音」なのかどうかすら分からないわけですが。(w)

  んではダメもとで修理に入ります。
  まずは割れている指孔の部分を,濡らして絞った新聞紙でくるみ,ラップをかけて半日ほど放置。


  水が滲みて,竹が少し柔らかくなったところで,パイプバンドで軽く締め付け,形を整えながら乾燥させます。
  一日ほど置くと,少し盛り上がってた割れ目が平らになり,幅もせまくなりました。

  昔ですとこれで割れ目をニカワで止めるか,ウルシを流し込んで接着,その後籐巻きして,ってとこでしょうが。
  現代には現代のやり方もあります。

  このごろよく使うなあ----と,お思いの方もいらっしゃるかもしれませんが,おなじみのエポキです。
  こいつの利点は,少量でも強力に接着されること,接着層が強固ながら弾力もあり,充填材としても使用できることですね。
  竹という素材は,繊維に沿ってだとたやすく割れちゃいますが,その硬さと強度は実のところ唐木なみなんです。割れた笛を,木工ボンドとかセメダインで何とかしようとした痕跡を何度か見てますが,大抵はまたすぐ,もしくは最初から失敗してますね。そのあたりの接着剤では竹の「力」や「硬さ」にはとても太刀打ちできません。


  エポキは2液タイプのを使います。庵主は硬化時間の長めの物が好きですが,まあ手先の素早さ等に自信がおありならなんでも良いでしょう。
  よく混ぜたエポキを,附属のヘラの代わりにクリヤーフォルダを切り刻んで作ったこの薄々ヘラに接着剤を取り,割れ目のスキマに差し込んではなすりつけるのを繰り返します。この方法だと,貫通している場合には,かなり狭い割れ目にでも接着剤を塗りこめますね。この接着剤は,接着面に確実についてさえいれば,多少幅が狭くともしっかりと接着されますから,この作業は硬化時間の許すかぎり,とにかく丁寧に,まんべんなく。
  とはいえ付けすぎはイケません。 「流し込む」 んじゃなく,あくまでも割れ目の破断面に 「塗りたくる」 感じで。 ニカワの接着で何べんも書いてきたように,木工における接着作業で最高の強度を得るためには,適量の接着剤とユルめの圧が最良なのです。 接着剤の量が少なければ着きが悪くてすぐハガれ,多ければ接着剤の層から割れ壊れる可能性が生じ,圧がゆるすぎれば着きが悪く,キツすぎれば材の余計なところに負担がかかって別の箇所が壊れたり,却って材の反発を招いてまた同じところから壊れたりということになります。
  破断面に接着剤がうまく行き渡ったら,再びパイプバンドでしめつけます。
  割れ目からにじゅるとハミる接着剤の具合を見ながら,上に書いたように接着に必要なていどの,適度の圧ってので---え,どのくらいかって?---聞かないでください。庵主にも答えられません。(w)

  用心のため二晩ほど置きます。
  その間に出来ることをやってしまいましょう。接着中なのは指孔部分なんで,笛の頭とお尻の部分には影響がありません。 頭尾の飾りを作ります。今回の材はツゲ。だいぶん以前に買い込んだ,薩摩琵琶のバチの端材ってのがまだけっこう残ってましたので,これを切り刻みなしょう。
  管頭のは,管に合うサイズの円柱を作って,その一方を凹に刳ります。管尾のほうは,サイコロ状の角材段階でまず真ん中にドリルで孔を貫通,リーマーとかヤスリで広げながら接合部とフィッティングします。うまくハマったところで外がわを削り,整形して完成。ツゲは目が細かいので,かなりの薄物でもこのとおり,何とかなりますね。

  養生終えて,パイプバンドをはずし,ハミでたエポキをこそげ落します。
  庵主はこの作業,深澤ヤスリさん特製の四面ヤスリの細かいほうでやりますが,ヤスリはごく軽く当てて,竹の繊維に対し必ず垂直に,一方向にしか動かしてはなりません。ゴシゴシ往復させると,余計なとこまで削れちゃったり,あるいはせっかく充填した,溝の中のエポキまでとれてきちゃったりしますからね。左作業前,右作業後です。仕上げはShinexの細かいほう。紙ヤスリだと平らに削れちゃうことがありますが,スポンジ系の研磨剤だと曲面にフィットしてほどよく均してくれます。
  第1-2,2-3孔間の割れ目は,ほぼ完璧に埋まりましたね。もともと細いものではありましたが,もうほとんど見えません。これに対し,3孔以降の割れ目は少し見えますが,この部分はもとがけっこう酷かったので,このあたりが限界といったところ。もとは割れた上に盛り上がってましたが,修理後は触ってもほとんど分からないくらいにはなっています。

  修理に先立ち,管の内部を清掃したところ,この笛には中国の笛子と同様,管内に塗りが施されていないことが分かりました。
  この笛の材料になっている煤竹というモノは,基本的には普通の竹よりずっと安定した素材ですが,やはり笛なんてモノにした場合は,この日本の気候の中ではかようなことになってしまうようです。(前回記事参照)
  そのバッキリ割れてたのを修理したこともありますし,多少もったいないのではありますが,修理部の保護と楽器の延命のため,内外に塗りを施すことにしました。といってももちろんベットリ塗りこめてしまうようなワケでなく,カシューの透きで,内がわを二三度,外がわをいわゆる拭き漆ていどに,ってあたりですが。
  これによりオリジナルの音よりはやや甲高くなるかと思いますが,まあ何度も書いてるとおり,そもそも壊れる前の音を聞いてないのだから,ある意味どうでもいいのかもしれません。(w)

  ハジメ見たときは正直 「あちゃ~,吹くのはムリかなこの笛…」 と思ってたんですが,見た感じは意外と上手く直りましたねえ。もちろんまだ吹いてみておないので,そもそも音出るかどうかも分かりませんが。(w)
  もともと自作明笛との形態・工作上そして寸法的な比較が目的で購入したこの笛。音階など,実際吹いてみた結果につきましては,この後の報告 「明笛の作りかた(3)」 以降のなかでご報告することといたしましょう。では----


(つづく)

明笛の作りかた(2)

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斗酒庵 明笛を調べる の巻明笛について(15)- 明笛を作らう!(2)

STEP3 どんなふうに作らう?(1 素材篇)


  前回あげたこの雛形に従うとして。
  全長二尺三寸ってことはだいたい697ミリ,頭とお尻のお飾りをのぞいても,管体だけで60センチ近くなるわけでして……日本で笛材として最も手に入りやすい女竹ですと,ここまでの長さのものはまずありませんなあ。

  もちろん竹材屋さんにお願いして,いろんな竹を取寄せてもらうこともできますが,庵主なんせ貧乏なものでとても買えません。笛用の竹ってえのは,けっこうお高いもンなんですなあ。


  それでもまあ女竹のいちばん長いあたり,50センチ超えのを数本手に入れました。
  この笛の場合,構造上,歌口から頭飾りまでの部分は音階に余り影響がないはずですので,そちらの寸法を切り詰めて作ることにしましょう。音の調査だけなら,いッそ塩ビ管あたりで作っちゃったほうが,お手軽・お安く済むのですが,「工法の復元」ってのも庵主の調査項目なので,今回はナマの材料でまいります。

  まずは下ごしらえ。「笛用」の材料ですので,ありがたいことに殺青と火熨しまでは済んでおり,乾燥状態もまあバッチリ。
  篠笛なら,このまま孔あけちゃえばいいンでしょうが,そこは明笛,ちょいとやることが違います。


 その1) ガラス質になった表皮表面を削り落します。
  地方の祭礼で使用されている自作のものや,一二の例外を除いて,ほとんどの明笛の管体はこの部分を落とした皮なしの竹管となっています。
  この表皮表層の部分は硬さもあり,耐水耐酸耐薬品と最強なんですが,笛という楽器にする場合は,あまりに最強すぎてかえって楽器が壊れる原因にもなっています。
  と,言いますのも,竹の内がわと外がわでは,その硬さや水分の含み方がかなり異なります。繊維の密度なんかもエラく異なるんで,使用中の息や気温,管の内外の温度湿度による収縮差が大きいのです。

  篠笛なんかの場合は,内塗りをしてその影響をニブらせてあるんで,表面は皮つきでもいいのですが,明笛のもとになった中国笛子は内塗りをしません。
  もともと表皮を削るというのも,そうした温度湿度の影響を少なくするための加工だったかと思いますが,大陸と異なる日本の気候条件の中では,それだけだと結局割れちゃうことが多いので,明治以降に作られた明笛では,邦楽の笛同様に内塗りの施されているもののほうが多くなっています。つまり国産明笛にとって,竹の表皮を削ることそれ自体は,何かしらんけどこの笛ではそうするものだ的な,大して意味のない加工となってしまっているわけですね。


  じつは庵主,今回の実験製作以前にも,明笛25号のレプリカを作ってみたことがあります。
  そのとき,中国笛子と同じように表皮を落としただけで,内塗りをしなかったらどうなるか,と実験してみたんですが,夏に作って次の春先までには ビシッ!と 割れちゃいましたね,ええ,そりゃあ見事に。(w)

  「表皮を落す」という作業それ自体は,ふだん月琴のフレットでやってるのと同じようなものなんですが,小さく細いフレットに比べると,カタいし長いし丸いしけっこうタイヘンです。
  ガラス質の表面部分を削り,その下の,目の詰まったキレイな部分を出すわけなんですが,はじめに鬼目ヤスリでザリザリ,っとやってから小刀でこそぐのが,いちばん早くてキレイにできますね。

 その2) 節をぬいて筒にします。
  明笛の類でも,九州地方の祭礼などで使われる「竹紙笛」などでは,管頭がわに節の部分をそのまま残して,反射壁としたり,詰め物の上端にしたりしている例 (「明笛について(8)」27号の記事参照) もあるんですが,基本的には抜いちゃってる例が多いですね。
  節を抜いたら,棒の先に紙ヤスリを付けたガリ棒で,内がわの白くて柔らかい部分をなるたけ落します。この部分が多いと音の反射も悪く,またスポンジのように水気も吸っちゃうので,その1)のところで言ったような,割れの原因となりますから。


 その3) 柿渋を染ませます。
  この部分はオリジナル。
  まあ庵主の趣味みたいな部分ですね。自作胡琴でもやりましたが,竹の強化と古色付けのためです。
  柿渋を筆にたっぷりふくませて塗りたくり,管内も棒の先にスポンジくくりつけたのでまんべんなく塗ったら,ラップでくるんで2~3時間ほど放置します。あんまり長時間やると染みこみ過ぎちゃって良くないので注意。
  乾いたら表面・管内,ともにガサガサになってますんで,もっかい磨きます。その後,乾燥のため一月ほど乾燥。

  その2)で書いたように,竹の内がわは水気を含みやすい,しかし「水気を含みやすい」ということは,逆に考えると柿渋とか塗料も浸透しやすいわけですね。柿渋も硬い表面にはさほど滲みこまず,柔らかいところには余分に滲みこみます。乾くと内部で樹脂化しますんで,滲みこまなかったところはそのまま,滲みこんだところは硬くなります。目的は内外の材質的な差を縮めて,管全体をより均質にすることと,挽物で漆の下塗りに柿渋を塗るのと同じく,下地を固めて塗料を少なく済ませようというビンボーゆえの経済的ハラがまえもあります。(泣)

  ----と,ここまでが竹筒の下処理。
  ここからいよいよ,「竹」を「笛」にする作業がハジまります。


STEP3 どんなふうに作らう?(2 穴あけ篇)


  『清楽独習之友』では,白紙を細く切ったのを型紙にして貼り付け,孔あけの目安にする,とありましたが----前回書いたよおに,庵主 「紙を十一枚半に折る」 という特殊なワザ(w)が,とうとう体得できなかったので,竹の表面にマスキングテープを貼り,定規で測りながらエンピツで,その上に中心線やら孔あけ位置を書き込んでまいります。

  孔はすべて,ネズミ錐であけます。

  「ネズミ錐」って言っても,分からない人もいるかな?
  先端が三叉になった幅広の錐で,古い笛でも指孔の底にこの錐の痕がよくついてますね。
  竹に孔をあける場合,真っ直ぐな錐やドリルの類だと割れが生じやすいのですが,このネズミ錐だと,竹の繊維を少しづつ千切りながら穿ってゆくため割れにくく,昔からこうした竹の加工にはよく使われてます。

  ネズミ錐であけた孔は,そのままだと円形です。
  明笛の場合,これを棗核形にしなきゃならないわけですが,考えうる方法は二つあります。


  一つ目はヤスリで削って整形すること----ま,誰でも考えますね。
  丸くあけた孔の前後を,ヤスリで削って両端のすこし尖った楕円にするわけです。
  しかし,この方法には疑問があります。
  まず一つには,ヤスリで整形するなら,何故この棗核形でなければならないのか?という点。 たとえば日本の篠笛の指孔はほぼ円形です,竜笛なんかもまん丸ですよね。庵主は指が細く小さいので,丸孔よりは明笛の形のほうが押さえやすいのですが,昔の人や中国人がみな庵主なみに手が小さかったなんてわけはないでしょうし,丸い孔をそのまま丸く広げるのに比べれば労力は少ないかもしれませんが,笛の機能から言えば,指孔が棗核形である必要は特にないはず----実際,世界的に見ても,民族楽器の笛の孔は円形のほうが多いんですよね。


  二つ目は焼き棒による加工。
  過去に修理した笛の幾つかでは,歌口や指孔の周囲に焦げが見られましたので,そういう笛はおそらく下孔をあけてから,焼いた鉄の棒をさしこんで孔を広げているものと考えられます。
  ただ問題は,その棗核形の孔が周縁ぐるりと焦げてることなんです。

  ----え,何が問題なのか分からない?
  邦楽の,職人の使う焼き棒ってぇのは,ふつうまあ「丸い」もンなんです。


  もし断面の丸い焼き棒で孔を焼き広げたとしたら,当然その孔は丸いハズですよね。実際ほかの笛では,この作業は指孔を 「丸く焼き広げる」 ために行われています。ヤスリでやる場合より,孔の縁もキレイですし,作業一発で均等に丸くなるという利点もあります。
  しかしながら,焼き棒を押し込んで広げた丸い孔をヤスリで棗核形に整形した場合,孔の前後は余分に削ってしまうので,その部分には焦げはほとんど残らないはず----なんですが,実際には周縁ぐるりが均等に焦げています。

  では丸い焼き棒で,棗核形の孔を抜くにはどうしたらイイのでしょうか?
  「明笛を専門に作ってたとこでは,断面を棗核形にした特注の焼き棒を使ってた。」---とかいう証言でも残ってたらいいンですが,いまではそれも分かりませんし,清楽流行期に明笛を作ってたのは,多く月琴や三味線などほかの楽器も手がけてるふつうの楽器屋さんです。
  庵主と同じように,専用の工具とか使うよりは,あるもので済ませようと考えるでしょうね----たとえば軸孔を糸倉に穿つのに使う焼き棒なんかで。(w)

  笛作ってる人なんかからもイロイロ教わり,実際に竹でイロイロやってみた結果,推測される作業工程は以下の通り----


 1)まず熱した焼き棒を下孔にまっすぐ突っ込みます。
   その時間,約1秒。すぐ抜かないと竹が割れちゃいますよ,そりゃもうバッキバキに(w 実体験済み)。

 2)もう一度焼き棒を熱して,孔の前後から斜めに,やや浅めに挿し込みます。
   各1秒,合計3秒。ヤキ入れの所要時間は1孔5秒が限界です。
  それ以上かかるとまず割れが入りますねえ----デリケートな素材です。

  ちなみに上の画像は作業を再現したもの。
  実際にやる時ゃ,柄を布でくるむかなにかしないと大火傷するからねえw。


  加工をこの方法ですると,孔は自然と,楕円か棗核形になります。
  焦げた部分をある程度取去る必要がありますので,「ヤスリで削る・整形する」というところは結局変わりませんし, 「明笛という笛の指孔がどうしてこういう形なのか」 の根本的な解答にはなってないのですが,少なくとも工程上 「何故こういう形になるのか」 という部分の,答えの一端くらいはつかめたかと考えます。(w)

  焼きぬきの痕跡のある笛,また一部の明笛では,指孔口縁の前後のカドがえぐれていることがあります。
  篠笛や雅楽の笛なんかでも同じようになっているものがあるので,庵主はコレ,凹みを作って指の腹を指孔によりフィットさせるための加工だ,としか考えてなかったんですが……今回やった焼きぬき方法だと,斜めに挿し込んだ時,焼き棒の側面がその部分を熱圧して,そのように自然とヘコむのですね。
  ほとんどの笛の場合,今は指孔の調律加工の後に,ヤスリで削ってわざわざそういう形にしてるんですが,これの起源は,むしろこういう焼きぬき法の名残だったのかもしれませんね。


(つづく)

明笛の作りかた(1)

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斗酒庵 明笛を調べる の巻明笛について(14)- 明笛を作らう!(1)

STEP1 どんな笛を作らう?(1)

  生来 「吹く楽器」 と 「コスる楽器」 をニガテとする庵主が,よりにもよって 「明笛」 というモノに手を出さざるを得なくなったのは,実際の楽器から「清楽の音階」というものがどういうものであったのかを知らなきゃならなかったからにほかなりません。
  民謡でもオーケストラでもそうですが,その音楽基音や音階というものは,「吹く」楽器が司ります。民謡なら尺八が,オーケストラならオーボエが,全体の調子を決め,弦楽器も基本的にはその音階に合わせて調弦・調律されるわけです。 基音楽器の研究は,その音楽分野すべての研究の基礎となりますからね。


  「清楽の音階」の参考となる笛----というものを考えますと。やはり幕末から明治にかけて作られたような古いタイプの明笛がベストです。
  しかしネオクで手に入る笛の多くは,明治後期から大正時代に作られたもので,作りの上では篠笛など日本の笛の影響を,音階の上では西洋音階の影響が強く出てしまっていたりします。もちろん作り自体は,それ以前の清楽明笛から踏襲されているので,工作上の参考にはなりますし,音階にもその遺響が残っているとは思いますが,あくまで補足的なデータとしてしか使用できません。

  幸運なことに庵主,去年の暮れに31号という古いタイプの明笛を入手しました。
  1780年(w)だかの年号が入っておりますがこの笛,清楽流行期に作られた明楽時代の笛(すなわちある意味ほんとの「明笛」…メンドいな日本語w)の模倣品だと思われます。
  古い音階を残しておるはずですが,「模倣品」ゆえに信用できない部分もあります。
  また,たった1本の笛の音階を目安に一音楽分野全体で一般的であった音階を推測するなんてのも言語道断----だいたいだからこそ,庵主はこれまで30本を越える笛を,ひーひー言いながら吹いてデータを集めてきたわけなのですからね。

  ただ,古い笛というものは,材質的に劣化していたり修理の手が加えられたりしています。
  つかまず直さないと吹けないような状態のものがほとんど。
  したがって,今現在の音が,作られた当初のものと同じかどうか,というあたりには不安があります。31号をコピーして新しい笛を作り,それと比較する,といった作業も必要でしょう。しかし,この笛には上述のように根本的に信用できない部分があり,まずはそれ自体を検証する必要があります。
  データの検証のためには比較の対象が必要ですが,今のところ手元にあるこの類の笛は,書いてきたようにこれ1本しかありません。

  去年の夏に,四竃訥治の 『清楽独習之友』(M.24) という本の曲データを入力したんですが,これ面白い本でしてね。 楽器の説明のところに,その「作りかた」まで書いてあったりするんです。その中に----


  ----というのがありました。(クリックで別窓拡大)
  ふむ,全長二尺三寸……挿絵に描かれているのも,歌口から管頭までが異様に長い古式タイプの笛,また寸法からもこれは明治末~大正期に流行った国産明笛の一般的なものではなく,31号に近い古いタイプの笛だと思われます。

  今回は,31号という実物とこの文献を使って,より「清楽の音階」に近い笛とはどんなものなのか,製作実験を通じて模索してみることといたしましょう。


STEP2 どんな笛を作らう?(2)

  さてじゃあ『清楽独習之友』の説明に従って,この古いタイプの明笛を作ってみるとしましょうか。
  なにふむふむ,まずは白い紙を 「一寸幅,一尺零三分五厘の長さに切る」 と---なるほど,型紙を作るわけですね! 一寸は30.303ミリ,一尺零三分五厘は313.6359ミリ。まあ幅のほうは30ミリ,長さは314ミリでいいでしょう。 で,なに。次はこれを 「縦半分に折る」 ああ,ナルホド中心線を出すわけね。 そしてこれを……

  「十一半に折る」

  え?なんですと?

  「十一半に折る」

  ………ウラーッ!!ヽ(`Д´*)ノ !!!! デキルカーッ !!!! ヽ(*`Д´)ノムキーッ!

  なんなのそのイキナリの折り紙難関!いちおう5枚くらいやってみましたが(やってみたんだ…汗),とうとう一枚も成功しませんでしたねえ。 (アナタも実際にやってみてください w)
  考えますれば,雛形のところに細かく寸法が書いてあるじゃあないですか。最初からこれに従やあよかったんだ,型紙なんぞ要らん!……うう,無駄な時間を食ってしもた。(^_^;)
07号3134B+30 15号3134B+40
10号3144B+30 28号3145C-30
17号3154B-20 14号3164B±0
25号3164B+15 18号3204B-30
34号3204Bb+48 35号3204Bb+37
31号3204Bb+10

  雛形の図の数字の単位は,尺寸法の「分」,主要なとこをミリに直すと上左図のようになります。
  ふつうの横笛ですと,笛の全閉鎖音である「筒音」の高い低いは,歌口から開口部の端までの距離で決まるんですが,この明笛という笛では歌口から,飾り紐をぶるさげるのに使われる「裏孔」までの距離が筒音を決定してます。
  明笛31号の歌口-裏孔間は「320ミリ」,第6孔-響孔までが「64ミリ」,指孔の間隔はだいたい「28ミリ」。雛形の歌口-裏孔間は「314ミリ」,第6孔-響孔までが「63.6ミリ」,指孔の間隔はだいたい「27ミリ」----ふむ。

  ここで今まで手がけたそのほかの明笛のデータから,歌口-裏孔間の距離が300以上あるものを抽出してみますと,上右表のようになりました。28号以外は4B以下の低音になっていますね。28号のデータも,やや不安定でBの高いとこからCの低いところの間ぐらいだったことを考えると,4B+30~40が正確なとこじゃないかと考えます。
  313ミリから316ミリくらいまでが筒音「4B」の範囲内,320ミリになると4Bbというか,4Bの低いあたりなわけですね。
  雛形の間隔は「314ミリ」ですから,これで出来る笛は筒音「4B」の類となるハズ。

  とはいえ,ここまでの明笛の調査でも,ピタゴラさんが無視されるような結果がいくつか発生してますんで,実際に作って吹いてみるまで分かりませんぜ。(笑)


(つづく)

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