明笛の作りかた(1)
明笛について(14)- 明笛を作らう!(1)
STEP1 どんな笛を作らう?(1) 生来 「吹く楽器」 と 「コスる楽器」 をニガテとする庵主が,よりにもよって 「明笛」 というモノに手を出さざるを得なくなったのは,実際の楽器から「清楽の音階」というものがどういうものであったのかを知らなきゃならなかったからにほかなりません。 民謡でもオーケストラでもそうですが,その音楽基音や音階というものは,「吹く」楽器が司ります。民謡なら尺八が,オーケストラならオーボエが,全体の調子を決め,弦楽器も基本的にはその音階に合わせて調弦・調律されるわけです。 基音楽器の研究は,その音楽分野すべての研究の基礎となりますからね。 「清楽の音階」の参考となる笛----というものを考えますと。やはり幕末から明治にかけて作られたような古いタイプの明笛がベストです。 しかしネオクで手に入る笛の多くは,明治後期から大正時代に作られたもので,作りの上では篠笛など日本の笛の影響を,音階の上では西洋音階の影響が強く出てしまっていたりします。もちろん作り自体は,それ以前の清楽明笛から踏襲されているので,工作上の参考にはなりますし,音階にもその遺響が残っているとは思いますが,あくまで補足的なデータとしてしか使用できません。 幸運なことに庵主,去年の暮れに31号という古いタイプの明笛を入手しました。 1780年(w)だかの年号が入っておりますがこの笛,清楽流行期に作られた明楽時代の笛(すなわちある意味ほんとの「明笛」…メンドいな日本語w)の模倣品だと思われます。 古い音階を残しておるはずですが,「模倣品」ゆえに信用できない部分もあります。 また,たった1本の笛の音階を目安に一音楽分野全体で一般的であった音階を推測するなんてのも言語道断----だいたいだからこそ,庵主はこれまで30本を越える笛を,ひーひー言いながら吹いてデータを集めてきたわけなのですからね。 ただ,古い笛というものは,材質的に劣化していたり修理の手が加えられたりしています。 つかまず直さないと吹けないような状態のものがほとんど。 したがって,今現在の音が,作られた当初のものと同じかどうか,というあたりには不安があります。31号をコピーして新しい笛を作り,それと比較する,といった作業も必要でしょう。しかし,この笛には上述のように根本的に信用できない部分があり,まずはそれ自体を検証する必要があります。 データの検証のためには比較の対象が必要ですが,今のところ手元にあるこの類の笛は,書いてきたようにこれ1本しかありません。 去年の夏に,四竃訥治の 『清楽独習之友』(M.24) という本の曲データを入力したんですが,これ面白い本でしてね。 楽器の説明のところに,その「作りかた」まで書いてあったりするんです。その中に---- ----というのがありました。(クリックで別窓拡大) ふむ,全長二尺三寸……挿絵に描かれているのも,歌口から管頭までが異様に長い古式タイプの笛,また寸法からもこれは明治末~大正期に流行った国産明笛の一般的なものではなく,31号に近い古いタイプの笛だと思われます。 今回は,31号という実物とこの文献を使って,より「清楽の音階」に近い笛とはどんなものなのか,製作実験を通じて模索してみることといたしましょう。 STEP2 どんな笛を作らう?(2) さてじゃあ『清楽独習之友』の説明に従って,この古いタイプの明笛を作ってみるとしましょうか。 なにふむふむ,まずは白い紙を 「一寸幅,一尺零三分五厘の長さに切る」 と---なるほど,型紙を作るわけですね! 一寸は30.303ミリ,一尺零三分五厘は313.6359ミリ。まあ幅のほうは30ミリ,長さは314ミリでいいでしょう。 で,なに。次はこれを 「縦半分に折る」 ああ,ナルホド中心線を出すわけね。 そしてこれを…… 「十一半に折る」 え?なんですと? 「十一半に折る」 ………ウラーッ!!ヽ(`Д´*)ノ !!!! デキルカーッ !!!! ヽ(*`Д´)ノムキーッ! なんなのそのイキナリの折り紙難関!いちおう5枚くらいやってみましたが(やってみたんだ…汗),とうとう一枚も成功しませんでしたねえ。 (アナタも実際にやってみてください w) 考えますれば,雛形のところに細かく寸法が書いてあるじゃあないですか。最初からこれに従やあよかったんだ,型紙なんぞ要らん!……うう,無駄な時間を食ってしもた。(^_^;)
雛形の図の数字の単位は,尺寸法の「分」,主要なとこをミリに直すと上左図のようになります。 ふつうの横笛ですと,笛の全閉鎖音である「筒音」の高い低いは,歌口から開口部の端までの距離で決まるんですが,この明笛という笛では歌口から,飾り紐をぶるさげるのに使われる「裏孔」までの距離が筒音を決定してます。 明笛31号の歌口-裏孔間は「320ミリ」,第6孔-響孔までが「64ミリ」,指孔の間隔はだいたい「28ミリ」。雛形の歌口-裏孔間は「314ミリ」,第6孔-響孔までが「63.6ミリ」,指孔の間隔はだいたい「27ミリ」----ふむ。 ここで今まで手がけたそのほかの明笛のデータから,歌口-裏孔間の距離が300以上あるものを抽出してみますと,上右表のようになりました。28号以外は4B以下の低音になっていますね。28号のデータも,やや不安定でBの高いとこからCの低いところの間ぐらいだったことを考えると,4B+30~40が正確なとこじゃないかと考えます。 313ミリから316ミリくらいまでが筒音「4B」の範囲内,320ミリになると4Bbというか,4Bの低いあたりなわけですね。 雛形の間隔は「314ミリ」ですから,これで出来る笛は筒音「4B」の類となるハズ。 とはいえ,ここまでの明笛の調査でも,ピタゴラさんが無視されるような結果がいくつか発生してますんで,実際に作って吹いてみるまで分かりませんぜ。(笑) (つづく)
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