« 2014年4月 | トップページ | 2014年6月 »

月琴35号首無し2(2)

G035_02.txt
斗酒庵 胴にどうする2 の巻2014.3~ 月琴35・首無し2号(2)

STEP2 どうのひびきはどんなアレ?


  今回は調査が簡略版です。(w)
  寸法など詳細につきましては前回のフィールドノートをご参照ください。
  実物資料の少ない唐物34号と異なり,今回の修理は国産数打ち月琴,内部構造も工作もよく分かってる清琴斎の楽器ですから,修理のためのデータは豊富,主眼はこれをいかに効率よく修理するかというところとなります。

  まずはお飾りや半月を除去し,表面板をハガします。
  お飾りは左右の目摂と扇飾りだけ,残ってたフレットは一本のみ。半月が難関でしたが,一晩細く千切った脱脂綿を濡らして囲み,ラップをかけて一晩濡らしたら,なんとかキレイにハズれました。


  今回はオープン修理なので,つづいて面板をひっぺがします。
  裏も表も条件はほぼおなじなのですが,棹孔の割れを修理する関係で,天の側板の表板がわにアクセスしなきゃなりませんので,表板のほうをひっぺがすことにしました。

  中央の大きなヒビ割れの左右に接着のとんでるとこがありますので,そこからベリベリと。
  比較的かんたんにハガれました。

  内部構造は大体棹孔からの観察どおり。
  2枚桁で,上桁左右に木の葉型の音孔,下桁には丸孔。


  棹孔直下の下桁の孔が少し変な形をしてるように見えたのですが,それはちょうど板の節のあるところに孔をあけたせいだったんですねえ(w)。ふつうはしません(というかこんな板自体使いません)が,このあたりが利益優先の量産楽器たる所以。前回も書いたように,部品の加工を機械でしている関係で,こうした木の目などは無視される傾向があります。

  響き線の基部のカタチがお分かりになれましょうか?
  裏板の縁から生えてますよね。今回は裏板をハガさないので分かりませんが,おそらく基部は叩かれて平たくされ,側板と裏板の接着部にはさみこまれています。
  この加工はほかの作家でも見られるようですが,庵主にはいまいちそのメリットがはっきり判りません。

  ただ考えまするに----古式月琴や唐物では,棹孔のすぐ横あたりにから,胴内をほぼ半周するような長い弧線が使われています。

  この場合,線自体がバネ的な運動をするため,線の焼きが多少甘くても,取付が多少マズくても,響き線としては問題なく機能します。何度も書いてますように,この「響き線」という部品は,弦の振動に「共鳴して」働くものではなく,演奏者が楽器を持ったことで「勝手に揺れている」ところに,弦の音が「勝手に入ってきて」,「勝手に効果がつく」というシロモノ。「共鳴弦」ではなく「エフェクター」,それも外部からは操作不可能,というフシギな構造です。
  国産月琴の響き線は多く,ゆるい弧を描く曲線や,やや太めの直線となっています。基部はだいたい左右側板の中央付近にあり,線自体の長さは唐物や古い形式の物に比べると格段に短くなっています。


  この変化の理由はいくつか考えられます。
  一つに「線鳴り」あるいは「胴鳴り」と呼ばれる現象の緩和。長い線を使えば,音に対する効果は豊かになりますが,長いぶん,楽器をちょっとも余計に揺らすと,線が胴内に触れてガランガランと鳴ってしまうのです。これを「線鳴り」とか「胴鳴り」とか言います。上にも書いたとおり,この部品は「外部から操作不可能」ですので,これを止めることはできませんし,もちろんそんなふうに鳴っている間は,響き線本来の働きは期待できないわけで,楽器の響きは格段に悪くなります。線を短くすれば,その効果は弱くなりますが,揺れ幅が少なくなるぶん,この「胴鳴り」によるノイズを気にせず演奏できるようになるわけです。

  あとの理由は主に加工上の問題かもしれません。まずその一つに長い曲線は「調整が難しい」のです。響き線は楽器を演奏位置に立てたとき,楽器の内部で完全に片持ちフロート状態,基部以外はどこにも触れていないようになってなければなりませんが,この調整は線が長ければ長いほど煩雑かつ困難となります。弧の浅く短い曲線や直線では,この線の位置や角度の調整が格段にラクです。


  上にも書いたように,長い曲線は線自体がバネ的な運動をするので,線自体の加工や胴への取付,それ自体にはさほどの難しさはありません。鉄の線であれば,正直,タダのハリガネでもいいんです。しかし,線が短いと,ましてや直線の場合,ただのハリガネを挿しただけでは,「響き線」としての役にはたちません。響き線が響き線として機能するためには,その揺れが一定である必要があります。詳しいことは音響学の教科書でも読んでもらえれば判ると思いますが,揺れるきっかけが楽器に与えられた運動だとしても,その後の揺動が一定の周期を持っているからこそ,響き線は弦の振動に対するエフェクターとなりうるのです。
  そのため,国産月琴の響き線は直線・曲線を問わず,焼き入れされた鋼線になっています。
  カタチで,ではなく線自体の材質をバネ的な特質をもつものに変化させているのですね。

  しかしながら「焼き入れ」という作業はけっこう難しく,なかなか材質が均一になりません。焼きが甘いと響きが柔らかく,キツすぎるとモロくなって振動で折れてしまったりします。また国産月琴の一般的な形式では,基部を留める釘の打ち方でかなり反応に違いが出てしまいます(釘の打ち込みがユルくてもキツくてもイケない)。


  前説がちょっと長くなっちゃいましたが,この形式だと,直線でありながら,最初の曲がりのところでバネ的な運動が生じるので,そういう焼入れや取付けにおける熟練のワザが要らない,ってことはあるかもしれません。
  欠点としては,曲がりの方向の関係で,上下動より前後動のほうがやや大きく,面板を叩きやすいってあたりが考えられますが。

  サビサビに見えた響き線ですが,サビはごく表面的なもの,基部も無事でしたので軽くサビ落しをして,いつものように柿渋とラックニスで防錆加工を。これで長持ちします。



  楽器表から棹孔に向って,左がわのヒビは中まで貫通していましたが,右がわの割れはごく浅く,表面的なものでした。

  まずは棹孔に指を入れ,表板側の部分を少し持ち上げるようにして,ひび割れを広げ,ニカワを垂らしこみ,じゅうぶん行き渡らせたところで一晩固定。
  接着部が乾いたところで,竹釘を斜めに何本も打ち,裏に和紙を重ね貼りして柿渋で補強・防虫加工をしておきましょう。

  側板四方の接着もほぼすべてトンでいましたので,裏から筆でお湯を垂らしこみ,古いニカワがにじみ出てくるのをぬぐって,新しいニカワを垂らして再接着,天の側板の左右には少しスキマもできてましたので,ツキ板を削いで差し込んでおきます。
  こちらも裏に和紙を重ね貼り,柿渋で補強。

  といったあたりで,今回はこれまで----


(つづく)


月琴35号首無し2(1)

G035_01.txt
斗酒庵 胴にどうする2 の巻2014.3~ 月琴35・首無し2号(1)

STEP1 首無し月琴の逆襲


  さて類は友を呼び,モノは引き合う万有引力と申します。
  今年2面めの修理報告はなんと!----また 「首無し月琴」 でございます~!
  ねえ,コレってタタリ? タタリなのッ!?

  正直なところ,入れてたら落ちちゃったんですね。(^_^;)
  まあ修理の手間考えたら,あんまり手を出すヒトもいませんわな。


  こーゆー袋づめで我が家に来た月琴は,さすがにハジメテかな~。(汗)


  国産月琴,明治中期~末ごろってとこでしょうか。
  かなり汚れてて,水ムレ様の大きなシミも見えますねえ。


  半月がナニヤラ面白いことになってます。
  キモチは分かりますよ……ギターにしたかったんだね。(w)

  裏表の板の中央に大きなヒビ割れがありますが,板の矧ぎ目からのふつうの割れなんで,これはさほどのケガではありません。 虫食い孔もかなりありますが,早苗ちゃんとか19号とかに比べりゃこんなもん,屁の河童ですわ。


  あと,棹孔の表板がわ左右に少しヒビが入ってます。
  なるほど----棹のない原因はこれかな? おそらく酔っ払って糸倉のあたりでも踏んづけちゃったんでしょうねえ。

  胴体はやや厚めで,寸法も標準的ですが,タテヨコがほぼ同じ寸法ということは,かなり正確に円形となっているようです。
  お飾りは平凡な菊,彫りは稚拙ですがかなり手慣れています。
  内部構造は2枚桁で,上桁左右には木の葉型の音孔,下桁には音孔がないようです。
  あと響き線のサビが見た感じ少しキツいようで,これも状態確認して補修しておく必要があり…全面ではないものの,オープン修理カクテイですねえ。



**クリックで拡大**


  裏表に内部と精査しましたが,いまのところ作者に結びつく手がかりや墨書のようなものは見つかっていません。
  ラベルも早い時期に剥落したらしく,日焼け痕もほとんど残ってません。せめて棹茎でも残ってれば何か書いてあったかもしれませんが……墨書も目印とか目安線くらいですね。棹孔のすぐ上,表面板の木口に,なにやら書き込んであるようなのですが,字が細か過ぎて読めないし。

  庵主のケーケンは,この月琴は「清琴斎・山田縫三郎」の楽器だと言うております----
  すなわち,「十六夜月琴」「赤城山1号」「月琴19号」と同じ作者の楽器というわけです。

  山田縫三郎,こと清琴斎二記。

  「二記」ってのは「二代目」って意味です。初代は頼母木源七。
  月琴から明笛尺八,ヴァイオリンまで作ってた,当時としては大手の楽器屋です。
  検証可能な合致する特徴はいまのところ三つ 1)胴体がほぼ真円であること,石田不識の月琴なんかは特に際立ってますが,明治の月琴の胴体は,ほんのわずかに縦横幅が異なってるもののほうが多いのです。 2)胴がやや厚め,3)内桁および響き線取付け部の構造,響き線の基部は,胴に向って中央右端の側板のところにありますが,直挿しでも木片に挿してあるわけでもなく,側板と面板の接着部にはさみこまれています。これは山田楽器店作の19号と同様。
  あとあえて足すなら 4)工作は凡庸だが,加工と部品の精度がやたらと精確----ということがあげられましょうか。


  山田楽器店の月琴は,その加工から見て,おそらく何らかの工作機械を用いてかなり大量に製造したものらしく,ここの楽器は今でもあちこちでちょくちょく見かけます。「機械で加工製造」とは言ってもまあ明治のころの話ですから,オートメ工場で自動生産とかいうわけではありません。工作機械,とは言っても,簡単なボール盤,旋盤とか糸鋸の類だとは思いますが,上にも書いたよう,円形胴がほぼ真円に近いことからも分かるように,部品の出来は均一で精確ですが,ときどき木の目なんかを無視した加工があります。
  機械の力を借りて大量に造られた数打ち月琴ではありますが,「月琴」という楽器のことをちゃんと「分かって」作っているので,音はけして悪くはありませんし(とびぬけてイイ!ということもモチロンありませんが.w),工作精度が高いので楽器は堅牢---生存率の高さもこのおかげです---,操作性も悪くはありません。

  同じ「首なし月琴」ではありますが,前号の修理では,同じ作者の楽器の資料が少なかったため,修理がはんぶん創作みたいになっちゃいましたが,今回の場合,よく見かける大手メーカーの数打ち品なので,欠損部分のカタチや寸法などは,過去修理楽器のものが使えそうです----さてさて,どうなりますことやら。

(つづく)


« 2014年4月 | トップページ | 2014年6月 »