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月琴36号(2)

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斗酒庵 赤い月琴にハラショー! の巻2014.5~ 月琴36号 (2)

STEP2 きけ ばんこくのげっきんしき!


  前回も書いたよう,この楽器にはおそらく,最初の所有者によるものと思われる装飾追加などの改造と,ごく近年の仕業と思われる木工ボンドによる 「補修」 が施されております。まあ,ヒビ割れや剥離部分にただボンドを垂らしこんだだけではなく,きちんと圧着して,接着部からボンドのハミでたのもキレイに拭ってくれてますますから,仕事としては丁寧----おかげでどこにその「修理」の手が入っているのか,よくよく見ないと分からないくらいです。(泣)

  最初の所有者も,ソクイだかウルシだか判らない,一見して厄介そうな正体不明の接着剤を用いてますので,今回の修理の主眼はこれら接着剤との闘いとなりそうですね,ハイ。

  言うまでもないことですが,楽器の世界において,破損部にこの手のご家庭用接着剤を垂らしてへっつけると言った行為は,のちの「修理」のジャマ妨害にはなれど「修理」にはあたりません。ニカワを使った「ちゃんとした修理」をする前に,まずはこれらの物質を,キレイに取除いておかなければなりません。木工ボンドによる再接着の痕跡は表裏面板どちらにも見られ,一部は接合部のスキマにまで充填されちゃったりしてますね。
  ボンドが楽器内部にまで入っちゃってますので,取除くにしたって外からだけではどうにもできません。ここは表裏面板のどちらかを一部ハガして,楽器胴体を内外からアクセス可能な状態にしなければならないでしょう。ギターとかと違って,月琴には手の入るようなサウンドホールなどがないので,けっきょくオープン修理になっちゃうんですねえ。


  ともあれ月琴36号,外からは作者や製作時期につながるような情報はほとんど得られませんでした。
  内部に何かあるとうれしいんですけど……。

  さて,面板ハガしにとりかかるまえに,まずは棹と表面板上の障害物をハズしときましょう。
  いつもどおり,お飾りやフレットの周辺に,筆でお湯を刷いたあと,濡らしたカット綿をならべてふやかします。
  楽器ですから,濡らす部分はなるべく最小限に。
  気温が高くて水分がすぐ蒸発してしまうようなら,上に切ったラップなどかけておくとよろしい。


  最初の難関は,やはりこの黒い物体でしたね。

  カリカリと硬くてなかなかハガれません。しかしお湯を含ませると若干崩れやすくなることなどから見て,どうやらウルシではないようです。水分を与えても,ニカワのようにゼリー状になるわけではないので,アートナイフなどを使ってモロくなった表面から削ったり,端のほうから突き崩すようにしながら除去してゆくしかなく,かなり時間がかかりました。

  この接着剤は,柱間の飾りの痕跡のほか,第6フレット,左右目摂,バチ皮の上辺左右などにも見られました。バチ皮の剥離には木工ボンドも使われていましたが,そのほかの部分,第6フレット以外のフレットや扇飾り,中央飾りの接着はニカワで,目摂にある痕跡も中央部のみで,その下にはニカワが塗ってありましたから,これも後でなされた接着なのでしょう。

  ニカワによる接着を原作者のものと考えると,最初の所有者による補修・改造は----

  1) 柱間飾りの追加
  2) 左右目摂の再接着
  3) 第6フレットの再接着
  4) バチ皮上辺の再接着

  といったあたりだったのでしょうか。例のロシアのコインも,この黒い接着剤でつけられていましたから,同様にこの人のシワザですね。ちなみにこのコイン----


  1905年発行の20コペイカでした。

  いまの金額に換算すると¥1000くらいの価値のものだったかと思われます。
  1905年……1905年かあ……それを月琴に………ふうむ。
  この年,ロシアでどんなことがあったか----世界史に通じている方なら言わずもがなでしょうが,そうでない方々は Wikiさまなどご参照願いたい。

  清楽が廃れたあと「月琴」という楽器は,ほうかい屋などといった俗間の辻楽士の楽器を経て,悪書生や演歌士なんかが,街角で ヤバい歌 をうたうのの伴奏に使われたりしていました。
  「演歌」っていうと,知らない方はコブシを回してをんなの情念や漢の世界を歌うサブちゃん的ヒトたちを思い浮かべてしまいますが,この時代の「演歌」ってのはそれとはちょっと違っていました。
  当時は街頭で政治的な批判を「演説」としてブったりしますと,たちまちナマズ髭の官憲にタイーホされちゃうんですが,楽器を持って 「これは歌じゃ!」 としている場合にはけっこう寛容だったんですね----「ダイナマイトどん!」なんて曲もあるんですぜ。「演説」でなく歌だから「演歌」ってわけで,こりゃつまりは政府批判の,反政府・反社会的内容の歌であったわけですね。まあそれだけじゃなく,人が集まらなきゃハナシにならないので,下ネタがらみの端唄や替え歌も歌ってましたけど。(w)
  彼らの本来の目的は「政治批判」であって「音楽」じゃありません。
  楽器も音楽も官憲の手をすりぬけるための方便だったわけで,音数が少なくおぼえるのが簡単な月琴は,そんな彼らの楽器として,ヴァイオリンにその地位を譲るまで,けっこう使われていたということです。

  さて,このコイン。
  ただ単に珍しい到来物として貼り付けられたものなのか。
  あるいは最初の所有者が実は思想的に  「そういう人」 (色的な)で,この年号の入ったコインが,彼にとって特別な意味のある「記念品」だったのか……

  はあどぼいるどやミステリー小説だと,このナゾのコインが半分から割れて,中から秘密の通信文やマイクロフィルムなぞ出てきそうなものですなあ----ああ!あすこの電柱の陰から工房を監視する黒服の男が!----とかなった場合,庵主はどうすればいいのでしょう?(ww)

  まあ,このナゾはひとまず,おいとくこととしまして。


  修理を先に進めましょう。
  表板も裏板も,損傷の程度と,木工ボンドによる再接着の箇所は,だいたい同じようなものです。
  ならばとうぜん----ハガすのは,半月のついてない裏板のほうとなりましょう。
  裏板の右肩口に,比較的最近生じたと思われる剥離箇所がありました。ボンドによる再接着もされていませんので,ここらからイキましょうかねえ……えいやっと!(良い子はマネしてはイケません)

  次回は修理の続きと,この内部構造についてご報告いたしますです,ハイ。

(つづく)


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