月琴35号首無し2(6)
![]() STEP6 猫が眠っている,にゃあご ![]() 首なし(だった)月琴35号。 4月から5月にかけて,庵主の周辺でさまざまなイベントがもちあがったため,なかなか修理だけに没頭できず,ふだんよりかなーり時間がかかっちゃいましたが,作業自体は比較的順調に進み,6月のはじめ,フレットをたてるところまできました。 首の角度の調整でいくぶん手こずりましたが,なんとかクリア。 胴体水平面から山口のところで1センチ近く沈み込んでたのを,半分以下の5ミリ程度まで戻し,ほぼ理想的な角度になったため。フレットも全体にかなり低めでまとめることができました。 フレットの頭から弦までの間隔が絶妙にギリギリなので,運指に対する反応も上々。低音から最高音まで,弦を弾かずとも左手のハンマリングだけで音が出るという,フェザータッチな楽器となりました。 ![]() ちょっと前に修理した松音斎の33号なんかもこうだったんだよなあ。演奏者にとって「いい楽器」の特徴のひとつですよねえ。 今回のフレットは竹。この後ヤシャ液で煮〆て染め,ラックニスを染ませて完成です。 しかしながら今回は,楽器本体の修理がブジに終わりかけているというのに,なぜか決まらないことが-----さて,お飾りの意匠をどうするか? 月琴35号,製造元はおそらく浅草蔵前片町の山田楽器店,大量に生産された数打ち月琴のなかの一本ですが,店主・山田縫三郎がこうした楽器を良く分かって作っているので,そこらの職人がよく分からないで作った数多くの下品な楽器よりは,はるかにマシでよく鳴りましょう。 明治の国産月琴としては現在もかなりの数が残っているほうですが,それもまあ「清楽月琴」という「珍しい」類の楽器の中では,といったハナシ。 明治時代の楽器が,胴体だけになったとはいえ,わが工房までたどりついてきてくれたのですから ![]() つぎの百年をちゃんと弾き続けてもらえるように,ささやかながら,その手助けをしてあげたいところです。 オリジナルの状態では,中央の円飾りはなくなってしまっているものの,扇飾りと左右の目摂は残っていました。これを戻して修理完了,でもいいのですが----正直どうにも味気ない。しかもこのお飾り,デザインや彫りもいかにも稚拙で適当で,どうにも庵主のビイシキに癇触ります。 こうしたバヤイ。いつもですと,修理ちう,なんかピーンと来たモノを彫ってるんですが,35号,楽器としてイマひとつ特徴らしいものがないせいでしょうか? 今回はどうもその,「ピーン」がきません。(w) そこでまあ,SNSで 「どしたらいい?」 と意見を募ったところ---- ![]() ----こうなりました。(ww) 今回は 「猫月琴」 を作るんです,にゃあご。 まず蓮頭。香箱座りの「眠りネコ」ですね。 カツラの余り板を刻んで作りました。 ![]() 左右の目摂もネコにします。 左右別型で非対称ですが,より違和感のないデザインにするため,左はこの楽器にもともとついていたオリジナルの菊から,右は月琴によくつけられる鳳凰の意匠から,その外郭線をとりだして,その中で描いてみました。ネコ自体のデザインはオリジナルですが,こういうものの意匠では伝統的に「ネコには牡丹」と決まっていますから,そのあたりはけしてハズさない。 ![]() 中央飾りは魚。二匹の鯉が穴あき銭を中心に,陰陽を象って泳いでる「双鯉(魚)眼銭」。「鯉」は「利」,「魚」は「余」,穴あき銭「眼銭(イェンチェン)」は「眼前」に通じるもの,これは類似の例もある吉祥紋の一つですね。 扇飾りは鳥。彫ってるうちに何だか分からないデブ鳥になっちゃいましたが,いちおうホトトギスのつもり(W)。梅にとまったホトトギス…「梅にウグイス」とあまり変わらない(というかまず区別のつかない)意匠ですが,喉から血を吐いても歌い続けるというホトトギスのほうが,恋に焦がれて鳴くだけのウグイスよりは,ちょいと楽器にふさわしいかな,と。 もちろんこいつらは,左右のネコに狙われてもいるわけで(w) ![]() ----ということで,三匹のネコに護られて,次の百年をぐるぐる回るべく, 「猫月琴」へと変化した,首なし月琴35号。 2014年6月6日午後6時 (ああ!しかも黒ネコだ!w)。 世界の片隅,斗酒庵工房にて再生。 ![]() 蓮頭はヤシャブシに少しスオウを混ぜたので黄染め,目摂はスオウとオハグロで黒染めにし,最後に色止め程度にラックニスを布ではたいてフラットな仕上がりとしました。色合いは違いますが,胴上のほかのお飾りも同様。 黒染めしたら,ネコの顔がどこだか分かんなくなっちゃったので,線刻だった目玉の部分をヌイて目立たせました。 「ネコのお飾り」…なんて,多少あざとかったかもしれませんがねえ。(「クリオネ月琴」こさえたヤツがイマサラ何言うか!----という意見もある w.) あ,そういや前回書いたよう,楽器にちょっとまだ猫ションのニオイが残ってますんで,コレいッそそこからインスパイヤされた,とか書いたほうが良かったかな。(ww) ![]() いささか手前ミソながら。 この楽器,おそらく現状で,オリジナルよりなンぼか「いい楽器」になっておるはずです。 まあ,製作者はとうに死んじゃってるし,うちに来たときには胴体だけだったので,もとの音なんか分からないから何でも言えるわけですが,素材は中級ながら,もともとの工作は悪くない。そこでさらに胴体接合部や,内桁の面板との接着も補強したし,調整を重ねたせいで,棹は短くなっちゃいましたが,中心材は響きのいいイチイ,指板はタガヤサン。2Pながら半月の素材も紫檀とダオ。どっちもオリジナルより材は良いかと。 さらに,分かるかな?----低音弦と高音弦でわずかに弦間を変えたりしてあります。このあたりは月琴界のイチロー,33号松音斎の修理で学んだテクニック。良いことはすぐに真似しなくっちゃね。 ![]() 明るく素直で,まっすぐな音。 音量もそこそこ,室内楽器としてはじゅうぶんなレベルでしょう。響き線の効きはかなり良く,弾いてるとけっこう耳にキます(w)が,正直これを「余韻」と言っていいものか----どっちかというと「うなり」ですね。 そのあたり音色的に好き嫌いは多少ありましょうが,音質的には問題ないかと。 ただし,最初に書いたように,運指に対する反応が非常に敏感です。 弦楽器としてそれはいいことなんですが,ふだんの月琴のつもりで弦を「押さえ」たりすると,音が変にビビっちゃったりします。もはや「押さえる」というより,軽く「触れる」くらいの感触で音が出ちゃいますね。 そこらへん,分かって弾いてくださるなら,まさしくフェザータッチの素晴らしい楽器なのですが,操作がたいへんセンシチブなので……まあ,そのあたりのせいで,あまり初心者向けの楽器ではなくなっちゃいましたがなあ。 ちょいとひさしぶりに試奏の様子を載せときましょうか,にゃあご---- (おわり)
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