« 月琴36号(3) | トップページ | 胡琴をつくらう!2 (1) »

月琴36号(4)

G036_04.txt
斗酒庵 赤い月琴にハラショー! の巻2014.5~ 月琴36号 (4)

STEP4 連隊長どのに敬礼!!


  ふむ……そろそろ銘をつけてやらんとな。
  いつまでも「36号」ではシベリアの強制労働所のようでびっち。
  ロシアに関係してて,1905年という象徴的な年のコインが貼りつけてあるのだから 「赤い月琴」 とか 「ボルシェビキ」 とか考えたのですが----まあ

   すみれちゃん

  ----ということで(w) 36号すみれちゃん。

  人民の敵たるブルジョアの手先,反動主義者らの手によって,社会主義国的にありえない「修理」がほどこされておりましたにこふ。 まずは,ちゃんとした「修理」ができるように,過去になされたすべての過ちを粛清しなければなりませんすきー。

  具体的にいうと最初の所有者(?)の手によるナゾの「黒い接着剤」と,前修理者による「白い悪魔(木工ボンド)」との闘いが続きます。

  フレットやお飾りなど,表面板上の部品はすでに剥がしてありますし,裏板を剥がしたときそちらがわの再接着部分の処理は済ませてありますので,つぎは側板表面板がわの再接着部分のボンドを除去しましょう。

  地の側板の裏と表に濡らした脱脂綿を貼ります。
  再接着痕は地の側板のおよそ4/5にまでおよんでおり,おそらく前修理者の購入当初は,ほとんどハズれちゃってる状態だったのでしょう。

  10分ほどすると,画像のようにボンドがふやけて白く浮き上がってきます。
  これを布で拭き取り,ナイフでこそげ,桐板の木目に入っちゃっているようなところも,耐水ペーパーの粗いのでこそげ出しましょうゴシゴシゴシ----ありゃりゃ----けっきょくとれちゃいましたが,まあヨシ。 これで除去作業がかえってしやすくなりましたわい。

  ボンドをこそげてキレイに拭いた地の側板を乾かします。

  両端の木口の処理も丁寧ですし,裏面にびっしりと残る鋸目も,実に一定でキレイですね。
  このあたりからも,この作者のウデの良さがうかがい知られます。


  地の側板が乾いたところで,右上の剥離箇所(ここは最近出来たもの,ボンドによる再接着の痕跡ナシ)とともに,ニカワで表面板に再接着します。
  地の側板を元の位置に戻したところ,左右の接合部はほとんど狂いなくピッタリ合わさりましたが,下縁部の面板がほんの少しだけ余って出っぱっちゃいました。
  この部分はあとで削りましょう。

  何度も書いているように,月琴という楽器の胴体構造は,四枚の側板を面板でサンドイッチすることによってほとんど成り立っています。言わば月琴にとっての「背骨」は内桁ではなく,この「側板と面板の接着部分」なのであり,よって何を置いてもまず,この部分の固定を確実にしておくことが,その後の修理作業を円滑に進めるため,もっとも肝要なことのひとつとなります。

  骨組みがしっかりしてない状態でほかの部分を処置すると,全体のバランスに影響が出て,作業が進むほどかえって手間が増えたりしますからね。


  表面板がしっかりへっついてるのを確認したところで。四方の接合部の再接着と補強にとりかかりましょう。
  どの接合部もさほど開いたり歪んだりはしていませんが,どこも接着はとんでしまっているようですし,楽器正面から見て左肩と,対角線上の右下の接合部にはわずかにスキマがあります。
  まずは四方の接合部に裏表からお湯を垂らし,よーくもみこみます。
  接着がとんでしまっているので,両側をつまんでもむようにするとけっこう動きますねえ。
  接合部のスキマにお湯が行き渡って,にじみ出てくるようになったら薄めたニカワをたらし,接合部をふたたびシェイク! ニカワが行き渡ったところで,木口同士がちゃんと合わさるように位置を調整し,側板にゴムをかけまわします。

  うむ,ゴムでギュっとしまったら,接合部からニカワがうじゅる,っとな。
  表側にハミたニカワはすぐ拭きとっておきましょう。そのまま固まっちゃうとメンドウですからね。

  接合部の裏側には,薄い和紙をニカワで重ね貼りしておきます。側板の裏面は凸凹なので,貼り付けたら,油絵の具用の筆のような穂先のちょっと硬い平筆で,表面を叩くように撫でるようにして,よく密着させましょう。和紙は目を交差させるカタチで二度貼りします。
  乾いたら柿渋を二度刷き。これは補修部分の強化のためと,塗ったニカワが虫に狙われないよう,防虫効果も期待しての一手間。
  最後にカシューかラックニスを一刷きしておくと,補修としてはより効果的です。なんせ胴体が箱になっちゃったら,そうそう直せない箇所ですからね。やれるときにやれるだけのことをやっておいたほうが,後々のためにもよろしいかと。


  もうひとつ,胴体が箱になっちゃったら,そうちョせなくなるところ----響き線----も手入れしておきましょう。
  工程はいつもどおり,軽く表面のサビを落とし,ガサガサ感をなくしたら柿渋を刷き,しばらく放置。
  柿渋が真っ黒になって乾いたところで,これをいったんこそぎ落とし,柿渋をしませた Shinex でもう一度磨きます。
  乾いて表面がムラなく黒くなったら,最後にラックニスを軽く刷いてできあがり。
  線基部が腐ってとかなってなければ,これでかなり保つでしょう。


  表面板に走るヒビ割れの,中央付近から下端にかけてのあたり,楽器正面から見て右側が,少し反りかえっていて段差になっており,その部分が下桁からハガれてしまっていましたので,まずはその再接着を。
  この作業で,上下の部分の段差はなくなりましたが,桁間中央部分,いちばん反りかえりのヒドいあたりが直らず,そのままで,ご覧のとおり段差が残っちゃってました。


  板が反ったままだと,埋め木をしてもうまく埋まらなかったり,面板に変な段差が残っちゃったりしますので,ここはまず矯正しなくちゃなりますまい。ヒビ割れの左右を少し湿らせた上で,木片をいろいろと組み合わせて表裏にあて木をし,横木を渡してLクランプで締め,圧をかけます。

  これでうまく平らになったら,あとは埋め木をハメて表面板は修理完了!----ってとこだったんですが……

  さて,この続きは次回。

(つづく)


« 月琴36号(3) | トップページ | 胡琴をつくらう!2 (1) »