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月琴36号(5)

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斗酒庵 赤い月琴にハラショー! の巻2014.5~ 月琴36号すみれちゃん (5)

STEP5 赤色の不明


  表面板のヒビ割れは,最大のところでも幅1ミリていど。

  桐板の矧ぎ目に沿って上下に貫通したもので,胴体の部材の収縮によって割れたものと思われました。
  まあ,古物の月琴ではよくある故障。割れ目の片側が少し反っちゃってたのがネックでしたが,これも前回までの矯正処置でうまく平らになりましたし,あとはいつものように,桐板をうすーく削って,割れ目にハメこみゃ完成!----と,思ってたんですが。


  埋め木の板が,妙に安定しません。
  なんかうまい具合に底までまっすぐ入らない,というか,ヘンにグラグラするんですねえ。

  ふと思いついて,割れ目の裏側からアートナイフを挿してみますと……うぎゃ!斜めに刺さりました。
  どうやらこのヒビ割れの真ん中あたりだけ,虫に食われて内部がトンネル状になってしまっているようです。
  ううむ,どう探しても,虫の入った孔も出た孔も見つからないんですが(汗)
  とりあえず,表側には薄板を埋め込み,アートナイフの刃先を探針がわりにして,板の裏側からトンネル化しているところに,ニカワを垂らしながら木屑をつめこみ,矧ぎ目を固定しました。

  ううむ…このシリーズの最初のほうで書いたと思いますが,こういう外面的に小奇麗な楽器ほど,身の内がわに小悪魔を何匹も飼ってるものなのであります。


  さて,簡単に済ますはずがちょいとメンドい作業とはなったものの,表面板のヒビ割れは比較的きれいに埋まりました。

  トンネル埋めの作業は板の裏がわからやったので,表がわのキズは広がらなくて済んだんですね。
  木屑詰め込み作業から見て,最大で矧ぎ目を中心として幅3ミリくらい空洞になってたとこもあったようです。




  この作業で,虫食い孔を探して,表面板をあらためて調べているうち気が着いたんですが。

  この楽器,半月が少し浮いちゃってるんですね。
  下縁部の左がわが少し浮き上がって,面板との間にスキマができちゃってます。
  まあ現状,接着自体は強固なようで,つまんで揺すってもビクともしませんが,ここはこの楽器の中でいちばん力のかかる部分ですんで,こうなってるとスキマから湿気が入り,いつしか接着がトンで半月が飛んでくることになりかねませんので,補修しておきましょう。

     なあに,作業はカンタン!そのうえさいわいなことに,今は裏板がない状態なので,当て木を噛ませば面板の表裏からしっかり圧をかけることができます。きっとオリジナルより頑丈になりましょう。

  スキマにお湯と薄く溶いたニカワを流し込み,クランプで圧着。

  そーれ,ぎゅぎゅぎゅ~っ!!

  ……あれ,おかしいな?
    いくらクランプしめても,
      スキマが一向に縮まりませんぜ。


  うむ,庵主の心積もりでは,ニカワ流しこんでクランプかけたら,スキマがなくなって,余ったニカワが端から 「にじゅる」 ってとこだったんですが----ふと,思い到るところあり,接着の反対にひっぺがしてみますと。


  あう,やっぱりナゾの黒い接着剤!……ここもまた,前所有者により再接着されちゃってたようです。
  この接着剤,ニカワと違って浸透性がないんで,半月と面板の間で固まってスキマを作っちゃってたんですね。
  ほんと,これなんなんでしょうねえ。(怒)
  しかしながらここからも,この接着剤による「修理」が本筋でないものだということが言えましょう。ニカワで接着した半月は,上手い人がやったものなら,はずすのに一晩二晩濡らさなきゃなりません。しかしこっちの場合は,はずすまえの状態はきわめて強固なものでしたが,濡らしたらほんの1~2時間ではずれてしまいます。しかも,ニカワによる接着が,塗られたニカワが活きている限りなら何度でも復活するのに対し,こちらは一度外れたら接着力がまったくなくなり,二度と元には戻せません。

  不経済であり(w),かつ不要で厄介な汚点と手間を,後世に残すこととなります。

  で,半月ひっぺがしてはじめて気が着いたんですが。
  この月琴,半月裏の小孔がついてませんや。


  一般的な作りの国産清楽月琴では,この半月に隠れてる部分の面板に,直径5~7ミリていどの小孔があけられています。
  中国の月琴にこの孔はなく,一部の楽器解説には「サウンドホール」だなどとトンチキ書いてありますが,もちろん位置的にも大きさ的にもそんなハズはなく,おそらくは温度湿度による内外の環境差を軽減・調整するための「空気孔」(のつもりで)としてあけられているのだと思われます----「のつもりで」と言いますのも,今までの修理楽器,またウサ琴の製作実験などから見て,実際のところ,この孔が何らか機能してるようには考えられないんですね。一部の楽器では,あけた孔のちょうど下に下桁があって,実際には孔になってなかったりしてたこともありますし。(w)

  庵主思いまするに----これは日本の職人さんが,月琴を琵琶の一種と見て,琵琶の「陰月」(「覆手」(ふくじゅ=テールピース)の裏の胴体にあいている小孔)を真似してあけてるだけのものかと。

  この小孔のない国産月琴というものは,過去にも何本か見たことがありますが,日本人はこういう実物を通じての伝言ゲーム,間違いだろうがほんとは不要だろうが,けっこう細かいとこまで律儀に再現するのがふつうのようで,やはりこんなふうにないもののほうが,圧倒的に少ないですねえ。36号は棹などが唐物に近いカタチになってます。そこからするとこれは唐物を似せてのことなのかもしれません。いや,あるいは作者がまだこの楽器を作り慣れてなくってあけ忘れただけなのか,それともハナから「不要」と見てあけなかったのか……。

  さて,はずした半月は,よく乾かしてから,裏の接着剤をキレイにこそげ落とします。
  ----ご覧ください。
  この作者さん,こんなところがやたらと細かい。(汗)
  糸孔の裏側に溝が彫ってあります。
  方向と形状から考えると,おそらくは弦の交換の時,糸の先が半月から出やすいようにするためのガイド溝だと思われます----さてさて,これもまたこの楽器では見たことのない工作ですが。実際どの程度の効果がありましょうかねえ?こんな小細工より,いい作家さんがよくやってるよう,糸孔自体を前向き斜めにあけたほうが,より効果的な気がします。

  あるべきはずのものがなく,
    なくても構わないようなものがついている。


  なんだかさらに分からなくなってきましたねえ。
  この楽器と,作者のことが

(つづく)


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