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胡琴を作らう!2 (3)

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斗酒庵 清楽胡琴作りに再度挑戦す の巻2014.6~ 胡琴を作らう!2 (3)

STEP3 もう余ってるとは言わせない!


  さてさて,全体のカタチが出来たら,まずは磨きです。
  胴体と棹の表面を磨いて,表層を削り落とした時についたキズなんかを消します。
  ちょっと凝りたい人は,ここで染めや塗装をしてください。
  柿渋をしませてカシューで仕上げてもいいですし,亜麻仁油で磨き上げてもよし,水性ニスを全体にざッと一刷きでもけっこう。

  庵主,ここでちょっくら実験をさせてもらいます。
  従前の自作胡琴では,柿渋をしませてカシュー仕上げでした。
  しかし考えてみますれば胡琴はヴァイオリンと同じ擦弦楽器。
  そして我が家には日本リノキシンさん謹製のヴァイオリン・ニスがあります。コレを使わない手はない……の,ですが,これはアルコール・ニス。乾燥が早く,竹との相性があまりよろしくない。以前試みに塗った時も,しばらくしたらポロポロと細かな層になって剥がれてしまいました。

  塗料のせるためにガラス質の表層を削り落としたりもしてるんですが,竹という素材はそれ自体に少量の油分が含まれているのもあって,もともと塗装や染めが難しいのですね。月琴フレットの加工などで,染め汁にブチこんで10分ほども煮〆れば,かなりキレイに染まることは分かってますが,もちろんこの大きさのものを煮〆るわけにはいきません。
  しかもアルコール・ニスですからね。鍋に入れて沸かしたらさてどうなるか(w)。


  ではさて,前回これに柿渋を染ませるのに使った方法,あれをアルコール・ニスでやってみたらどうなるか?
  ----これを試してみたいと思います。

  まずは,表面を磨いた棹と胴体に,エタノールでちょっと薄めたニスを,たっぶりだぶだぶまんべんなく塗りつけます。
  んで,すかさずラップでこう……最初のニスは10~20分ほどで竹が吸ってしまいましたので,頃合いを見て,もういちどだぶだぶと塗ってラッピング。あとはそのまま半日~二日ほど放置。ラップを剥がしたあと,エタノールをつけたウェスでムラになった表面を軽く拭って,一週間ほど乾燥させました。

  んでそれを磨いたら……

  上にも書きましたように,今回の胡琴の胴や棹の竹は,表皮のガラス層を削り取ってしまってるんですが,あたかもそのガラス層が復活したかのように,竹の表面がツルツルのツヤツヤとなりました!

  こんなことやれば,木材なら芯までしみちゃっていつまでたっても乾かないとこですが,さすがに竹,一晩やってもニスの浸透は,多孔質な木口のところと,部材のほんの表層のところで止まってますね。
  ヴァイオリン・ニスは本来,木材に使用されることが前提なのですが,竹材の場合,塗装により形成される塗膜が,非常に貧弱なものにしかならないことを考えると,木材と同じようにあだ表面に塗るよりは,今回のようにして表層に染ませたほうが,仕上げの作業としては良いのかもしれませんね。
  もっとも,この加工による竹材の経年変化の結果が分からないので,まだまだ断言はできませんが----まあ実験です。
  オールド・ヴァイオリンのニスを再現した日本リノキシンさんのニスを使った胡琴が,どんな音で鳴るのか,試してみたいと思うじゃあありませんか。


  あ,この作業の前に,胴との接合部のすぐ上と,糸巻きの孔の上下に補強の糸を巻きました。
  前作までは籐巻きしてたんですが----細籐が高くってねえ----釣具屋で買える釣竿補強用の糸(中太)を各所1センチ幅ほど。
  巻き方などは釣竿自作のページ,もしくは篠笛のページなどをご参照ください。
  この補強,現代京胡にはだいたい施されてますが,古い京胡である胡琴1号にはしてありませんし,まあなくってもいいんですが,棹孔ほじくるときに結構割レが入っちゃってたりしますからね。なにかしらの補強はしておいたほうが吉かと。



  さて,いよいよ最後の難関。
  皮張りです。
  現代京胡では青蛇だとか黒いウロコの蛇の皮が主に張られますが,胡琴1号にはニシキヘビっぽい皮が張られてましたねえ。
  庵主は三線に使われるニシキヘビの皮を使いますが,三線の皮は二胡に使われるものよりかなり厚め,さらに京胡や胡琴の皮は二胡の皮よりもっと薄いものなので,まずは裏を剥いで薄くします。

  皮の加工は水に漬けて柔らかくもどしてから。まずは10センチ角に切った皮の角を落とし,八角形にします。つぎに皮をひっくりかえして包丁とかで皮裏をザリザリっとやると,繊維がほぐれてめくれあがってきますんで,それをつまんでうまく剥がしてやりましょう。
  なるべく全体,均等な厚みになるように----あと,やりすぎると皮が破けちゃいますからね,注意して。
  薄い皮がイイとは言っても,しょせんシロウト張り,ちょっと厚めのままでも構いませんよ。


  いくぶん薄くなった皮の八方に,ワリバシか竹の棒を切ったものを縫いつけます。
  道具はふつうの針と木綿糸でけっこう。
  庵主は竹棒一本につき四箇所,左右の端は力がかかるんで特に念入りに縫いますが,まあこれもそんなに気張ってやらずともよろしい。乾いてしまわないよう皮を時々水で濡らしながら,ももしきの破れでも繕うつもりで,のんびりやってください。


  皮張りの作業は二段階で行われます。
  竹棒の縫い付けが終わったら,一次張りです。まずは皮を胴体に張って伸ばすのと,胴体の型をつけるための張りなので,接着剤は使いません。

  皮張りの台にはこんなのを使います。
  ¥100均屋で買った,針金製のなべしき,ですね。

  前回まではこれを単体で使ってたんですが,今回,前よりもバリっと張っちゃろ思って紐を二重にしたら,夜中にバキッと音がして底が抜けてしまいました(右画像)----そこで今回は,これを二枚重ねで使います!

  二枚を反対合せで重ねることで,強度が格段にあがったのと,前まで三方向にしかなかったひっかけ部分が倍の六方向となり,より細かく紐がけができるわけですね。


  重ねたなべしきの外縁数箇所を,テープでくくってはずれないようにしたら,真ん中に八角形に切った板を両面テープで貼りつけ,さらにその板の上に両面テープを貼って,胴体を固定します。

  水に漬けておいた皮の水気をよく拭ってのせ,八方の竹棒に紐をかけます。
  本職は革紐とか麻紐を使ってるようですが,庵主は¥100均で買えるタコ糸(太口)を二重にして,濡らしてから使っています。
  この「濡らす」ってのがポイントですかね----濡らした糸は乾いた状態よりはるかに丈夫。また乾くと自然に縮まってくれもします。
  この二重にしたタコ糸を,庵主は上下に3本づつ,左右とななめ方向に2本づつかけてます。ヘビ皮は上下方向の張りにはけっこう強いんですが,左右方向にあまり力をかけすぎると破けちゃう傾向があるそうです。なので上下方向に余計に力がかかるようにしてるわけですね。
  最初の紐かけはそんなにきっちりとしなくてもかまいません。
  まずは上下左右の四方向に均等にかけて,皮をちょうどいい位置に固定しちゃいましょう。二本目三本目で少しづつしめあげ,さらに紐に棒を通してギチギチと巻き絞めます。


  上に書いたように,この一次張りは,皮を伸ばすのと胴体の型を皮につけるのが目的なんで,この時点ではべつにギリギリ張っちゃう必要はないのですが,きちんとした道具を使ってやる本職と違って,こんなシロウト張りでは,あんまり大きな力を皮にかけられませんから,使ってる紐や縫った竹棒が千切れないていど,なべしきの底が抜けないていどなら,思いっきりしめあげちゃってかまいません。

  ----ま,破けたらイチからやり直しのつもりでね(w)。

  一次張りをしたら二三日置いて,いったん皮を乾かし,紐をほどいて胴体からはずします。
  これをまた濡らし,竹棒をあらためて縫い付けなおし,二度目の張りをするわけですが。

  これが本番ですからねー,慎重にやってくださ~い。

  胴体の皮を張るほうの切り口と,端のところにニカワを塗ります。
  そうですね,側面は竹の切り口から1センチくらいのとこまでかな?
  接着に使われる部分は,あらかじめ粗めの紙やすりなどで荒らしてキズだらけにし,皮が食いつきやすいようにしておきましょう。
  あと,ニカワはあんまり薄いと竹にしみこんじゃったりしてくっつかないので,ちょっと濃い目に溶いてください。

  濡らした皮はそうカンタンに乾きゃしないので,紐かけの作業はゆっくり,慎重にやりましょう。
  一次張りで胴体の型がついてますから,こんどは固定するのが前よりはカンタンなはずです。
  まあ限度限界というものはありましょうが,今度はさらに思いっきり,できるかぎりしめあげてやってかまいません。
  ナニ,二三度失敗したりしたほうが,「程度」というものが分かって,次がラクになるってもんですよ(経験者は語る)。


  お天気にもよりますが二三日から一週間ほど置いたら,紐をはずします。
  この時,まずはちゃんと接着されてるかどうか,確認してください。(注意)
  皮がはずれないか,ヘンに動かないか確認したら,鼓面から1センチほどのところに切れ目を入れて,余りを剥がします。

  (注意!)「確認」:庵主はここで接着を確認する前に切れ目を入れてしまい。最後の最後で皮がすッぽ抜ける,というヒゲキを数回味わっております。切れ目を入れる前なら,また何度でも再チャレンジできますので,確認はきちんと行ってください。(泣)


  要らない部分をひっぺがしたら,側面の皮に軽くペーパーをかけ,ウロコやデコボコを均します。
  棹を挿して,最後に胴の口に2~3センチ幅の布を巻きつけたら,完成です!


  まあ細かいことを言えば,このほかに,駒(ブリッジ,皮の上に乗せる)を作ったり,弦に千斤(棹に結んで弦を引っ張る糸)を巻いたりという作業もあるんですが。
  そのあたりは二胡関係のサイトなどご参照ください。

  あと,皮に関して,二胡の世界では,生皮そのまんま派と,張った皮にアイロン当てて焼く派とが血みどろの戦いをくりひろげてるようですが(w)。


  庵主はアイロンがけ賛成派ですね。
  皮じゃなくてツメですが。すっと牛のヒヅメでピック作ってきた経験から言って,この手の素材は適度な熱を与えて変質させたほうが,耐久性もあがるし音響特性も良くなる気がします。湿気や温度に対しする変化・変形の幅も小さくなりますね。さらに上にも書いたように,しょせんはシロウト張り,どうやっても少し張りがユルいので,皮を焼いて変質させ,少しハードタイプにしたほうが,澄んだ音が出せるようですから。


  さて三回にわたって,胡琴という楽器の作り方を書いてきたわけですが。
  最初にも書いたように,庵主,この楽器は作れるけど弾けません(w)ので,弾き方なんかは教えてあげられませんよ。
  そのあたりもまた,よそのサイトをご参照あれ~。(丸投げw)

(おわり)


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