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月琴ぼたんちゃん(6)

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斗酒庵 年末修理編 の巻2014.11~ 唐木屋月琴ぼたんちゃん (6)

STEP6 ぼたんちゃんふぉえばぁ

  さてさて。本体の修理も終わり,部品も揃いました。
  いよいよあとは組み立てるだけです。

  その前にまずは胴体の清掃。
  いつものように重曹を溶いたお湯を Shinex #400 に含ませて,コシコシとやってゆきます。


  古物の収集家でも時々混同している人がいるんですが,道具における「古色」とは「汚れ」のことではありません。
  その道具が,あるべきかたちで使い続けられた結果しみついたものが「古色」なのであって,単に放置されたり,間違った使われ方,取り扱いをされてついたものは,はらうべき「汚れ」でありなおすべき「キズ」なのです。「古色」は古い道具にとっての勲章みたいなものですが,「汚れ」はしょせん「汚れ」です。
  それを落としてはじめて,その道具は本来あるべき姿にもどるのであって,こういうものを「時代」だなんだといって有難がる気持ちは庵主にはありません。

  この月琴の面板の真っ黒な変色は,まがうことなく「汚れ」です。

  18号の例なんかでも分かるように,しかるべく保存された月琴の表面板は,輝くように白い。
  三味線なんかでもそうなんですが,長期弾かないようなときは,木箱か袋におさめておくのが楽器の正式な保存法です。飾り物・置物として床の間にかけっぱなし,弾かれなくなって蔵の中に吊るしっぱなし,納屋の奥で棚ざらしでついたようなホコリやシミが「古色」なわけないでしょ?

  ----というわけで,庵主はコシります。

  楽器として不遇だった期間をリセットして,本来の時間に戻ってもらうための,まあ,儀式みたいなもんでしょうかね。


  これに対し棹背や楽器向かって左がわの側板(身体に触れる部分),こうした箇所によく見られる色落ちは,その楽器が実用品として使われていた証拠であり,ちゃんとした楽器である証明のようなものです。
  楽器の状態やその度合いにもよりますが,庵主,こういうところはなるべくちョさないようにしています。単に演奏者のクセを表している場合もありますが,多くはその楽器のクセが反映されています。継いで弾く者にとっては,好い目印となることも多いですしね。

  けっこうな黒さでしたが,汚れ自体はそれほどヒドくなく,だいたい1度の清掃で,表も裏もキレイになりました。何言ってもやっぱり楽器を濡らすことになるので,器体への負担を考えると回数が少なくて済んだのは有難いことでしたね。


  乾いたところでフレッティングにかかります。
  まずオリジナルの位置に並べて,オリジナルの音階を調べます。
  庵主が月琴の修理をやる理由の一番大きなものが,この楽器の音階のデータが欲しいからですね。
  清楽の音階がどのようなものであったのかは,明笛の研究でいちおうの結果が得られましたが,補足するデータはいくらあっても損はありませんから。
  ぼたんちゃん,オリジナルの音階は,清楽の標準的なものからすると,高音域にかなりのズレがありました。
  データはフィールドノートにも記してありますが,数字を整理して再掲すると----

開放
4D-144Eb+304F-274G+54G#+334B+275C#+285E+7
4A-134Bb+385C-265D+45Eb+335F#+305G#+85B-37

  ----といった感じになります。
  今まで修理した楽器の経験からしても,かなりな乱調ぶりですが,この原因は楽器の工作不良だったのでないかと考えられます。
  前々回あたりで書いたように,この楽器には棹茎の接合部のところに割レがありました。当初は踏んづけて棹口を壊したせいだと考えていたんですが,これ,おそらくはオリジナルの組み立ての段階で,すでに割れていたのではないでしょうか。

  棹基部の接合部が割れてると,弦を張ったとき,楽器は順反り状態でわずかに弓なりになります。
  棹の固定が不安定なので,調弦もなかなか決まりませんし,有効弦長がわずかに短くなるためフレットは本来の位置より,少し糸巻きがわに寄るはずです。

  ただし,完全にバッキリと逝ってる場合は,棹が抜けちゃいますのでさすがに分かるとは思いますが,よくあるようにオモテウラの片がわだけがハガれてたり,一部が浮いてる程度の故障だと,棹の動きもわずかなために,ふつうに使ってても気がつかない----「ああ,チューニングしにくい楽器だなあ」程度にしか想われないことが多いのです。
  さらに,清楽という音楽では,月琴の高音域が使われることがあまりないので,多少音が狂っていても分からなかったという面もあるかとは思いますが,唐木屋のほかの月琴におけるそのあたりの精度や,他の楽器の狂い方との比較からすると,この「もともと故障」説,かなり有望ですね。


  オリジナルの音階を調べた後で,今度は西洋音階に合わせたカタチで本格的にフレッティング----いつもですと,特定のキー以外は位置的にそんなにズレがなかったりするんですが,今回はご覧の通り。
  上左がオリジナルの位置で並べたもの,右がチューナーでC/Gの西洋音階に合わせて修整したフレット位置。
  西洋音階に合わせたら,全体にフレット位置が半月がわに寄ってしまっているのがお分かりになれましょうか?
  7・8フレットなんかオリジナルの接着痕がしっかり見えちゃってますものねえ。


  目摂と扇飾りはすでに補修・補彩済み。
  これをのせ,新しく作った蓮頭をへっつけて。

  年をまたいだ2015年1月10日。
  月琴ぼたんちゃん,修理完了です!



  唐木屋の楽器には,ヘンなクセがありません。
  イヤミのないアタック,温かく広がるサスティン。
  関東の月琴の中ではいちばん「月琴らしい音」の出る楽器かもしれませんね。


  工作の良さはこの楽器,横にしてどっちに向けてもちゃんと立つとこからも分かります。月琴はきわめて軽い楽器ですが,これによって演奏姿勢の自由度がかなり左右されるため,この重量バランスというのはけっこう大事なところなのです。
  そのあたりは言わば「完璧」ですね。

  トラッドな楽器なので,音量や音色といった面で特筆すべき点はありませんが,バランスがよくて扱いやすく,誰が弾いてもそこそこの音を奏でてくれることでしょう。
  あくまでも優しげな音なので,多少音楽を選ぶかもしれませんが----つまびく,つぶやく,誰かを想う----そういう曲に合わせるには最適の楽器かもしれません。

  どうか大事に,弾いてあげてください。

(つづく)


月琴ぼたんちゃん(5)

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斗酒庵 年末修理編 の巻2014.11~ 唐木屋月琴ぼたんちゃん (5)

STEP5 ぼたんちゃん修理(3)

  さて本体修理もラスト・スパート。

  まずはへっつけた棹口裏のネックブロック,ここは再度接着のぐあいを確認してから整形。高さを側板と面一にします。
  なんせ楽器の内側にへっつけたものですからね。
  胴体が箱になってからポロリなんぞされたら目もあてられない。(w)
  あとここが表裏の面板にぴったりへっついててくれないと,強度的にも不安が出ます。

  内桁の接着面にも虫食いの痕や,ハガしたときのキズがありますんで,これも丁寧に埋めて平らにしておきます。
  んで切り取った裏板をもどす,と----

  裏板がもどったところで,こんどはそのスキマやヒビ割れの補修。
  割れ目の幅は最大1ミリ程度。
  再接着した中心部の板の上下が合わせて1ミリほど余ってましたので,この楽器の胴体は縦方向に1ミリ縮み,横方向に2~3ミリほど広がった,というわけですね。西洋楽器だとゼロてん数ミリの狂いも許さないような作りをしてるものもありますが,まあ月琴と言うものは大概,そこまで精緻精密に組まれてはいません。ちゃんと乾燥してない木材を使ったり,木目を無視して作ったりしたせいで,4~5ミリも歪んじゃってるもの,そのせいでバラバラになっちゃってるようなものもママありますから,この楽器としてはそれなりに,材料も精査されており,保存状態も悪くなかったという部類だと思いますよ。
  裏板の接着ぐあいを確認したところで,割れ目を埋めます。
  いままでの修理で出た古い面板を切って薄く削ったもの。同じくそうした板のオガ屑や削りカス……まあ,ゴミですね(w)。
  そうしたものを総動員で,ニカワを垂らしながらスキマを埋めてゆきます。
  きっちり埋めても,一週間ほど経てばまたどっか,再度割れが入っちゃいますので,ある程度時間を置いて気長にやるのがいちばん。

  ヒビ割れの数もそれほど多くはありませんが,一本,ラベルのド真ん中を走ってるのがちょと厄介。
  ほとんど破れちゃってるとはいえ,これがこの楽器のいわば出生証明。作者を示す,唯一の大事な証拠です。
  できれば次の世代へと無事伝えときたいものですからね。

  補修部分が割れなくなって,充填材がじゅうぶんに乾いたところで整形。
  ちょっとマダラになってますが,この後,板を洗っちゃうので,そのとき目立たなくなります。

  半月と棹口の修理箇所の補彩も終わりました。
  半月のほうは場所がら,この上からカシューで保護塗りしなきゃですが,棹口のほうはこのまま,あとは油拭きロウ磨きでいいでしょう。
  この状態で半月が濡れちゃうのはヤなので,表裏面板の清掃は,保護塗りが乾いてからしたいと思います。

  さてではその合間に----


  なくなってた蓮頭を作ります。

  オリジナルはおそらく,右画像のような透かし彫りの簡単な花唐草模様だったと思います。
  唐木屋の同じクラスの月琴はだいたいコレだったみたいですね。

  オーナーさんから 「猫と牡丹」 というお題をもらってますので,意匠はそれでイキましょう。今回の修理で庵主が遊べるのはココだけですからね(w)。

  庵主は,ちょと前に修理した35号首なし2で,この「猫と牡丹」の意匠を多用して,清琴斎の楽器を「猫月琴」にしてしまったことがあります。ありゃあちょっとヤリ過ぎだった(w)かもしれませんが,妙に好評でして,それを受けての第二弾といったところでしょか。
  今回は,オリジナルの目摂も残ってますし,さすがに老舗の唐木屋,お飾り類の細工も悪くはないので,蛇足はここだけにしときたいですね。

  でもまあ,同じお題とはいえ,全く同じものを彫るなんざあ,芸がありません----ちょいと凝ってしめえやしょう。

  おなじみの猫陰陽,真ん中は「喜ぶ」の字を二つ並べたいわゆるWハッピーが,透かし彫りの格子になっています。

  材料はいつものとおりカツラの端板です。
  今回はそこにもう一枚。
  薄く削ったカツラの板から,こういうモノを切り出し,別に用意したアガチスの薄板に貼り付け,ザクザクザクっと刻みます。
  ----かなりの深彫りですね。
  前にも書きましたが,この手の彫り物で深彫りするのは野暮なシロウト,名人てのはほんの薄い彫りだけでバッチリ陰影を浮かび上がらせるものなのです……が,今回は思うところアリ,わざとかなりふかぁく彫りこんでいます。

  牡丹に花籠。これはこれでお目出度い意味のある意匠ですが,どういう意味なのかはまあぐぐってやふって調べてください。
  彫りあがった牡丹は先に染めちゃいます。
  ヤシャブシに少しスオウを落とした染め液で,ナチュラルカラーっぽい感じに。
  こちらはこれで完成
  にゃんこのほうもスオウで下染めしとき,二枚をニカワで接着!

  二匹のにゃんこにはさまれた,Wハッピーな格子窓のその向こう,誰が活けたか牡丹の花が…ってところです。(w)
  牡丹をちょっと深彫りにしたのは,この格子窓の向こうの薄明かりでも陰影が浮かぶようにしたかったんですね。

  へっついたところで,余分な板を切り取って整形します。

  磨いたり細部を手直ししたところで,あらためてスオウ染め,重曹で媒染。
  そのうえから茶ベンガラと黒ベンガラを混ぜたものをうすく塗布します。
  黒ベンガラというもの,今回はじめて使ってみたんですが,けっこう強烈な黒が出せますね。写真だと真っ黒に見えますが,これでも小さじ1/4の茶ベンガラ(クメゾー)に対して耳かき一杯も入れてません。実際にはもっと赤っぽい感じです。

  これにカシューをかけて,今回は塗り物っぽく仕上げます。
  仕上げに砥粉に黒ベンガラを混ぜた古び粉で油磨き。
  あまりピカピカだとさすがに似合いませんものね。
  ベンガラの赤茶色に,下地のスオウの赤が透けてけっこうキレイでしょう?

  出来てみたら,当初考えてたほど中の牡丹が見えなかった(w)----ってあたりは,かなり失敗だったかもしれません。(汗)

  「喜」の格子がもっと細くないと,いやでも,これ以上わ強度的に限界…

  いやいや,文字を陽刻じゃなく陰刻にしたほうがよかったかしらむ…

 (^_^;)これはこれでキレイなんで勘弁してつかぁさぁい!

(つづく)


月琴ぼたんちゃん(4)

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斗酒庵 年末修理編 の巻2014.11~ 唐木屋月琴ぼたんちゃん (4)

STEP4 ぼたんちゃん修理(2)

  棹口の割レと半月の鼠害という,二箇所の重要箇所の修理がまずまずうまくゆき。
  月琴ぼたんちゃん,楽器としての機能の再生にもいちおうの目途がたちました。


  ほっとしたところで細かい作業の準備にかかります。
  まずは胴体表面のお飾りやフレットの除去。ここからの作業では邪魔になりますので。

  何箇所か,素人古物屋さんのシワザとおぼしい,木工ボンドによる接着がされてましたが,それほど大きなものでもなかったので,今回はまあ,お尻からミドリ色のケムリがぷぅぷぅ出るくらいのノロイで許してやりましょう(w)。
  オリジナルの接着はニカワ。さすが老舗の唐木屋,このへんの細工は分かってらっしゃる。フレットはけっこう頑丈に接着されていましたが,お飾りのほうはポイント接着。濡らせばすぐ浮いてハズれてきます。のちのちのメンテのことまでちゃんと考えてくれてるのですね。

  つづいて,作業部分の補彩にとりかかりました。
  実のところこういう染めやら塗りといった作業のほうが,バリバリガリガリっといった類の工作よりずっと時間を食います。

  まずはスオウ汁を何度も塗布。
  とはいえ,どっちも割れたところを貼ったり継いだりしてますからね。そうそう濡らしっぱなしにもできないんで,少量づつ塗って,きっちり乾かしては何度も塗り重ねるしかありません。

  オレンジ色のスオウ汁がじゅうぶんに滲みこんだところで,お湯で溶いた重曹液を塗ると----ううむ,いつもながらカガクってフシギだなあ。そういえば,誰かジャガイモにヨウソを垂らすとムラサキ色になるワケを教えてください。いえ,デンプンに反応したからとかじゃなくって,「なんでムラサキ色になるのか」 のとこが知りたいですね,マジで。赤とかミドリ色じゃなくって。(w)

  そういうコトばかり考えてますと,こういうオトナになりますからね。
  ご注意あれ。

  補彩の合間にいろいろと済ませておきましょう。
  まずは棹基部と棹茎の補修。

  第2回でも触れたように,この楽器の棹茎には大きな節目とエグレがあります。
  強度的にはこれでも問題ないんでしょうが,さすがに少し気になりますので,エグレてる部分にエポキ&木粉のパテを充填して埋めておきます。

  あと,棹茎の接合部が少し割れちゃってますのでこれも直しておきましょう。
  おそらくは棹口を割ってしまった時に,ここも割れちゃったのでしょうが,そうでなくても月琴の故障としてはよくある故障です。
  ちょっとぐらいここが割れていても,楽器としては使えなくもありませんが,調弦が狂いやすく,演奏上にはかなりな支障が生じます。
  そのうえこの故障,けっこう気づかないんだなあ。
  いくら調弦してもなんかうまくいかないような場合は,糸巻きの噛合わせや糸のほかに,ここも疑ってみてください。

  割れてるところにニカワを垂らし,じゅうぶんに行き渡ったところでクランプをかけます。
  作業としては単純ですが,力のかかる重要な箇所なので,何日か固定したままにしておいて,確実に接着するのがいいでしょう。

  棹茎の節目を埋めたのと同じパテで,ついでに気がついたとこをあちこち埋めておきます。
  糸倉の背面に二箇所の鼠害痕,棹の根元のあたりにも二箇所ばかりキズがありますので。
  乾いたところで整形して補彩。こちらも棹口とかと手順はいっしょですが範囲が小さいのですぐ終わりますね。

  月琴ぼたんちゃん,古物の月琴としては少ないほうですが,欠損部品がいくつかあります。

  まずは山口さん。ギターで言うところのトップナット。読みはもちろん「サンコウ」なんですが,「ヤマグチ」さんのほうが分かりやすいので,ついついそっちで言っちゃいますね。

  ツゲの端材を削ります。あいかわらずキレイなものですねえ。
  厚みは8ミリ,高さは1センチ。接着痕から厚みは分かりますが高さは分かりません。
  でもまあいままでの経験からして,棹がちゃんと背面に傾いでいれば(山口のあたりで胴体表面板の水平面から3~5ミリ)この大きさで問題はないはずです。唐木屋の楽器は,そうしたあたりの工作がしっかりしてるので大丈夫でしょう。

  つぎにフレットです。
  なくなっちゃってるフレットは棹上の4枚。
  象牙の端材を削ります。

  新しく削ったフレットは,そのままだとまっちろで,オリジナルの古い象牙と色が合いません。
  そこでこれをヤシャブシの液でちょいと煮込み,一晩ばかり漬け込みます。
  鍋から引き揚げたらよーく洗って乾かし,表面をみがくとこう----
  少し染まって古色がつき,色がそろいます。まあふつうはここまでしなくてもいいでしょうが,今回は時間がありましたので。(w)

(つづく)


月琴ぼたんちゃん(3)

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斗酒庵 年末修理編 の巻2014.11~ 唐木屋月琴ぼたんちゃん (3)

STEP3 ぼたんちゃん修理(1)

  さて修理を始めましょう。

  まずはちょっと気になってたとこからイキましょか。
  バチ布のところに貼ってあった梅模様の紙,やっぱり壁紙だったみたいですね。布で裏打ちされて糊がついてるタイプだったみたいです。これをベリベリっとな。
  つぎに半月のポッケにつまってる綿をかきだします。
  これが意外とタイヘンでしたね。かなり固くびっちり詰め込まれてて…まあカタいのなんの。
  この半月の奥には空気孔(サウンドホールだとほざいてる人もいる W)があいてるので,おそらくはそこから楽器内部にゴミとか虫とかが入らないように,と考えたのでしょうが。綿やらゴミやらをかきだした後の内部をのぞいてみたら,なんにゃらもうすでに虫に食われた痕が見えましたので,さて効果があったかどうかはアヤしいとこですね。


  調査の段階で裏板を一部ひっぺがしてあるので,ついでにここから内部の清掃もしときましょか----って,けっこう汚れてますね。(^_^;)
  棹口の割れも裏板のヒビ割れもそれほどのものでない割には,ホコリが…あれ,でっかいオガ屑がいくつも出てきましたよ……これ,もしかすると製作段階のゴミ?
  ううむ,大量生産のツケがこんなところにも----いちいち部材の掃除するヒマもないほど,よっぽど急いで作ってたんでしょうかねえ。いままでも,こういうオガクズや木片が2~3出てきたようなことはあったんですが,今回はけっこうな量が出てきましたよ。この楽器の内桁には穴が少ないんで,ふっても外には出てきにくい,そのせいも多少ありましょうが。

  虫食いで出た木粉や生物片も混じってますが,その手の量はそれほど多くはありません。内面から観察して,二箇所ばかり貫通している虫食い孔も見えますが,食害の広がりはほとんどなく,損傷・被害は小さいようです。


  おつぎ,重症部分からまいりましょう。

  まずは棹口の割れです。
  棹を支えてる大事な箇所ですからね。
  ここが割れてるってのは,月琴という楽器としての構造上,かなり致命的です。

  まずは割れ目にお湯をふくませ,水分を行き渡らせます。
  ついで割れてる部分を開いたりとじたりしながら,ゆるく溶いたニカワを垂らしてはふき取り,ヒビからあふれてくるアブクが粘り出したところでクランプで固定,一晩二晩置いてしっかり接着。
  ここまでが第一段階です。ここは棹にかかる糸の張力を受け止めなきゃならない箇所。接着剤でへっつけた程度では,使ってるうちすぐにも割れてしまうでしょう。

  つぎに竹釘を打ち込みます。
  なるべく多く,なるべく微妙に違う方向に穴をあけましょう。
  何度も書いてますが,この竹釘は「割れ目を留める」ためのものではありません。木はたいがい木目にそって割れます。その部分は材としてもともと割れやすかった部分なのであり,もともと割れやすいとこが割れるのは自然の摂理なので,くっつけたところで再び割れちゃう可能性が高いのです。この割れ目の繊維の方向に対して,複雑に方向にほかの繊維を通すことで,再び割れにくくするもの。板の自然な割れ再発をふせぐ補強程度のものでしかありません。
  今回は表板をハガしていないので,板の上から穴を開けて釘を挿します。
  表板のヘリにちょっとキズがついちゃいますが,現状,無事である部分にはなるべく触りたくありませんし,修理痕も大きなものにはならないので,そんなに目立たないとは思います。
  竹釘は煤竹で作りました。太さは1ミリ程度。先端にニカワを塗って,あけた穴に一本一本,なるべく奥まで,きっちりと打ち込みます。



  さてついで,棹孔の裏に入れる補強のブロックを作ります。
  材質はホオ。
  片面を削って内がわの曲面に合わせ,接着します。
  書けばカンタンですが,これがなかなか六ヵ敷ひ。
  側板の表がわはツルツルですが,裏がわは仕上げも粗く曲面も微妙で,なかなかぴったりと合いません。最後のほうは小さくちぎった紙やすりでちまちまと削って仕上げました----じっさい,これだけのことで三日ぐらいかかってるンですぅ。(^_^;)




  これで修理部分の接合強度もあがりますし,棹にかかる力が分散するので修理部分の負担も軽くなります。

  くっついたところで表面を整形。
  長年割れたままにしていたため,割れ目は完全ぴったりというわけにはいかず,一部にわずかな段差が出来てしまってるのです。
  範囲は小さなものですが,少し削ってしまったので色が薄くなってしまいました。
  ここは後ほど補彩しましょう。



  つぎの重症箇所へとまいります。

  半月の鼠害(そがい)----すなわちネズミがカジったとこですね。
  また厄介なところカジりまくってくれやがりました。(怒)
  このままじゃ使えないのはもちろん,この楽器の中でも目立つところの一つですし,糸が擦れて力がそれなりにかかるところですので,修理後の強度も考えなきゃなりません。

  はじめ,まずはガタガタになった部分を平らに均して小板を接着し,ネズミにカジられたぶんだけを足そうと思ったんですが,これはうまくいきませんでした。

  接着面が斜めになっているので圧がかけにくく,小板がちゃんとくっついてくれなかったのです。
  まあ,よしんばうまく接着できたとしても,これではたぶん強度的な不安が残っちゃったでしょうね。


  オリジナルの部材をなるべくそのままに残すのが,こういう古物修理としては本道ですが,楽器は実用品でもあります。
  外見だけいかに美しく直されていたって,使い物にならなければ存在意義は半減します。
  どこまでオリジナルを残したまま,実用強度を保った修理ができるのか,そのあたりがウデのみせどころ,ってやつなんでしょう。



  二度目はかなり大胆に削りました。(言ったそばから…w)

  これなら足す小板も固定しやすいし,強度上も問題がないでしょう。接着面はまっすぐ直角ではなく,小板が少し半月に食い込むよう,一面をわずかに斜めに削ってあります。
  ここをよく濡らしてニカワを塗って,接着面を合わせた小板をおき,コウと----
  小板の上に当て木をおいて,上から圧をかけます。こういうとき,輪ゴムってのは万能ですねえ。
  今度は板と半月が噛合ってるし,圧をかける方向もほぼ垂直なので,しっかりと固定することができました。




  着いたところで整形ごりごり。
  ばっちりくっついてるので,こんな小さな部品でもビクともしません。
  最後に,継ぎ目のところに溝を彫りこみ,模様を合わせて完成。
  ちょうど模様の切れ目のところから削り落としてあるし,接着のスキマもほとんど見えませんから,これで補彩しちゃえば,ちょっとやそっとでは分からなくなってくれるでしょう。

  今回は,この二つが主要な修理箇所----

  これらがうまくいけば,ぼたんちゃんに単なる古物から楽器としての再生への道が開けるってもんです。
  ぼたんちゃんの夜明けは近いぜよ,わーい,てとこで以下次号----

(つづく)


月琴ぼたんちゃん(2)

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斗酒庵 年末修理編 の巻2014.11~ 唐木屋月琴ぼたんちゃん (2)

STEP2 ぼたんちゃん来る(2)



  棹茎:長 188,基部で幅 22・厚 13,先端付近で幅 16・厚 10
  最初のほうで触れたように,唐木屋の月琴の特徴の一つがこの「幅広の棹茎」。基部からの先端までの幅の差が小さく,全体にストンとした形になっています。ぼたんちゃんのは前に見た3面のと比べると多少細めですが,一般的な量産月琴の中では幅広,太めなほうだと思います。

  全体の加工は一見きっちりしてますが,良く見るとまああちこちガタガタだし,さらにひっくり返してみたら…

  うわあっ! こんな大っきな節があって,ごっそりエグれてまっせー!

 ううむ,ふつうはまず楽器には使わないような材ですが,月琴の普及品ではけっこう良くあること。使用上はいちおう問題なさそうですが……まあこうしたあたりも,月琴という楽器がどれだけ流行し,大量に作られたか,ということを如実に物語っているわけではあるのですがね。

  基部に墨書で 「五號」 とあります。
  31号では同じような場所に「拾」と書かれていました。推定される唐木屋の製作数からして「総計5面目に作った月琴」ってのは考えがたいので,この型での5番目なのか,この年に作った5面目の月琴だったのか,はたまた何面も同時製作しているなかの「No.5」だったのかは分かりません。
  9号と18号にはこうしたナンバリングが見つかりませんでした。これも製作数もそんなに多くなかった初期のころはつけてなかったけど,これもまた,月琴の流行とともに大量に作るようになり,平行作業も多くなったため,付けるようになったというものだったのではないでしょうか。


  棹口の割レの修理のため,どのみちどこか板をハガさなきゃなりません。
  内部の調査と観察もあらかじめしといたほうがヨイので,さッさとやっちまいましょう。
  今回はすでに接着も浮いている裏面の中央部を,板の矧ぎめのところからひッぺがします。エイッ!ばりばりッ!----

  よい子は真似しないでくださいね。(w)

  内桁は二枚。上桁中央に棹茎の受け孔があるだけのただの板ですね。
  位置は上桁が,棹孔から154,下桁が295。
  厚さ7ミリ,材質は松だと思います。
  今回は左右の板をハガしてないので左右端,胴体との接合がどうなってるのかは不明ですが,9号・18号から推して上桁は胴側内面に溝を切ってはめ込み,下桁はただ接着してあるだけだと思われます。

  響き線は1本。
  中太の鋼線をつかった弧線で,根元のあたりで直角に近く曲げ,アール深めの曲線になってます。この響き線の形状は唐木屋の月琴の最大の特徴のひとつです。基部は楽器裏面に向かって左がわ,上桁と胴体の接合部のすぐ下にあり,木片を胴側に接着,中央に小孔を穿って線を挿し四角い和釘で留めています。

  修理ではここもいつも心配なところですが,今回の響き線はサビの浮きも少なく。ほとんどの部分が銀色でピカピカしてました。
  状態はいいですね。

  この響き線の形状や固定方法は9号・18号と同様ですが,桁の位置はやや異なっています。
  9号・18号では上桁が胴体の中心近くにあったのですが,この楽器では全体に棹がわ,楽器の上方向に移動しています。

  庵主はこうした国産月琴の内部構造について,ひとつの説を持っています。


  古い中国製の月琴,いわゆる「古渡り」の月琴では,内桁は一枚しか入っていません。楽器胴体のほぼ中央に一枚。これに棹茎の受け孔と,響き線を通すための穴が一つあいているのが,もっとも原初的なスタイルであったと考えられます。
  一枚から二枚へ----この変化の原因のひとつは,楽器の主材の違いでしょう。
  唐物の月琴はほとんどがタガヤサンや黒檀・紫檀といった唐木で作られています。高価な材料なので胴体側部は信じられないほど薄く作られたりしていることもありますが,硬く・丈夫な木なので,この外殻だけでもかなりの強度があり,内桁は家の柱のようなものではなく,胴体の形が崩れないように入れられるつっかえ棒とか,棹茎を受けるための板といった意味合いのほうが大きいのです。

  この理由から,中国の月琴の内桁はどんどん簡略なものとなって,やがては棹受けの穴をあけた小さな板を二枚の薄板ではさんだだけのものとなってしまいました。


  これに対し日本では,特製品や高級なものをのぞいて,多くはカツラやホオといった材料で作られています。
  ホオやカツラ…これらは版画の板や彫刻・細工物の材料にはよく使われますが,こうした構造の弦楽器の主材としては,あまり用いられるものではありません。ホオ・カツラといった木材は,黒檀や紫檀に比べると加工や工作がはるかに容易です。また,雑木の類なので比較的手に入りやすくて値段も安く,大量生産と廉価な販売には向いていますが,唐木に比べるとやわらかくて弱い----このため日本の職人さんは,一枚であった内桁を二枚に増やし,胴体の強度を増そうとしたのではないかと思われます。

  ただし,庵主の経験と実験したところによれば,使われている木材の強度にかかわらず,構造上,月琴の内桁は一枚でじゅうぶんという結果が出ています。月琴の内桁というものが,もともと何のためにあったものなのかについては上でも少し触れましたが,楽器という道具としての目的・またその通常の使用環境から考えて,楽器の胴体というものはもともとそれほどの強度を必要とするわけではありませんし,音を追求するならば内部構造を簡略にして,共鳴空間を広くとることのほうが重要です。
  実際ほとんどの楽器では,下桁は何の役にもたっていません。むしろ円形内部に支えが二本あるという構造からくる,視覚的・心理的な安定感のほうが大きいのかもしれません。
  多くの場合,上桁は胴左右の材の内側に,ミゾを切ってハメこまれていますが,下桁は左右端を斜めに削って接着しただけのことが多く,中には表裏の板で挟んでいるだけだったこともあります。工作によってはただ共鳴空間をせばめているだけだったり,はずれかけて変なバイブレーションの発生原因となっていることもあります。

  日本の月琴にあるこの下桁は,いわば楽器の「盲腸」みたいなものなのですね。


  国産月琴で,唐物月琴の影響がどれだけあるか,ということをはかる上で,この桁の枚数や位置はいい指標の一つとなっています。

  すなわち----

 1)もっとも唐物月琴に近く古いタイプは内桁が1枚で位置は楽器中央。
 2)つぎに2枚になるが上桁の位置は中央に近く下桁の接合は曖昧。
 3)そして後期になるほど上桁が棹孔がわに移動し楽器中央のスペースがせまくなってゆく。

  ----というわけです。もちろん作者の好みや製作意図の違いによってはこの限りではなく,あくまでも全体としての傾向に過ぎませんが。
  9号の上桁の正確な位置は記録が見つからなかったんですが,画像や断片的なメモからすると18号とほぼ同じだと思われます。18号で上桁までが154,下桁まで190。これに対して31号は上桁まで131,下桁までが246。桁で隔てられた空間の幅がほぼ等間隔になっています。
  前説がちょっと長くなりましたが,この点からの推測でも,この楽器の製造時期は9号・18号より後,31号より前だと思われるわけですね。

  といったあたりで今回はここまで。
  恒例の観察・調査結果をまとめたフィールドノートをどうぞ(クリックで拡大)。


  では次回からは修理開始でーす。

(つづく)


月琴ぼたんちゃん(1)

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斗酒庵 年末修理編 の巻2014.11~ 唐木屋月琴ぼたんちゃん (1)

STEP1 ぼたんちゃん来る

  ひさしぶりのご依頼修理でございます!\( ^ O ^ )/

  今回の楽器は南国土佐から,到着いたしました----楽器とともに到来の芋けんぴ,美味しぅございました。お酒ありがとうございます----というわけでテンション上げてまいります。
  とりあえず作業名 「けんぴ1号」 とか変名を付けようと思ったんですが,今回はオーナーさんに先を制されてしまいまして……楽器名は「ぼたんちゃん」ということで。(笑)

  見た感じ,明治中期以降の国産清楽月琴,普及品クラスですね。

  蓮頭と棹上のフレットがなくなってるのと,裏板にバッキバキ割れが入ってるほかは,欠損・損傷も少なめ。糸倉も割れてませんし,糸巻きも四本そろってます。
  多少あちこち汚れて黒くなったり白くなったりしてますが,保存状態は比較的よいほうです。

  胴体裏面にラベルが残ってました。(下左画像)
  かなり破れちゃってますが,これで作者は分かります。


  「唐木屋才平」さんですね。
  ラベルの形,そして残ってる部分に「東都」と「屋」の字が確認できます。同じ形で同じような寸法のラベルを貼る作者はほかにも何人かおりますが,この位置にこの字があるのは唐木屋さんのとこだけです。


  この下にもう1枚,縦長のラベルの残片があるんですが,こちらは詳細不明。
  真ん中に手書きの文字を書いてたらしいので,おそらくは持ち主の名札だろうと思われます。

  唐木屋さんは江戸からの老舗,邦楽器から西洋楽器まで扱うようになってのちに「唐木屋楽器店」を名乗ります。月琴の販売元としては大手の一つで,清琴斎・山田楽器店ほどではないにせよけっこうな数の楽器が残っています。

  唐木屋さんの普及品月琴はどちらかというとトラッドな外見と作りで,石田不識や山形屋雄蔵,菊屋芳之助といった関東の作者の楽器より,関西の松音斎とか松琴斎といったあたりの楽器に良く似ています。特徴としては糸巻きの一面に3本溝を刻んでいること,あと松音斎などと比べると,わずかに棹が長かったりといったあたりがあげられますが,外見的には際立った特徴はあまりありません。内部構造では棹茎(なかご)が幅広だとか,響き線の形状が独特だというところがありますが,ふつう見られませんからねえ。


  今回のぼたんちゃんは,外見的にまた目摂や扇飾りといった意匠の上では以前修理した18号(右画像)にそっくりですが,18号よりは加工・工作がずっとこなれてる感じがします。18号は同じく普及品の楽器でしたが,面板や内部の構造などにまだこの楽器としては疑問のある工作が残っており,おそらくは唐木屋で月琴を作りはじめてからそう間もないころの作と思われます。クリオネ月琴にしてしまった31号は,側板に玉杢の板を貼りまわしているなど,これらよりは高級な楽器でしたが,その加工や構造により手馴れた感があり,かなりの蓄積された技術が使われていました。

  そこいらからこの楽器は,18号や9号より少し後,31号より少し前に作られたのではないかと推測します。

  ではまず採寸と観察から----



  全長:641。
  胴径:354(ほぼ円形),厚:38(うち表裏板:4.5)。
  有効弦長(推定):424。

  棹長:287,うち指板部分長:147,
      最大厚・幅:30,最小厚・幅:23 指板厚:1
  糸倉:長140,最大幅:31,左右板厚:7,弦池:108 x 14。


  有効弦長はだいたいふつう。作者によってかなり異なりますが(なんちゅう楽器だ…汗)一般的な普及品の月琴で,平均 420 前後といったところです。


  ありがたいことに糸倉はほぼ無傷で使用上問題はなさそうです。軸孔や糸巻きの先端に擦痕や圧痕がありますから,頻度はともあれ(お飾りではなく)楽器として使用されていたものであることは間違いないでしょう。
  糸倉のてっぺんと裏側にネズミの齧った痕がありますが,いづれも小さいものですね。




  棹本体もかなり汚れてはいますが目立った傷はありません。根元のほうに打痕らしきキズが2~3あるくらいかな。いづれも小さいものです。
  厚さ1ミリほどの指板が貼られています。
  おそらく紫檀だとは思いますが,カリンあたりを染めたものかもしれません。

  山口:痕跡のみ。

  山口は接着痕から8ミリの厚さであったことが分かります。

  フレットは胴上の4本のみ残,材はおそらく象牙。
  棹上の4本は痕跡のみになっていますが,接着痕やオリジナルの目印がしっかりと残っているので,位置や大きさは分かりますね。

  胴体表面はやや黒ずんだヨゴレが全体を覆っていますが,特にヒドいというほどではありません。周縁に圧痕やバチ布付近に細かなキズがあり,虫食いかと思われる孔も数箇所見えますが,ヒビ割れも無く,比較的良い状態かと思われます。


  裏面は表面よりヨゴれていません。他の部分の状態から考えて,かなり長い時間裏面を壁側にして立てて,もしくは吊るされた状態で保管されていたのではないかと考えられます。それほどヒドいものではありませんがヒビ割れが4箇所ばかり上下に走っており,1本はラベルを貫通しています。表板に比べると木目も合わせていない,端板を継いだ質の悪い板なので,放置すれば当然,こうなるでしょうねえ。
 ・表面,楽器に向かって左下の接合部付近に板のウキが少々。
 ・裏面は中心上下の周縁,ヒビの入っているあたりの左右で板がハガれています。


  あと右の目摂(胴表面左右のお飾り)が少し欠けてます(画像,赤い部分)
  こういうの補修するのは好きなほうなのでこのあたりは楽しみですね。(ww)

  胴体側面,材質は棹と同じくホオのようです。おそらくスオウで赤っぽく染められていたのでしょうが,かなり変色しちゃってるようですねえ。楽器表面向かって左がわに少しムレたような痕があり,ここだけ色がさらに落ちています。水をかぶったような感じはないので,使用によるものかもしれません。
  天の側板,棹孔の表面板がわ左右に割レ。片方は7センチくらい,ほぼ貫通しているようです。
  この故障この楽器ではよく見るやつですね。ほとんどは,床に置いた楽器を踏んじゃったのが原因だと思われます。月琴はどちらかといえば俗っぽい楽器でして,酒席の場などで演奏されることが多かったようです----まあ,酔っ払って「ちょいと厠え…」てなとき,よろけてムギュ,バキッ,てな感じなのでしょう。


  半月:98 x 37,外弦間:30,内弦間:23。
  バチ布:104 x 82


  半月の糸をかけるあたりのへりがネズミにカジられてガタガタになっていますねえ。
  このままだともちろん使えませんので,ここは何とかしなきゃならないところでしょう。
  バチ布のところに貼ってあるのは梅が印刷された厚手の紙ですね。壁紙でしょうか?ごく最近のものです。古物屋さんのシワザかな。
  柄的には悪くないかと思いますが,ここはやっぱり錦布か古裂がいいなあ。


  あとこの半月のポケットみたいになってるところに綿が詰まっています。
  最初はただの綿ゴミかな,と思ったんですが,つついてみるとけっこうカタく。これ,どうやら真綿の類をぎっちりと詰め込んでるようなのですね。

  そこいらへんがちょいとブキミですねえ---ここからはむかし,紙に包まさった女の人のながーい髪の毛,なんてものが出てきたことがあります。何かヘンなもん出てこないように祈るばかり(冷)

  ----といったあたりで次号に続く。

(つづく)


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