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月琴ぼたんちゃん(3)

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斗酒庵 年末修理編 の巻2014.11~ 唐木屋月琴ぼたんちゃん (3)

STEP3 ぼたんちゃん修理(1)

  さて修理を始めましょう。

  まずはちょっと気になってたとこからイキましょか。
  バチ布のところに貼ってあった梅模様の紙,やっぱり壁紙だったみたいですね。布で裏打ちされて糊がついてるタイプだったみたいです。これをベリベリっとな。
  つぎに半月のポッケにつまってる綿をかきだします。
  これが意外とタイヘンでしたね。かなり固くびっちり詰め込まれてて…まあカタいのなんの。
  この半月の奥には空気孔(サウンドホールだとほざいてる人もいる W)があいてるので,おそらくはそこから楽器内部にゴミとか虫とかが入らないように,と考えたのでしょうが。綿やらゴミやらをかきだした後の内部をのぞいてみたら,なんにゃらもうすでに虫に食われた痕が見えましたので,さて効果があったかどうかはアヤしいとこですね。


  調査の段階で裏板を一部ひっぺがしてあるので,ついでにここから内部の清掃もしときましょか----って,けっこう汚れてますね。(^_^;)
  棹口の割れも裏板のヒビ割れもそれほどのものでない割には,ホコリが…あれ,でっかいオガ屑がいくつも出てきましたよ……これ,もしかすると製作段階のゴミ?
  ううむ,大量生産のツケがこんなところにも----いちいち部材の掃除するヒマもないほど,よっぽど急いで作ってたんでしょうかねえ。いままでも,こういうオガクズや木片が2~3出てきたようなことはあったんですが,今回はけっこうな量が出てきましたよ。この楽器の内桁には穴が少ないんで,ふっても外には出てきにくい,そのせいも多少ありましょうが。

  虫食いで出た木粉や生物片も混じってますが,その手の量はそれほど多くはありません。内面から観察して,二箇所ばかり貫通している虫食い孔も見えますが,食害の広がりはほとんどなく,損傷・被害は小さいようです。


  おつぎ,重症部分からまいりましょう。

  まずは棹口の割れです。
  棹を支えてる大事な箇所ですからね。
  ここが割れてるってのは,月琴という楽器としての構造上,かなり致命的です。

  まずは割れ目にお湯をふくませ,水分を行き渡らせます。
  ついで割れてる部分を開いたりとじたりしながら,ゆるく溶いたニカワを垂らしてはふき取り,ヒビからあふれてくるアブクが粘り出したところでクランプで固定,一晩二晩置いてしっかり接着。
  ここまでが第一段階です。ここは棹にかかる糸の張力を受け止めなきゃならない箇所。接着剤でへっつけた程度では,使ってるうちすぐにも割れてしまうでしょう。

  つぎに竹釘を打ち込みます。
  なるべく多く,なるべく微妙に違う方向に穴をあけましょう。
  何度も書いてますが,この竹釘は「割れ目を留める」ためのものではありません。木はたいがい木目にそって割れます。その部分は材としてもともと割れやすかった部分なのであり,もともと割れやすいとこが割れるのは自然の摂理なので,くっつけたところで再び割れちゃう可能性が高いのです。この割れ目の繊維の方向に対して,複雑に方向にほかの繊維を通すことで,再び割れにくくするもの。板の自然な割れ再発をふせぐ補強程度のものでしかありません。
  今回は表板をハガしていないので,板の上から穴を開けて釘を挿します。
  表板のヘリにちょっとキズがついちゃいますが,現状,無事である部分にはなるべく触りたくありませんし,修理痕も大きなものにはならないので,そんなに目立たないとは思います。
  竹釘は煤竹で作りました。太さは1ミリ程度。先端にニカワを塗って,あけた穴に一本一本,なるべく奥まで,きっちりと打ち込みます。



  さてついで,棹孔の裏に入れる補強のブロックを作ります。
  材質はホオ。
  片面を削って内がわの曲面に合わせ,接着します。
  書けばカンタンですが,これがなかなか六ヵ敷ひ。
  側板の表がわはツルツルですが,裏がわは仕上げも粗く曲面も微妙で,なかなかぴったりと合いません。最後のほうは小さくちぎった紙やすりでちまちまと削って仕上げました----じっさい,これだけのことで三日ぐらいかかってるンですぅ。(^_^;)




  これで修理部分の接合強度もあがりますし,棹にかかる力が分散するので修理部分の負担も軽くなります。

  くっついたところで表面を整形。
  長年割れたままにしていたため,割れ目は完全ぴったりというわけにはいかず,一部にわずかな段差が出来てしまってるのです。
  範囲は小さなものですが,少し削ってしまったので色が薄くなってしまいました。
  ここは後ほど補彩しましょう。



  つぎの重症箇所へとまいります。

  半月の鼠害(そがい)----すなわちネズミがカジったとこですね。
  また厄介なところカジりまくってくれやがりました。(怒)
  このままじゃ使えないのはもちろん,この楽器の中でも目立つところの一つですし,糸が擦れて力がそれなりにかかるところですので,修理後の強度も考えなきゃなりません。

  はじめ,まずはガタガタになった部分を平らに均して小板を接着し,ネズミにカジられたぶんだけを足そうと思ったんですが,これはうまくいきませんでした。

  接着面が斜めになっているので圧がかけにくく,小板がちゃんとくっついてくれなかったのです。
  まあ,よしんばうまく接着できたとしても,これではたぶん強度的な不安が残っちゃったでしょうね。


  オリジナルの部材をなるべくそのままに残すのが,こういう古物修理としては本道ですが,楽器は実用品でもあります。
  外見だけいかに美しく直されていたって,使い物にならなければ存在意義は半減します。
  どこまでオリジナルを残したまま,実用強度を保った修理ができるのか,そのあたりがウデのみせどころ,ってやつなんでしょう。



  二度目はかなり大胆に削りました。(言ったそばから…w)

  これなら足す小板も固定しやすいし,強度上も問題がないでしょう。接着面はまっすぐ直角ではなく,小板が少し半月に食い込むよう,一面をわずかに斜めに削ってあります。
  ここをよく濡らしてニカワを塗って,接着面を合わせた小板をおき,コウと----
  小板の上に当て木をおいて,上から圧をかけます。こういうとき,輪ゴムってのは万能ですねえ。
  今度は板と半月が噛合ってるし,圧をかける方向もほぼ垂直なので,しっかりと固定することができました。




  着いたところで整形ごりごり。
  ばっちりくっついてるので,こんな小さな部品でもビクともしません。
  最後に,継ぎ目のところに溝を彫りこみ,模様を合わせて完成。
  ちょうど模様の切れ目のところから削り落としてあるし,接着のスキマもほとんど見えませんから,これで補彩しちゃえば,ちょっとやそっとでは分からなくなってくれるでしょう。

  今回は,この二つが主要な修理箇所----

  これらがうまくいけば,ぼたんちゃんに単なる古物から楽器としての再生への道が開けるってもんです。
  ぼたんちゃんの夜明けは近いぜよ,わーい,てとこで以下次号----

(つづく)


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