月琴ぼたんちゃん(5)
2014.11~ 唐木屋月琴ぼたんちゃん (5)
STEP5 ぼたんちゃん修理(3) さて本体修理もラスト・スパート。 まずはへっつけた棹口裏のネックブロック,ここは再度接着のぐあいを確認してから整形。高さを側板と面一にします。 なんせ楽器の内側にへっつけたものですからね。 胴体が箱になってからポロリなんぞされたら目もあてられない。(w) あとここが表裏の面板にぴったりへっついててくれないと,強度的にも不安が出ます。 内桁の接着面にも虫食いの痕や,ハガしたときのキズがありますんで,これも丁寧に埋めて平らにしておきます。 んで切り取った裏板をもどす,と---- 裏板がもどったところで,こんどはそのスキマやヒビ割れの補修。 割れ目の幅は最大1ミリ程度。 再接着した中心部の板の上下が合わせて1ミリほど余ってましたので,この楽器の胴体は縦方向に1ミリ縮み,横方向に2~3ミリほど広がった,というわけですね。西洋楽器だとゼロてん数ミリの狂いも許さないような作りをしてるものもありますが,まあ月琴と言うものは大概,そこまで精緻精密に組まれてはいません。ちゃんと乾燥してない木材を使ったり,木目を無視して作ったりしたせいで,4~5ミリも歪んじゃってるもの,そのせいでバラバラになっちゃってるようなものもママありますから,この楽器としてはそれなりに,材料も精査されており,保存状態も悪くなかったという部類だと思いますよ。 裏板の接着ぐあいを確認したところで,割れ目を埋めます。 いままでの修理で出た古い面板を切って薄く削ったもの。同じくそうした板のオガ屑や削りカス……まあ,ゴミですね(w)。 そうしたものを総動員で,ニカワを垂らしながらスキマを埋めてゆきます。 きっちり埋めても,一週間ほど経てばまたどっか,再度割れが入っちゃいますので,ある程度時間を置いて気長にやるのがいちばん。 ヒビ割れの数もそれほど多くはありませんが,一本,ラベルのド真ん中を走ってるのがちょと厄介。 ほとんど破れちゃってるとはいえ,これがこの楽器のいわば出生証明。作者を示す,唯一の大事な証拠です。 できれば次の世代へと無事伝えときたいものですからね。 補修部分が割れなくなって,充填材がじゅうぶんに乾いたところで整形。 ちょっとマダラになってますが,この後,板を洗っちゃうので,そのとき目立たなくなります。 半月と棹口の修理箇所の補彩も終わりました。 半月のほうは場所がら,この上からカシューで保護塗りしなきゃですが,棹口のほうはこのまま,あとは油拭きロウ磨きでいいでしょう。 この状態で半月が濡れちゃうのはヤなので,表裏面板の清掃は,保護塗りが乾いてからしたいと思います。 さてではその合間に---- なくなってた蓮頭を作ります。 オリジナルはおそらく,右画像のような透かし彫りの簡単な花唐草模様だったと思います。 唐木屋の同じクラスの月琴はだいたいコレだったみたいですね。 オーナーさんから 「猫と牡丹」 というお題をもらってますので,意匠はそれでイキましょう。今回の修理で庵主が遊べるのはココだけですからね(w)。 庵主は,ちょと前に修理した35号首なし2で,この「猫と牡丹」の意匠を多用して,清琴斎の楽器を「猫月琴」にしてしまったことがあります。ありゃあちょっとヤリ過ぎだった(w)かもしれませんが,妙に好評でして,それを受けての第二弾といったところでしょか。 今回は,オリジナルの目摂も残ってますし,さすがに老舗の唐木屋,お飾り類の細工も悪くはないので,蛇足はここだけにしときたいですね。 でもまあ,同じお題とはいえ,全く同じものを彫るなんざあ,芸がありません----ちょいと凝ってしめえやしょう。 おなじみの猫陰陽,真ん中は「喜ぶ」の字を二つ並べたいわゆるWハッピーが,透かし彫りの格子になっています。 材料はいつものとおりカツラの端板です。 今回はそこにもう一枚。 薄く削ったカツラの板から,こういうモノを切り出し,別に用意したアガチスの薄板に貼り付け,ザクザクザクっと刻みます。 ----かなりの深彫りですね。 前にも書きましたが,この手の彫り物で深彫りするのは野暮なシロウト,名人てのはほんの薄い彫りだけでバッチリ陰影を浮かび上がらせるものなのです……が,今回は思うところアリ,わざとかなりふかぁく彫りこんでいます。 牡丹に花籠。これはこれでお目出度い意味のある意匠ですが,どういう意味なのかはまあぐぐってやふって調べてください。 彫りあがった牡丹は先に染めちゃいます。 ヤシャブシに少しスオウを落とした染め液で,ナチュラルカラーっぽい感じに。 こちらはこれで完成 にゃんこのほうもスオウで下染めしとき,二枚をニカワで接着! 二匹のにゃんこにはさまれた,Wハッピーな格子窓のその向こう,誰が活けたか牡丹の花が…ってところです。(w) 牡丹をちょっと深彫りにしたのは,この格子窓の向こうの薄明かりでも陰影が浮かぶようにしたかったんですね。 へっついたところで,余分な板を切り取って整形します。 磨いたり細部を手直ししたところで,あらためてスオウ染め,重曹で媒染。 そのうえから茶ベンガラと黒ベンガラを混ぜたものをうすく塗布します。 黒ベンガラというもの,今回はじめて使ってみたんですが,けっこう強烈な黒が出せますね。写真だと真っ黒に見えますが,これでも小さじ1/4の茶ベンガラ(クメゾー)に対して耳かき一杯も入れてません。実際にはもっと赤っぽい感じです。 これにカシューをかけて,今回は塗り物っぽく仕上げます。 仕上げに砥粉に黒ベンガラを混ぜた古び粉で油磨き。 あまりピカピカだとさすがに似合いませんものね。 ベンガラの赤茶色に,下地のスオウの赤が透けてけっこうキレイでしょう? 出来てみたら,当初考えてたほど中の牡丹が見えなかった(w)----ってあたりは,かなり失敗だったかもしれません。(汗) 「喜」の格子がもっと細くないと,いやでも,これ以上わ強度的に限界… いやいや,文字を陽刻じゃなく陰刻にしたほうがよかったかしらむ… (^_^;)これはこれでキレイなんで勘弁してつかぁさぁい! (つづく)
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