« 斗酒庵夏の資料大公開! | トップページ | 月琴ぼたんちゃん(2) »

月琴ぼたんちゃん(1)

botan_01.txt
斗酒庵 年末修理編 の巻2014.11~ 唐木屋月琴ぼたんちゃん (1)

STEP1 ぼたんちゃん来る

  ひさしぶりのご依頼修理でございます!\( ^ O ^ )/

  今回の楽器は南国土佐から,到着いたしました----楽器とともに到来の芋けんぴ,美味しぅございました。お酒ありがとうございます----というわけでテンション上げてまいります。
  とりあえず作業名 「けんぴ1号」 とか変名を付けようと思ったんですが,今回はオーナーさんに先を制されてしまいまして……楽器名は「ぼたんちゃん」ということで。(笑)

  見た感じ,明治中期以降の国産清楽月琴,普及品クラスですね。

  蓮頭と棹上のフレットがなくなってるのと,裏板にバッキバキ割れが入ってるほかは,欠損・損傷も少なめ。糸倉も割れてませんし,糸巻きも四本そろってます。
  多少あちこち汚れて黒くなったり白くなったりしてますが,保存状態は比較的よいほうです。

  胴体裏面にラベルが残ってました。(下左画像)
  かなり破れちゃってますが,これで作者は分かります。


  「唐木屋才平」さんですね。
  ラベルの形,そして残ってる部分に「東都」と「屋」の字が確認できます。同じ形で同じような寸法のラベルを貼る作者はほかにも何人かおりますが,この位置にこの字があるのは唐木屋さんのとこだけです。


  この下にもう1枚,縦長のラベルの残片があるんですが,こちらは詳細不明。
  真ん中に手書きの文字を書いてたらしいので,おそらくは持ち主の名札だろうと思われます。

  唐木屋さんは江戸からの老舗,邦楽器から西洋楽器まで扱うようになってのちに「唐木屋楽器店」を名乗ります。月琴の販売元としては大手の一つで,清琴斎・山田楽器店ほどではないにせよけっこうな数の楽器が残っています。

  唐木屋さんの普及品月琴はどちらかというとトラッドな外見と作りで,石田不識や山形屋雄蔵,菊屋芳之助といった関東の作者の楽器より,関西の松音斎とか松琴斎といったあたりの楽器に良く似ています。特徴としては糸巻きの一面に3本溝を刻んでいること,あと松音斎などと比べると,わずかに棹が長かったりといったあたりがあげられますが,外見的には際立った特徴はあまりありません。内部構造では棹茎(なかご)が幅広だとか,響き線の形状が独特だというところがありますが,ふつう見られませんからねえ。


  今回のぼたんちゃんは,外見的にまた目摂や扇飾りといった意匠の上では以前修理した18号(右画像)にそっくりですが,18号よりは加工・工作がずっとこなれてる感じがします。18号は同じく普及品の楽器でしたが,面板や内部の構造などにまだこの楽器としては疑問のある工作が残っており,おそらくは唐木屋で月琴を作りはじめてからそう間もないころの作と思われます。クリオネ月琴にしてしまった31号は,側板に玉杢の板を貼りまわしているなど,これらよりは高級な楽器でしたが,その加工や構造により手馴れた感があり,かなりの蓄積された技術が使われていました。

  そこいらからこの楽器は,18号や9号より少し後,31号より少し前に作られたのではないかと推測します。

  ではまず採寸と観察から----



  全長:641。
  胴径:354(ほぼ円形),厚:38(うち表裏板:4.5)。
  有効弦長(推定):424。

  棹長:287,うち指板部分長:147,
      最大厚・幅:30,最小厚・幅:23 指板厚:1
  糸倉:長140,最大幅:31,左右板厚:7,弦池:108 x 14。


  有効弦長はだいたいふつう。作者によってかなり異なりますが(なんちゅう楽器だ…汗)一般的な普及品の月琴で,平均 420 前後といったところです。


  ありがたいことに糸倉はほぼ無傷で使用上問題はなさそうです。軸孔や糸巻きの先端に擦痕や圧痕がありますから,頻度はともあれ(お飾りではなく)楽器として使用されていたものであることは間違いないでしょう。
  糸倉のてっぺんと裏側にネズミの齧った痕がありますが,いづれも小さいものですね。




  棹本体もかなり汚れてはいますが目立った傷はありません。根元のほうに打痕らしきキズが2~3あるくらいかな。いづれも小さいものです。
  厚さ1ミリほどの指板が貼られています。
  おそらく紫檀だとは思いますが,カリンあたりを染めたものかもしれません。

  山口:痕跡のみ。

  山口は接着痕から8ミリの厚さであったことが分かります。

  フレットは胴上の4本のみ残,材はおそらく象牙。
  棹上の4本は痕跡のみになっていますが,接着痕やオリジナルの目印がしっかりと残っているので,位置や大きさは分かりますね。

  胴体表面はやや黒ずんだヨゴレが全体を覆っていますが,特にヒドいというほどではありません。周縁に圧痕やバチ布付近に細かなキズがあり,虫食いかと思われる孔も数箇所見えますが,ヒビ割れも無く,比較的良い状態かと思われます。


  裏面は表面よりヨゴれていません。他の部分の状態から考えて,かなり長い時間裏面を壁側にして立てて,もしくは吊るされた状態で保管されていたのではないかと考えられます。それほどヒドいものではありませんがヒビ割れが4箇所ばかり上下に走っており,1本はラベルを貫通しています。表板に比べると木目も合わせていない,端板を継いだ質の悪い板なので,放置すれば当然,こうなるでしょうねえ。
 ・表面,楽器に向かって左下の接合部付近に板のウキが少々。
 ・裏面は中心上下の周縁,ヒビの入っているあたりの左右で板がハガれています。


  あと右の目摂(胴表面左右のお飾り)が少し欠けてます(画像,赤い部分)
  こういうの補修するのは好きなほうなのでこのあたりは楽しみですね。(ww)

  胴体側面,材質は棹と同じくホオのようです。おそらくスオウで赤っぽく染められていたのでしょうが,かなり変色しちゃってるようですねえ。楽器表面向かって左がわに少しムレたような痕があり,ここだけ色がさらに落ちています。水をかぶったような感じはないので,使用によるものかもしれません。
  天の側板,棹孔の表面板がわ左右に割レ。片方は7センチくらい,ほぼ貫通しているようです。
  この故障この楽器ではよく見るやつですね。ほとんどは,床に置いた楽器を踏んじゃったのが原因だと思われます。月琴はどちらかといえば俗っぽい楽器でして,酒席の場などで演奏されることが多かったようです----まあ,酔っ払って「ちょいと厠え…」てなとき,よろけてムギュ,バキッ,てな感じなのでしょう。


  半月:98 x 37,外弦間:30,内弦間:23。
  バチ布:104 x 82


  半月の糸をかけるあたりのへりがネズミにカジられてガタガタになっていますねえ。
  このままだともちろん使えませんので,ここは何とかしなきゃならないところでしょう。
  バチ布のところに貼ってあるのは梅が印刷された厚手の紙ですね。壁紙でしょうか?ごく最近のものです。古物屋さんのシワザかな。
  柄的には悪くないかと思いますが,ここはやっぱり錦布か古裂がいいなあ。


  あとこの半月のポケットみたいになってるところに綿が詰まっています。
  最初はただの綿ゴミかな,と思ったんですが,つついてみるとけっこうカタく。これ,どうやら真綿の類をぎっちりと詰め込んでるようなのですね。

  そこいらへんがちょいとブキミですねえ---ここからはむかし,紙に包まさった女の人のながーい髪の毛,なんてものが出てきたことがあります。何かヘンなもん出てこないように祈るばかり(冷)

  ----といったあたりで次号に続く。

(つづく)


« 斗酒庵夏の資料大公開! | トップページ | 月琴ぼたんちゃん(2) »