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月琴37号 十六夜

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斗酒庵 十六夜と再会 の巻2014.7~ 月琴37号 十六夜(1)

STEP1 月はめぐるもの


  「おニャンコ月琴」となった35号のオーナーさんは,「KS月琴」と「十六夜月琴」のオーナーさんでもありました。今回,35号が嫁ぐにあたり,そのお代をお持ちの「十六夜月琴」と交換+@ってことで相談がまとまり,十六夜ちゃんが庵主のところに「37号月琴」としてやってまいりました。

  この楽器,最初に修理したのが2008年。
  ----もう6年も前になりますか。
  ちなみに今回とっかえっこした35号も十六夜も作者は同じ,浅草蔵前片町・山田楽器店,清琴斎二記・山田縫三郎さんです。
  まあ,十六夜ちゃんのほうが首もあるし,オリジナル部分もずっと残ってますが。(w)

  ほかならぬ庵主自身が一度修理・調整してますし,なんせオーナーさんがずっと使ってたくらいで,修理っつてもまあ……と軽くかまえていたんですが。

  え,ナニ,調弦がしにくかった?

  おやハテ,どっかおかしくなってますかな?


  うむ,まずコレですね。
  棹口が少し割れています。

  前回の修理では棹茎にばかり気をとられて,不覚ながら気づかなかったんですが,ずっと棹が安定しなかった,ということからすると前のときにすでに割れてたのだと思います。
  ヒビが薄くて,指つっこんでムリムリ広げたりしない限りは,棹孔加工時の目印線のようにも見えるのも一因かなあ。

  ううむ…それにしても,35号もこないだの「ぼたんちゃん」も同じケガ。月琴,って楽器は,どンだけの人が酔っ払って踏み抜いてるんでしょうねえ。(w)

  では修理してゆきましょう。

  ヒビは楽器を正面から見たとき右肩,棹孔のオモテ板がわに,見えている大きさで,長さ約1.5センチほど。棹孔に指を入れて上下にひろげると,わずかながら開きます。
  すみません,たしかにこりゃ調弦もしにくかったでしょう----とくに高音弦。ここが割れてたのでは,ちょっと力入れて糸巻き回すと,たぶんヒビが開いて棹が動いてしまいますからね。


  作業のため,まずは第4フレットをはずします。ついでヒビ割れにゆるく溶いたニカワを流し込み,ヒビをあけしめして行き渡らせます。この作業をすると,ヒビに沿って水分が走るので,肉眼で見えないくらい細い割れも浮かび上がってきます。ヒビ割れとして見えてた長さはだいたい1.5センチだったんですが,ほうほう,棹孔から3~4センチくらいのところまで延びてますね。
  こないだの「ぼたんちゃん」とほぼ同じですが,ぼたんちゃんの場合と違って,ヒビ割れは裏面に貫通するところまでいっていませんので,少し軽症と言えましょうか。

  時間をかけ,ニカワを垂らしこんだヒビ割れをぞんぶんにクニクニし,割れ目全体に浸透させたところで,当て木をしてCクランプでしめつけます。



  念のため二晩ほど固定したままで圧着し,くっついてるのを確認したところで竹釘を打ちます。
  今回も面板をハガしたくないので,板の縁に孔をあけて,板の上から打ち込みましょう。

  板をはがさないってことは,裏がわからの補強ができませんので,この竹釘を一二本,ヒビを貫通して側板の表面にまで突き出すくらいまで突っ込んで,補強部の「止め」とします。部材の保存状態がよかったため,ヒビの噛合わせに支障がない(見えないくらいぴったり合わさります)のと,割れが比較的浅く,裏面まで貫通してたり,完全に分離しているような状態ではないので,現状ではこの程度でじゅうぶん,と判断しました。

  次のオーナーさんに,使いに使ってもらって,次にぶッ壊れた時に完全修理といたしましょう。


  補強も済んだところで,フチに点々と残った竹釘の頭を,面板ごと少しエグりとり,木粉のパテで埋めます。


  ほか,調べたら,表面板に虫食いの溝が一本と,地の側板に何箇所か面板の浮きが見つかりましたのでここらも直しておきましょう。
  虫食いは,いったんホジくってから木屑とパテで埋め,面板の浮きはスキマにお湯とニカワを流し込んでCクランプで固定。そのほか継ぎ目のスキマなど,気になった箇所もちょいと埋めておきましょう。


  最後にバチ布。
  オリジナルではヘビ皮がついてたんですが,庵主,これあんまり好きじゃないんで(べつだんヘビがキライとかコワい,というわけではなく単に趣味の問題),ウチの子になるにつきましては,これひっぺがさせてもらいましょう。
  ひっぺがしたら虫食い痕が2~3出てきましたんで,ついでに埋めておきます。
  新しいバチ布は「36号すみれちゃん」の修理で使ったのと同じもの。すみれちゃんではこれの白っぽい部分だけを使いましたが,今回は前オーナーさんからもらった紐飾りに合わせて,紅白半分ぐらいになってる部分を----うちかけか何かのハギレかな? ちょっと子どもっぽくなっちゃったかもしれませんが,いかにも可愛らしい配色になりました。


  フレットも若干修整。6年前はオリジナルの音階にやや近くフレッティングしてたんですが,これを西洋音階で並べなおします。
  んで,お飾りを戻して----

  2014年7月,37号十六夜,再修理・調整完了です!

十六夜月琴再修理
  まあ,音なんかに関しては 前回の修理記事 をご参照ください。
  最初のほうでも書いたように,この「十六夜」は最近修理した35号と作者が同じです。


  またこの作者の楽器を,庵主はこのほかにも「赤城山1号」と「19号与三郎」として修理しています。


  ラベルやその作りから見て,赤城山1号と19号はほぼ同時期で,清琴斎二記の比較的古いもの。十六夜や35号はそれよりは新しく,明治の終わりごろになって作られた量産数打ちの楽器だと思われます。

  初期の頃の清琴斎の楽器なら,量産品でも当時一流の職人が作った楽器に,勝るとまではいかなくとも,見劣り鳴り劣りするようなこともあまりないのですが,後半の数打ち物になると,やや材質が悪くなり,加工が雑というか簡略になって,見栄え的にも音的にも「普通」かそれ以下のレベルとなってしまっていることが多いようです。

  35号ネネコさんのばやいは,首がなくなってるまで破損してるのをコレさいわいと,庵主が趣味的徹底的にチューンナップしましたからね。モノは量産数打ちでも,市販車ベースのレーシングカーみたいになってしまいましたが,「十六夜」は下手にオリジナルが残っているので,今回もあまり手出しはしていません。
  そのため量産数打ち楽器特有の「物足りなさ」が多少ありますが,さすがに当時の大手メーカーの作ですので,操作感にも音にも嫌味なところはなく,扱いやすい楽器には仕上がっていますね。

(おわり)


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