« 月琴28号 なると (1) | トップページ | 月琴38号 (1) »

月琴28号 なると (2)

G028_02.txt
斗酒庵 10本も前の月琴をようやく修理する の巻2015.3~ 月琴28号 なると (2)

STEP2 ナゾのうずまき小僧


  はずれちゃってた棹茎延長材の再接着とか,糸倉の割れの補修とか。
  記事はまだ書いてませんが,近頃購入した38号との同時作業なので,今回は調査と平行して,修理作業もできるところから開始しちゃっております。

  胴体のほうはひさしぶりのオープン修理となります。

  それもかなりガバっと開けることになりそうですね。
  単に修理工程上の必要もあるのですが,外部からの観察により,この28号は通常の月琴とは少し異なる工作が多い楽器であることが分かってきました----糸倉の間木がなかったり,表裏で板の厚みがけっこう極端に違っていたり,胴体側部が異様にぶ厚かったり。こういうときは,その楽器の構造や状態を,内外ともにきちんと把握していなければ,意味のある修理ができませんしね。

  たとえば表面板の「裂け割れ」。 庵主にはこの原因がイマイチ分かりません。

  胴側部が唐物月琴のように最強だけどよく暴れるタガヤサンだったり,国産月琴の量産普及品でちょくちょくあるように,素材の乾燥がよくなかったり,木目を無視した木取りがされていたりする場合には,そのせいでどのような故障が起きてもさほど不思議はありませんが,この楽器の部材はカヤです。 この木は針葉樹で,比較的安定した素材。まあ普通の月琴のように1センチほどの厚みしかなかったのなら,保存環境や工作不良による変形で,変形するようなこともありましょうが,この楽器のものは最大で3センチもの厚さがあります。


  カヤでこれだけぶ厚いカタマリだと,通常そう大きく変形するようなことはあまり考えられません。なのに,面板の割れ幅は最大で3ミリもあります。
  面板自体が3ミリ縮んだのか,それとも内部構造に側面のこのぶ厚いカタマリが伸び縮みしちゃうような,理由・原因が何かあるのか----楽器は外からの破損よりも,内側からの故障のほうが厄介で深刻なものです。外づら的にいくらキレイに直しても,それがちゃんと「修理」というものになっているかどうか,分からないですからね。どうしても内部構造を確認しておく必要があるのです。

  前回書いたように,表面板の棹孔周辺と,地の側板の周縁にハガレている箇所がありますので,ここらに刃物を挿し,お湯を垂らして接着をユルめながら板をハギとってまいりましょう。

  さて,と。 パコパコ,キュッキュでパリパリパリ……っと。


  こんなん,出ました~~~~!!


  絶句,ですね。(w)

  なんというぶ厚さ,なんという構造,そしてなんという内桁でしょう!
  ふつうこの 「内桁」 というものは,厚くても1センチほどの 「板」 であるものなのですが……厚さ…というか太さ2.4センチ。 こりゃどう見ても,「角材」 です。


  しかもさらに調べてたら,コレ----

  と,とれましたよぉ~!
   はずれましたぁ~~~っ!


  表にも裏にも左右にも接着された形跡はありません!
  なんとこれ,ただハメこんであるだけなんですね……信じられない。(汗)

  月琴と言う楽器は基本的に,側面四枚の板を表裏の桐板ではさみこんだ胴体に,棹をズボっとさしこむことによって出来上がっていますが,もちろんそれだけでは使用強度的に不安があり,また「円形」というその胴体の形を維持する上での問題もあるので,胴体構造を内部から支えるための補強材として,この内桁というものが入れられます。
  ふつう外からは直せない部分ですし,構造上,楽器の強度にも音にも大きな影響のある箇所なので,通常は縁の部分なんかより頑丈に固定されているものなんですが………


  それが接着されていない……これでは弦を張って棹に力がかかれば,どっちかの板に余計な圧力がかかって,楽器が壊れたりしないでしょうか。 いやいや,そもそもこんな状態で音を出したら,板と内桁との間にスキマができて,変なビビりやノイズが発生しそうです。

  ----ともあれ,これで表板の大きな割れの原因はハッキリしました。
  すべての元凶は,この妙ちくりんな内部構造ですね。

  上にも書いたように,カヤは狂いが少なく,比較的安定した良材ですが,この内桁は 「補強」 とか 「胴体形状の維持」 という役目をほとんど果たしていません。

  この状態で弦を張れば,支えのない左右の側板にはおそらく,縦方向から圧縮,横方向にふくらむような力がかかるはず。
  面板の中心部分は接着されていません,逆に周縁はぶ厚いのでがっちり固定されています。 それで弦を張れば,面板の半月のあたりは持ち上がろうとします。

  薄い紙の両端をしっかり持って左右に引っ張り,パンパンに張ったところで,その中心部をつまんでひっぱろうとすれば,まあふつうは真ん中から裂けて割れるわな。


  もしこの内桁が,ふつうどおりの工作で,表裏左右接着されていたなら。

  左右側板には楽器の中心方向へと引っ張る力が,面板にもそのままの形状を維持するだけの剛性が与えられるはずですから,これほどまでにパックリ割れちゃうようなことはなかったハズでしょう。

  裏板の割レは単に,板の矧ぎ目がとんじゃっただけのようですね。これ,作者が自分で継いだ板かな? 買ってきた板にしては工作が雑ですし----おまけになんでしょう,この右がわに付いてる塗料は,ベンガラにしては硬いなあ。
  表板裏板ともに,かんたんな目印のほかは,墨書等見受けられません。

  いや,ほんとこの宇宙人,どこかに名前ぐらい書いといて欲しかったですね。


  ふつうの月琴の内部構造,見慣れた目からしますと,どこもかしこもやたらぶッとくて異様ではありますが,それぞれの部材の工作・加工は至極ていねいなものです。

  四方接合部の工作もかなり緻密で,上部左右の2箇所はピッタリと擦り合わされ,接着もまだしっかりとしていますが,下部左右はどちらも接着がトンで,右がわの接合部にはわずかですがスキマと表側に段差が確認されます。 また四箇所のうちここだけ,接合部の裏側に木片が接着されています。
  おそらくは,この部分の接合工作の不良に対するフォロー,補強,のつもりなんでしょうが----コレ,ほんとにただペッっとへっつけてあるだけで,じっさいには何の役にもたってませんね。

  表面板中央の裂け割れが,下縁部で大きく広がり,上端になるに従って断続的になっていたのは,この下部左右接合部の工作不良が原因でしょう。部材のつなぎ目がルーズなので,下に行くほど左右へ広がっていってしまったんでしょうね。


  響き線はかなり太めの鋼線。
  材質は良いようです。

  基部は地の側板側にあって,内桁,というかこの角材を,突き通すようなかたちでグルリと回して固定されています。渦巻き曲線の楽器は,このブログでは2度目くらいですね。物の本には,月琴の響き線はぜんぶこのタイプ,みたいに書かれてることがありますが,実際には,かなり高級な一部の月琴でなされるもので,比較的少ない工作です。



  日本の国産月琴のルーツ楽器である唐物では肩口から胴を半周するくらいの長い弧線,日本の国産月琴では,ゆるい弧線か,直線のものが一般的ですね。細かい加工や曲げ方にそれぞれこだわりがあるみたいで,この響き線の形状からだけでも,作者が分かっちゃうことがあります。

  サビが少し浮いていますが,健全。
  ちょっと磨けばキレイになるでしょう。

  さてここで恒例の観察記録「フィールドノート」。
  画像はクリックで別窓拡大されます。こまかな数値等はこちらをご参照ください。
  数値・説明等に不明な点がございますれば,メール,FBなどでお気軽にお問い合わせくださいまし。


(つづく)


« 月琴28号 なると (1) | トップページ | 月琴38号 (1) »